艦隊これくしょん 提督代理、着任する   作:なかむ~

95 / 108
長かった… こっちもようやく続きが出来ました。
今回は番外編みたいなもので、ピクシブで知り合った提督たちにゲスト出演してもらっています。


果たして後編はいつぐらいにできるかな……(遠い目


南方海域編 閑話休題 3
第83話 居酒屋鳳翔の提督たち (前編)


 

 

 

横須賀鎮守府の執務室。

綺麗に整頓がされた本棚と机。 チリ一つ見えない綺麗な内装が、常日頃から手入れを欠かしていないという雰囲気を醸し出している。

そんな執務室の提督机に座る男。 横須賀鎮守府提督、神原駿は机の上に置いたタブレットを険しい顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

「…櫟谷葬壱。 それが、深海棲艦達の裏で手を引く男の名か」

 

『はい。 そして、その情報を提供した南方棲戦姫達は砲撃によって処分されました。 恐らく、砲弾を放ったのは奴が生み出したといわれる深海棲艦、戦艦レ級です』

 

 

タブレット越しに会話をする相手、タウイタウイ泊地提督中峰幸仁の言葉に目を細める。

年季の入った顔の皺が深くなり、机に手を置く神原の拳にかすかに力が入った。

 

 

「そうか。 情報ありがとう、このことは私から間宮君たちに伝えておこう。 君も少し体を休めるといい」

 

『ありがとうございます。 そして、すみません。 弟捜索の件でいろいろご迷惑をおかけしました……』

 

「いいや、あれは私が勝手にやったんだ。 君が気に病む必要はないさ」

 

「それに、中峰君の無事に加え深海棲艦側についても重要な情報を得ることができた。 君の働きは十分大きいよ」

 

『…そう言っていただけるとありがたいです。 では、俺はこれで失礼します』

 

 

そう言って、幸仁は接続を切り、神原はタブレットを机に置くと深いため息をついた。

 

 

「まさか、深海棲艦側に汲みする人間が中峰さんたちと同じ異世界の人間だったなんて……」

 

「ああ、私も正直驚いている。 彼女が中峰君たちを召還できたように、その人物も何かしらの方法でこちらに来たんだろう。 一体、どうやってここへ来たかまでは分かりかねるがね…」

 

「何にしても、中峰君たちの上げてきた成果は大きい。 こうして黒幕の存在が割れた今、この戦争もいよいよ正念場に近づいているよ」

 

「提督。 もしその時が来たら、この大和、全力をもって中峰さんたちを助けます。 恐らく、他の皆さんも同じ心持ちでしょう」

 

「ああ、そうなったときは頼むよ大和。 私としても、これ以上彼らをこの戦いに巻き込むわけにはいかない。 中峰君たちのためにも、我々がこの戦争を終わらせるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしそうなった時は、私も共に戦おう。 だから、どうか私たちを見守っててくれ。 武蔵……)

 

 

 

窓の外から見える海を眺め、神原は静かにこぶしを握り締めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ここはトラック泊地。

敵の黒幕が発覚し、随所で緊迫した空気が張り詰めてきた中、

 

 

 

 

 

 

 

「ぬわああああん疲れたもおおおん! 帰って早々書類の山とか、やめたくなりますよ提督業ー」

 

 

ウチことトラック泊地提督中峰正也は、ペン片手に書類に必要事項を記入する作業を朝から延々と繰り返していた。

 

 

「はいはいご主人様、嘆いてる暇があったらちゃっちゃと手を動かす。 また霧島さんにシバかれますよ」

 

「くっそう霧島の奴…! 曲がりなりにもこちとら怪我人だっていうのに、『こちら、司令にやってもらわなければいけないので早めにお願いしますね』とか言いやがって、あの鬼畜メガネめ―――!!」

 

「そう言わないでください。 これでも、霧島さんや皆も陰ながら作業してくれてたんですよ。 少しでもご主人様の負担を減らすためにって」

 

「そ、そうだったのか… うう、しかしやっぱりウチに書類作業はきついぞ。 ウチにとってデスクワークなんて拷問だよー」

 

「ほんとにご主人様って執務作業の時はいつも疲れてますね。 出撃や資材集めの時は無駄に元気なのに」

 

 

一緒に執務を手伝ってくれてた漣が、中央のテーブルで書類をまとめながらウチに声をかけてきた。

 

