色々長くなりましたが、次でこの『北方・西方海域編』も完結となります。
次回の『南方海域編』も、プロットは考えてあるのでなるべく早く出していきます。 ではでは~
電「きゃああっ!!」
電目掛け敵の雷巡チ級エリートが主砲を放ってくる。
被弾し小破した電は慌てて回避行動をとろうとし、チ級は逃がすまいと追撃をかけようとするが、
綾波「左舷!砲雷撃戦、用意!!」
綾波がチ級目掛け魚雷を発射。
電に気をとられていたチ級は魚雷の直撃を受け、深海へと沈んでいった。
綾波「電さん、お怪我はありませんか!?」
電「だ、大丈夫です。 ありがとう…なのです」
少し服を焦がしながらも笑顔でお礼を言った電を見て、綾波も胸をなでおろし再び主砲を構えた。
先の雷巡を倒しても、まだ敵は大勢いる。 油断している暇はないからだ。
電「これだけの深海棲艦を従えるなんて…。 やっぱり、あの姫っていうのはそんなにすごいのでしょうか?」
綾波「そうかもしれません。 現に、彼女は連合艦隊の艦娘たちをたった一人で迎撃したんです。 その強さは尋常じゃありません」
電「じゃ、じゃあ中峰さん達は…!」
綾波「心配要りませんよ、電さん。 中峰さんは必ず勝ちます」
涙目になる電を見ながら、綾波は笑顔を見せる。 その優しく柔和な笑みは、少しだが電の不安な心を和らげた。
電「……。 あの、すみません…。 どうして、綾波さんはそこまで中峰さんを信頼できるんですか?」
綾波「それは綾波も中峰さんに助けられたからです。 綾波を、妹の潮を助け、あの人はこの戦争を終わらせてくれる。 そう約束してくれました。 でも、綾波が中峰さんを信頼している一番の理由は……」
優しい笑みから一転、海の戦士として凛とした顔に変わる綾波。 次に襲い掛かってくるであろう敵艦を迎撃すべく、前を向いた。
綾波「あの人が漣の司令官で…… 私達の希望、戦う提督だからですっ!!」
正也「……。 どういうことだ…?」
苦しそうに肩で息をしながらも、戦艦棲姫に問う正也。
対する戦艦棲姫は、肩をすくめる動作をしながらもその問いに答えた。
戦艦棲姫《考エテミナサイ。 人間ニトッテ、艦娘ハ私達ト戦ウノニ必要ナ存在。 デモ、ソノ必要ガナクナレバ、彼女達ハドウナルト思ウ?》
正也「どうなるって……?」
戦艦棲姫《間違イナクオ払イ箱ネ。 貴方ガ戦争ヲ終ワラセレバ、彼女達ハ居場所ト存在意義ヲ失ウ事ニナル。 言ワバ、貴方ハ彼女達ノ未来ヲ奪ウ事ニナルジャナイ》
戦艦棲姫《ナライッソノ事、コノママ戦争ガ続イタ方ガ彼女達ノ為ニモナル。 ソウハ思ワナイ?》
正也「………」
考えていなかったわけじゃなかった。
仮にこの戦争を終わらせたとして、本当にあいつらが幸せに過ごせるのかと…
戦争がない時代が必ずしも良いものであるとは限らない。
ウチの知っている現代でも、仕事も住む場所もなく世間にはじき出された人間が大勢いることを知っている。
深海棲艦と戦う者として海軍に置かれている彼女たちだが、もしその役目がなくなれば人間でない艦娘たちも、世間につまはじきされてしまうのでは…?
それならあいつの言うとおり、このままこの戦争が続くほうがまだあいつらのためになるんじゃないか…?
………
……
…
正也「……違う」
戦艦棲姫《エッ…?》
正也「確かに、あいつらは深海棲艦と戦うために人類の前に現れたのかもしれない。 この戦争は、そのために必要なものかもしれない…」
正也「でも、それ以上にあいつらには戦う理由がある。 大事な人たちを護るため、皆で平和な明日を生きるために戦っているんだ! それに、この戦争があいつらのためになるとは、やっぱりウチには思えない!!」
正也「電のように戦いを望まない艦娘もいれば、那珂のように平和な未来に夢を抱く艦娘もいる。 金剛や加賀さん、長門たち艦隊の皆も大事な仲間や姉妹のため、自分達の未来のために戦っているんだ!」
正也「だから、ウチは戦う。 あいつらが戦わなくても平和な明日を生きられる。 大事な夢を叶えられる。 そんな未来を迎えるために、ウチがこの戦争を終わらせるんだ!!」
そうだ、何を迷う必要がある?
ウチは工廠長と約束したんだ。
もう、武蔵のような犠牲者は出させない。 そのためにこの戦いを終わらせるって。
それに、やっぱりウチはあいつらに……、漣たちに平和な時代を生きてほしい。
誰でもない、
ウチは、前に進むんだ!!
