Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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三日目-4

「アァァァイ! アァァァァム! チャンピォォォォン!! 気持ちぃぃぃぃ!」

 

 拳を振り上げながら瓦礫を弾き飛ばして復活する。直前にマントラで生命力を一気に燃焼させた魔力で【魔力放出(炎)】の真似事を行い、それで何とか爆破の衝撃に抗ったり、体を強化したりで耐えきろうと思ったが、やっぱり色々と無謀だったらしい。拳を振り上げながらも体の所々が焦げているし、傷だらけになっている。この状況で戦えと言われても正直な話、絶対に無理だ。と言うか立っているだけでも限界なのだが、そこら辺は長年の経験が利いてくる。たとえ体が限界を迎えていようとも、まるで日常の様に動かす事程度は出来る。

 

「ふぅ、いい感じに更地に変えられたな―――無事か、スカサハ」

 

「まぁ、私は、な。来るのは解っていたから回避出来た」

 

 流石スカサハだ、良くパートナーの事を理解している。が、彼女は、という事はそれ以外は駄目だったという事だろうか? 視線を自分のいる場所へと向ける。そこに存在したはずの間桐邸は完全に【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】の一撃によって瓦礫の山と化していた。出力が甘かったのか、或いは途中でガードが入ったのかどうかはわからないが、完全に蒸発させるには至らなかったようだ―――いや、その場合は自分もたぶん死んでいたのだろうが。しかし、

 

 マキリ・ゾォルケンと会っていた蟲の部屋は跡形もなく蒸発していた。

 

 無論、そこにいた人質の様な、蟲に犯されていた幼女の姿は肉の一片たりとも存在していない。()()()()()()()()()のだろう。少々後味は悪いが、それでもあの幼女を殺す事は躊躇ってはいけなかった。助けた所で背中を刺しに来るかもしれない相手をのんびりと救出するつもりはないし、あの状況を見ている感じ、既に心は死んでいた。だったらさっさと殺して、この世界の苦痛から解放してしまった方が間違いなく幸福だろう。

 

「ところでお主よ、ここで悪い知らせが二つほどあるが」

 

「なにかな」

 

「まぁ、一つ目は既に分かっているかもしれないが―――あの蟲男を逃した。痕跡はある程度は追えるが、手傷程度しか刻む事は出来なかったようだ。まぁ、それでも聖杯を使わせる事には成功した。おかげで追跡は出来るから嘆く程の事ではない」

 

「マジかぁ……」

 

 まぁ、それは予想していた事だ。これで殺せるようなら暗躍などしていないし、マキリ・ゾォルケンと言えば500年を生きる怪物だ。単純に得た年月が神秘へと直結されるこの世界の法則において、500年という年月を生きる存在は化け物としか表現のしようがない。間違いなく俺よりも強い、完成された化け物であると評価する事が出来る。実際、あの蟲の群れは俺では完全消滅させることはできない。一か所に集めた所で【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】を叩き込む事が出来ればいいのだが、そうやって一か所に集める方法がない。やはりスカサハに自滅因子(アポトーシス)を打ち込んでもらうのが一番の攻略方法なのだと思う。

 

「では二つ目だが―――たった今、未来の焼却が確定し、この世界が特異点へと変貌した。喜べ、おぬしはたった今、世界の破壊者となったのだ」

 

 そう言ってスカサハは天に向かって指を向けた。それに従う様に視線を天へと持って行けば、そこには冬木の青い空が広がっている―――が、同時に巨大な光輪も見える。まるで空を囲むかのように広がる光輪は牢獄の様にさえ見える。それが生み出された事によって、明らかな終末感が心の中で漂い始めてきた。

 

「俺、死んだら反英霊として座に登録されないよな? バーサーカー辺りで。スキルに、こう、【時代の破壊者】みたいなのを持って」

 

「世界が滅べば座も残っておるまい―――それに私も影の国の気配を感じる事が出来ない。この時代、この時が、どうやら完全に隔離されて焼却が進められている様だぞ」

 

「マジかぁ……あの嬢ちゃんがトリガーかぁ……」

 

「だったのだろうな。相手が一枚上手だった」

 

 おそらくは初手で爆撃するか、或いは交渉が決裂するのを既に理解していた為、向こうも罠を仕込んだのだ。未来焼却のトリガーとなる、生きてはいないといけない存在を爆弾の様に設置したのだ。助けて動きが鈍るなら良し、砲撃した際に巻き込まれて死ぬならそれも良し。交渉が成功、失敗、どちらであったとしても一切問題がない様に構えていたわけだ。流石、知恵は回るという事なのだろうか。めんどくさい相手だ。