 

「まあ… 出撃の時は皆を助けたくて気合入るし、ウチもどっちかというと体動かす方が好きだからなー。 その分、こういう頭使う作業はちょっと……」

 

「ああ、なるほど。 確かに、ご主人様って頭使うようなキャラじゃないですもんね」

 

「……今、遠回しにウチの事バカ呼ばわりしてる?」

 

「そんなことしませんよ! それならちゃんと、漣は正直にご主人様の事バカだとおっしゃります!」(キリッ

 

「結局バカ呼ばわりするんかいっ!!」

 

 

そんなこんなでいつものやり取りを繰り広げるウチと漣。 いつもと変わらぬトラック泊地の情景だった。

 

 

「まあ、さすがに最近ご主人様が働き詰めなのは分かります。 最近は執務と資材集めのローテーションですし、せめて今日ぐらいはどこかで羽を休めた方がいいんじゃないですか?」

 

「羽休めか… でも、ウチはこの世界の人間じゃないからこの辺のことはよく知らないんだよな。 しかも、急に休めと言われても何をしたらいいものか…?」

 

 

そう、ここはウチの元いた世界とは似て非なる世界。 ゲーム『艦隊これくしょん』を模した異世界だった。 さすがに日本や世界の国土や地理は元いた地球と同じだが、こっちの世界は艦娘や深海棲艦が存在することが常識として認識されている。

おまけに、ウチ自身このトラック泊地での生活が常になっており、日本に戻ることはあまりない。 最後に行ったのは、たしか鳥海・雪風と一緒に買い出しに行った時ぐらいか?

ウチは頭をガシガシかきながらこれからどうやって羽を伸ばすか考えていると、そんな静寂を破るかのように一通のメールがウチのタブレットへと受信された。

 

 

「うおっ、びっくりした!」

 

「メール…? 誰からですか?」

 

 

突然の着信音にびっくりするウチ。

漣は首をかしげながらウチの持ってるタブレットを覗き込むと、そこには送信者の名前が表示されていた。

 

 

 

 

 

 

「これ… zikuuさんからだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

zikuuさんは、以前ケッコンカッコカリのプロモーションビデオを撮影するとき、協力してもらった人……じゃなくリスだ。

普段は個人が所有しているスタジオで撮影を行ってるとの事なんだが、前に兄ちゃんをみがわ……ゲフンゲフン、代役としてプロモーションビデオの撮影を行ってもらったことがある。

撮影は見事大成功を果たしたが、その後ウチは兄ちゃんに嵌められ、zikuuさんの主催するスゴロク大会に参加する羽目になったのである。

実際はスゴロクという名のサバイバルだったが、まあそれはまたの話にしておこう……

 

 

 

 

 

突然zikuuさんから送られてきたメールにウチは戸惑いながらも内容を確認する。

またスゴロク大会の時のようなトンデモ企画だったら即刻削除しようと思っていたが、メールにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最近休みたくても行く当てがない。 そんな中峰氏にお勧めしたいのが、呉鎮守府にある居酒屋鳳翔だ! 各地方の鎮守府や泊地の提督たちが集まる憩いの場となっているから、ぜひ足を運んでみるといいぞ!!』

 

 

 

 

 

 

 

まるで今までのやり取りを聞いていたかのようなメール内容に、ウチと漣は思わず顔を合わせた。

 

 

「……本当に、zikuuさんって何者なんでしょうね?」

 

「……前に大淀さんから聞いたけど、噂では何でも屋として方々にコネがあるって話だぞ」

 

「どうします? 行ってみますか、ご主人様?」

 

「まあ、せっかくだし行ってみよう。 どんな提督が来てるのかウチも興味があるしな。 一緒に来るか、漣?」

 

「モチのロンですよ! ご主人様のおごりキタコレ♪」

 

「あっ、おい、待てぃ!? ウチはおごるとは言ってねーぞ!!」

 

 

鼻歌交じりにスキップしながら去っていく漣をウチは慌てて追いかける。

zikuuさんからの招待が不安なものの、ウチと漣はその居酒屋鳳翔へ向かうこととなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、ここは呉鎮守府の近くにある港。

クルーザーから港へと上がり、ウチ等二人は目的地である呉鎮守府の正門へと足を運んできた。

 

 

