ほとんどへとへとで中々モチベーションが上がらないこともあって、筆が進まないことも……
まあ、これからも投稿は続けたいので、どうぞよろしくお願いします。
「…これでよし、と。 ひとまず、ここにいれば大丈夫ね」
南方海域のとある孤島。 海岸より少し離れた木陰で陸奥たちは翔鶴を横にして休ませる。
衰弱しきっていた翔鶴はよほど疲れていたのであろう、横になったとたん眠りこけ小さく寝息を立てていた。
姉が無事であることに瑞鶴はほっと胸をなでおろしたが、それでも安心するにはまだ早かった。
「…提督、大丈夫かな?」
瑞鶴と一緒についてきた島風が、陸奥に不安げに尋ねる。
「今は無事だと信じましょう。 提督が気になるのは分かるけど、私たちが自分の成すべきことをおろそかにするわけにはいかないわ」
神妙な面持ちを崩さず、陸奥は島風の頭をやさしくなでる。 少しでも島風の心配をほぐしてあげる、彼女なりの気遣いだ。
陸奥はちょっと海岸の様子を見てくると言ってその場を離れ、先ほど入ってきた海岸へと戻ってきた。
そこには、すでに一人先客がいた。
「筑摩…」
同行してきた一人、筑摩は何も言わず眼下に広がる海を眺めている。
潮の匂いが入り混じった風がその長い髪をたなびかせるが、そんなことに構わず彼女はじっとそこに佇んでいた。
「…やっぱり、貴方も提督のことが気になるの?」
後ろから筑摩に声をかける陸奥。
彼女は後ろを振り返らず、自分に声をかけてきた陸奥に尋ねた。
「陸奥さん… なぜ、私はまたここにいるのでしょう……?」
突然の問いに首をかしげる陸奥。 彼女の話は続く。
「アルフォンシーノで提督が拉致されたとき、私は提督を助けに行けませんでした。 私の力及ばぬばかりに、私はあの人を危険に晒してしまったんです…」
「利根姉さんからその体で行くのは無茶だと言われ……理屈ではわかるのですが、やっぱり私はあの時提督を助けに行かなければいけなかったんじゃないでしょうか?」
「そして、今も私は助けに行くこともせずこうして提督の無事を祈るだけ。 提督が命懸けで戦っているというのに、艦娘である私はただここで待っている! 私には、そんなの耐えられません!!」
思いの丈を叫ぶ筑摩。 その目から流れていく雫が、彼女の足元の砂をじんわりと濡らしていく。
「筑摩、あなた……」
「陸奥さん… 私は、あの人の艦娘にはふさわしくないのでしょうか? 私では、提督の力になれないのですか?」
ぼろぼろと涙をこぼし、筑摩はその場に泣き崩れた。 大事な人を助けに行けないという事実に苛まされ、両の手で顔を覆っていた。
そんな彼女を見た陸奥は…
「…きっと、提督もこんな気持ちだったのね」
「…えっ?」
突然隣で語り出す陸奥に、筑摩は顔を上げる。
「あの二人はともかく、本来提督という人間は深海棲艦と戦うことはできない。 できることと言えば、私たち艦娘を支え指揮することぐらい」
「でも、それさえできないほどの事態に陥ったとき、提督にできることはただ私たちの無事を祈る事だけ。 助けたくても助けられない… せめて無事でいてほしい… 今まで艦娘たちを見送ってきた提督は、皆そんな思いを抱えていたんだと思うわ」
「私自身、戦う側からこうして待つ側になって初めて知ったわ。 『ああ、提督っていうのはこんなに辛いものだったんだ』って……」
「ただ無事を祈るだけというのは辛いという気持ちはわかるわ。 でも、そんな思いを抱えているのは貴方だけじゃないの。 それだけは覚えておいて」
「陸奥さん……」
「さっ、今は翔鶴と瑞鶴を見ててあげましょう。 大事な人の無事を信じて待つことができるのも、いい女の秘訣よ」
そう言って、陸奥は筑摩の肩をポンと叩く。
二人の元へと引き換えしていく陸奥の背中を見ながら、筑摩は何も言わずただ彼女へと小さくお辞儀をするのであった。
「…そろそろだな」
南方海域の海上で、俺は小さくつぶやく。
相対している深海棲艦、南方棲戦姫は余裕の笑みを浮かべながらこちらを見つめてきている。
俺の頭上にいるのは奴が操る艦載機たち。 白く尖った歯をのぞかせながら、今か今かと奴の指示を待っている。
あいつらは奴の指示があれば一斉に俺へと食らいついてくるのだろう。 そうなれば、間違いなく助からない。
そして、その瞬間は訪れる…
《ヤリナサイッ!》
南方棲戦姫の命令とともに、一気に艦載機たちが俺めがけてとびかかってきた。 まるで渡り鳥の群れのように、一塊になって突進してくる。
《コレデ終ワリヨ!!》
ああ、あいつの言う通りこれで終わりだ。 そう…
お前の負けでなっ!!
