目が覚めた背に感じるのは柔らかい感触からだった。気配を巡らせながら起き上ったところ、直ぐ近くにスカサハのものを感じられる。だがそれとは別に感じる複数の気配もある。これは憶えがある。目を開けながら口を開く。
「……スカサハ、俺、どれぐらい寝てたか?」
「二刻程だな」
「となると四時間ほどか……」
上半身を持ち上げながら周りの状況を確認する。視界に入ってくるのは普通の部屋の姿だった。机があり、ベッドがあり、タンスが置いてあるという一般家庭の一室、そういう光景であり、その部屋に設置してあるベッドに自分は寝かされていた。どうやら寝ている間に服をはがれたようで、上半身は裸、下半身の方もパンツ一枚という状況になっていた。そんな己の体には自爆の影響で刻み込まれた火傷の跡が色濃く残っている。が、回復の途中か、出来たばかりの醜さは存在しない様に見える。
まだ完全回復はしていないな、と確認したところで、
「おーい、お前のマスターは起きたか? ってあ、起きたんだ」
「ウェイバー・ベルベット……」
「うん、そうだよ」
扉を開けて部屋の様子を確認するウェイバーの姿が見えた。感知した通り、ここはどうやらウェイバーとイスカンダルが拠点に使っている建造物らしい。息を吐きながら敵のいない事に軽く安堵し、そして視線をウェイバーへと向けた。
「助けて貰ったのはいいんだけど……なんで助けた」
「んー……ライダーの奴が乗り気だったのと……悪い奴には見えなかったから?」
毒気の抜けるウェイバーの答えに溜息を吐くと、軽くにらまれる様になんだよ、と言われる。いや、ウェイバーに関してはそれでいいと思う。たぶんこの男は普通に聖杯戦争で戦い、普通に負け、そして普通に生き残るのだろう。たぶん、そういう星の下にいる。だから自然とこちらも苦笑が漏れてしまう。こいつに関しては戦う気が一切起きない、そういう不思議な気持ちがあった。
「いんや、ホント助かったわ……だろ、スカサハ」
「あぁ、安全な拠点は欲しかったしな。協力者がいる方が今の状況は心強い―――」
そう言ってスカサハは横へ、窓の外へと指を向けた。窓の外へと視線を向ければ、そこには夜の冬木が広がっているのが見えた。しかしそんな夜の闇の中でも天に輝く光輪は消えず、輝き続けている。それだけではなく、夜になっているのもおかしい。時間はまだ四時間しか経過していないはずだ。その程度の時間では夕暮れにだって到達しないはずだ。となると、今、外が暗くなっているのはおかしい。
「綺麗な夜空ですね!」
「そうだな」
一拍の無言、ツッコミを入れる様にウェイバーの声が響く。
「いや、そんなのんきに言える事じゃないから! 未来の焼却ってなんだよ!!」
―――あ、ウェイバー君も知ったんだ。俺がやらかしたの。
そう思いつつも軽く息を吐き出して、マントラの呼吸を意識的に発動させ、生命力と肉体の活性を再開する。どうやら寝ている間に結構治療されていたようだが、これに合わせてマントラの呼吸を続ければ回復も加速するだろうと判断する。まぁ、今すぐ動かなくても大丈夫の様な気配もするし、動く前にしっかりと回復しておきたいが、
「……腹減った。テロった後は美味い飯が食いたくなる」
ウェイバーの呆然とする表情に対し、小さく笑い声を零したスカサハが立ちがる。現代風の衣装に包まれた彼女はまぁ待て、と言葉を置きながら背を向けた。
「何か作ってやろう。怪我人を働かせるのも心が痛むしな。お主はそこで少々待っていろ」
スカサハのその言葉にウェイバーと視線を合わせ、彼女の放った言葉を理解して飲み込むのに数秒かかった。
◆
「めっちゃ美味ぇ」
「そうかそうか」
二階建ての住宅の一階、ダイニングでスカサハの作った肉料理を一気に口の中へと叩き込んで行き、噛み千切りながら飲み込んで行く。見た事のない、食べた事もない、不思議な料理の数々だ。まるで絵本や神話に出てくるような、イメージのみの料理。それが現実として目の前には存在しており、味わったことのない美味に味覚が痺れかけていた。アレか、武術や学問ではなく花嫁修業とかまでやっていたのだろうか、
