艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

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第76話 助けて司令官っ!

 

 

 

乳白色の濃霧の中、どうにか霧の外に出た金剛たち。

突然の霧に戸惑いながらも、彼女達はお互いに無事を確認した。

 

 

金剛「Oh~、まさかこんな所でFogに襲われるなんて、Unbelievableデース」

 

赤城「ですが、どうやらこちらにはぐれた娘はいないようですね。 安心しました」

 

 

水上打撃部隊と空母機動部隊の艦娘はすでに合流し、共に全員いることを確認し安堵の息を漏らした。

しかし、その安心は水雷戦隊の代表を務める叢雲の言葉で崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

叢雲「ちょっと、大変よ!」

 

霧島「どうしました、叢雲さん?」

 

叢雲「漣とヴェールヌイの姿がないの! どうやら、あの霧に飲まれたまま逸れたみたいなの…!」

 

蒼龍「そんなっ!? 無線はつながらないの…!?」

 

朝潮「試しましたが駄目でした…。 どうやら、この霧のせいで通信ができないみたいで…」

 

 

その言葉に、他の艦娘たちにも動揺が走る。

だが、事態はそれだけに収まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島風「た、大変だよ皆ー!」

 

榛名「どうしたんです、島風さん?」

 

島風「提督が、提督がどこにもいないの! あの時、確かに私提督の傍にいたのに、霧を抜けたらいつの間にかいなくなってたんだよー!!」

 

 

涙目で話す島風に、みんなは慌てて周囲を見渡した。

彼女の言った通り、そこに提督である幸仁と瑞鶴の姿がなく、見えたのは先ほどまで自分たちを覆いつくしていた巨大な霧だけだった。

 

 

 

 

 

赤城「そ、んな… 提督……提督ー!!」

 

加賀「行ってはダメです赤城さん! 貴方まで逸れたらどうするの!?」

 

島風「私、ちょっと探してくる!」

 

叢雲「駄目よ島風! この中は無線も使えない、このまま行ったら被害が大きくなるだけよ」

 

 

幸仁不在のこの状況。 すぐに探しに行こうとした者を他の者たちが必死に止め、辺りはパニックになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…まさか、提督がいなくなるだけでこんなことになるとは…… 頼む、無事でいてくれ。 提督…!!)

 

 

巨大な霧を前に手も足も出せないこの状況で、長門は一人こぶしを握り締めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南方海域の珊瑚礁沖。

 

 

濃霧の中にいる漣とヴェールヌイは、珊瑚礁沖を統括する深海棲艦『装甲空母姫』と相対していた。

不気味に微笑んでいるだけの姫であったが、何をするかわからない。 二人は艤装を構えながら油断せず姫に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

装甲空母姫《…アラ、ヨク見タラ貴方達ッテアノ西ノ姫ヲ討チ取ッタ艦娘ジャナイ。 ココヘ来タノハ、サシズメ提督ヲ探スタメカシラ?》

 

ヴェル「…っ!? ど、どうしてそれを……!」

 

 

なぜ初めて会ったばかりの深海棲艦が、ここへ来た目的を知っているのか。

動揺するヴェールヌイを尻目に、姫はクスクスと笑う。

 

 

装甲空母姫《私ノ部下ガアル艦娘ヲ追ッテイル最中、偶然コノ海域ノ無人島デ人間ガイルノヲ見タノヨ。 最初ハ冗談カト思ッタケド、ソノ後西方海域デ艦娘タチノ大規模捜索ガ行ワレタト聞イテ、マサカト思ッタワ》

 

装甲空母姫《貴方達モ西ノ姫ノ能力ハ知ッテイルデショ? 貴方達ノ提督、戦ウ提督ノ事ハ私ノ耳ニモバッチリ届イテイルワ》

 

 

話し合いをしながらも、ヴェールヌイは周囲に視線を動かす。

どうにか隙をついて逃げられないかと辺りを見回すが、霧に包まれたこの中では周囲の光景もほとんで見ることができず、逃げ道を見つけることができずにいた。

 

 

装甲空母姫《逃ゲヨウトシテモ無駄ヨ。 コノ霧ハ私ガ発生サセタモノデ、磁気ヤ方向感覚ヲ狂ワセル効果ガアルノ。 通信ハデキナイシ、霧ノ中ニ逃ゲテモ同ジ場所ヘ戻ッテシマウ。 モットモ、コレモアノ御方ノ技術ニヨルモノナンダケドネ》

 

 

姫は余裕の表情を見せながら漣たちに迫る。

逃げられるはずがないし、そもそも逃がさない。

そう言わんばかりの表情を彼女は見せた。

 

 

 

 

 

装甲空母姫《ソレジャ貴方達ヲ沈メタラ、ソノ提督ヲ見ツケテアノ御方ノ元ヘ連レテイキマショウ。 西ノ姫ヲ倒スホドノ人間ナラ、『アレ』ノ調整相手ニハピッタリダワ♪》

 

漣「ちょっと待って! 調整相手って、一体提督に何をするつもりなの!? それにあの御方っていうのは、戦艦棲姫が言ってた『あいつ』と同じ人物なの!?」

 

 

不穏な姫の発言に漣は声を荒げ食らいつく。

それに対し、姫は自分の頭をこつんと叩きながら「いっけない」という顔になった。

 

 

