艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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はい、これでこの北方・西方海域編も終わりとなりました。
色々飽き性な自分なんですが、ここまで続けられたのも自分の作品を見てくれる人がいるからこそです。 第0話からここまで見てくれた人には本当に頭が上がりません。
次回、最終章となる南方海域編を出していきますので、これからも見ていただけるとありがたいです。





第69話 勝利の先に待つもの

 

 

神原「……。 そうか、分かった。 君もご苦労だったね」

 

 

明石の操縦するクルーザーのデッキで、神原は無線の相手からの報告を聞く。

通信の相手、中峰幸仁からの吉報を聞いて、神原も思わず顔を綻ばせていた。

 

 

筑摩「神原少将、今のは…?」

 

神原「君の提督、幸仁君から今しがた連絡があった。 中峰君が敵の旗艦、戦艦棲姫の討伐に成功したそうだ」

 

金剛「Oh,really!? それ、本当なんですカー!?」

 

神原「ああ、本当だとも。 彼らの奮闘のおかげでこちらの轟沈はゼロ、私達の完全勝利だ」

 

長門「さすがは提督だ、私は信じていたぞ!」

 

陸奥「その割にはさっきまでそわそわと落ち着かなかったみたいだけど…?」

 

長門「む、陸奥!? 余計なことを言うな!!」

 

赤城「良かったです加賀さん! 提督が無事で、本当に良かった…!」

 

加賀「落ち着いてください赤城さん。 大丈夫ですから」

 

 

正也たちの無事を聞いて、金剛や利根は大いにはしゃぎ、長門は陸奥にからかわれ、赤城と加賀はお互い抱き合いながら各々今の喜びを分かち合っていた。

そして、その歓喜の声は他の場所からも上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府の入渠ドック。

未だに負傷している艦娘達の元へと、この一報を急ぎ届ける者がいた。

 

 

青葉「皆さん、スクープですよー! さきほどトラック泊地・タウイタウイ泊地による連合艦隊が、カスガダマ沖にて、あの戦艦棲姫討伐に成功したそうです!!」

 

 

留守を任されていた大淀の部下である艦娘、青葉の口から告げられた事実。 その言葉を聞いて、先ほどまでお通夜会場のような入渠ドックは盛大ににぎわった。

あるものは諸手を挙げて歓喜の意志を示し、ある者は隣にいた娘とお互い抱き合って涙を流し、またある者はできれば自分の手で倒したかったと、喜びと悔しさが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。

そして、その吉報は鈴谷たちの耳にも届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴谷「…やったんだ。 熊野! あの二人、本当にやってくれたんだ!!」

 

熊野「そうですわね。 …これで、沈んでいった子達も浮かばれますし、提督も安らかに眠れますわ。 本当に、良かった……」

 

暁「電も無事だったんだ…。 あ、暁はレディだから、最初から心配なんて…して………う、ふぇぇぇん…! 良かった…。 電までいなくならなくて……本当に良かった……!」

 

 

皆思い思いに喜ぶ姿を見ながら、青葉は少し複雑な表情で隣にいた衣笠に耳打ちした。

 

 

青葉「ねえ、衣笠…。 やっぱり、あの事言っちゃ駄目?」

 

衣笠「駄目に決まってるじゃない! あの二人が戦う提督だということは秘密だって、提督にきつく釘を刺されてるでしょ」

 

青葉「いや、報道者としてはできれば皆に真実を知ってほしいし…。 それに、皆も『冗談でしょ?』って軽くスルーしてくれるかも……」

 

衣笠「冗談でも駄目なものは駄目。 ほら、分かったらもう行くよ」

 

 

衣笠に引っ張られながら、『ちぇー』と口を尖らせる青葉。

二人が去った後も、入渠ドックに響く歓声は止むことがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電「ええ―――!? 中峰さんたちは、違う世界から来た人なのですか!?」

 

 

