Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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二日目-4

「おぉ、これが中華料理とやらか! ほほう、これはどれも美味しそうだなぁ!」

 

「なんでこんなことになってるんだ……」

 

 目の前、中華料理を広げたテーブルの反対側にはイスカンダルとウェイバーの姿が見える。話しかけられてから再び確認したが、やはりイスカンダルとウェイバー本人だった。そんな二人を加え、今、冬木の中華料理店内にいる。お金に関しては中身をアニムスフィア家が持っているカードがある為、それで支払えばいいのだから完全にこちらの奢りに確定している。ただ、まぁ、メンタルをリセットする意味ではちょうどよかったのかもしれないと思いつつ、少し早いランチタイムをウェイバー陣営と共に過ごしていた。自分の前にもちゃんと、豚の角煮と包子のセットが置いてあり、ちぎった包子で角煮を掴みつつ、口の中へと入れる。

 

「征服王的にはどうなんだよ、中華料理は」

 

 ピチピチのシャツ姿のイスカンダルはそうさなぁ、と声を漏らす。

 

「この味の濃さと油っぽさは嫌いじゃないな! 余がこの存在を知っていればもうちょい侵略の幅を広げたかもしれんがなぁ……まぁ、此度の聖杯戦争、余が勝ち抜いたならば今度はチングスナンタラに負けぬように大陸を征服しなくてはならんな。何事も男であれば大きくなくてはならん。やはり目指すならばナンバーワンよ」

 

「以上、征服面積ナンバーツーの男の言葉」

 

「余、怒るぞ」

 

 かかってこいやぁ、と叫んだら店員に注意されたので大人しく座り直す。それにしてもやはり中華は美味しいよなぁ、と思いながら昼飯を食べる。食事は大事だ―――一回ミスると今度は何時食べられるか解ったもんじゃないから。食べられるときに食べておかないと、次は三日後、なんてケースもある。忘れはしない、門司と一緒に迷った冬のツンドラ地帯。迷い込んだ夏の砂漠。落ち葉の中に紛れて奇襲してくる秋の森の死徒フェスティバル。やはり、食事は大事だ。

 

「というか! なんで! 和やかに食事しているんだよぉ!」

 

「坊主、誘われたものを断ったら器が知れるってものよ」

 

「罠って可能性を考えないのかこいつ……!」

 

「そこらへん、どうなんだ?」

 

 真横でスカサハが担々麺を食べているのを眺めつつ、口へと角煮と包子を運び、それを食べながら返答する。

 

「ちょっと今めちゃくちゃ萎えてて戦う気どころか影の国へ亡命する事すら真剣に考えてる所」

 

「昨夜はかなり暴れまわってたクセに、なんだ、調子でも悪いのか?」

 

 まぁ、調子が悪いと言ってしまえば正しいのかもしれない。気づきたくもない事に気付いてしまった為に、それに縛られてしまった愚か者の末路というべきか―――知らないからこそのほほんとしている目の前の二人の存在が少しだけ、恨めしい。溜息を吐きながら食べ進める。やはり食べ始めると空腹を感じていたのか、ドンドンと中華料理が喉を通って体を、空腹を満たして行く。嫌な気分の時は体を一気に動かすか、食べるかに限るな、と思いつつ、視線をイスカンダルとウェイバーへと向ける。

 

「そういやぁおたくら、この聖杯戦争における行動の予定とかある?」

 

「いや、敵にそんな事を言う―――」

 

「まぁ、とりあえず昨夜はまともに話すことすら出来んかったし、余としては聖杯に集いし英傑たちを再び一堂に集め、そして英雄としての格を競いたいと思っている。見た所、あの金ぴかなのと青いのはどちらも格のある王だ。となればそこにいる影の国の女王も混ぜ、四人で聖杯にくべる願いを、その覇道を語り合うのもまた一つの戦いとなるだろうな」

 

「へぇ……」

 

 内容はかなりまともなものだ。少なくとも聖杯戦争全体に対する影響はないだろうが、それでも英霊の格を決めるこの話し合いは後々、英霊達の立場とメンタルに影響してきそうなものだが―――ソレよりも英霊達が、各時代を代表する王たちが集まってその覇道を、時代に賭けてきた願いを語るというのはぜひとも聞きたいものがある。世の歴史家が聞けばおそらく血涙を流しながら羨む光景であるに違いない。うむ、きっと楽しい事であるに違いない。

 

 が、スカサハは参加しないだろう。

 

「便宜上女王とは名乗っているが、もはや生も死もない私が行っても萎えるだけだろう。願うものも私の死だけだ。となれば格もないだろう」

 