「その先を考えたら殺すぞ?」
「ウッス。あ、イスカンダルのオッサン、これ美味いぞ、マジで」
「まことか! お、確かにこちらも良い味をしているではないか! うーん、器量良し、戦闘よし、見た目よし、完璧だな! どうだ、余の嫁にならんか? ならない? じゃあ部下は? ダメ? ダメかぁー……仕方がないなぁー……んむ、美味い」
「お前が慣れ過ぎなんだよライダー!!」
食卓にはなぜかイスカンダルまでが参加しており、胃を痛めるかのようにウェイバーが抑えている。いや、まぁ、ここまでフリーダムな英霊も珍しい? のだろうが、ウェイバーはウェイバーでそろそろ慣れるべきじゃないのかな、と三日目なのだから思う。それはともかく、スカサハの作ったメシを堪能し、骨付き肉をしゃぶりながら椅子に深く座り込み、確認する。
「―――現在残っている正規マスターは俺、ウェイバー・ベルベット、衛宮切嗣、そして言峰綺礼の四人のみなんだな?」
「うん。
「ちなみにアサシンに関しては余の宝具で既に粉砕してあるゆえ、これ以上の心配をする必要はないぞ」
「こそこそ動いている間にそっちはそっちで結構状況が動いてたかぁ……」
しかし遠坂時臣が衛宮切嗣に殺されたか。アレはギルガメッシュに処刑されるもんだと思っていたが、どうやらこの混乱に乗じて殺すのに成功して……ギルガメッシュもまだ消えるつもりはないから綺礼と再契約したという形だろうか。アーチャーには【単独行動】スキルがあるし、マスターがいなくなっても数日程度なら普通に活動してそうだなぁ、とは思う。まぁ、遠坂家はお疲れ様。参戦したお前が悪いよ。安らかに死んでおけ。
ともあれ、残されたマスターは四人だ。それに対して相対するのはマキリ・ゾォルケン一人。未来焼却のトリガーとなったのはあの聖杯とゾォルケンなのだから、あの二つと俺さえ死ねばこの事態はどうにか乗り越えられる―――まぁ、ちょっと引っかかる事はあるが、やらかした事のツケは払わなきゃいけない。それは大人として極々普通、当たり前のルールだ。だからこの状況をどうにかして乗り越える事をまずは考える。そしてそれを判断する上で必要になってくるのは―――数だ。
「今外にはシャドウサーヴァントがうろついているんだよな?」
「あとは竜牙兵共に死んだ住民がゾンビやスケルトンとしても蘇っておるな」
「この世の地獄かよ……まぁ、魔力リソースも限界があるし、やっぱり数は集めておきたいよな、ここは」
此方が一騎当千の英霊を味方にしているとはいえ、魔力と言うリソースを代償にしている分、戦える時間にはどうしても限界が存在する。その上、相手が聖杯を保有し、それを使用していることを考えると、実質的に無限の動力を得たと考えても間違いはないと思う。だから量を潰す為にはそれに対抗できるだけの量を質で集めたい。そうなってくると、
アインツベルンと聖堂教会―――つまりは衛宮切嗣と言峰綺礼との協力が不可欠になってくる。
「英雄王ギルガメッシュと、騎士王アーサー……二人とも仲間になってくれれば間違いなく戦力になる。切嗣も綺礼もマスターとしては破格の戦闘能力を持っている、間違いなく戦闘を優位に進められるだろうけど―――」
「―――あいつら、協力するの? というかその言い方、最初から僕らが協力者としてカウントされてる感じなんだけど」
「えっ」
「えっ」
「えっ? 余達は助けんのか?」
「いや、助け合わないとどうしようもないのはわかるけどさ……」
ウェイバーのその態度に小さく苦笑する。そういう、素直じゃない態度は見ているとオルガマリーの存在を思い出す。彼女も酷い頑固、というか素直じゃないタイプの人間で”違うわよ! 勘違いしないでね!”なんて平然な顔で言ってくるから非常に面白い。まぁ、そのオルガマリーに関しても今は声すら聴けないので寂しさを感じるのだが。
