Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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特異点X日目-4

 スカサハへと言葉を放った直後、

 

 ―――爆音が響いた。

 

 視線をスカサハから外して音源へと向ければ、アインツベルン城のホールがあるべき場所から煙が上がっているのが見えた。それは間違いなく襲撃の証だった。それを確認するのと同時に、言葉をかけあう必要もなく、一瞬でスカサハを真似て覚えた鮭跳びの術を持って跳躍し、ホール横の外壁、襲撃によって開いた穴の向こう側からホール内へと視線を向けた。ホールの中央には侵入者の姿があり、ホール奥側にある階段の上には他のマスター達が、そしてその姿を守る様に二体のサーヴァントが立っていた。しかし、問題なのは、

 

 侵入者の姿だった。

 

「お前―――」

 

「―――えぇ、久しぶりです」

 

 その男は緑色のスーツに帽子をかぶった似非紳士風の男―――殺したはずのマスター、レフ・ライノール・フラウロスの姿だった。帽子を取り、綺麗にお辞儀を取って頭を下げた瞬間、

 

 縮地で大地を蹴って加速した。

 

 同時に魔力を放出しながら加速した青が存在し、

 

 影の動きで瞬間的に移動した紫もいた。

 

 三つの違う技術、三つの姿―――それでも狙う事、目的とすることは同じであり、そしてその為の判断は素早い。即ち接近しての即殺。襲撃者であれば言葉を聞く前に殺して完全に排除する。相手が隙を見せたならそれは十分すぎる間だ。一瞬の接近と共にロングソードを居合の要領で抜き放って首を跳ね飛ばし、アーサーの刃が体を両断し、そしてスカサハの槍が的確に心臓を貫いて殺した。イスカンダルが護衛対象の前から動かず守護しているのを確認しつつ、

 

 直観的に、三人同時に飛び退いた。

 

「あぁ、酷いではないかァ―――」

 

 綺麗に解体されていたレフの体がまるで時間を逆行させているかの様に再生を始めていた。無言でそうやって首を、体を、そして心臓を元通りの状態へと再生させるレフの姿を場にいる全員が無言で眺めていた。あまりにも異様すぎるその姿、サーヴァントたちが武器を無言で構えるのに合わせ、援護に入れるように弓を構え、後ろへと一歩だけ下がる。

 

「紳士的に応対を求めてみればまるで話にならないか! はは! 所詮は劣等か」

 

「おいおい、英国紳士はどうしたレフ。テメェの事はキッチリ墓場へと叩き込んだはずなんだがなぁ」

 

 ぐるり、と首だけを回してレフがこちらへと顔を向けてくる。まだ完全に癒着していなかった首がぐずり、と音を立てながら血が飛び散り、その光景にアイリスフィールが小さな悲鳴を零した。血走った、しかし理性のある瞳でレフはおぉ、そうだった、と声をかけてくる。

 

「そう、そうだったのだよ。()()()()()()()()。まさかあの時点で殺されるとは欠片も思いはしなかった! 聖水まで用意して完全に殺しに来るその用意周到さには呆れ果てるしかなかったが無駄だ無駄! 所詮人間如きではどうにもならない―――聖杯がある限りは」

 

「成程、聖杯の力で蘇生されましたか。となるとこの蘇生能力も魔力的な能力ですね」

 

「散らせば消えて死ぬ、と。殺し続ければ問題なさそうだな―――【原初のルーン】よ」

 

「ふ、ふはははは! そうか、まだやる気か? いいぞ、相手をしてやろう! ()()()()()()()()()なのだからなぁ! 短い生を楽しむが良い!」

 

「お前、そんなキャラだったのか。心底握手しなくてよかったと思うわ」

 

 言葉を吐き捨てた瞬間、スカサハとアーサーが一瞬で加速した。殺意を武器に込めながら一瞬で得た加速をレフへと向かって殺す為に放つ。再び心臓と顔を両断する為の一撃を放とうとした瞬間、レフが閃光に包まれながら魔槍と聖剣の一撃を一瞬で弾いた。その中から何がが出現するのが見えるが―――出現させるのを待つほど悠長な事はやらない。

 

「スカサハ!」

 

「セイバー!」

 

「ライダー!」

 

 マスターの声にこたえる様に魔力の消耗が行われ、スカサハが跳躍しながら魔槍を足の甲にのせ―――アーサーが両手で握った聖剣に破壊と希望の閃光を集め―――そしてイスカンダルが雷鳴を纏いながら雷牛を戦車を引きながら走らせた。

 

 そして、まったく同じタイミングに放たれた。

 