場所はカスガダマ沖の深層部。

そこで、電は綾波から正也と幸仁の事について簡潔な説明を受けていた。

北上や大井、伊勢や日向など他に戦った艦娘たちは一足先に間宮が乗ってきたクルーザーに引き上げており、海上に残っているのはこの二人だけとなっていた。

 

 

綾波「はい。 さきの話を聞いても信じられないとは思いますけど、お話したことは全て事実です。 そして、中峰さん達が戦ったことが大本営に知られると、お二人の身がどうなるか分からないので、是非ともこの事は内緒にしてほしいんです」

 

 

彼女達が二人の救援に駆けつけるとき、戦艦棲姫と戦うことを知った電は自分もつれてってほしいと間宮に頼んできた。

無論、危険だからということと正也たちの事について知られるわけには行かないので、彼女はそれはできませんときっぱり断った。

しかし、電の決意は固かった。

間宮たちの目を盗んで、彼女はカスガダマ沖に向けて出港するクルーザーにこっそり乗り込んでいた。

目的地まで到着したとき、貨物庫から飛び出してきた電を見て目を丸くした舞鶴鎮守府の面々。

流石にここまでついてきてしまった以上、今更引き返すわけには行かずこのまま連れて行くこととなったのだ。

そして綾波から聞かされた、正也たちが違う世界の人間であること。 艦娘達を守るため、戦う提督になったという事実。

あまりに非現実的な話に電も目を丸くしていたが、しばらく黙り込むと綾波の目を真っ直ぐ見返して言った。

 

 

電「いいえ。 綾波さんの話してくれたこと、電も信じるのです。 そして、このことは絶対秘密にしておきます。 鈴谷さんたちにも言いません。 ただ……」

 

電「…もし良かったら、今度お二人のいる泊地に遊びに行っても良いですか? 皆で、ちゃんとお礼を言いたいんです」

 

綾波「ええ、ぜひいらしてください。 中峰さんも、きっと喜びますよ♪」

 

 

にっこり微笑みながら電にそう話す綾波に、電も嬉しそうな笑みを見せる。

そして、正也たちを迎えに行くべく、二人もクルーザーへと乗り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸仁たちと合流した正也は、水面に横たわる戦艦棲姫を見ていた。

腹には正也が撃ち抜いた時出来た大きな穴がぽっかりと開いていて、この体ではそう長く持たないことは誰の目から見ても明白だった。

 

 

戦艦棲姫《ウフ… ウッフフフ……!》

 

叢雲「こいつ、まだ動けるの…!?」

 

 

横たわりながらも不敵に笑う戦艦棲姫に艤装を構える叢雲。 だが、

 

 

幸仁「よせ。 奴はもう虫の息だ、これ以上の追撃は必要ない」

 

 

それを幸仁が片手で制した。

彼の言うとおり、戦艦棲姫は笑ってはいたが体は指一本動かすこともなく、ときおり口から血のような黒い液体を吐き出した。

 

 

戦艦棲姫はゆっくり視線だけを正也たちに向けると、弱弱しい声で話し始めた。

 

 

 

 

 

 

《…モシ、本気デコノ戦争ヲ終ワラセルツモリナラ、アイツト戦ウコトニナルノハ避ケテ通レナイワ……。 人間デアリナガラ、深海棲艦(私達)ノ技術提携者トシテ来タアイツハ、私達ニチカラヲ与エテクレタ。 コノ情報収集能力モ、アイツノ技術ニヨルモノヨ。 ダケド… アイツハ今、自分ノ手デオリジナルノ深海棲艦ヲ生ミ出ソウトシテイル。 一度ダケ、『アレ』ガ暴レル姿ヲ見タケド、『アレ』ハ私カラ見テモ怪物ダッタワ。 ダカラ、フフ… 精々、アイツニ殺サレナイヨウ無様ニ足掻クコトネ。 ウフ… ウフフ……! アーッハッハッハッハッハッ………!!》

 

 

