Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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特異点X日目-5

 森の広場に到着すれば衛宮切嗣の姿がそこには見えた。オルガマリーの資料で確認した通りの男の姿だった。その片手が油断なくコートの中の銃を握っていることを確認し、やっぱり()()()の人間である事を再認識し、息を吐きながら生命の活性化を、そして精神を整える。戦車から降りて振り返ったところで、もはやアインツベルン城の姿は跡形もなく見えなくなっていた。

 

「派手にやったなぁ」

 

「記憶は残らないんだろ? それにここで何をやろうとも聖杯に届かないんだったら隠すのも殺すのも無駄だ。さっさとこのバカげた事態を終わらせて元の聖杯戦争に戻った方が遥かに有意義だ……違うか?」

 

「違わないな」

 

 切嗣のスタンスを確認し終わる。切嗣としてはさっさとこの状況を終わらせ、本来の聖杯戦争に戻りたい、という所なのだろう。それに関しては否定するところは一切ない、むしろ応援しているし協力だってする。だが問題となるのは敵の存在についてだ。

 

()()に関しては心配する必要はない。何であるかは解らないが、陣取っている場所は大聖杯の安置されている大空洞だ。この聖杯戦争のシステムの根本と言っても良い場所だ―――この状況の解除がリセットへと繋がるというのなら大聖杯そのものを超高出力の魔力で破壊する。計算が正しければ冬木そのものを消し飛ばすだけの魔力が貯蔵されている筈だ。それでこちらもろとも相手を吹き飛ばして全てをリセットする」

 

「耐えられた場合は?」

 

「令呪を使って未来へと攻撃を叩き込めば良い。これで倒せないというのならもはや勝ち目はないと思うがな」

 

 切嗣に発案は実に合理的だった。この状況をクリアする事によって元の歴史へ、正しい状態へと回帰するというのであれば、どんな無茶無謀、無理をこなそうとも正しい状態へと戻るという事を示している。たとえ、それが聖杯戦争の根幹のシステムである大聖杯への干渉であろうとも、特異点が消失すれば元の状態へと戻る。英霊や人間、幻想種であろうとも絶対に耐える事の出来ない大聖杯の爆弾、それを使って冬木ごと目標を全て消し飛ばせば、後は歴史が元に戻るだけ、

 

 実に合理的なやり方だ。しかも俺好みのやり方だ。

 

「あの……それって、僕達消し飛ばない……?」

 

「……? 今はそうかもしれないが状況が解決すれば元に戻るんだろう? だったら問題はないはずだ」

 

「……」

 

 合理的ではあるが―――狂った人間にのみ取れる行動ではある。つまり、ウェイバーの様に比較的に普通の感性を保有する者からすれば恐怖の手段でしかない。状況が終了してから蘇るから―――なんて事を言われても恐怖を感じない訳がない。死、という感覚に対して恐怖を感じても動じないのは戦士として訓練された者か、或いは()()()()()()()ぐらいなものだ。英霊達は良い。アイリスフィールも聖杯として生まれる運命だったから恐怖の色はない。その護衛もそのようだ。俺も、スカサハも、アーサーもイスカンダルも切嗣も恐怖の色は見せない。生きる事とは死と向き合う事ではあるからだ。

 

 だけどこの少年、ウェイバー・ベルベットはそういう世界とは比較的無縁な様だ。だからその考えに明らかに怯えているのが見える。だからと言うべきか、戦車の宝具を消したイスカンダルが口を開く。

 

「あー……その、なんだ。余の宝具は固有結界であり、その中にその大聖杯と敵を取り込めば良かろう。無限に広がる荒野であれば被害もなく見事に破壊する事も可能であると余は思うんだが?」

 

「ならその案で良い。むしろ逃げ場がないからそっちの方が良いな」

 

「という事で出合い頭に大聖杯ごとゾォルケンを固有結界に取り込んで大聖杯テロって事で?」

 

「あぁ、それで行こう」

 