「確かzikuuさんがメールと一緒に乗せてた地図だとこの辺に…」

 

「あっ、ご主人様! もしかしてあれじゃないですか?」

 

 

漣が指さす方を見ると、確かにそれはあった。

鎮守府の本館から離れた小さな建物。 古風な暖簾と引き戸がいかにも居酒屋らしさを演出していた。

だが今は昼時だというのに客の出入りは見られない。

ちゃんとやっているかな? という不安を抱きつつ店の前に来ると、店には『営業中』の看板が立てかけられている。 どうやら、その心配はなさそうだ。

 

 

「うっし、行くか漣!」

 

「了解、ほいさっさ~!」

 

 

ウチと漣は店の引き戸に手をかけると、勢いよく開き店へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に見えたのは、カウンター席でせっせと作業をする店員の姿だった。

一人は和服に身を包み、その長い髪をひとまとめにしながら料理を作る艦娘。 間違いなく鳳翔さんだ。

でも、ウチが気になったのはもう一人いた男性の店員。

作業用のエプロンを付けているものの、遠目からでもわかるがっしりした体格に、エプロンの下から見えるのは提督用の白い軍服。

とてもただの店員とは思えない。 ウチがそんな疑問を抱いていると、

 

 

 

 

 

「「いらっしゃい! ようこそ居酒屋鳳翔へっ!」」

 

 

カウンター越しからでもはっきり聞こえるほどの声で、鳳翔さんと店員さんは歓迎の言葉をかける。

ウチは驚きつつもぺこりと頭を下げると、

 

 

「ご主人様、早く座りましょ?」

 

「お、おお。 そうだな」

 

 

漣に促され、ウチ等はカウンターにある一人用の椅子にそれぞれ腰掛ける。

鳳翔さんは柔和な笑みでウチ等を眺めており、店員さんはウチを見て「おやっ?」と疑問の声を上げた。

 

 

「君は見ない顔だね。 ここへは初めて来たのかい?」

 

「ええ。 zikuuさんという人……まあ、知り合いからここを紹介されてきたんです」

 

「ああ、zikuuさんね。 彼もこの店の常連だからよく知ってるよ」

 

 

店員さんは作業の手を止めず、zikuuさんについて知っていると話す。

手際よく料理の下ごしらえをするその姿には、プロの貫禄さえ感じられた。

 

 

「ところで、艦娘と一緒のところを見ると貴方も提督ですよね。 どちらに所属しておられるのですか?」

 

 

会話を絶やすことなく合いの手を入れる鳳翔さん。 ウチは鳳翔さんの方に向き直って答えた。

 

 

 

 

 

「ウチはトラック泊地に所属してます、中峰正也と言います」

 

「トラック泊地………ああっ! 大石が話してたスゴロク大会に出てた人か!」

 

「えっ、ウチのこと知ってるんですか!?」

 

「俺の知り合いの提督が言ってたよ。 なんでも、槍をぶん回して暴れてた破天荒な提督がトラック泊地に所属してるって。 君の事だったんだね」

 

「うう… まさかばれてたとは……」

 

「初めて聞いたときは、どうせあいつの与太話だろうと本気にしなかったけど、まさか本当にいたとはねえ」

 

 

あの時のスゴロク大会の出来事(悪夢)を思い出し、ウチは頭を抱えうずくまる。

一応バラエティとしての演出ということであの場は誤魔化したが、いかんせんウチが戦う提督だということは他の人に知られるわけにはいかないんだよな…

 

 

店員さんが興味津々と言わんばかりの顔でウチを見ていると、漣は店員さんに尋ねた。

 

 

「ありゃっ、店員さんにも提督の知り合いがいたのですか?」

 

「えっ… ああ、そういえば言ってなかったね。 俺はこの呉鎮守府の提督、前原政仁。 階級は中佐で、今日はちょうど手が空いてたから鳳翔の店の手伝いをしてたところさ」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

「あれ? 二人ともどうかし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ええ―――――っ!? 店員さんじゃなかったんですか―――――!?」」

 

 

あまりの驚きにウチと漣の声がハモる。

店員さん改め前原中佐は唖然とした表情になっており、鳳翔さんは後ろで苦笑いを浮かべていた。

 

 

「なあ、鳳翔… 俺ってそんなに提督に見えないかな…?」

 