その言葉を最後に戦艦棲姫は息を引き取り、その体は灰となって消滅していった。

勝利こそしたものの、叢雲の表情はどこか強張っていた。

 

 

 

 

 

 

叢雲「ねえ、あいつの言っていた『アレ』って一体何なの? それに、深海棲艦に人間の協力者がいるってどういうことなの…?」

 

幸仁「落ち着け叢雲。 今それを気にしてもしょうがないだろ」

 

正也「こうして皆無事でいられた、それでいいじゃないか。 先の分からない未来に怯えるより、現在(いま)の喜びを皆で分かち合おう」

 

 

クールに諭す幸仁と、ボロボロになりながらも笑顔で話す正也を見て、叢雲も「…そうね」と自分を納得させるのだった。

 

 

漣「あっ! ご主人様、あれ…!」

 

 

漣が指差すほうを見ると、そこには間宮と明石の乗ってきたクルーザーが向かってきており、デッキからは正也たちに向かって手を振る皆の姿があった。

 

 

正也「どうやら、こっちも迎えが来たようだな。 それじゃ、向かうとしますか」

 

 

そういうと、正也たちもクルーザーに向かって移動し始めたが、

 

 

正也「…あ、あれ……?」

 

叢雲「ちょっと、アンタ大丈夫? さっきから妙によたついてるけど」

 

正也「い、いや… なんか、体が思うように動かなくて……あっ…」

 

 

正也は他の三人より徐々に遅れていき、ついにはその場に倒れこんでしまった。

 

 

漣「大丈夫ですか、ご主人様!?」

 

正也「あー… ごめん、ちょっと体が動かないや……。 悪いけど、誰か手を貸して…」

 

幸仁「どうやら、先の戦闘のダメージがきたみたいだな。 無理もないか、戦艦棲姫のパンチを受けたうえ、あんなに派手に暴れた後だからな」

 

 

幸仁が半ば呆れ気味に呟く。

当然といえば当然だった。 彼は戦艦棲姫との激しい戦闘で激しく体力を消耗したうえ、あの巨大な艤装の一撃をまともに食らったのだ。 艦娘ですら絶命しかねない攻撃、人間だったら五体バラバラになっていてもおかしくないからだ。

しかし、彼はそれを受けてもなお立ち上がり、戦艦棲姫を討ち取った。 その異常なまでの耐久性と回復力に、幸仁も微かにだが自分が戦う提督になったことへの懸念を抱いていた。

 

 

(いくらなんでも、あの攻撃を受けてこうして動けるとは…。 これもリングをつけたことによる効果なのか?)

 

 

一瞬考え込んでしまったが、今それを考えていても仕方がない。

幸仁は、倒れこんだ弟を迎えに行こうとすると、隣にいた漣に呼び止められた。

 

 

漣「ここは漣が行きますよ。 お兄さんは先に行っててください」

 

幸仁「いいのか? お前も相当疲れてるはずだが…」

 

漣「護衛艦として、ちゃんと最後までご主人様の面倒を見ないといけないので。 それに、お兄さんは漣たちに指示を出しながら戦っていたんですから、こっちよりずっと疲れているでしょ?」

 

幸仁「……。 お前、意外と鋭いんだな」

 

漣「伊達にご主人様の秘書艦やってませんよ♪ お二人とも、似た者同士ですから」

 

 

結局、漣の言うとおり幸仁は叢雲と一足先に戻る事になり、漣は正也のもとへと向かっていいく。

ここからだとまだ距離があるため、漣は少し速度を速めて水面を駆けていった。

 

 

漣「それじゃご主人様、今行きますよ~」

 

正也「ああ。 すまないな、さざな………み?」

 

 

そのとき、正也の視界に入ったもの。

それを確認したとき、正也は自分が大きな見落としをしていた事に気がついてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漣がウチの元へ向かってこようとしたとき、視界に入ったもの。