「燃え散れっ!
俺はとびかかってきた艦載機たちに刀を斬りつける。
艦載機たちはそんな斬撃効かんと言わんばかりに俺へ噛みつこうとしたとき、斬られた部分が摩擦熱で燃え上がり、瞬く間に艦載機を炎が包み込んだ。
突然の発火に艦載機は戸惑い、我が身を焼かれる痛みと苦しみに耐えられず宙を飛び回っていた。
まるで人魂のようにも見えたそれは、しばらく悲鳴を上げながら飛び回った後、絶命してそのまま海面へと落下していくのであった。
《ナ、何ナノヨ今ノ…!?》
唐突すぎる出来事に驚愕の表情を浮かべる南方棲戦姫。
奴は目の前で自分の艦載機が燃え落ちていくのを、信じられないといった顔で眺めていた。
「斬れない艦載機なら燃やせばいいだけのことだ。 俺に付き合ってくれてありがとよ、おかげでこっちも目的を果たせた」
《目的…デスッテ……!?》
「俺は最初からあいつらを逃がすための囮だったんだよ。 万が一にでもその艦載機で瑞鶴達を追跡されたらやばかったが、お前は俺を捕らえようと艦載機を全てこっちにけしかけてくれた。 まあ、そのために俺に利用価値があると思わせたんだがな」
《グッ…! ソコマデ計算シテタノネ… ダガ、オ前ハ艦載機ニ翻弄サレモウボロボロ! アノ御方ガ作ッテクレタ艦載機ハモウナイガ、私タチガ本来使ッテイル艦載機ガマダアル。 全力ヲ出シタオ前ヲ捕ラエルコトナド、容易イワッ!!》
特製の艦載機を失いこそしたものの、南方棲戦姫は自分の勝ちを確信していた。
艦載機を焼き尽くしたとはいえ、相手は手負いの人間一人。
このまま遠距離から攻撃を続ければ、いずれは力尽きるはずだと。
そう考えた南方棲戦姫は一斉に本来の艦載機を俺めがけて飛ばしてきた。
だが、そんな姫の言葉を聞いた俺は、
「…はっ」
《…何ガオカシイ?》
「なあ、南方棲戦姫…」
「…いつ、俺が全力を出したと言った?」
《ナッ…!?》
動揺を見せる南方棲戦姫。 俺はすかさず反撃に打って出た。
「斬り裂け、
抜刀の姿勢から一気に抜きだした刃が奴の艦載機を真っ二つに切断し、俺は一気に正面から突撃した。
「言ったろ、時間稼ぎだって! 全力を出そうと思えばいつでも出せたが、さすがにあいつらを守りながら戦うのは厳しかった。 だが、二人が無事逃げることができた以上、こっちも全力でやれるぜっ!!」
艦載機を切り裂いた俺に南方棲戦姫は慌てて砲撃で迎撃しようとしたが、奴の飛ばしてきた艦載機に比べれば、一直線に飛んでくる砲弾を捌くのは容易い。
俺は砲撃を躱し、時折飛んでくる艦載機を切り裂き接近戦へと持ち込んだ。
さすがに姫クラスの深海棲艦と言えど、砲撃や艦載機による戦いに慣れてる分接近戦は不慣れ。 完全に形勢は逆転していた。
南方棲戦姫はどうにか必死に俺の斬撃を主砲で捌いていたが、俺は今まで出さなかったもう一振りの刀を展開。 こちらの攻撃を防いだ瞬間を突き、もう一方で奴の主砲を斬り落とした。
《コンナ、バカナッ…!? コノ私ガ… 姫ノ名ヲモツコノ私ガ…! 人間如キニ追イ込マレルナンテ!?》
「相手が悪かったな。 生憎、俺はこの世界の人間じゃないんだ。 俺はタウイタウイ泊地提督改め……」
「戦う提督、中峰幸仁だ! 覚えておけっ!!」
俺は振り上げた刀を一直線に振り下ろし、南方棲戦姫の体を真一文字に捌いた。
斬られた部分から黒い体液を吹き出し、南方棲戦姫はその場に倒れこんだ。
《…中峰……幸仁……》
《…ソウカ。 オ前…モ……アノ…御方、ト……同ジ………》