 三方向からの同時攻撃―――宝具による超挟み撃ち攻撃が輝くレフの体へと吸い込まれるように叩きつけられる。仲間への余波などを考えれば多少威力が下がっていることは否めないが、それでも宝具という時点で凄まじい破壊力を保有しているそれが一斉に叩きつけられる状況は神話でもない限り早々見る事の出来ない光景だ。しかし、攻撃を一点に集中させられたレフの姿は輝き―――そしてはじけた。

 

「なんと、これはまさに奥様もウットリな……」

 

「ライダァ―――!!」

 

 光を弾いて出現したのは()()()()()だった。黒く、生物の様に脈打つ肉を持った、獣の柱。いたるところ赤い目玉を持ち、そして大地と癒着したような姿を見せる。それはあまりにも冒涜的で、そして人間としては、生物としてはありえない、あってはならない存在の姿だった。その存在から感じさせる”悪”はマキリ・ゾォルケンが放っていた感触と全く同じものであり、同種の存在であるようにさえ感じさせる。だがそんな考案よりも、今は目の前に敵がいる事が重要だ。故に迷う事無く宝具による攻撃が終わった瞬間、反動の時間を埋める様に、

 

「―――【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】ッ!」

 

 太陽弓からの一撃を放った。一瞬で閃光と化した太陽の一撃が燐光をまき散らしながら出現した怪物に衝突し、炎で包みあげながら爆炎を生み出すことなく熱によって焼いて行く。が、そのむき出しの目玉は焼かれた次の瞬間には即座に再生し、そして無事な姿を見せていた。

 

「無敵なのは卑怯だと思います!!」

 

「無敵ではない―――質量が凄まじすぎて削り切れていないだけだ」

 

 言葉と共に三十近い真紅の魔槍が一気にレフの体に突き刺さり、爆裂する。同時に叩き込まれた聖剣が一気に体を両断する様に魔力が抜けて行くが、その傷口も即座に再生する。まるで努力を嘲笑うかのように出現した怪物(レフ)は君臨し、反撃すらせずにその視線だけで笑っていた。此方が困っているのを理解して見下している―――殺したい。激しく殺したいこいつ。だけどその圧倒的な質量を一瞬で削り取れるだけの武器がない。

 

「めんどくせぇなこいつ!」

 

 バックステップで距離を生んだ瞬間、レフの邪眼が輝く。精神の合間をぬったモラルを砕こうとする精神破壊の光がその光景を見ていた者たちの中へと侵入し破壊しようとする。迷う事無く精神への干渉をインドの修行で習得した透化技術によってあっさりと受け流しつつ、生命力を燃焼させたスカサハに対する魔力供給を増やす。アイリスフィールやウェイバーへと意識を割くだけの余裕はない。此方も全力でレフの殺害に力を入れないと殺されるからだ。

 

「【原初のルーン】よ! 刻めッ!」

 

 投擲された真紅の魔槍が幾何学模様を描くように飛翔し、自動的に突き抜けながら何度も刺さる。そのたびに新たな魔槍をスカサハが生み出し、投擲しながらも接近、車輪の様に回転させながら深々と斬撃を刻んで行く。アーサーと連携する様に、攻撃に流れが尽きない様に動くスカサハの攻撃を確認しつつ、レフの目に光が宿るのを見る。

 

「そこだ―――」

 

 動きの合間を縫う様に太陽の矢を放ち、瞬間的に目玉を四つ、連続で貫いて潰す。放たれるはずだった閃光はそれによって一定の範囲を捉える事が出来なくなり、スカサハ、アーサー、イスカンダルのいる空間が攻撃のない安全地帯と化す。それに合わせる様に聖剣と魔槍が輝き、瞬間的に薙ぎ払う出力で放たれる。赤い閃光と希望の光がアインツベルン城を破壊しながら突き抜けて行き、レフの全身を飲み込んだ。

 

 しかし、攻撃を食らっても、レフの姿は消える事がない。

 

「これは……少々厄介ですね。ロンゴミニアドを持っていれば多少は楽でしたが―――」

 

 アーサーの言葉を嘲笑うかのように獣の鳴き声の様な、心を蝕む音が響いてくる。それが醜悪な怪物の姿をしたレフから放たれたものであると気付くには数瞬必要とし、怒りで頭の中が支配されそうになるのを堪え、太陽弓を構え直す。相手が凄まじい質量を兼ね備え、削っても削っても意味がない、そんな強大な相手に相対してしまった場合、

 

「―――まともに相手にならない敵が現れた場合はどうする!」

 

