今回の話はピクシブで知り合った方とのコラボ作品になります。
ちょっと原作とキャラが違ってしまうところもあるかもしれないですが、それでも楽しんでもらえればありがたいです。
トラック泊地から出港したクルーザー。 中ではトラック泊地の提督、中峰正也が舵を取る。
「もうすぐ着くぞ、正也」
「あい、分かった。 しかし、他所の鎮守府で自分らの装備を見てもらうとは思わなかったな」
「俺もだよ。 まあ、これから行く鎮守府ではいろいろと特殊な装備を作っているそうだ。 櫟谷って男も深海棲艦たちに色んな技術を与えているそうだし、俺たちもその鎮守府でなにか新しい新しい技術についての参考にさせてもらおう」
操舵室に入ってきた男。 タウイタウイ泊地である正也の兄、中峰幸仁からの報告を聞いて正也も返事を返した。
正也と幸仁は数日前に佐世保鎮守府の提督を務める女性、工作艦『明石』こと赤羽栞から一通のメールをもらっていた。
内容はとある鎮守府で自分と同じように特別な艤装を開発しているところがあるということで、正也と幸仁の装備を点検してもらおうと考えたのだ。
だが、流石に二人が戦う提督であること。 そして二人が使っている艤装だということは話せなかったので、明石は向こうの提督には妖精が新しく作った艤装を見てほしいと嘘の理由をつけた。
クルーザーには正也と幸仁の秘書艦として漣と叢雲が同行、さらに羽黒・霧島・利根・赤城の4人も随伴艦として一緒に来てもらった。
朝から出港してだいぶ時間が経った頃、昼に差し掛かりそうな時刻に目的地は見えた。
「おっ、見えてきましたよご主人様」
「あそこね、話に挙がってた鎮守府っていうのは」
水平線の向こうから見えてきた陸地。 そしてそこに建てられた鎮守府を見ながら漣と叢雲は同時に声を上げた。
それから、正也たちは港から鎮守府の正門へとやってくる。
正門の向こうには艦娘たちの姿がないが、綺麗に手入れされた中庭が広がりどこか穏やかな雰囲気を感じさせる。
とはいえ、このままここにいては始まらない。
「すいませーん! トラック泊地の方から来ましたー! 誰かいませんかー!?」
正也は声を張り上げて中にいるであろう関係者に声をかけてみるが、返事はなし。 代わりに静かにそよぐ風の音だけが聞こえてきた。
「…返事なし。 弱りましたね」
「どうする? このままボサッと突っ立っておるわけにもいかんじゃろ」
「ふぅむ……」
霧島と利根の言葉に幸仁は手に顎を置く。
確かにこのままじゃ埒があかないが、勝手に入れば不法侵入者扱いされても文句は言えない。
そう考えていると、
「よし、そんじゃウチがちょっくら内部に声かけてくるわ」
「えっ、ちょっ!? 弟さんっ!」
いつの間にか正也が中庭へと足を踏み入れており、その行動に赤城も唖然とする。
突然の行動に幸仁も止めそびれ、その間にも正也はどんどん中庭の向こうにある建物へと向かっていく。
「おいバカ、すぐ引き返せ!! そんな勝手に入ったら…!」
憲兵に拘束されるぞ!
