単発物のネタがどんどん思いつくのでそっちばかり優先してたらここまで遅くなって……
つ、次はプロットは上がってますのでもっと早く上げていきます!
ここは呉鎮守府にある居酒屋鳳翔。
ウチと漣は縮毛湾泊地の提督、津多大将との話を切り上げると、今度は自分たちの足でこの店の中を見てみることにした。
「それにしても、こうしてみると本当に艦娘以外に人がいないんだな」
ウチは辺りをきょろきょろと見渡しながら呟く。
「一応、ここも軍の敷地内になりますからね。 やっぱ一般の人じゃ利用できないんじゃないですか?」
漣の言葉に、ウチも同意する。
一般公開されているならともかく、本来軍の敷地に一般人が入れることなんてまずない。
こんな立派な居酒屋なのに軍関係者の人物や艦娘だけしか利用できないのはもったいないな…
ウチはそんな思いを抱きつつ漣と一緒に歩いていると、
「…おや?」
カウンターから離れた窓際のテーブル席。
そこには一人焼き鳥片手に酒をたしなむ男性の姿があった。
表情は良く言えばクール、悪く言えば淡泊…というか無表情といった感じで、頭にはキャスケット帽をかぶっている。
こう言っては何だが、パッと見は提督なのか一般人なのか区別しにくい人だ。
「うーん… この人も提督なのか…? それとも単なる軍の関係者…?」
ウチは判断に困りながらその人の背中を眺めていると、
「…人をじろじろ見るのは失礼だと親から教わらなかったのか? 中峰少佐」
「ふぇっ!?」
突然かかる声にたじろぐウチ。
声の主でウチに声をかけた人物。 キャスケット帽の男性はウチの方に顔を向けてきた。
「さっきの津多大将とのやり取り、こちらにも聞こえていたよ。 一応、俺もスゴロク大会に参加していた提督なんだけどな」
「あう… そうだったんですね」
「俺は黒燕三毛。 階級は中尉で岩川基地に所属しているんだ」
キャスケット帽の男性改め、黒燕提督は不愛想な表情を変えずウチに挨拶し、ウチもまた気まずそうに頭をかきながらも黒燕提督に挨拶を返した。
「なるほど、zikuuさんの紹介でここに来たと……」
「そういう黒燕中尉もここへ休息に来たんですか?」
見た感じ、黒燕提督以外に他の人の姿は見えない。 提督なら秘書艦もいるはずだけどその姿もない。 ウチは首を傾げていると、
「まあな。 本当なら隼鷹と一緒に来たかったんだが、流石に産気づいてるあいつを連れて行くわけにはいかないし、本人も今回は遠慮しとくと言ってたからな。 それで俺だけで来たんだ」
「へぇー……って、ちょっと待った!? 黒燕中尉って隼鷹と結婚してて、しかも隼鷹は妊娠してるんですか!?」
突然さらりと出てきた衝撃の事実。
目を白黒させるウチに対し、黒燕提督は動揺を見せることなく話を続ける。
「ああ。 それじゃ俺も残ろうかとあいつに言ったんだが、当の隼鷹から『あたしの分まで楽しんできとくれよ』と言われてな。 それで今こうして一人飲みに来たってわけさ」
「…なるほど。 そういう理由があったんですね」
ウチはどうにか落ち着きを取り戻すと黒燕提督に断って漣と一緒に向かいに座る。
黒燕提督は相も変わらず焼き鳥を食べているが、表情を変えないのでおいしいのかまずいのか区別がつかない。
とはいえ、このままというのもあれなのでウチは何か話を振ってみた。
「ところで黒燕中尉、一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
「黒燕中尉はなぜ提督になったんです? 津多大将みたいに何か艦に対して思い入れでもあったんですか?」
考えてみれば、他の人はなぜ提督になったのか。 それ聞いたことがなかった。
ウチは初めは成り行きで提督代理を引き受け、それが今では皆のために正式な提督になって今に至るが、他の人たちはやっぱり何かしらの目的や決意があって入ったんだと思う。 津多大将がそうだったように…
黒燕中尉はウチの質問を聞くと、表情を変えずに一言だけ、
「給料がいいから」
「……へっ?」
気だるげな様子で答えた。
「そのままの意味だ。 俺が軍に入ったのは単に給料がよかったからってだけで、津多大将みたく艦に対する思い入れってのは俺には全くないよ」
あまりに予想外すぎる回答に思わずウチは茫然となっていると、今度は黒燕中尉がウチに質問を返してきた。
「そういう中峰少佐はなぜ提督になった? 一体、何のためにこの道を選んだんだ?」
そう言って、黒燕中尉は真っすぐにウチに視線を向ける。
その表情はさっきまでの不愛想な様子はなく、真剣にウチという一人の人間を調べようとする。 そんな気迫が感じられた。
その気迫に気圧されながらも、ウチは黒燕中尉の顔を見て答えた。
