投稿が遅くなってしまったのは、これのほかに単発物の話をピクシブで書いていたためなんです。
しかもそれがすごい評価されててほんと驚きました…
ひとまず、こちらも続けていきますのでよろしくお願いします!
幸仁たちがトラック泊地を去った後。 そこには一人の艦娘が泊地の中央建物を訪れていた。
風にそよぐツインテールを揺らし、艦娘は大声で建物に呼びかける。
「すいませーん! ちょっと、いいかしらー!?」
背中に身の丈と同じ長さの和弓と飛行甲板を背負い、両手で輪を作りながら艦娘は大きく声を上げる。
長いこと入渠できていなかったからか、艦娘の服はところどころボロボロで、艦娘自身も顔や体に汚れが見えていた。
艦娘の声は聞こえていたらしく、最初に正面玄関から出てきた鳳翔が彼女を出迎えた。
鳳翔「はいはーい。 今出ますよー」
小走りでやってきた鳳翔。 そして、そこにいた艦娘を見たとき、彼女は目を丸くしながら嬉しげに駆け寄った。
「あ、貴方は…!」
「も、もしかして鳳翔さん!? お久しぶりです! 私、瑞鶴です!」
トラック泊地へとやってきた艦娘。 翔鶴型正規空母2番艦、航空母艦『瑞鶴』は嬉しそうに鳳翔の手を取って、はしゃいだ。
彼女もまた瑞鶴へと笑顔を向け、嬉しげに微笑む。
瑞鶴「まさかこんなところで鳳翔さんに会えるなんて嬉しいな~♪」
こんなところで立ち話もなんだから、と鳳翔は瑞鶴を奥へと招くが…
瑞鶴「…それに引き換え、なんで貴方がここにいるんですかねー……」
さっきのはしゃぎようから一転、今度はジト目を向けながら一人の艦娘に視線を見やる。
瑞鶴「これはこれは一航戦の無愛想な方じゃないですかー。 こんな場所で出撃もせず油を売っているなんて、よっぽど暇なんですねー」
瑞鶴の視線の先、加賀は瑞鶴に負けじと目を細め睨み返す。
加賀「表から耳障りな声がしたと思ったら、五航戦の姦しい方じゃない。 そんな汚らしい格好で鎮守府にやってくるなんて、騒がしい上に礼儀までなってないのね…」
瑞鶴「な、なんですってー!?」
加賀の言葉に烈火のごとく怒りを露にする瑞鶴。
『がるるるる…!』と野獣のごとく唸る五航戦と、絶対零度のように見る者を凍らせてしまいそうなほど冷たい表情を向ける一航戦。
お互い火花が散りそうなほど激しくにらみ合っていたが、その二人を仲裁すべく鳳翔とヴェールヌイは間に割って入った。
ヴェル「加賀さん落ち着いて。 今はケンカなんてしてる場合じゃないでしょ」
鳳翔「瑞鶴さんもやめなさい。 女の子がそんなはしたない言葉を使ってはいけませんよ」
クールに加賀を引き止めるヴェールヌイと子供に言い聞かせるように叱責する鳳翔。
そんな二人の言葉を聞いて、加賀と瑞鶴も一応冷静さを取り戻した。
加賀「……そうね。 せっかく漣が立ち直ったというのに、私が取り乱したらいけないわね」
瑞鶴「うっ……。 ご、ごめんなさい鳳翔さん。 ついカッとなって…」
二人が落ち着いたのを見て、「よろしい♪」という笑顔を見せる鳳翔。
ヴェールヌイは、しゅんと項垂れる瑞鶴に尋ねてみた。
ヴェル「ところで瑞鶴さんだっけ? キミは一体どこに所属してるの?」
瑞鶴「へっ…? ああ、それが私はまだ無所属なの。 しばらく前にある海域で翔鶴姉と目を覚ましたんだけど、途中で深海棲艦に追われてそれではぐれちゃって…。 探そうにもこの体じゃとてもできないし、ここで少し休ませてもらいたくて来たの」