装甲空母姫《アラヤダ、私ッテバツイオ喋リガ過ギタワ。 …マア、ドノ道二人トモ沈メルンダカラ、セッカクダシモウ一ツ教エトイテアゲル》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アノ御方ハ、貴方達ノ提督ト同ジデ『普通』ノ人間ジャナイノヨ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を皮切りに、姫は漣とヴェールヌイを仕留めるべく、主砲を取り出す。

逃げようにも霧に包まれ逃げられず、助けを呼ぼうにも通信機は使えない。

絶体絶命のこの状況。

その時、ヴェールヌイは漣の前に出て両手を大きく広げた。

 

 

漣「ヴェールヌイ、何をっ!?」

 

ヴェル「逃げて漣! 私が時間を稼ぐから、早く!!」

 

 

この場から逃げるよう、漣に向かって叫ぶヴェールヌイ。 たとえ霧に包まれたこの状況でも、このままここにいては助からない。 無駄な抵抗だろうとしないよりはマシだ。 ヴェールヌイはそう考えたのだ。

 

 

漣「何言ってるのさ!? そんなこと漣にできるはずが…!」

 

ヴェル「…漣、知ってるかい? かつての私がどんな生涯を過ごしたか……」

 

 

かつての、とはまだヴェールヌイが艦娘ではなかったころ。

朧げながら残っているその記憶を、ヴェールヌイは訥々と語る。

 

 

 

 

 

「あの時、他の皆が沈んでいく中で、私だけは最後まで生き延びた。 遠い北の国でつけられたこの名と共に、私は細々と生きてきたんだ…」

 

「だから、最後くらいは仲間のために沈んでいきたいんだ。 ヴェールヌイとなった今でも、皆や司令官の思い出にいられるなら、私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の頭の中で巡る思い出。

 

 

 

 

 

 

 

建造で初めてトラック泊地に来た事。

 

 

 

 

 

 

正也や漣とともに初めての任務に挑んだこと。

 

 

 

 

 

皆とともにいろんな海域で戦ったこと。

 

 

 

 

 

キス島で、金剛救出のため正也たちと共闘したこと。

 

 

 

 

 

そして、トラック泊地で過ごしてきた数々の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。 あの時とは違って、私は皆とたくさんの思い出を作ってきた。

この思い出があれば、私は沈むことも怖くない。

そう思っていたヴェールヌイだったが、ただ一つ。 重大な見落としに気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうだ。 皆の記憶にいるのは(わたし)であって、ヴェールヌイ(わたし)ではない。 ヴェールヌイ(わたし)は、まだ皆と何の思い出も作ってないじゃないか…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…怖い」

 

 

 

 

 

 

「撃たれるのが怖い… 沈んでいくのが怖い…! 皆の思い出に残らないことが何より怖い…!! これじゃ、あの時と何も変わらない。 私は、また皆の心に残らないまま沈んでいくのか…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

心の中で自分の思いのたけを叫ぶヴェールヌイ。

うっすらと瞳から流れる涙は一滴、また一滴と増え、とめどなく彼女のほほを伝っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

《サテ、ソロソロオ別レノ時間ネ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…たす…けて……!

 

 

 

 

 

《サヨウナラ……イエ、縁ガアッタラマタ会イマショウ》

 

 

姫はそう言って、真っすぐ主砲を目の前のヴェールヌイに向ける。 至近距離で砲門を構える彼女は、にっこりと笑うとヴェールヌイに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《暗ク冷タイ海ノ底デネ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助けて司令官っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか回転しながら叩きつける技あぁ――――――――――――――――――――!!!!」

 

 

 

《ガハッ!?》

 

 

 

 

 

 

 

それは突然の出来事だった。

姫が主砲を放とうとした刹那、いきなり霧の中から黒い影が現れ姫の脇腹を直撃。

その衝撃でヴェールヌイを狙ったはずの主砲はわずかに狙いがずれ、放たれた砲弾は二人の頭上を通り過ぎ、背後で爆発。 巨大な水柱とともに、周囲の霧をかすかに吹き飛ばしたのであった。

直撃を受けた姫は衝撃で海面を転げまわり、その影響からか二人を覆っていた霧が徐々に晴れてきた。

二人の前に現れた影は、痛む頭をさすりながらゆっくり立ち上がり、一人ぼやき始めた。

 

 

 

 

 

「あいちちちちち…… や、やっと止まったよ…」

 

 

 

「史実で美雪を沈めたという電の殺人タックルをモチーフにしてみたけど、これはダメだな。 こんなん使った側が死んでしまうわ。 これじゃただの回天だわ…」

 

 

その声を聴いた瞬間、漣とヴェールヌイは涙を流しながらその影へと近寄って行った。

 

 

 

いつも聞いていたその気の抜けた声。

 

 

 

聞き慣れていたそのとぼけた口調。

 

 

 

こんな話し方をする相手は、もう一人だけしか思いつかないからだ。

 

 

 

 

 

 

「この技はお蔵入り…っと。 よし、次はどんな技を試し……って、あれ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「漣っ!? それにヴェールヌイまで! ど、どうしたんだこんな所で…!!」

 

 

 

「ご主人様ぁっ!!」

 

「司令官っ!!」

 

 

嬉しさのあまり思いっきりそこにいた影に抱き着いた漣とヴェールヌイ。

それは、紛れもなく自分たちが探し続けていた人物。

 

 

 

トラック泊地提督、中峰正也の姿だった。

 

 

 

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