 

「スカサハ、この状況をどうにかする方法はあるか?」

 

 視線をスカサハへと向ける。それに対してスカサハは溜息を吐く。

 

「さて、な。私も未来を救うなんて経験はない。だが今、この都市は世界の他の部分と隔離されている様に感じる。おそらく未来を焼却する前段階として時代の隔離が始まったのだろうが―――」

 

「巻いてー」

 

「……つまり特異点になるにはそれだけの原因がある。それを排除すれば世界の修正力が時代を正しい形へと戻すだろう」

 

「幼女を跡形もなく蒸発させたのに?」

 

「それが世界の力だ―――どうやら聖杯によって今は封じ込められている様だがな」

 

 今ほど、スカサハを召喚しておいてよかったと思う。自分の様な半端な魔術師ではこのような考えは浮かび上がらない。今も影の国に君臨する女王、スカサハ。彼女の知識と実力がなければ間違いなくこの状況を、そしてその対処法を察知する事は不可能だっただろう。故に、スカサハを召喚する事に決定した己の選択に感謝し、そして彼女と出会えた運命に感謝する。たとえ、この戦いの先で、

 

 自分が死ななくてはならないのだとしても。

 

「つーことは、あのクソ蟲爺、あの聖杯―――そして俺を始末すればこの状況は解除されるって事か」

 

「あの者の言葉を素直に受け取るならな」

 

「嘘をついている気配は一切なかった。信じていいと思うぜ。まぁ、全てをしゃべった訳じゃないだろうけどな。とりあえず聖杯戦争はやめだ、やめ。やっちまったことを悔いてもしょうがねぇし、未来を焼却させたままにするのも非常に気持ちが悪い。俺は一日一回はオルガマリーを苛めないと気が済まないんだ―――そしてマリーちゃんに連絡を入れられないならこの状況は非常に俺の精神衛生上悪い。という訳であの蟲爺をハントしてぶっ殺して特異点化を解除するぞ」

 

 まぁ、未来を救うとかそういう高尚な理由ではなく、()()()()()()()()()と言うだけのシンプルな話である。やられっぱなしは個人的に許せない、それだけの話だ。だから見つけて、殺して、そして勝利する。それだけの話。

 

「で、これからの行動はどうするのだ? まさか今から追うのか?」

 

「いや、さすがにもう体が限界にきている。いい加減に本格的な休息と回復を行わないとパフォーマンスに支障が―――」

 

 言葉を放った途中で、この空間に入り込んでくる気配を感じた。目の端に映る黒い影を認識した瞬間、縮地により瞬間加速で動きつつ、マントラで損傷した肉体の補強、呼吸の確保、そして生命の活性化を行い、一息もかけずに生み出した炎剣を瞬間的に居合の様に放つ。叩き込む相手は―――完全に影のみで構成されたバーサーカーの、あの黒甲冑の姿だった。狂戦士でありながら縮地に()()()()()()()()し、即座に黒く染まったパイプでガードに入るが、

 

「―――【貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)

 

 即座に連携された二本の魔槍が必中の幾何学模様を描きながらバーサーカーのシャドウサーヴァントに突き刺さり、一瞬でその姿を消滅させた。自分も同時に炎剣を消滅させながら呼吸を少しだけ荒くし、そして何とか落ち着かそうとする。

 

「―――出るから、とっとと隠れられる場所へ行こう。これ以上戦いたくはない」

 

 英霊の影であるせいか、本来のバーサーカーよりも弱いな、と確信しつつよろよろと体を揺らし、武器をしまう。流石にこれ以上は辛い。やはり休息が必要だと判断し、

 

「そうだな。運ぶから捕まると良い」

 

 遠慮なくスカサハへと近づき、倒れこむ。

 

 そのまま、目を瞑る。

 

 

                           ◆

 

 

 ―――夢を見ている。

 

 彼女はまさしく天才だった。その時代においても天才と表現して良かった。もとより全ての存在が未来よりも遥かに優れている、そんな神話の時代であっても天才と表現できるだけの才能を持ち、そして努力をするだけの人格も兼ね備えていた。それだけにのみならず、女は生まれた時から他者を率いる事の出来るカリスマ性をも保有していた。女は王者だった。女は支配者だった。女は戦士だった。故に全力を尽くそうと、女は努力をし続けてきた。その女の終わりのない一生を見ている。おそらく、それは悲劇と呼ぶにふさわしいものだった。

 