 答えは雷鳴だった。何時の間にか俺を除いたマスターのそばに着地していたイスカンダルは雷牛とそれに牽引させている戦車の上に載っており、ウェイバーとアイリスフィール、その護衛を戦車の上に乗せていた。

 

「まともに相手をせん事だな!」

 

 大正解。

 

 こういうのは相手にするだけで負けなのだ。なのでまず相手にしてはいけない。少なくとも軍略を手にし、王の地位にある程の賢人であればその程度は余裕で解るだろう。という訳で、これ以上レフの相手をまともにするつもりは自分も、無論英霊達も一切存在しなかった。イスカンダルが天井を粉砕しながらアインツベルン城から離脱して行く。それを確認しつつもアーサーが聖剣を輝かせ、それを振り下ろす。

 

 聖剣の輝きがまるで壁の様に面を覆い尽くし、スカサハ、自分と、そしてアーサーを隔てる。

 

「ばぁーか! ばぁーか! お前出落ちした癖に偉そうなんだよばぁーか! エセ紳士ー! やーいやーい、お前目玉だらけー!」

 

「下らんことを言ってないで離脱するぞ」

 

 スカサハが素早くアーサーを掴み、跳躍するのに合わせて此方も大きく、イスカンダルが貫いた天井から逃げる様に跳躍する。逃がす気が一切ないレフが追撃の様に目を光らせ、漆黒の霧が追いかけてくるように邪眼から放たれる眼光がもはやレーザーの様に襲い掛かってくる。が、振り返りながら太陽弓から閃光を放ち、空中で迎撃しつつその爆風に乗って更に高く跳躍し、上空で待機していた戦車の端につかまる。

 

「これ、元々余を含めて二人乗りだから定員オーバーなんだが」

 

「ちょ、ちょっとお牛さん疲れてる表情を浮かべていないかしら」

 

「高度! 高度を上げろー!」

 

 騒がしくなってきたなぁ、と思いつつもう一発矢を放ち、生命燃焼しながら追撃を迎撃する。合わせる様に召喚された無数の真紅の魔槍が檻の様に重ねられ、壁となって攻撃を阻み、

 

「む、来るぞ」

 

 スカサハの言葉に首を傾げ、

 

「あ、切嗣がこれから城を爆破するって」

 

 アイリスフィールの言葉にあっ、と声を零して、

 

 ―――少しずつアインツベルン城から離れながら、その光景を眺めた。

 

 一瞬で閃光に飲み込まれ、大爆発と共に炎と土砂を巻き上げるアインツベルン城の姿を。おそらくは支柱や土台部分にまで爆薬をかませていたのか、大地がひっくり返る様にアインツベルン城は大爆発を起こしながら爆炎に飲み込まれて崩壊をはじめ、レフの姿を一瞬で飲み込みながら逃げ場のない災害を生み出していた。中にいる存在を絶対に外に逃がさず、爆殺しながら生き埋めにするというコンセプトの()()()を感じさせる見事な爆破解体だった。

 

 自分でも拠点テロをこなしてきたが、ここまで芸術的なものはなかなかお目にかかれない。

 

 やはり衛宮切嗣―――我がライバル。テロリスト的な意味で。

 

 スカサハが場所を作る為に霊体化しているが、それでも戦車の上はギリギリという状況だった。アーサー、お前も霊体化しろとは思うものの、やらないという事は出来ない理由があるのだろうと思っておく。ともあれ、その為引き続き戦車の端から片手でぶら下がるという状況を継続しつつ、アインツベルン城跡からレフの姿が出現しないのをしっかりと、【魔境の智慧】で拝借中の【千里眼】を通して確認する。

 

「また出オチしやがったなぁ、あのエセ紳士は……まぁいいや」

 

 ため息を吐きながら戦車が徐々に、徐々に高度を落としてゆく。その先に見えるのはアインツベルンの森の広場―――アーサーが迎えに来てくれた地点だ。

 

 その中央には待ち構える様に黒いロングコート姿の男が立っていた。

 

 衛宮切嗣、聖杯戦争が始まって以来、一度も目撃する事のなかった男だ。

 

 殺す為には手段を選ばず、同盟の時でさえ姿を現さない暗殺者が、漸くその姿を現した。




 それにしてもタマ猫やフランちゃんの宝具ぶっぱで周回に慣れるとモーさんやセイバー顔の全体宝具が低く感じる。オルタは強いけど(倍率からして)。まぁ、なにはともあれ、切嗣マンが登場でテロタッグの結成ですよ。なんか漸くマスターとサーヴァントって感じで戦ってる気がするけど良く考えたら士郎も前で戦ってた感じだったわ。

 レフ教授? 誰だっけそれ? 出オチ芸の達人かな?

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