「約束したからです。 ここへ来たばかりで右も左も分からなかった自分を提督としてここまで支えてくれた人のため… そして、大事な仲間たちに平和な時代を生きてほしい。 そのためにこの戦争を終わらせる。 そう約束したからです」
「……。 そうか…」
ウチの言葉に黒燕中尉は一瞬目を細めるが、おもむろに立ち上がると、
「そろそろ俺はお暇するわ。 じゃあな、中峰少佐」
背中を向けたまま手をひらひらと振りながらその場を後にする黒燕中尉。
ウチも何も言わず少しずつ小さくなっていく黒燕中尉の背中を見届けるのであった。
「……。 ご主人様、黒燕提督は何が言いたかったんですかね…?」
「…さあな。 あの人も艦娘である隼鷹を娶っている以上、艦娘に対して無関心な人じゃないと思うけど、いまいち掴みどころがないな」
ウチは黒燕中尉の事がよく分からず、頭をガシガシと掻いている。
まあ、そこまで深刻な事でもないし分からない以上あんまり考えてても仕様がない。
そう思い、また店の中を見て行こうとしたとき、
「………」
「……? どうしました、ご主人様」
妙な違和感。 誰かに見られているような視線を感じる。
ウチは周囲を見渡し、視線の出所を探る。
きょろきょろと首と体を動かし、そしてある場所に目を向ける。
そこは黒燕中尉がいた窓際の席と反対の位置にある通路側の席だった。
窓際と違って若干日陰になっており、少し薄暗い。
そして視線の出所となっていたのは通路側でも特に日が差しにくい一番端の席。
そこには一人の女性提督がこちらを見つめていた。
服装は提督が着るような白の軍服。
それだけなら他の提督と変わらなかったが、その女性提督には他にはない大きな特徴があった。
「…あれって、深海棲艦のつけてる仮面とよく似てるな」
そう、その女性提督の顔には深海棲艦……雷巡チ級がつけているものとよく似た仮面があったからだ。
仮面越しに見つめるその顔からは何を考えているのかはわからない。
女性提督はこちらに視線を向けていたが、急に視線を落とし手元に会った雑誌をぱらぱらとめくり始めた。
ウチがこっちを見たのに気づいたからなのか、はたまた単に興味が失せただけなのか、それは分からない。
しかし気になった以上聞かずにはいられない。
ウチは女性提督の元に向かうと、思い切って尋ねる。
「あの…」
「……何?」
「さっき、こっちを見てましたよね? 何かウチ等に用でも…?」
「……別に。 ただ、さっきの話が聞こえてきてね、ちょっと気になっただけ」
女性提督は関心のなさげな声でウチの質問に答える。
「気になった? 一体何がですか」
女性提督の生返事に若干ムッとなりながらも、ウチはなるべく平静を装った。
「君が言ってた、この戦争を終わらせるため提督になったって下り。 それを聞いて、『ああ、今時そんなことを言う人がいるなんて』と思って」
「……。 自分は本気ですよ。 冗談でこんな事言うほど嘘はうまくないんで」
「…そっか。 じゃあ、一つ私から尋ねたいことがあるんだけどいいかな?」
そう言って、女性提督は雑誌を膝におろしてウチに顔を向ける。
仮面があるので表情は分からなかったが、口元はどこかにやりとした笑みを浮かべてるようにも見えた。
「君はこの戦争を終わらせてみせると言ってたけど、本気でそんなことができると思う? これまで人間同士が引き起こした戦争も長い時間と多くの命を犠牲にしてようやく終わらせることができた。 しかしいま私たちが戦争をしている相手は人間じゃなく深海棲艦。 言葉は通じないし武力は人間より圧倒的に上、そんな連中を相手に戦争を終わらせるなんて一体どれほど気の長い話になるのかしら?」
「それに君は大事な仲間たちのために戦争を終わらせると言ってたけど、戦争を終わらせるにはその大事な仲間を戦場に駆り出さなければいけなくなる。 この戦争が終わるまでその仲間がいつまでも無事でいられるとは、悪いけど私には想像できないわ」
「戦争である以上犠牲は免れないし、よしんば戦争を終わらせたとしても戦いのない未来が必ずしも平和になるとは限らない。 はっきり言わせてもらうと、私からすれば君が口にしているのは自分にとって都合のいい理想論でしかない」
「それでも君はやるの? 危険極まりない戦争に身を投じて、平和になるかどうかわからない未来のために大事な艦娘たちを戦場に送り出す。 君にはその覚悟があるというの?」
深淵を体現させたような黒く深い瞳で女性提督はウチを見つめてくる。
奇しくも、彼女の言っていたことは戦艦棲姫の言葉を彷彿とさせる。
未来が必ずしも良いものになるとは限らない。 それはウチも分かっている。
でも、それでも…!