幸仁がそういおうとしたとき、突如中庭の脇から小さな影が飛び出してきた。
「何者だ、貴様っ!」
「のわっ!?」
影は目にもとまらぬ速さで正也に回し蹴りを繰り出すが、正也も間一髪で後ろに下がり回し蹴りを回避。 影は躱されたことが分かると小さく舌打ちしながら正也を睨み付けた。
正也に回し蹴りを繰り出したのは艦娘だった。
駆逐艦らしい小柄な体に緑の長い髪を垂らした艦娘。 艤装は身に着けていないものの、先の動きといい相当格闘戦に慣れている。
鋭い眼光で正也を威圧する艦娘は即座に次の攻撃に打って出る。
「わざわざここへ足を踏み入れるとは、よっぽど死にたいようだな貴様! お望み通り、憲兵でなく私がお前をしょっ引いてやる!!」
「うおっ、ちょっと! ウチはただここへ…うわった!!」
正也は事情を説明しようとするが、艦娘の放つ拳や蹴りに追われ話をすることができない。
普通の人間だったら、とっくにここでこの艦娘に叩きのめされていたであろうが、戦う提督として奮戦してきた正也にはそう簡単にはあたらない。
格闘の経験はないものの、実践で培ってきた勘で正也は艦娘の攻撃を躱し続けた。
「ちっ! どこまでもしぶとい奴め… こうなれば、艤装を使ってお前を仕留め…!」
痺れを切らしたのか艦娘は艤装を展開しようと身構える、が……
「はーい、そこまでー」
ズドオオオオオオオオオオオン!!
気の抜けた声と共に漣が砲弾を二人に撃ちこみ、爆発させた。
爆風で正也も艦娘もボロボロになるが、撃たれ慣れていたせいか正也はすぐに起き上がり漣を睨んだ。
「いってーな何するんじゃ漣ー!!」
「このままご主人様とあの子でやりあっていたら埒が明かなかったんで、漣が秘書艦として止めてあげたんですよ。 こうでもしなきゃ、あの子人の話を聞いてくれそうになかったんで」
「だからって何でウチまで巻き込むんだよ!?」
「バカやったご主人様へのお仕置きも兼ねてです。 それに、こうでもしなきゃ人が来そうにありませんからね」
漣があっけらかんという横で、叢雲はじっと幸仁を見つめている。
そして、彼にしか聞こえないよう小声でぼそっと呟いた。
「…良かったわね、あの子が止めてくれて」
「…何のことだ?」
「もし漣が止めなければ、アンタが割って入るつもりだったんでしょ? その右手、今にも艤装を展開させようとしてたじゃない」
「………」
叢雲がそっと離れると、幸仁は艤装を展開しようとしていた右手をゆっくりと下す。
少しすると、砲撃音につられて建物から大勢の艦娘たちが姿を現す。
ボロボロになっている男と仲間の姿にどよめきを隠せない中、正也を襲ってきた艦娘は体を持ち上げた。
「ま…まさか艦娘の仲間までいたとは、少し油断した…… だが、私はこんな事では負けんぞ!!」
「だからいい加減話を聞いてくれって! ウチは中峰正也、トラック泊地の提督だ! ここの鎮守府には赤羽中佐の紹介でやってきてて、ちゃんとここの提督にもアポを取ってるんだぞ!!」
流石にその言葉には艦娘も唖然としていた。
襲った相手が提督… しかも、ちゃんと紹介を受けてきた…
艦娘が呆然としていると、建物の奥から気だるげな声と共に一人の男が姿を見せた。
「…なんだよさっきから騒々しいな。 誰か来たのか?」
眠たげな眼をしながら現れた20代半ばに見える男。 大きくあくびをしながら頭をガシガシと掻き、いかにも面倒くさいといった雰囲気を醸し出している。
そんな男へ、艦娘は怒り心頭で詰め寄ってきた。
「おい一葉、どういう事だ!? 来客が来るなんて私は聞いてないぞ!!」
「…ああ、そうか。 そういや言ってなかったか。 おーいお前らー、今日はトラック泊地とタウイタウイ泊地の提督が来るからなー」
「言うのが遅すぎる! そのトラック泊地の提督を、侵入者と勘違いして襲ってしまったんだぞ!!」
「おいおい… いきなり提督を襲うとか、お前も物騒なことするな長月」