「まぁ、とりあえず勧誘するとして問題がまずないのが切嗣&アーサーのコンビだ。切嗣に関しては俺を撃ち殺したい程の殺意があるだろうけど、決して馬鹿な男じゃない。アーサー王は根っからの善人だ、間違いなくこの状況の打破に協力するだろうし、切嗣も何よりも本来の聖杯戦争の再開を求めるだろうから簡単に乗っかると思う」
だから問題は、
「―――神父の方ではなく英雄王ギルガメッシュの方だな?」
イスカンダルの言葉に頷く。問題は綺礼ではなくギルガメッシュだ。アレとは一回戦闘を通してその心の在り方に触れているから理解できるものがある。つまりは
彼は人類最古の王で、そして英雄王という存在なのだから。
誰も彼を咎める事は出来ない。
それはたとえ、全能の神々であっても、だ。
「ギルガメッシュは十中八九動かない。あの王様の事だから”良い、許す。世界が終焉を迎えるのであればそれもまた良かろう。我は特等席にて眺めさせて貰おう”とか言って絶対観客に回るぜ、アレ」
「うっわ、声が想像できる」
「実際その可能性が高そうだなぁ……おい、ランサーのマスター。お前さん、現状の装備とかはどんな感じだ」
イスカンダルに対してそうだなぁ、と答える。
「
「こっちは坊主が全く戦闘のアテにはならんが令呪は3画残ってるのが幸いだな」
「消耗はこっちの方が結構重い感じだな……基本的にこちらの宝具や武装が対人クラス想定だってのも問題だけど―――」
「そこらへんに関しては余に任せい。余の宝具であれば大群を相手にしようとも揺るがんわ。逆に大群の中からピンポイントで親玉だけを選別して隔離する事も出来るぞ」
「そりゃあ便利だな。結界の類か? ……詮索するのはマナー違反だな、こりゃ。とりあえず聖杯ブーストによってこちらが仕掛けた妨害の類は全て破壊されると想定して相手を令呪3画のブーストで拘束できる時間は何秒ぐらいだ?」
「まぁ、一発叩き込む程度の時間であれば余も何とかするだろうな―――逆に言えばお前さんらの方が火力不足ではないかどうかが不安だが」
「安心しろ征服王。私の宝具は心臓を貫いて殺すのを目的としているが、そこにルーンを刻めば特攻効果程度簡単に付与できる。最後の令呪で私の宝具を強化して放てば、おそらくは殺せるだろうな」
イスカンダル、スカサハと三人で戦術について話し合っていると、完全に仲間外れにされたウェイバーが少しだけ寂しそうな表情を浮かべるので、イスカンダルとスカサハの会話から抜け出し、ウェイバーの背後へと周りこんでその背中を大きく叩く。
「痛っぁ! 何するんだよ!」
瞬間、怒りを向けてくるウェイバーの姿に笑う。
「なぁに落ち込んでるんだよ。俺、これから爆睡して回復しなきゃいけないんだから、お前も出来ることあるだろ? 礼装の作成とか、アインツベルンに使い魔を送って情報の交換とかさ」
「あ……」
「じゃ、俺はもう一度寝るからな」
続けられる言葉を聞く前にそのままウェイバーから離れ、再びベッドルームへと向かう。らしくない事をやっているなぁ、と思いつつも思い出すのは門司の言葉、そして積み重ねてきた教えによる考え。
「―――出来事には神様も運命も関係なく、間の問題か。生も死も、そんなもんなのかねぇ、門司」
呟きながら、自分の未来はどうするか。そんな事を適当に考えながら眠る為に足を前へと運ぶ。
ウェイバー君と言う幸運EXアイテム。約束された勝利の接触タイミング。
大体FGO最初の特異点の様な感じに。まぁ、それはそれとして舞台裏でホームレス時臣君には切嗣くんに狙撃されて山もオチもなしにボッシュート。
ともあれ、”未来からレイシフト組くるんじゃね?”って言われているけど絶対聖杯見つけて特異点ぶっ殺すバスターズの皆さんは絶対にやってこないんで安心して雁夜おじさんが煉獄で苦しんでるのを眺めてください。
それはそれとして我様、ポップコーン片手に観戦中。