瑞鶴の格好を見て、ヴェールヌイも『なるほど…』と小さく頷いた。
彼女の格好は言わずもがな、武器として装備している弓や飛行甲板も手入れができなかったからかボロボロで、矢筒に入っている艦載機の矢もほとんどなかったのだ。 この状態で深海棲艦に襲われながらも、こうして轟沈せずに済んだのは彼女の強運か実力ゆえのものであろう。
鳳翔「そういうことでしたら、あちらに入渠ドックがありますから使ってください。 装備は、工廠長さんに頼んで整備妖精の皆さんに見てもらいますよ」
柔和な笑みを浮かべ、瑞鶴にそう話す鳳翔。
その言葉に、瑞鶴もお礼と共に大きく頭を下げた。
瑞鶴「ありがとうございます鳳翔さん! それじゃ、お言葉に甘えて失礼しまーす!」
そういってその場を去る瑞鶴を見届ける鳳翔とヴェールヌイ。
その後ろでは加賀が、『さっさと行って来なさい』と言わんばかりに、訝しげな目線を向けていた。
瑞鶴「おほー! これが入渠ドック? まるで銭湯みたいじゃん、早く入りたーい♪」
入渠ドックにある脱衣所。
瑞鶴は扉のガラス越しに見える入渠ドックを覗きながら、歓喜の声を上げていた。
長いこと体を洗えなかったからはしゃぎたくなる気持ちは分かるが、こう大声を上げていては流石に周りに迷惑というもの。 この場に誰かがいたら、加賀が言っていた『五航戦の姦しい方』という悪口に思わず同意していただろう…
しかし、その場にいた一人の艦娘はそんな彼女を訝しむ事もなく、ロッカーの横からひょっこり顔を覗かせ瑞鶴に声をかけた。
「今の声、誰ですか?」
そこにいたのはこれから入渠しようとしていた漣だった。
ピンクのツインテールをほどき、少し長めの髪をだらんとたらしている。
瑞鶴の方も、漣に気付くと明るい笑顔で挨拶してきた。
瑞鶴「貴方、ここの泊地の艦娘なの? あたしは瑞鶴。 無所属なんだけど、ここに所属してる鳳翔さん達が休ませてくれるって言うから、お言葉に甘えてきたんだ」
漣「ありゃー、そうでしたか。 それじゃゆっくり休んでくださいね、ここの入渠ドックはほんとに気持ち良いですから♪」
自分を気遣う漣の言葉に笑顔で返す瑞鶴。 自分も早速入ろうと服を手にかけたとき、ふと聞き忘れたことがあったことを思い出した。
瑞鶴「あっ、そうだ。 そう言えばまだこの泊地の提督さんに挨拶してなかった。 提督さんはどこ? 執務室にいるかな?」
何気ない瑞鶴の質問に、ぴたりと手を止める漣。
一瞬悲しげな顔になるが、すぐにいつもの調子でその質問に答えた。
漣「…それが、今ご主人様はいないんですよ。 カスガダマ沖の戦いで、敵の魚雷から漣を庇って、それで……」
瑞鶴「あっ…… ご、ごめんね! ひどいこと聞いちゃって…!」
漣「いえいえ、気にしないで。 漣こそご主人様に助けてもらったのに、そのことを嘆くばかりで塞ぎ込んでいました。 けど…」
漣「ヴェールヌイやご主人様のお兄さん、それにこの艦隊の皆にも支えてもらい、こうして立ち直ることができました。 だから、漣も早く元気になって秘書艦としてご主人様の分まで頑張っていかなきゃなんです!」
まるで悲しみや後悔を感じさせない、快活な笑顔と声で瑞鶴に話す漣。
そんな彼女を見て、瑞鶴は小さく顔を俯かせた。
瑞鶴「……貴方、強いのね」
漣「いいえ、漣はそんなに強くありません。 でも、これぐらいできなきゃご主人様に笑われちゃいますし、それだけは漣も真っ平ごめんなんですよ」
瑞鶴「…提督さんって、良い人だったんだね」