正也「来いよ、戦艦棲姫。 お前はウチがブッ飛ばす…!」
正也「あいつらの夢を… あいつらの未来を… お前なんかに奪わせるかっ!!」
手元の槍を大きく振りかざし、正也は戦艦棲姫に向かって一気に突撃した。
戦艦棲姫もまた、自分目掛けて向かってくる敵を迎撃しようとしたのだが、
戦艦棲姫《ハ…速イッ!?》
正也はまるで雷のごとく戦艦棲姫の懐に接近。 目にも留まらぬ速さで槍の矛先を突き出してきた。
戦艦棲姫も咄嗟に横に回避し串刺しは免れた。 しかし、
戦艦棲姫《ガッ、ハァッ…!》
戦艦棲姫が避けた瞬間、正也は槍を横に動かし、槍の柄で思い切り戦艦棲姫の脇腹をぶん殴ったのだ。
直撃を受けた戦艦棲姫は水面を滑るように後退したが、負けじと反撃に打って出る。
戦艦棲姫《グゥ…! 人間メ…、頭ニ乗ルナー!!》
戦艦棲姫が艤装に指示を出すと、艤装は自分の両の手を組ませ、そのまま正也目掛けて振り下ろした。
巨大な鉄球のようなアームハンマーが勢いよく迫ってきたが、正也は逃げるどころか槍を構えその場にとどまった。
そして艤装の腕がぶつかる瞬間、
正也「…うおらあああああああああ!!!!」
正也は槍を大きく振り上げ正面から受け止め、あろう事かそのまま弾き返してしまったのだ。
本気で叩き潰そうとした攻撃が、逆に弾かれてしまった。 その事実に、戦艦棲姫も動揺の色を隠せなくなっていた。
戦艦棲姫《コレガ、死ニ掛ケノ……ソレモ人間ノチ力ラナノ…!?》
戦艦棲姫《アリエナイ…アマリニ強スギル…! 奴ハ、ココデ仕留メナケレバ!!》
このとき、戦艦棲姫は本能で正也を危険だと判断した。
人類を脅かす存在である深海棲艦。 その中でも最上位の強さを持つ姫と呼ばれる者。
その彼女でさえも、目の前の男。 中峰正也は脅威になると察知した。
奴は自分にとっても手に余る存在。 自分の意のままにしようなど、土台無理な話だ。
今ここで、奴の息の根を止める。 戦艦棲姫は何とか気持ちを落ち着け、その一瞬を窺った。
再び戦艦棲姫目掛け突っ込んでくる正也。 戦艦棲姫は咄嗟に艤装に指示を出し、拳を打ち込ませる。
だが、またしても艤装の拳は正也の槍に弾かれてしまった。
しかし、これは狙ってやったことだった。
戦艦棲姫は正也が槍で拳を弾いた瞬間。 攻撃を捌いた一瞬の隙を突いて、
正也「うっ…! ぐ、ああ…!!」
正也の首を鷲掴みにした。
艦娘と同じように、深海棲艦も外見は女性とて力は人間を大きく凌駕する。
ましてや姫クラスの深海棲艦なら、成人男性を片手で持ち上げるなど造作もないことだった。
戦艦棲姫《フウ… ヤット捕マエタワ。 全ク、大人シク私ノ元ニツケバモウ少シ長生キデキタダロウニ…》
戦艦棲姫《デモ、ドノミチ貴方ハ私ニトッテハ危険ネ。 ダカラ……今ココデ楽ニシテアゲルワ!!》
戦艦棲姫はそう言うと、正也の首を持つ手に力を入れる。
正也「うが…! あ、ああ……!!」
ミシ… ミシ… という音と共に、正也も体の力が抜け瞳孔が開いていった。
このまま、この男の首をへし折ってやろう。
彼女は止めを刺すべく、一気に腕に力を入れようとした。 そのときだった…!
「ご主人様に手を出すな――――!!」
ズドオオオオオオオン!!
突如聞こえた少女の高い声。
次に聞こえたのが、主砲が放たれた音。
そして、その次に聞こえたのが…
戦艦棲姫《ウッ、グアアアアアアアアア!!》
正也を掴んでいた腕に、漣の撃った主砲が着弾した音だった。
漣「どーです、漣の主砲の味は? さっさとご主人様を離さなきゃ、今度はそのブサイク面にぶちこんでやりますよ!」
戦艦棲姫《キ、貴様…! 駆逐艦ノ分際デ、ヨクモ…!!》
漣の放った砲弾は衝撃で爆発。 戦艦棲姫の腕を容赦なく焦がし、彼女は腕が焼かれる痛みに苦悶の叫びを上げながらも、正也を掴んだまま自分の腕を撃ちぬいた漣を睨みつけた。
戦艦棲姫《ダガ、甘イワ! コンナ豆鉄砲ノ一発デ、奴ヲ離ストデモ思ッタカ!!》
もちろんこのままやられるつもりはない。
戦艦棲姫もまた、自分の艤装を漣にけしかけようとした。 そのとき…
「なら、2発ならどうかしらね?」
ズドオオオオオオオオオオオン!!