「む、そうか。そう言われてしまうと余としても無理強いは出来ないな。残念だ。まぁ、その代わり今を存分に楽しませてもらうがな! ところでおい、そこの戦士よ。お前さんはどうなんだ?」

 

 そうだなぁ、と答える。

 

「これから起きる殺人事件の結果だけを理解してしまった、自由に動ける、ただし邪魔をすれば俺が第一被害者になる? って感じかなぁ」

 

「ようは解らん」

 

「俺もどうしようか解ってないんだな、これが」

 

 イスカンダルに答える様に苦笑を漏らすと、ウェイバーが少しだけビクビクしていた様子を収め、不思議なものを見るような視線をこちらへと向けてくる。恐れの視線が少々、此方から減っているのが見えているのは、

 

「お前……なんか迷ってる……のか?」

 

「はは……どうなんだろうな」

 

 ―――責任というものが苦手なのだ。

 

 魔術師の家に生まれ、捨てられた自分は、責任とは無縁の人生を送ってきた。義務教育もなんてなかったし、自分で自分を生かさないと生きていけない、そういう人生だった。究極的に言えば自己責任のみの人生―――他人や周りの事なんて構う事のない、そんな人生をずっと過ごしてきた。だから、結構めんどくさいと思う。他人の人生を背負うって。だって結局、未来とかの話ってそういうものではないか。いや、考えるのが面倒って話をしている訳ではない。

 

「知ってしまえば回避出来ない事ってあるじゃん? それを前にしてくると色々萎えてくる、って話だ。趣味で小説を書いている人間が商業用に乗り換えた瞬間、一気に筆が振るわなくなるのと同じ現象だよ。やらなきゃいけない。やるべきだ。その使命感と責任感が逆に邪魔になって好きに、今まで通り動く事が出来なくなるんだよ。好きだったことが途端色あせて面倒になってくる……まぁ、それが今の状態だ」

 

 聖杯戦争、これをものすごく楽しみにしていた。だけどふたを開けてみればどうだ。パンドラの箱を開けたような気分だった。いっそ、無知なままでいればどんだけ楽だったんだろうか―――まぁ、嘆いたところでどうしようもないのはわかっているが、それでも酒を飲みたい気分だった。店員を片手で呼び、老酒を頼む。昼間から飲むのは不衛生、なんて言ってられる心境じゃなかった。

 

「なぁ」

 

 ウェイバーは問う様に言葉を放ってきた。

 

「なんか良く分からないけど、お前のそれって本当にやらなきゃいけない事なのか?」

 

「……―――」

 

 勿論と答えようとしたところで、言葉に詰まる。そりゃあ未来の事を考えれば間違いなくそうするべきなのだろう。元々は死ぬことを回避する為に始めた行動だったし―――ここまで面倒なら自分でやる必要はあるのか、これ。改めてそう自分に問い直し、店員が持ってきた老酒を一気に飲み干し、空っぽになったボトルを返却する。あぁ、そっか、そんなに難しくない内容だったよなぁ、と思い直す。このインド系蛮族戦士瀬野正広は責任とは無縁の人生を送ってきた。

 

 ―――なら別にこの先もそれでいいじゃねぇか。

 

 門司の様に好き勝手生きるし。体を鍛えるし。好き勝手旅をするし。この聖杯戦争だってその一環でしかない。それでいい、それだけでいいのだ―――つまりはそういう事だ。

 

「うむ、案外お前は教育者が向いているのかもしれないな、小僧」

 

「えっ」

 

「いや、間違いなく教育者としての破格の才能を持っているだろう。鍛えればそれこそ英雄すら育て上げる事の出来る人材に」

 

「え、いや、待ってよ。そこの王様二人は僕を見て勝手な事を言わないでくれよ。僕は魔術師として皆を認めさせるって目標が……あれ、なんか凶悪な笑みを浮かべていない?」

 

 ウェイバーのその言葉にサムズアップを返答として返す。ウェイバーはそれを見て直観的にもしかして()()()()()()()()()()()()()と思っているのだろうが、彼は間違いなくやっちゃってしまった。何せ、この俺の中にあった最後のブレーキを粉砕してくれたのだから本当にすごい。スカサハに言われたら()()()()()()()と思い流してしまう所だが、自分よりも遥かに劣っているこの少年に言われてからこそ思えるもんがある。同じ人間だからこそ言われて納得できるものがある。

 

「決めたか主」

 

「おう、全てを天運に任せよう。覗き見はなしでやろう。それでダメってんなら所詮そこまでの世界だった、って訳だよ。だからすべてを天運に投げ出して、いつも通りにやるぞ」