漣「いやー、良い人というより世話の焼ける人です。 いっつも何かやらかしては漣たちに怒られてましたし、皆に心配かけることもしょっちゅうありましたしね」
瑞鶴「そうなの? でも、あたしには分かるよ。 だって、提督さんの話をしてるときのあなた、とってもいい顔してるから」
瑞鶴にそう指摘され、漣は思わず鏡を見た。
そこに見えたのは、彼女の言うとおり迷惑そうな文句とは裏腹に、少し頬を染めながらニコニコと笑った後がある自分の顔が映っていた。
漣「くうぅー、何も言えねぇー…」
恥ずかしさのあまり、顔を伏せその場にうずくまる漣。
そんな彼女を見ながら、瑞鶴はくすりと笑っていた。
瑞鶴「鳳翔さんや、……あの一航戦の無愛想な先輩も認めるほどだし、本当に良い人だったんだって分かるよ。 どんな人か、あたしも一度会ってみたかったな…」
何気なく呟いた瑞鶴。
しかし、その言葉を聞いて漣はあることを思い出した。
漣「そう言えば、以前ご主人様が漣やお兄さんと一緒に撮った写真がありました。 それでよろしければ、見てみます?」
瑞鶴「うん、見せてちょうだい」
瑞鶴が頷くと、漣はスカートのポケットに入っていた一枚の写真を取り出した。
それはリランカ島に囚われていた幸仁を救出した後のこと。 幸仁がタウイタウイ泊地に帰るその日、皆で一緒に写真を撮ろうという事になり撮影した、一枚の集合写真だった。
写真にはトラック泊地の中央建物を背景に、両端には間宮や神原たち他の鎮守府の提督。
それより内側には幸仁救出に向かった、トラック・タウイタウイ泊地第一艦隊の艦娘たち。
そして中央には、右側に正也・左側に幸仁が並び、その二人の隣では彼らの初期艦である漣と叢雲が寄り添っていた。
何枚も撮った写真のうちの一枚だったが、正也はこの写真を執務室の机に写真立てと一緒に飾っていて、漣はここを出るとき自然とこの写真を取り出し持っていったのだ。
瑞鶴「あっ、この人この島に来たとき見たよ。 あれ、提督さんのお兄さんだったんだ」
漣「そうです。 で、こっちに映っているのがご主人様」
瑞鶴「んっ、どれどれ……」
漣は幸仁の隣に映る正也に指を置く。
瑞鶴は漣のさした先、正也を見て、
「………えっ?」
食い入るように眺め、大きく目を見開いた。
その様子は普通ではなく、まるでありえないものでも見たかのような疑念を抱いた顔をしていた。
瑞鶴「…ねえ、ちょっと答えづらいことかもしれないんだけど、一つ聞いていい?」
漣「へっ? 何ですか一体?」
瑞鶴「その… あなたの提督さんって、もういないの? 本当に、死んじゃったの?」
漣「……。 死体が見つかったわけではないので、はっきりとしたことは分かりません。 でも、ご主人様が魚雷で撃たれるのを漣は目の前で見てますし、数日間くまなく探しましたが未だ見つかっていません。 でも、どうして急に…?」
突然血相を変えて尋ねてきた瑞鶴に首をかしげる漣。
瑞鶴は漣に目を向けず、写真に写った正也を見ながら口を開いた。
「落ち着いて聞いて。 私ね、ここへ来る数日前にこの写真とよく似た人をある海域の無人島で見かけたの」
「場所が場所だし、あの時はあたしも深海棲艦に追われていたからすぐにその場を去ったんだ」
「初めはあたしもあれは気のせいか単なる見間違いと思って気にしてなかった。 だけど、もしあれが見間違いや他人の空似じゃなかったとしたら…」
「あなたの提督さん。 このトラック泊地の提督は………生きているわ!」