今度は、叢雲が漣のいるほうとは反対側から戦艦棲姫目掛けて砲撃。
彼女の放った主砲は狙い通り、
戦艦棲姫《ギャアッ!?》
漣と同じ正也を掴んでいる腕へと直撃した。
流石の戦艦棲姫もその痛みには耐えられず、正也を手放してしまった。
正也「げっほ、ごっほ…! スマン、二人とも助かったわ!!」
漣「当然ですよ! なんってったって、漣はご主人様の護衛艦なんですから!」
叢雲「こっちはもう片付いたわ。 後はそいつだけよ、さっさとやっちゃいなさい!!」
にししっ♪と笑ってくる漣と、口調を荒くしながらも正也を助けてくれた叢雲を見ながら、正也も大きく頷く。
戦艦棲姫《…ク、クソッ! ドコマデモシブトイ連中ネ… コウナッタラ全砲門ヲ放ッテ、ココヲ火ノ海ニ……!!》
戦艦棲姫は怒りを露にし、周囲一帯を吹き飛ばそうと艤装に一斉砲撃の命令を下す。
艤装もまた、それを行うために砲弾を発射しようとした。 そのとき…
「咲き誇れ。 月炎美刃!!」
戦艦棲姫の艤装に一筋の光の線が走り、線から紅蓮の炎が燃え上がった。
炎は瞬く間に戦艦棲姫の艤装にまとわりつき、黒い艤装を赤い火達磨に変えてしまった。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
この世の者とは思えない断末魔を最後に、戦艦棲姫の艤装は炎に焼かれ動かなくなり、
戦艦棲姫《ナッ……アッ……!》
戦艦棲姫自身は、目の前の出来事が信じられないといったような顔で、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
「戦艦棲姫。 お前こそ、大事なことを失念してないか?」
幸仁「戦う提督は二人いるって事をな!!」
正也「兄ちゃんっ!!」
戦艦棲姫の艤装を真っ二つにした張本人、中峰幸仁の姿を見て歓喜の声を上げる正也。
そう、彼らは随伴艦を倒し戦艦棲姫と戦っている正也の元に応援に駆けつけたのであった。
残るは戦艦棲姫ただ一人。
幸仁は正也に向かって声を上げた。
幸仁「行け、正也! この戦い、お前の手で全てを終わらせるんだ!!」
正也「ああっ!!」
正也は槍を持ち直し、戦艦棲姫へ特攻。 最後の攻撃を仕掛けるべく突撃した。
正也「これは、今までお前に殺された提督たちの分!!」
戦艦棲姫《ガハッ!!》
正也は槍の尻で戦艦棲姫の体を突く。 その衝撃に、戦艦棲姫も悶える。
正也「これは、お前に大事な人を奪われた電たちの分!!」
戦艦棲姫《グフッ!!》
懐に飛び込み、全力で槍の柄で戦艦棲姫の腹をぶん殴る。 衝撃で戦艦棲姫は空高く飛ばされ、正也も逃がすまいと追撃をかける。
正也「これは漣や兄ちゃん、叢雲たち艦隊の皆の分!!」
戦艦棲姫《グッ、アア…!!》
空中に跳んだ正也は上から戦艦棲姫の体に槍を深々と突き刺し、そのまま重力に従って下へと落下していく。
正也「そんでこれが…!」
正也「仲間を… 家族を… そして、大事な
ズドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
空高く響く砲撃音。
正也の放った砲弾は槍の先、戦艦棲姫の体内で爆発。
腹に大きな風穴を開けた戦艦棲姫は口から黒い液体を吐き出しながら、そのまま正也と共に海に落下していき大きな水柱を二つ打ち上げたのであった。
漣「ご主人様っ!?」
幸仁「正也っ!!」
漣たちが水柱の上がった場所へ駆けつける。
水煙が立ち込め中が見えないこの場で、彼らは必死に正也へと呼びかけていたが、
叢雲「ねえ、あれって…!」
叢雲が水煙の一角を指差し、漣と幸仁もそこへ目をやる。 そこには、
正也「漣… 兄ちゃん… 叢雲…」
全身傷だらけで、あちこちから血を流しながらも三人に向かってピースサインを送る正也の姿があった。
幸仁「あいつ、まさか…!」
漣「…勝ったんだ。 ご主人様が勝ったんだ!!」
正也の姿を見て、歓喜の声を上げる漣と幸仁。
「全く…」と悪態をつきながらも、親指を立てながら正也へサインを送り返す叢雲。
こうしてトラック泊地・タウイタウイ泊地連合艦隊による、戦艦棲姫討伐作戦は見事成功したのであった。