「誰のせいでこうなったと思っているんだ!?」
正也を襲った艦娘、『長月』は顔を真っ赤にしながら男に怒りをぶちまけるが、男はそのことに対し毛ほども気にした様子もなく、ボロボロになった正也へと挨拶をする。
「よく来たな。 俺がこの鎮守府の提督、伊月一葉だ。 階級は中佐だが、呼び捨てで呼んでくれて構わない。 堅苦しいのは嫌いなんだ」
「あっ、はい… 一応、こちらも改めて挨拶を。 トラック泊地提督、中峰正也だよ」
「タウイタウイ泊地提督、中峰幸仁だ。 そちらの艦娘の襲撃はもともとこちらに落ち度がある。 申し訳なかった…」
「そうなんか? 俺はその場にいなかったから詳しいことは分からんが… おい、長月」
「あっ、うむ… その…私もさっきは済まなかった。 見知らぬ人物がいたから、つい警戒して…」
「いや、こっちも申し訳なかった。 なんかウチのせいでこんなことになってしまって」
伊月提督に促され、深々と頭を下げる長月に、正也もぺこりと頭を下げる。
「まあ、こんなところで立ち話しててもしょうがないな。 皆、来客を案内してやってくれ」
伊月提督がそういうと、集まってきてた艦娘たちも彼の指示に従い正也たちを建物の中に案内し始めた。
漣たちも案内に従い中に入っていき、正也も中へ向かおうとした。
「ああ、それじゃウチ等も中へ向かおうか」
正也は伊月提督にそう言って、漣たちの後を追おうとしたとき、
ヒュンッ!
「ぬわあっ!!」
突然背後に感じた殺気。 一瞬頭を下に下げた途端、後頭部を何かがかすっていった。
正也が目を白黒させながら振り返ると、そこにはなぜか長月と同じように回し蹴りの構えを取った伊月提督がいた。
「ちょちょっ!? 一体何するんですかい二人そろって!!」
「…悪い、頭の後ろにハエがいたんでつい、な…」
「つい… でこんな物騒なことしないでくださいよ! ほんとにもう…!」
「……伊月提督。 俺たちもあいつらの後を追わなきゃいけないんで、これで失礼する」
幸仁はそう言うと、正也と共に建物へと入っていく。 ただ、その表情はどこか気迫のようなものさえ感じられた。
二人も去り、残ったのは伊月提督と長月だけ。
未だに建物へ入ろうとしない伊月提督を見ながら、長月はポツリとつぶやいた。
「…一葉。 お前も何か感じたんだな?」
「まあな… あの二人を見た途端、何か変だとは思ってた。 特に、お前に襲われたっていうのにあの中峰って男は砲撃による火傷だけで、お前の攻撃を食らった様子は見受けられなかった」
「お前ほどの手練れを相手に無傷だなんて、その時点でおかしいだろ。 それに、あっちの幸仁って男もトラック泊地の弟に襲い掛かろうとしていたチビ共を威圧していた。 遠目で見ても分かるくらいの気迫でな」
「そんで、極めつけはあの正也って提督が俺の蹴りを躱したことだ。 あいつは無意識にだが、たしかに俺の殺気に気づき、躱していた。 こんな事、普通の人間にできる芸当じゃない」
実は、長月が正也を襲っていた一部始終を伊月提督は目撃していた。
武術にたけた長月の攻撃を躱しきった正也。
ボロボロになった長月を目撃し、他の睦月型の子たちも長月に加勢しようとしたができなかった。
なぜなら、艤装を展開しようとした子たちを幸仁が気迫を放ち威圧していたからだ。
幸仁の気迫に気圧され、他の睦月型は警戒し手を出せずにいた。 もしあの場で幸仁が足止めしなければ、他の睦月型の子たちも正也に襲い掛かりもっと騒ぎは大きくなっていたことだろう……
「本当なら、チビ共の暴走を止めてくれて礼を言うべきだが、流石に今は言わない方がいいか」
「ああ。 どうやら、向こうもそのことについては追及してほしくないみたいだからな」
「まあ、こうして顔を合わせて俺も分かったことが一つある。 それは…」
「あいつらはただの人間じゃねえ。 そういうことだ」
今はいない二人の人物を思い浮かべる伊月提督。
その言葉に、傍らにいた長月も静かに頷くのであった。