 努力を続け、才能を伸ばし、そして極みと呼ばれる領域に踏み込んでも研鑚をあきらめず、やがて神域に触れた。その結果として神々の怒りを受け、死を剥奪されてしまった彼女は、永遠の牢獄を彷徨う様になってしまった。それでも彼女は多くの試練を生み出し、そして門番として、女王として挑戦者達を迎えた。弟子たちに彼女の技を教え、そして神話に名を残す稀代の師として名声を手にする事が出来た。

 

 男に抱かれ、刹那の快楽に溺れど、それでも終われば夢から覚めるような残酷さが待っている。

 

 その果てで、心を許せる相手を見つけようとも、未来は残酷な運命を絶対に見える。そう、時は不変であり、平等だ―――彼女以外に対して。死を剥奪された彼女は決して老いる事も、劣化する事もなく、不変の王国に君臨する。たとえそこに訪れる存在がなくなろうとも、その領地にいる者たちが全て死滅しようとも、女王である以上、彼女は王国の門番として永遠に牢獄に縛られる。それは神々の与えた残酷な刑だった。

 

 彼女は技を教え、導いた。

 

 だが弟子たちは死ぬ。戦いで、そして寿命で。

 

 彼女は誰かを愛した。

 

 だが彼もまた死んだ。裏切られ、追い詰められ、世の理を守る様に。

 

 彼女には未来が最初から存在していなかった。未来の焼却のあるなし等関係なく、最初から未来が存在しない存在だった。死こそが人間の、そして生物の到達する事の出来る未来であり、生物としての特権だと言っても良い事だ。だけどそれを奪われた女は未来と言う者を完全に失ってしまった。技術と、魔術と、知恵を、それでも研鑚をあきらめずに未来を求めても、

 

 彼女がどこかへと行き着く事は永遠にありえない。影の国の女王の未来は呪われた瞬間に消滅したのだから。彼女は生きているのでも死んでもいない。その狭間の存在となってしまっているのだから。明日もなく、昨日もなく、現在しか存在しない。

 

 その呪われた身でも、未だに祈り続ける。

 

 いつか己を殺しに来るものが、与えた赤い魔槍を持って殺してくれると。

 

 それが()()()()()()()()という真実でありながら、乙女の様に夢を忘れられず、死を祈る。

 

 もはやその願いだけが彼女の安息であり、そして残されたものだった。彼女はこの世で誰よりも命の重さを理解し、そしてそれを欲している。死を奪われたことによって人間以下の存在となってしまった事、そこから人間に成りたがっている。

 

 故に、希望へと手を伸ばした。

 

 それはか細い呼びかけだった。特殊な術を用いて干渉し、そして呼び出す儀式。本来のそれとは大きく異なるが、彼女の所へと届いた。それだけで称賛に値する事だった。故に彼女はそれに触れ、読み取り、そして戦場からの呼びかけを理解し―――思考するまでもなく応えた。

 

 彼女は影の国の女王。死を想う女王。死のない永遠の王。

 

 死のない王、それは即ち神と同じに他ならない。

 

 それでも彼女は人を羨み、求め、戻りたがり、手を伸ばす。真にそれが万能であるなら、神から剥奪された死を取り戻してくれるはずだと。きっと己を殺してくれる筈だと、どこかで叶わないと思いながら手を伸ばす。

 

 召喚の呼びかけに答えながら女は思う―――まるで少女のようだと。

 

 そして女は参戦した、聖杯の戦いに。そして未熟な男と出会った。その苛烈さ、凶暴さ、自分勝手さは間違いなく、遠い、神話の時代の日々、鍛え上げた弟子たちの姿を思い出させる。笑い、叫び、怒り、そして自分勝手にふるまいながら戦場へと突撃し、暴れまわっては酒を飲む日常。まだ騒がしく豊かだった時代の姿を思い出させ、

 

 ―――夢は終わった。




 自爆のダメージが一番でかいってよく言われるから。

 桜ちゃんは罠警戒して実際に罠だった+殺しても作動する罠だったという事で。助けてもダメ出し、殺してもダメなので見なかったフリして放置するのが最善だけど善人にしろ悪人にしろその選択肢は出て来ないので目撃した瞬間には罠にはまってた、という話で。zero二次じゃ桜ちゃんとおじさんが救済率ナンバーワンに輝いてるけどテロ欲(ダイス)に負けたので蒸発ENDで。

 という訳で、冬木/zero特異点化開始。

 師匠はきっと現実を理解し、現実を見ながら頭の片隅で乙女な所を捨てられないロマンチスト。

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