ウチはこの言葉を返そうと思う。
「もちろんです」
「…んっ?」
ウチからの返事が意外だったのか、素っ頓狂な声を上げる女性提督。
ウチもまた彼女の顔を見返しながらはっきりと答える。
「戦争に犠牲が伴うのは当然だし、未来が必ずしも良いものになるとは限らないのは百も承知です。 でも、今は戦うことを望まない、平和な時代を望む人や艦娘だって確かにいます」
「それでも彼女たちは戦わなくてはならない。 深海棲艦との戦争がある限り、この状況が続く限り、彼女たちは戦うことから逃れることはできない。 艦娘とは、生まれながらにしてそのような業を背負っているんです」
「だからウチはこの戦争を終わらせることを決意した。 たった一人の犠牲も出させないなんて真似は出来なくても、目の前の仲間たちだけは沈ませない。 自分はそう決心して提督になったんです」
「ウチはやります。 誰に何と言われようと自分自身の望みをかなえるためにも、ウチは提督としてこの戦争を終わらせます」
嘘偽りのない気持ちを言葉にして、ウチははっきりと自分の答えを伝える。
女性提督の方は何を思っているのかわからないが、無言のままウチの顔を見つめているが、
「……そう」
とだけ短い返事を返した。
「まあ、君がどんな理想を持とうが君の勝手だし、私には興味がない。 それが君の目標だというのなら、せいぜい頑張ってみたら?」
その言葉を最後に女性提督は再び雑誌を読み始めた。
これ以上は話すこともなかったので、ウチ等はその場を後にしていく。
「…なあ、漣。 ウチの戦争を終わらせるなんて目標は、やっぱり夢物語なのかな?」
ウチはポツリと隣にいた漣に聞いてみると、
スパーン!!
「あっだぁ!!」
思い切り背中をひっぱたかれた。
床に倒れ、痛む背中をさすっているウチの前で、漣は仁王立ちでウチを睨んでいた。
「今更何言ってんですか! 金剛さんたちを助けに行ったことも、カスガダマで戦艦棲姫を倒したことも、ご主人様はどんな事だってバカみたいに必死になって成し遂げてきたじゃないですか。 そんなことで弱気にならないでください!」
「バカのくせして難しいこと考えてんじゃないです! ご主人様はご主人様らしく自分の信じた道を突き進めばいいんです! それで、もしご主人様が道を間違えるようなことがあれば、その時は漣がブッ飛ばしてあげますよ!」
「漣……」
……あいつらしい励まし方だ。
なんだかんだであいつはいつもウチの背中を押してくれる。 そんなあいつだから、ウチは漣を相棒と呼んでるんだよな…
「…サンキュー漣。 おかげで元気が出たわ」
「殴られて元気が出るとか、ご主人様ってやっぱMなんですか…?」
「違うわいっ!!」
いつものやり取りを繰り広げながらウチと漣は店内をぶらついている。
しばらく他の人を見ないが、ふと気になったことがある。
「…そう言えば、あの女性提督の名前を聞いてなかったな。 一体誰だったんだろう?」
さっきは質問に答えるのに気を取られて聞きそびれてしまった事。
ウチがポツリと呟いていると、
「あれは山村カズハ氏だ。 階級は中将で、桂島泊地に所属しているんだ」
「へぇー………って」
ウチの質問に答えてくれる声。
ウチはその声に相槌を打ったが、
「い、今の声って…!?」
ウチは声のした方に顔を向けてみると、そこには…
「おっすおっす中峰氏、おひさーだな」
「じっ、zikuuさん!?」
声のした方、テーブルの上にミリタリールックに身を包んだリスことzikuuさんがウチ等に手を振っていた。
「はっはっはっ、中峰氏の事だからこのようなメールを送れば必ず来るだろうと思って網を張って待っていたのだ」
「あ、相変わらず神出鬼没ですね。 それにしても山村中将って言いましたか。 あの人、深海棲艦がつけているような仮面があったのは一体なぜ…?」