「それは、提督がそれだけ穏やかな人に見えるということですよ」

 

 

よほどショックだったのか、若干へこみ気味になりながら前原中佐は肩を落としながら鳳翔さんに尋ねる。

鳳翔さんの方も、前原中佐の肩に手を添えながらフォローを入れる。 うう、なんかすいません……

 

 

しばらく落ち込んでいた前原中佐だったが、気を取り戻したのか再び顔を上げると人当たりのいい笑顔を見せてウチ等に言った。

 

 

「ところで中峰君、きみはここに来たのは初めてだと言ってたね」

 

「ええ。 今日は仕事の羽休めってことで来たんです」

 

「それなら、是非他のお客にも会ってみるといい。 ここのお客は大半が他所の提督で、君ほどではないが個性的な人たちだ。 何か面白い話が聞けると思うよ」

 

「あっ、はい。 そうしてみます」

 

 

ウチはそう言って、二人にぺこりと頭を下げる。

さっそくほかにお客がいないか探してみようと、カウンター席から腰を上げた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー。 前原中佐、鳳翔さん、お久しぶりです」

 

 

引き戸を開ける音とともに店の主である二人に挨拶する人物。

ウチと漣が声のした方を見ると、そこには20代半ばに見える温和な顔つきの青年がいた。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。 お久しぶりです」

 

「やあ、君も来たんだね」

 

 

知り合いらしい気さくな会話に花を咲かせる前原中佐と青年。

すると青年の方もウチに気づいたらしく、親し気な口調でウチに声をかけてきた。

 

 

 

 

 

「あれっ? 君は中峰少佐じゃないか。 久しぶりだね、スゴロク大会の時以来かな?」

 

「えっと、すんません。 おたくは…?」

 

「あっ、あはは… スゴロク大会で一緒だった藤堂雅之だよ。 宿毛湾泊地で中将を務めさせてもらっているよ」

 

「ああっ、あのスゴロク大会の時のでしたか! すみません、顔合わせしてたの忘れてしまってて……」

 

「まあ、あそこでは各地の提督が少し顔合わせしただけだからね。 忘れてしまってても仕方ないさ」

 

 

苦笑いを浮かべながらもウチにフォローを入れてくれた藤堂中将は「失礼…」と一言断りを入れると、ウチの隣の席に腰を掛けた。

 

 

「ところで中峰少佐がここへ来たのは初めてだよね。 誰かの紹介かい?」

 

「zikuuさんに紹介されて来たんですよ。 仕事の息抜きで羽休めするならここがいいって言われてね」

 

「なるほど。 確かにここは艦娘だけでなく、僕たち提督にとっても居心地がいいところだからね。 ただ、ここは知る人ぞ知る隠れ家的スポットでもあるから、この店を知ってるのは本当にごくわずかなんだ。 だからこそ、静かでのんびりできるんだけど」

 

 

その言葉に、ウチも「確かに…」と同意の言葉を送る。

藤堂中将の言う通り、木材を使用して建てられた店の内装は、どこか古風ながらも落ち着いた雰囲気が出ており、お客があまりいない分静かでゆっくりできる空気を感じさせてくれた。

しばらく店の中を見ていたウチだったが、不意に隣に座っていた漣がウチを挟んで反対に座る藤堂中将へ声をかけた。

 

 

「そういう藤堂さんも、ここへは羽休めに来たんですか?」

 

 

そう聞かれた瞬間、藤堂中将の表情が変わった。

温和な笑顔がひきつり、「いや… その……」とえらく歯切れの悪い言葉をつぶやいている。 その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーっと見つけたよ!!」

 

 

突然入り口から聞こえた女性の声。

そこには入口の戸に手をかけながら真っすぐにこちらを睨む重巡艦娘、鈴谷の姿があった。

 

 

「いいっ!? す、鈴谷…!!」

 

 

鈴谷はずんずんと怒りをあらわにしながら藤堂中将の元へと向かってくる。

ウチと漣はその迫力に気圧され、遠巻きに見てることしかできず、前原中佐と鳳翔さんはその様子を苦笑いを浮かべながら見つめていた。

 

 

「鎮守府にいないと思ったらやっぱりここに雲隠れしてたんだね! 他の子に聞いたよ、今度は萩風にまで手を出したんだって!?」

 