そうだ、思えばあの時点で気付くべきだった。

戦艦棲姫が自分の随伴艦を呼び寄せたとき、そこにいた深海棲艦は4隻。

通常、艦隊は6隻編成で組むものだが、旗艦の戦艦棲姫を含めてもあの編成は5隻編成。 そう、1隻足りないのだ。

なら、6隻目は一体どうなっているのか。

その理由が、今分かった。

6隻目はずっとそこにいたのだ。

戦艦棲姫との戦闘が始まったそのときから、深い水底に身を潜めてこちらへ一撃を加えるチャンスをずっと見計らっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正也「潜水ヨ級…フラグシップ……?」

 

 

 

 

倒れこんだウチの視界に見えたのは、長く垂れ下がった髪の間からこちらを睨む金色の瞳。

潜水ヨ級フラグシップは海中に潜んだまま、音もなくこちら目掛けて一本の魚雷を放ってきた。

奴はウチを狙って魚雷を放ったのだろうが、その魚雷の延長線上にはウチの元にくる漣の姿。 このままでは、ウチじゃなく漣が魚雷の餌食になるのは避けられなかった。

 

 

 

 

 

正也「さ……み…! …げ……ろ!」

 

 

 

 

 

…っ!!? こ、声が出ない!?

まさか、これも戦闘による疲労の影響か!? よりによってこんな場面で!!

そうとうも知らず、漣は徐々にウチの元へと近づいている。 よもや、自分が今まさに酸素魚雷の餌食になろうとしていることにも気付かずに……

 

 

漣「ご主人様。 そんな怖い顔しなくても、すぐ迎えに行きますから安心してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頼む! 逃げろ……逃げてくれ漣!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くそっ、このままじゃ駄目なんだよ! あいつを倒しても、仲間を助けられなきゃ意味がないんだ! ウチにとって敗北とは、戦いに負けることじゃない。 お前らを失うことが、ウチにとっての敗北なんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あとちょっとだけ。 ほんの少しでいい…… 腕が千切れようが、足がもげようが構わない。 この一瞬でいい……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動きやがれ、ウチの体―――――――――!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漣「えっ?」

 

 

ウチを迎えに来ようとした漣の前で、ウチは立ち上がった。

全身の筋肉が悲鳴をあげている。 体中の骨がきしむ音が聞こえてくる。 脳が動くなと命令を下している。

だが、それでもウチは動くことをやめなかった。

残った力を振り絞り、全力で前に駆け出し、そして……

 

 

 

 

 

 

漣「ぎゃあっ!?」

 

 

渾身の力で漣を突き飛ばした。

突然の出来事に、漣は目を丸くしながら後ろに飛ばされていく。

これで、どうにか漣を魚雷の延長線上から外すことができた。

そして、それがウチにできる全てだった。

もう限界だった。 今のウチには歩くことはおろか、立つ力さえ残っていなかった。

漣を突き飛ばした直後、ウチは重力に引かれるまま前のめりに倒れこんだ。

聞こえてるか分からないほど小さいな声でウチは言った。

せめて、この一言を伝えようと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは…提督、命令だ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「         」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消え入りそうなほどか細い声で放った言葉。 それが、彼の最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

 

 

突如漣の目の前で上がった轟音と巨大な水柱。

それが魚雷による爆発だと気付くのに、漣はたっぷり数分はかかった。

呆然としている彼女の前で水柱は崩れ去り、空中に舞った水は雨のように降り注いできた。

ようやく水柱がなくなり視界が開けたとき、

 

 

漣「あっ… あっ…!」

 

 

そこに正也の姿はなくなっていた。

漣は先ほどまで正也がいた場所に手を伸ばすが、その手は何も振れずに通り過ぎる。

そして、ようやく気付いた。

正也が自分を庇って魚雷に撃たれた事に。

 

 

漣「嘘… 嘘でしょ…!? そんな… そんなのって…!?」

 

 

ひたすら目の前の出来事を否定しようとした漣の前に、空からあるものが落ちてきた。

彼女の手に収まったそれを見て、漣は声を震わせた。

 