何気なく気になったことを言葉にしたとき、zikuuさんは突然黙り込みウチに諭すように話す。
「……。 山村氏は昔、大怪我をして右の顔と肩にひどい火傷を負っている。 あの仮面もそれを隠すためにつけているそうだ」
「中峰氏、人として気になることがあるのは致し方ないが、あまり他の人の事を詮索するのは感心できないぞ」
「……そう、ですね。 失礼しました」
いつになく真面目な様子のzikuuさんの言葉にウチもぺこりと頭を下げる。
zikuuさんもそれを聞いてか、いつもの明るい口調で話題を切り替えた。
「時に中峰氏、こうして他所の提督を見てみてどうだった? 皆個性的な人ばかりだっただろう」
「ええ。 中には艦娘と結婚をしてる人もいると聞いて、正直ビックリしましたね」
「はっはっはっ。 まあ、皆思い思いの理由があって提督になった者ばかりさ。 憧れの戦艦に会いたくてなった者。 家系を継ぐように提督になった者。 そして特に目的もなく軍に入った者。 そんな提督たちが集まっている場所なんだ、ここは」
「10人いれば10通りの理由があるし、目的がある。 我も中峰氏がどんな提督になっていくか興味があったんだ」
「だから、中峰氏には他の提督がどんな理由と目的があるかそれを知ってもらい、中峰氏なりの理由と目的を見つけてほしい。 そのためにここへ招待したんだよ」
そう言いながら、zikuuさんは笑い声をあげる。
そんなzikuuさんの心遣いに、ウチも思わず笑みをこぼしていた。
「それはどうもです。 でも心配無用、ウチはもうとっくに自分なりの理由と目的を持ってますからね」
「ほほう。 それは気になるな」
「まあ、そうは言ってもちょっと気恥ずかしい話なんですけど」
「では、向こうでその理由とやらをじっくり聞かせてもらうとしますか」
zikuuさんは楽しげに笑いながら通路の先を指さす。 そこには、
「おーい中峰少佐ー! 早くこっち来い!!」
「早く来ないとご馳走無くなっちゃうよー!!」
「鈴谷たちはもう食べ始めてるよー! ほら早く早くー!」
大人数用のお座敷席。 そこで津多大将や藤堂中将たちが酒とご馳走を囲いながら大いに盛り上がっていた。
脇では前原中佐と鳳翔さんが甲斐甲斐しく料理を作っては机に運んでいく。 よく見ると、離れてはいるが山村中将もその様子を見ながら一人酒を嗜んでいる姿が見受けられた。
「こんなこともあろうかと我が他の提督たちに声をかけておいたんだ。 どうせならみんなで盛り上がる方が楽しいだろうと思って」
「あ、あはは… こ、こりゃすごいですね」
ウチが唖然となっていると、隣にいた漣も嬉しそうにご馳走に飛びつく。
「早く行きましょうよご主人様ー! こんなご馳走見せられたら食べない方が失礼ですよー!」
「はいはい、料理ならどんどん作りますからそんなに急いで食べないでください」
「ほら、中峰君も早く行ってあげな。 あのペースじゃいつ食材が尽きるか分からないからね」
「あっ、はい。 そうですね」
後ろからウチに笑顔を向ける前原中佐に促され、ウチも急いで座敷に向かう。
すでに出来上がっているのかそれとも素面なのか分からないが、津多大将は大和の事で盛り上がり、藤堂中将は鈴谷とともに苦笑いを浮かべている。
zikuuさんも津多大将に加わっていき、もうお座敷席はてんやわんやの大騒ぎになっていった。
しかしウチはこれでいいと思う。
こうして提督も艦娘もみんな笑っていける世界。
そんな時代を過ごしてほしくてウチは提督になった。
いや、初めはただ元の世界に戻るためだったけど、皆と共に過ごすうちにできた目標だ。
だからウチはやってみせる。
絶対皆とともにこの戦争を終わらせる。
漣やトラック泊地の皆。
兄ちゃんや神原さんたちと共に、終わらせて見せる、絶対に…!!
ウチは自分自身にそう言い聞かせると、賑やかながらも楽しいお座敷に混ざっていくのであった。