「す、鈴谷… 落ち着いて話を聞いてほしい。 それは…その……」

 

「ほぉ~? 今度はいったいどんな言い訳を聞かせてくれるというの?」

 

 

藤堂中将はしどろもどろになりながらも、どうにか鈴谷に落ち着いてもらおうと説得している。

それに対し、鈴谷の方は笑顔で藤堂中将の言葉を待っている。 笑顔というが、目が座っているあたり未だ怒りは衰えていない。

 

 

「いや… は、萩風とは一応合意の上だったし…… それに、鈴谷が考えているようなことはしてないから。 ねっ…」

 

「うるさーい、この浮気者―――!! 初めてケッコンカッコカリしてらったときの鈴谷の純情を返せ――――――!!!!」

 

「いた、痛いっ!! ごめん鈴谷、許して…あいたたっ!!」

 

 

ついに怒りが爆発したのか、顔を真っ赤にしながら藤堂中将をポカポカと叩く鈴谷。

藤堂中将は抵抗することもできず、鈴谷に叩かれながら必死に謝っていた。

 

 

 

 

 

「ありゃー、これが生の修羅場って奴ですか。 漣、初めて見ましたよ」

 

「ああ、ウチもだよ」

 

 

怒り心頭で藤堂中将を叩く鈴谷を止めようかとも思ったが、前原中佐に「あれは二人の問題だから俺たちは首を突っ込まない方がいい」と諭され、ただ遠目から眺めているしかなかった。

そんな時、店の入り口に新たな提督が姿を見せる。

外見的には前原中佐と同じぐらいの年の男性。 彼は鈴谷に叩かれる藤堂中将を見ると、クスリと笑っていた。

 

 

「どうも、前原中佐。 どうやら、先輩まーた他の子に手を出したみたいだな」

 

「久しぶりだね、津多大将。 ええ、そしてそのことでまた彼女に怒られてる、と…」

 

「先輩はかわいい子に目がないからな。 男として気持ちは分からなくもないが、そこはもう少し自重してほしいよ」

 

 

来店してきた提督、津多大将は前原中佐と鳳翔さんに軽く挨拶すると、ウチ等の方に向かって声をかけてきた。

 

 

「そして、どうも中峰少佐。 君がここへ来てるとは正直驚いたよ」

 

「あっ、ども。 たしか、津多大将でしたよね?」

 

「ああ。 初めて会ったわけじゃないけど改めて挨拶を。 宿毛湾泊地提督、津多英明だ。 よろしく、中峰君の秘書艦さん」

 

 

津多大将は律儀にウチの隣にいた漣に挨拶する。

漣の方も津多大将にぺこりと頭を下げ、丁寧に挨拶を行った。 こういうところは秘書艦としては誇らしくもあるのだが、その丁寧さの10分の1をウチにも向けてもらえないものかね、ちくせう……

津多大将はウチと漣に簡潔に挨拶を終えると、再び藤堂中将と鈴谷に目をやる。 どうやら、向こうは未だ修羅場の真っ最中のようだ…

 

 

「まあ、先輩に関わらず提督というのは自ずと艦娘と接する機会が多いから、知らないうちに彼女たちに好感を持たれていてもおかしくないんだ。 中峰少佐も気を付けた方がいいぞ」

 

「へえ、そうなんですか… まあ、そうは言っても自分はそういう色恋沙汰とは無縁な男だから心配いりませんて。 なっ、漣」

 

「……ソーデスネ」

 

「えっ、何その淡白な反応は……?」

 

 

あれっ? ウチ何かおかしなこと言ったか?

何故かゴミを見るような目つきで漣はウチに素っ気ない返事を返す。 訳が分からず戸惑っていると、

 

 

「…君はもう少し女心を学んだ方がいいな」

 

 

津多大将からも呆れを含んだ口調でそう言われた。 何でじゃ…!?

