本当は1話で出すつもりだったんですが、展開的に分けて出したかったので…
南方海域の一角、珊瑚礁沖向けて幸仁たち一行は進撃を続けていた。
幸仁はうまく艦隊の皆に指示を出し、敵艦隊の攻撃を捌いていく。
漣や叢雲も敵の砲撃を防ぎ、他の仲間達が攻められるようサポートに回っていた。
幸仁「まずは空母部隊で攻撃機を仕掛ける。 敵前衛艦隊を叩き、後続につなげるんだ!」
赤城「了解です、提督っ!」
加賀「心配無用よ。 皆優秀な子達ですから」
幸仁の指示通り、赤城と加賀は一斉に艦載機を放ち攻撃機からの雷撃を仕掛ける。
攻撃機の放った魚雷は狙い通り前衛にいた軽巡と重巡を落とし、後ろに構える戦艦・空母群を露にした。
幸仁「続いて艦爆を飛ばして敵主力艦隊にダメージを与える。 向こうに反撃の隙を与えるな!」
飛龍「任せてよ、提督。 ニ航戦の力、見せてあげるわ!」
蒼龍「私としては大物を狙いたいけど、提督命令じゃ仕方ないわね。 攻撃隊、発艦はじめっ!」
作戦通り赤城と加賀に一瞬遅れて、飛龍と蒼龍が敵艦隊目掛け艦爆である彗星一ニ型甲を放っていく。
艦爆からの爆撃は艦攻に比べ微弱だが、その分隙が小さい。 爆撃を受け相手が怯んだ瞬間を見計らい、幸仁は声を上げた。
幸仁「よしっ、向こうに隙ができた。 水上打撃部隊、砲撃開始! 敵艦隊を撃ち仕留めろ!!」
幸仁「赤城と加賀、そして水雷戦隊は周囲を警戒! 万が一、他の場所から敵の攻撃が来ないとも限らない。 お前達は守りの要だ、気を抜くな!!」
叢雲「分かってるわ!」
ヴェル「任せて、お兄さんっ!」
幸仁の指示に叢雲とヴェールヌイも主砲を構え水上打撃部隊が交戦している敵艦隊を警戒。 敵艦隊が飛ばしてくる艦載機や砲弾を見つけては素早く迎撃し、敵の攻撃をシャットアウトしていった。
うまく皆が防衛に回っているのを確認し、幸仁は島風へと次の指示を促す。
幸仁「島風、お前はこの近辺を偵察して来い。 何か確認できたらすぐに引き返せ、絶対に深追いはするな!」
島風「うん、分かった!」
その言葉と共に、水雷戦隊から離れ一人別行動をとる島風。
幸仁の護衛艦という体で傍らに控えていた瑞鶴は、その指示を聞いて幸仁に異議を唱えた。
瑞鶴「ちょっといいの!? あの子一人で偵察なんて…!」
幸仁「あいつはチームで行動するよりも、単騎の方が実力を発揮できる。 他の空母である赤城や加賀はここの防衛で手が離せないし、他の駆逐艦たちにも守りを固めてもらっている以上、この場面ではあいつの足が一番頼りになるんだ」
周囲の状況を見定めつつ、冷静に判断する幸仁。
あえて島風だけを行かせたのも、提督として彼女のポテンシャルを理解しているからこそなのだ。
そうして幸仁が瑞鶴と話していると、
陸奥「提督、こっちは終わったわ」
敵艦隊との戦闘を終えた陸奥が幸仁に報告に来た。
彼の策が功を奏してか、激しい戦闘になったとはいえ彼女や他の子達はほぼ無傷。 またしても完全勝利という形で決着がついたのだ。
幸仁「ああ、お疲れさま。 また無傷で勝利するとは、流石だな」
霧島「そんなに謙遜しないでください。 私たちがここまで被害なく戦えたのも、貴方の指揮あってこそなんですから」
幸仁「俺はただこうしたほうがいいと指示を出しただけだ。 それをここまでやれたのは、紛れもなくお前達の実力だよ」
お礼を言ってきた霧島に対し、幸仁は肩をすくめながら答える。
どんなに優れた指揮をとろうとしても、実行に移すにはそれに見合うだけの実力がなくては話にならない。
故に、優れているのは自分の指揮ではなく、それをこなす艦娘達の方。
それが幸仁の信条だった。
幸仁「今は島風が偵察に回っている。 短いがその間だけでも皆に体を休めるよう言っておいてくれ」
陸奥「分かったわ。 その代わり、提督もあまり気負いすぎないでね」
そういうと陸奥と霧島は幸仁の元を離れ、彼も一息つこうかと思ったとき…
島風「提督っ! 2時の方角から何か来てるよ!!」
偵察に回っていた島風の言葉。 幸仁は急いでその方角を確認する。
幸仁「どうした、敵艦隊か!?」
島風「ううん、違う…」
幸仁「じゃあ、一体何が…?」
どういうことかと困惑する幸仁。 だが、それはしばらくすると分かった。
それは霧だった。
煙のように白一色に染まった霧が、まるで巨大な怪物のように全てを飲み込もうとするようにこちらへ流れてきていたのであった。
幸仁「な、何であんなところに霧が…!?」
突然発生してきた霧に困惑の色が隠せなかったが、今は驚いている場合ではない。
幸仁は無線を取り出すと、すぐに艦隊の皆に指示を出した。
幸仁「皆聞こえるか!? 2時の方角から謎の霧が発生した。 急いで集まるんだ、バラバラになったままではまずい!!」