その言葉を最後に南方棲戦姫は意識を失い瞳を閉じた。
俺は倒れこんだ南方棲戦姫を眺めていると、突然後ろからこちらを呼ぶ声が聞こえてくる。
振り返ると、そこには…
「いたっ! アンタ、そんなところにいたのね!!」
息を切らせながら俺の元へ来る叢雲たちの姿があった。
皆の無事な姿を見て俺は胸をなでおろしていると、叢雲は俺の胸ぐらをつかんでものすごい剣幕で睨んできた。
「瑞鶴から聞いたわよ! アンタがたった一人で姫クラスの深海棲艦と戦ってるって! あたしたちがどれだけ心配したか、アンタ分かってんの!?」
「うおっ!? わ、悪かった叢雲! あの状況ではああするのが一番の方法だったんだ」
「で、その深海棲艦はどこにいるの!? すぐにあたし達も加勢して…!」
艤装を展開しながら周囲を警戒する叢雲。 だが、目の前に倒れていた南方棲戦姫を見て、すぐに気づいた。
「これ…… まさか、アンタ一人でこいつを倒したっていうの!?」
「お主… どれだけ強くなっているというのじゃ……!?」
その光景には叢雲だけでなく一緒に来た利根や長門も驚愕の表情を浮かべていた。
俺は何も言えず、ばつが悪そうに頬をかいていると、
「…てい…とく……」
「…赤城」
赤城がゆっくりとした足取りで俺の元へとやってきた。
顔を見せず俯く姿に俺は戸惑っていると、
「…っ!?」
赤城は涙を流しながら俺へと抱き着いてきた。
胸元に顔をうずめ、力強く抱き着くその姿に、俺だけでなく叢雲たちも動揺を隠せなかった。
「良かった…! 貴方までいなくならなくて…… もし貴方が弟さんの二の舞になったらどうしようと…! 私…怖かったんです…!!」
「赤城…… すまなかった」
俺は優しく赤城の頭を撫でてやった。
今の俺にはこうしてやることぐらいしかできないが、赤城は何も言わず、ただただ俺に抱き着いた手を離さないでいた。
……背後から俺に突き刺さってくる叢雲たちの視線には気づかないふりをしていた。
しばらくすると落ち着いたのか、「突然取り乱して申し訳ありませんでした…///」と顔を赤くしながら謝る赤城に、俺は気にするなと言っておいた。
そんな時、突然俺の持っていたタブレットに通信が入る。
確認すると、それはトラック泊地の艦隊からだった。
「はい、こちら幸仁。 突然逸れて済まない、そっちはどう……」
『おお、兄ちゃん! そっちも無事だったか!』
「……っ!? ま、正也!? お前、生きてたのか!?」
『失敬な、ちゃんと生きてるって―の! ウチも無事に皆と合流できたから、どこかで落ち合おう』
「…ああ、分かった。 覚悟しておけよ正也、俺もお前に言いたいことがたっぷりあるからな…!!」
そう言って、俺は通信を切る。
その声は叢雲たちにも届いていたらしく、叢雲は俺に声を弾ませながら駆け寄ってくる。
「…今の、聞いてたわ。 どうやら、そっちも無事に見つかったみたいね!」
「ああ」
「なら、早く行きましょう! アンタの無事をみんなに伝えたいからね」
「待った。 その前にやることがある」
そう言って、俺は今までの南方棲戦姫とのやり取りをみんなに話した。 奴が、あの御方とやらについて知っていることも。
「…それで、奴を鹵獲しようというのか?」
「そうだ。 こいつは貴重な情報源、今ここで見殺しにするわけにはいかないからな」
その言葉に他の皆も理解したのか頷き、俺たちは奴を連れてこの場を後にするのであった。
『…ソウカ。 オ前…モ……アノ…御方、ト……同ジ………』
ただ一つ、俺の胸に疑問を残して……