 

「かくいう俺も昔から大和一筋だし、既に結婚もしているからそういった事はあまり関係ないんだけどな」

 

「へえ。 津多大将って大和とケッコンカッコカリしてるんですか」

 

 

ウチは思わず関心の声を漏らす。

ケッコンカッコカリの存在自体は知っていたものの、実際行っているというものはウチの知り合いにはいなかったから、そう言った話はウチにとっても興味深かったのだ。

だが、そこへ藤堂中将が割って入る。 ようやく喧嘩が収まったのか、服装は乱れ顔は若干ボロボロになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中峰少佐、津多大将が言ってるのはケッコンカッコカリではなく、本当の結婚のことだよ」

 

「うぇっ!? それってマジですか…!?」

 

 

まさかのケッコンカッコガチという事実に思わず目を点にするウチ。

 

 

「ああ、そうだよ。 今は俺の子を身籠って退役している。 その分、他の皆が抜けた大和の穴を埋めてくれていてね、本当に助かってるよ」

 

 

落ち着いた態度で、津多大将は自分の妻となった大和の事について話をしてくれた。

元々は艦隊の主力として奮戦してくれてた彼女だったが、津多大将と結婚をしてからは一線から身を引いて、鎮守府で安穏とした日々を過ごしているらしい。 だけど、艦娘としては戦えなくとも、提督である津多大将を支えるため彼女も献身的に尽くしてくれているとのこと。 それを聞いて、ウチもどこか胸が熱くなった。

 

 

「へえ… 夫である津多大将にそこまで尽くしてくれているなんて、津多大将もまた大和を愛しているんですね」

 

「自慢じゃないが、大和への愛なら俺の右に出る者はいないと自負している。 何せ俺は大和の事についてなら竣工から最後までの戦歴について把握しているし、さらに大和のスリーサイズに性感帯、あと夜の営みの……」

「オイイイイイイイイイイ!!? 皆、今何か聞こえた――――!?」

 

 

 

 

 

 

「聞こえてない」

 

「何か言ったの?」

 

「漣のログには何もないです」

 

 

 

 

暴走気味になってきた津多大将の言葉をさえぎって、ウチは近くにいた人たちに呼び掛ける。

前原中佐・藤堂中将・漣と見事な連係プレーでそれを返してくれた。 よし、何とか証拠隠滅できたな。

 

 

「つ、津多大将が大和をどれだけ愛しているのは分かったので、この話題はそろそろ終わりにしましょうそうすべき!!」

 

「んっ… ああ、すまない。 大和の事となって俺もつい熱く語りすぎてしまった」

 

「…ただ、そこまで一人の女性を愛せる男っていうのは、なんかかっこいい気がしますね」

 

 

それは、ウチにとっては嘘偽りのない本音だった。

そこまで真摯に相手を想い、愛するその姿勢。 人としても、男としても、その姿にはウチも尊敬の念を抱かずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

 

「俺にとって、大和は子供のころから憧れだったんだ。 ずっと忘れられずにいた大和、一目でいいからこの目で直接見たくて俺は軍人になった。 それからは驚きの連続だったよ。 軍艦でしかなかったはずの大和が艦娘として俺の前に現れたこと。 その大和が俺の傍にいてくれたこと。 そして、大和も俺を想い愛していると言ってくれたこと。 あの時ほど、俺の人生で最高の瞬間はなかったな…」

 

 

「それに、この幸せがあるのも大和がいたからだけじゃない。 先輩や俺の部下たちが陰ながら支えてきてくれたからこそ、俺はこの幸せを享受することができたんだ。 俺はそれに報いたい… 提督としてではない。 大和を愛する一人の男、津多英明として。 俺はこれからもみんなと共に戦っていくつもりだ!」

 

 

拳を握り、力強く語る津多大将。 それを見て、ウチも思わず声を荒げていた。

 

 

 

 

 

「自分もやりますよ。 元は何の知識もない一般人でしかなかったウチがここまで提督としてやってこれたのは、皆が傍で支えてくれてたからです。 だから、あいつらや津多大将の子供が平和に過ごせる時代を迎えるために、自分も必ず勝ってこの戦争を終わらせて見せます!!」

 

 

改めて、ウチは自分の決意を声高に叫ぶ。

自分以外にも、こうして艦娘たちとともに生きていきたいと思っている人たちは大勢いるんだ。

なら、ウチもやってやる…!

アイツをブッ飛ばす。 絶対に勝ってこの戦争を終わらせて見せると…!!

 

その言葉に、近くで聞いていた前原中佐や藤堂中将も口には出さなかったが、同意の意思を示すように無言で頷き、津多大将はウチを見てクスリと笑うと、

 

 

「中峰少佐。 君も十分かっこいい男だよ」

 

 

と、励ましの言葉を送ってくれたのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。