幸仁「島風、俺のそばから離れるな! 下手に分かれたらどうなるか分からないからな…!」
皆にそう指示を出した直後、霧が幸仁たち一行を飲み込んだ。
周りにいたほかの艦娘たちも霧に飲まれ、周囲の視界は完全に奪われてしまっていた。
ヴェル「うっ…! 何て霧だ、周りが全然見えない…。 漣、早く叢雲達と合流しよう! はぐれてしまう前に…」
霧に包まれた中で、ヴェールヌイは必死に漣に呼びかける。 この濃霧の中では1メートル先の視界もまともに確保できないのだ。
だが、そんなヴェールヌイの呼びかけに漣は反応することもなく、無言のまま一点を凝視していた。
体は小刻みに震え、目は大きく見開いている。 その尋常ではない様子に、ヴェールヌイも戸惑いを隠せずにいた。
漣「……あ…あ…!」
ヴェル「漣…?」
気になったヴェールヌイは漣の視線の先を見る。 そこには…
ヴェル「…あれは、潜水ヨ級フラグシップ!?」
漣「…あいつ、間違いない……。 あいつが……あいつが提督を撃った奴よ!!」
漣は激昂しながら潜水ヨ級フラグシップを追う。
激情に駆られ、怒りに満ちた目で、自分の大事な人を奪った元凶を沈めるべく主砲を構え向かっていった。
ヴェル「駄目だよ漣っ! 勝手に離れちゃ…!!」
急いで漣の後を追うヴェールヌイ。
そんな彼女の言葉も聞こえておらず、漣は潜水ヨ級フラグシップを追い続けていた。
漣「こんのおおおおおお!!!!」
潜水ヨ級フラグシップを沈めるべく、がむしゃらに攻撃を仕掛ける漣。 滅茶苦茶に爆雷を撃ちまくり、あちこちで派手に水しぶきが吹き上げる。
絶対に逃がさない。
何が何でも沈めてやる。
怒りに身を任せ、追撃をやめない漣だったが、
「もうやめるんだ漣! 私たちがここへ来た目的を忘れたのかい!?」
必死に後を追ってきたヴェールヌイに引き止められ、ようやく彼女は冷静さを取り戻した。
漣「あっ… ヴェールヌイ……」
ヴェル「落ち着くんだ、漣。 今私たちがすべきことはお兄さんと共に司令官を探すことだ。 司令官の仇を討つことじゃないはずだよ」
ヴェールヌイの説得を聞いて、徐々にしおらしくなる漣。
先ほどの怒りは嘘のように静まり、彼女は先ほどまで主砲を撃つために上げていた両手をだらんと下げた。
ヴェル「あの時、漣が司令官を守れなかった事がどれだけ辛いことだったか、私もよく分かっている。 でも、だからこそここで同じ過ちを繰り返しちゃ駄目なんだ!!」
彼女の凛とした声に、漣は己のしたことを恥じた。
初めは自分が提督を助けに行くと名乗りを上げ、皆もそれについてきてくれた。
なのに、その自分が私情に駆られ、指揮官である幸仁の指示に背き、挙句またしても側で支えてくれた相棒に余計な心配をかけてしまった。
漣はヴェールヌイに体を向けると、真っ直ぐに頭を下げた。
漣「…ごめんね、ヴェールヌイ。 漣、また余計な心配かけちゃった……」
ヴェル「いいさ。 それじゃ、早く皆の所に戻ろう。 きっと心配してるはずだよ」
そう言って、ヴェールヌイは漣にそっと手を差し出す。
漣もまた、ヴェールヌイの差し出してくれた手を掴もうと自分の手を伸ばす。 そのときだった…!
「…っ!? あぶないっ!!」
咄嗟にヴェールヌイを突き飛ばす漣。 押し出されたヴェールヌイは勢いよく後ろに飛ばされ、漣も自分の体を後ろに下げた。
次の瞬間、二人の間を割って入るかのように艦載機が霧の中から現れた。
艦載機はものすごい速さで二人の間を飛んで再び霧の中に入っていった。 あの時漣が突き飛ばさなければ、艦載機はヴェールヌイの体を直撃していたであろう。
間一髪のところで艦載機を避けた二人は、艦載機が飛んできた方角に眼を向ける。
乳白色の霧に包まれただけの景色。 だが、その中からその声は聞こえてきた。
《戻ルッテ、一体ドコヘ戻ルトイウノ…?》
《貴方達ノ戻ル場所ナンテ、モウナイノヨ…》
霧の中から二人目掛け艦載機を放った張本人が姿を現す。
真紅の瞳に白く長いポニーテール。 自身の体には先ほど放った艦載機とは別の、丸いボールに口がついた化け物のような艦載機をつけた深海棲艦がそこにいた。
《部下カラノ報告ヲ聞イテ来テミレバ、コンナ駆逐艦ガコノ珊瑚礁沖ヘ乗リ込ンデクルトハ、呆レタモノネ》
漣「…どうやら、貴方も普通の深海棲艦じゃなさそうですね。 そんな姿をした深海棲艦は、今まで見たことがないですから」
気丈に振舞う漣の姿に、深海棲艦は一瞬きょとんとした顔を浮かべると、やんわりと微笑んだ。
《…アラ、貴方ッテ駆逐艦ノ割リニ案外度胸ガアルジャナイ。 イイワ、ソノ度胸ニ免ジテ私カラモ教エテアゲル》
《私ハ珊瑚礁沖ヲ統括シテイル者デ、部下達ニハコウ呼バセテイルワ》
《装甲空母姫。 ヨロシクネ、身ノ程知ラズノ艦娘サン♪》