暁の水平線に、優しい希望の歌を   作:ダストブロワー(缶)

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D×Dの方がスランプなので現実逃避的に新しいものに手を出してみました。
よくある系プロローグです。たぶん読み飛ばしてもそこまで影響はないと思います。
若干グロいかも。R15タグあるから大丈夫かな?ローレライ小説版よりはマイルドだと思います。


1

夢をみている。まだ俺が小さかった、子供の頃の夢だ。『ごっこ遊び』以上の遊びはないと信じて、朝の特撮やアニメを前に手に汗握り、何も考えずに笑って、泣いていた頃の、夢。そして小学生になり、中学生になり、高校生を得て、大学へ進学した。見える景色は大して変わらず、できることは増えたけれど、自由に過ごすことは難しくなった。人付き合いがあり、メンツがあり、気を配り、周囲に合わせ……。

 

ぼやけた頭で考える。夢とわかる夢をなんと言うんだっけか。象徴夢?正夢?そういえば落ちる夢、というのは足を組んだりしているとみるらしいと、いつかテレビで言っていた気がする。本当だろうか。だとすると今の学校のプールで空を眺める夢、というやつはどういう状況なのだろう。……あぁ、そうだ。明晰夢、明晰夢だ。夢だとわかる夢は。

 

夢の中の俺がプールに潜る。瞬間、世界が変わる。暗く暗く、ただただ暗い。冷たく不気味で、重い。水の中にいるというのはわかるが、どちらが上か下かすら判然としない。急に変わりすぎた場面についていけず、あちこち目を向け、ようやく遠い先に蒼く揺らめく水面を見つける。あちらが上だろう。それにしてもここは海なのだろうか。今までの人生、こんな場所に来た覚えはないのだが。それ以前に、人が潜れる深さではないだろう。

 

 とりあえず海面に出なくては。そう思い足を動かし、ゆっくりと水面に向かって進む。どこか遠くで鈍くくぐもった音が響き、足元から嵐のように気泡が立ち上ってくる。視界は無数の気泡でふさがれ、ゴポゴポと耳障りな音が鼓膜に叩きつけられる。

 

 『なぜ』と問いかける声が聞こえた。

 

 気泡が通り過ぎた時、俺は足首に違和感を感じた。何かが引っ付いているような、そんな違和感。水面を目指しながら首を動かし違和感の正体を見る。

 

 腕だった。しっかりと鍛えられた力強い男の腕が足首を掴んでいた。……肘から先は、――なかった。押しつぶされ千切れたのだろうか、袖の肘の部分には赤黒い染みがついていた。

 血の気が失せるとはこのことか。急に水が重く、粘ついたものに変わった気がした。急いで上に。根拠はなかったが、あそこまで行ければ大丈夫だと、この夢も終わると、不思議と確信があった。

 足元から目線を上げる。腕が重くなった。赤黒く長い何か――内臓のようにも見える――が巻き付いていた。深く暗い蒼色だった海の色は、気づけば赤黒く、ところどころに白い骨が見える……端的に言って周囲は血だまりに様変わりしていた。水の中のはずなのに吐きそうにになるほど強い鉄錆の臭いがした。

 顔を上げる。早く、早く。ただただ上を目指す。髪をナニかが掴んでいる。足を掴むナニかは増えた。誰かの眼球だけがこちらを見ていた。潰れた足があった。肉塊がこびりついた骨があった。半分以上炭化した身体があった。頭を、体を、腕を、足を、引きずり込もうとする力はどんどん強くなっていく。

 

 光に近づけば近づくほど、体は言うことを聞かなくなり、目の奥をえぐられるような痛みや、頭の内側を無理矢理シェイクされるような不快感は強くなるばかり。ついには『なぜ』と問いかける幻聴までしてくる始末だ。

 

 血まみれな顔が、潰れた頭が、目のない顔が、砕けた頭が問う。『なぜ』と。

 俺が知ったことじゃない。答えようがない。なにについて問うているのかすらわからないのだから。

 

 動かない体を芋虫のようによじらせもがく。水をかこうと動かす手からはグチャリとした嫌な感触が絶え間なく伝わってくる。後少し、後―――

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「――がッ!ハッ、ハッ、はぁ……ふぅ……」

 

 手を付いて勢いよく上体を起こし、息を整える。呼吸をどこかに置き忘れていた肺を膨らませ、慣れっこになってしまった海の空気を取り込み、そして長く息をつく。どうしようもなく酷い夢を見た気がする。寝つきはよくない自覚はあったが、そんなに自分は夢見が悪い方だっただろうか?