 

漣「これ……ご主人様がいつも被っていた海軍帽…?」

 

 

そこにあったのは、正也が提督になったときからいつも被っていた海軍の提督を示す海軍帽だった。

白い生地に黒いつばで彩られた帽子だが、今手元にあった帽子はあちこちに黒い焦げ後があり、微かに赤い血も付着していた。

それを見て、ようやく実感した。

目の前で起きたことは全て事実なんだと。 正也は魚雷に撃たれ、そして吹き飛ばされてしまったんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イ、イヤ… イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西方海域、カスガダマ沖深層部。

そこではトラック泊地提督の護衛艦を務めた艦娘の悲痛な叫びが、まるで木霊のように水平線の向こうまで響き渡っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある海域の孤島に立てられた建物。 男はそこでひたすら研究に没頭していた。

男のいる部屋は薄暗く、あらゆる薬剤のビンやフラスコなど科学に使うような道具が所狭しと並んでいる。

男は今、目の前のカプセルに目を輝かせていた。

カプセルは円筒形で、強化ガラスで周囲を覆っているため中が見える。

カプセルの中は透明な液体が充満しており、そこに一隻の深海棲艦いた。

深海棲艦は小柄で、駆逐艦と同程度の大きさ。 しかし、後ろにはまるで鬼や姫が扱うような化け物じみた外見をした尻尾がくっついていた。

男が嬉しそうにカプセルを眺めていると、

 

 

《ゴ、ゴ報告申シ上ゲマス! 先ホド、カスガダマ沖ニテ姫ガトラック泊地・タウイタウイ泊地ノ戦ウ提督ニヨッテ討チ取ラレマシタ!》

 

 

戦艦棲姫の随伴艦として同行していた重巡リ級が男へと先ほどの出来事を話す。

それを聞いた男は、

 

 

 

 

 

「ふーん…」

 

 

と興味なさげに生返事を返した。

 

 

《フーンッテ…。 ソレダケデスカ!?》

 

 

自分の報告をぞんざいに扱われて、思わず声を荒げるリ級。

そんなリ級を訝しげに見ながら、男は返事を返す。

 

 

「あいつは俺の技術を勝手に持ち出した挙句、勝手にくたばった。 それだけのことだろ? そんな奴に感傷的になるなんてあまりに非効率的だ。 もっとも、その戦う提督とやらの情報を持ってきた事についてはそこそこ役に立ったがな」

 

《イ、イクラナンデモソンナ言イ方ハアンマリデハ…!》

 

「お前こそ何か勘違いしてないか? 俺はお前らが俺の探求を満たすのに使えると踏んで接触したんだ。 代わりに、お前らは俺に艦娘と戦う技術を提供してもらう。 その条件で成り立ってんだろ?」

 

《………》

 

 

無言のままうつむくリ級を尻目に、男は目の前のカプセルに目をやる。

これから新しいおもちゃで遊ぶかのような高揚感を抱きながら、男は声高に叫んだ。

 

 

 

 

 

「俺は知りたいんだ、何もかも! ここには俺の知らなかったものがたくさんある。 艦娘とは、深海棲艦とは何か。 なぜ人類の前に現れたのか、深海棲艦はどうして生まれたのか。 なにより……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『艦娘』と『深海棲艦』  真に生き残るべきなのはどちらか、俺は知りたいんだっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は息を荒げながら、カプセルの中を覗き込む。

瞳を閉じたまま、動かない深海棲艦を見ながら男の独演は続く。

 

 

 

 

 

「何より、これも知りたい…。 人間の手で生み出した深海棲艦(兵器)艦娘(化け物)に通用するかどうか、この目で見てみたいんだ…!」

 

「もう少し、もう少しでお前の調整も終わる。 そのときは、お前の力を存分に俺に見せ付けてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しみにしてるぞ! 戦艦レ級っ!!」

 

 

 

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