 

「ふむ……良いだろう。このスカサハ、その身命が尽きるその瞬間まで共に戦い続ける事をゲッシュに誓おう」

 

「なぁ、ライダー。なんかやらかした臭いんだけど」

 

「なんか愉快な気配がするし余は一向に構わんぞ」

 

 一気に靄が消えたような気がした。あぁ、そうなのだ。どうせ世界は滅びるって予知されているのだったら、だったら無駄に足掻くよりは何時も通り動いて、本当に訪れるかどうかを天運に任せてしまえば良い。それで未来が焼却されるなら―――後悔はしない。その時は全力を尽くして潔く死ぬだけの話だ。もとより、自分は魔術師ではなく、魔術使いでもない。

 

 戦士なのだ。戦って死ぬならそれもまた戦士の運命だ。他のみんなはいい感じに頑張ってくれ。

 

 情報公開はしないけどな。

 

「イスカンダル王とウェイバー、本当に世話になった。お前らと会えたおかげでテロリストと正面からノーガードで殺し合う覚悟が改めて出来上がったよ。2~3時間経過したらアインツベルン城を更地にして整地する予定だから、今日はアインツベルン向かう予定があるなら全力で避けるべし、だ。英霊格付けチェックするなら別の会場を探せよな」

 

「えー、でも余はあそこの庭園で飲むことが出来ればものすごく美味しいと思うんだが」

 

「イスカンダル君は凄い我がままだなぁ」

 

「お前ら二人頭おかしいよ」

 

 ウェイバーの冷静なツッコミが突き刺さるが、それをガン無視してイスカンダルとじゃんけんをする。お互い、動体視力が良い為に完全に手を出す前に三回ぐらい出すものを切り替えてフェイントを入れないと勝負にならない訳だが、あいこが六回続いたところでイスカンダルの幸運に敗北、アインツベルン城を舞台に英霊格付けチェックが優先されることになった。

 

「と、いう訳で余の勝利だ。今夜は余が酒を持参してアインツベルン城へと向かう」

 

「じゃあ俺言峰綺礼の拠点を今から爆撃するわ。聖堂教会? 冬木教会? かたっぱしから消し飛ばせばいいよな」

 

「おい、お前のマスターだろ! こいつ止めろよ! いや、笑ってないで止めろよ!!」

 

 無駄だ、スカサハは基本的にヒントしか出さない女で、答えや正解を出そうとはしない。だから一度決めた選択に対して反対を出す事もない―――それが個人の意思の尊重であり、そして決定なのだから。こう言ってはアレだが、神話の話として聞くスカサハは凄まじくヤンデレ属性が強かったので色々と恐ろしい部分があったのだが、そんな様子はなんてことはない、

 

 自分にも他人にもスパルタな教育者で、支配者なのだ。

 

 まぁ、それはともあれ、

 

「うっし、ウェイバー。今回の事は本当に恩に着る。これから二日間、お前達に対しては一切殴りかからないから安心して眠ってくれ」

 

「それって初期の計画だと殴りかかってきたって意味だよね」

 

 ツッコミのキレが良いのは遠慮がなくなってきているだろうか。”結末”において生き残るべき人物の一人、それがウェイバーなんだ。だったらきっと、俺が死ななければまた会う事も出来るだろう。

 

 カードを取り出して支払いを済ませ、席から立ち上がる。イスカンダルが中華をまだ堪能するつもりだから店から出る予定はないらしい。此方に負けず劣らずマイペースだなぁ、と思いつつ、

 

「うっし、牛乳買いに行くぞスカサハ!」

 

「それは何故?」

 

「出撃つったら牛乳なんだよ」

 

 非常に晴れ晴れとした気分だった。さっきまでの鬱蒼としていた気分が嘘みたいだ。間違いない、今なら冬木を笑顔のまま火の海に沈められそうな気分だった。

 

「さあ、出撃だスカサハ! 拠点がなくなったから基本はテロだ。次にもテロだ。誤報を流して更にテロだ! 未来とか知ったこっちゃねぇって精神で行くぞ!」

 

「ふふ、拝承した」

 

 さあ―――聖杯戦争二日目の開幕だ。




 Q.どういうこと?
 A.未来は滅びそうですが蛮族は蛮族する事にしました

 逆に一人殺したらそれで未来が消えるかもしれないというスリル感にゾクゾクしている可能性が無きにも非ず。なおこの情報は誰にも伝えない模様。

 一番最初に殺すべき陣営って間違いなくここなんだよなぁ……。なおイスカンダルとの相性は良かった模様。

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