 

目の前に広がる大海原と水平線を眺めながらそんなことを考えていると、はたと気づく。おかしい、と。俺の家はこんな海が見える場所だっただろうか。陽の光の下で眠った記憶も子供の頃ならともかく、最近はとんとない。

 

ここはどこだ?どうなっている?形容しがたい不安が胸をよぎる。暖かな日差しすら空恐ろしくなる。今は冬ではなかったのか?落ち着かなくてはという気持ちばかりが逸り、ジワジワと広がる不安は船底にこびりついたヘドロのように取れる気配すらなかった。

暖かな良い天気のはずなのに冷や汗が止まらない。汗をぬぐおうと手を動かそうとして、自分の手が水面を支えているのを知った

 

「水の上に……座って、る……?」

 

 馬鹿な!ありえない!アメンボじゃないんだぞと、叫びだしたい気分にかられる。これも夢なのか?だが、頬を撫でる風が、穏やかな波の音が、これが現実だと否応なく伝えてくる。ハッとしてと後ろを振り返り、その光景が前方と同じ水平線であることを確認すると、もはや自分で自分の混乱を鎮めることが出来るとは思えなかった。てっきり砂浜かどこかで海を見ていると思っていたのだが、そんな希望は波にさらされた砂の城のように簡単に崩れてしまった。

 

天気は良く、過ごしやすい温度のはずなのに、体の震えが止まらない。落ち着け、落ち着けと何度も何度も呟いてみても、毛ほどの効果もなかった。なにがどうしてこうなったのかがまるでわからない。なら、覚えているところから辿るしかないと、そこに考えが至り、そして『思い出せない』ことに気づかされ打ちのめされる。

 

思い出せない、思い出せないのだ。自分の名前が!自分の顔が!声が!父さんの顔も!母さんの顔も!友人や知人のこと、故郷の街並みを。何も思い出せなかった。俺を形作っているはずのすべての物事が、滲んでぼやけて溶け落ちて、まるで分からなくなっていた。

 

俺は、誰だ。

 

ぐらりと体が傾き意識が遠のく。頭が割れそうなほどの頭痛がするが気にならなかった。このまま倒れてしまえば元通りになんて考えが浮かぶと、意識をつなごうと抵抗する気力は消え失せ、俺はあっさりと意識を手放した。

 

 

 

瞼越しに太陽の光を受け、意識が浮上する。快晴、微風、波は穏やか。

 

あれから目が覚めて己の身に起こったことを嘆いて一晩中泣いた。泣いて、怒って、もう一度泣いて、そうして疲れて眠ってしまい、目が覚めたのが今。

 

「やっぱり、目が覚めたら元通り、とはいかないか」

 

そも、元通りと言ってもそれそのものを思い出せないのだが。しかし何もかも覚えてないわけではないようで、常識や勉強していた学科の知識、ゲームやアニメ、ネットで見た記事だとか、最近起こった事件や天災などのテレビ放送なんかはそれなりに思い出せる。

では自分は何のゲームが好きだった?学科の成績は?事件や天災にどう感じた?となると途端に霞がかかったようになり、そしてこれが自分の容姿や声はとなるともうお手上げである。

 

だが、自分が何者であるかは理解した。否、させられた。知識に記憶、動かし方に機能まで。乱暴に頭の中に叩き込まれたこれらが、ここがどういう世界なのかを教えてくれた。

 

『艦隊これくしょん』『艦これ』頭の中に『艦むす』だとか、『深海棲艦』とか『妖精さん』なんて知識が埋め込まれていればいくら俺でもさすがに気づく。

 

かつて戦場を駆けた艦艇の擬人化された姿、「艦娘」を育成する、シミュレーションゲーム、の世界。メディア展開されたので概要くらいは俺にもわかる。概要しかわからないとも言うが。それにしたって自分が「艦娘」になるとは思いもしなかった。いや、男なので「艦息」になるのだろうか?

 

理屈もなにもわかりはしないが、俺がN式特殊潜航艇『ナーバル』の艦むすとなってしまったことはどうしようもなく確かで、そして戻る場所もなにもわからない以上は、不本意だがこの世界で暮らしていくしかないのだろう。

 

 

 

とりあえず当面の目標は右も左も前も後ろも水平線の状態から、陸を見つけることだろうか。

 

 

 

 




まだ余裕がある主人公。
半分くらいは自棄になってます。


正月三が日も終わりですね。頑張っていきましょう。
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