 そこで話を決め、軽く戦術に関して同意する。が、それを話しながらも不安に感じる事がある為、片手を切嗣に見える様に動かせば、向こうもそれに反応する様に軽く目を広げ、そして素早く手の動きで、無音で返答してくる。その手の動きを見て、あぁ、やっぱり理解できるのか、と納得する。まぁ、特殊部隊とかは必須の技術だし、戦争に慣れている人間なら当たり前の様に覚えているか、と周りが怪訝な視線を向けているのを無視しながら軽く、切嗣とだけ、手の動きでやり取りを数秒間行い、会話を完了させる。

 

「お主ら何をやってるんだ」

 

「新世代のインドカラテ」

 

「なんと、東洋とアジアの神秘の融合か……!」

 

「ライダー、お前実は理解しててわざと言ってない?」

 

 イスカンダルが誤魔化す様に豪快な笑い声を上げ、それを聞いていたアーサーが呆れるような視線を作りつつも、視線を全体へと向ける。

 

「いい加減、動き出しましょう。刺客を送り込まれたという事は此方の動きが把握されているという事です。経験上、こういう状況は時間を掛ければ掛ける程後手に回るのみ―――早く拠点に踏み込んで大元を潰すのが一番の対処法です。そうしない限り此方がジリジリ潰されて行くものです……えぇ、非常に懐かしい話ですが」

 

「おう、喧嘩売ってるなら買うぞ貧乳」

 

 中指を此方へと視線を向けているアーサーへと向ける。何時か、どこかで、絶対にケリを付けるから待っていろよコンチクショウ、と思いつつもイスカンダルがウェイバーを掴み、そしてその姿を己の肩の上へと乗せる。その行動にウェイバーが文句を言い始めているが―――その姿は本気で怒っているようには見えない。なんというか、()()()()()()()()とでもいうのが正しい様な、そんな感じがある。イスカンダルに対して心が近づいているとも表現できる。

 

 たぶん、最初にあった頃のウェイバーでは一緒に戦場に行くことなんて考えようともしなかっただろう。そう考えると誰もがずっと、そのままでいられるわけではないのだと、そう思わされる。自分も、この聖杯戦争中に色々と気づかされ―――そして変わっているものがある。間違いなくこれから向かう先、これが最後の戦いとなる。油断も、容赦も出来ない。まだ残っている英雄王ギルガメッシュと言峰綺礼の存在があるが―――()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 だから他に心配する事はない。あとはこの最後の令呪、この切りどころを判断するだけだ。

 

「さて、もう準備がいいなら目的地へと向かうけど……どうする?」

 

 切嗣の言葉に反対する者はいない。もはや時間は味方ではなく敵だった。整える、なんて悠長なことは言っていられず、即座に行動を開始する必要があった。故に迷う事無くここから移動を開始した。

 

 

                           ◆

 

 

 アイリスフィールとその護衛を置いて、マスターとサーヴァント達のみのパーティーで真っ直ぐ、大聖杯が存在するという大空洞へと向かって移動する。その移動方法ももはや選ばず、直進、屋根の上を平気で移動する様になる。最初は警戒していたが、レフがこちらの事を見つけたという事は、どっちにしろバレているという事なのだ。シャドウサーヴァントが迷う事無く此方へと向かって直進する姿を確認する限り、もはや排除する為に動いていると表現しても良い。故にこちらも少しずつ、消費魔力は増えていた。宝具解放の直後からの連続戦闘だが―――英霊達の戦闘はまるで、不利である事に慣れている様な、そんな華麗さがあった。

 

 いや、見た目そのものは全盛期だが、目の前にいる英霊達はその人生の経験を引っ提げてこの場に登場しているのだ。その結末までをも理解し、そして戦ってる―――故に不利な状況程度戦い慣れている。物量と言う地獄を前に宝具の解放を行わず、そのまま正面から殺しに行く。シャドウサーヴァントが六体一気に出現しようとも、その動きには淀みはなく、アーサーは一撃で体を両断し、スカサハは一撃で霊核を貫き、そしてイスカンダルは頭を叩き割る。クラスが、歴史が、そして時代が違っても、英霊が英霊である事に違いはない。

 

 どんな劣勢であろうとも、最強の幻想である事に違いはないのだ。

 

 故にウェイバーと切嗣と言う接近戦においては足手まといになりかねない者を連れていようとも、大聖杯の存在する大空洞へと向かう足は衰えず、敵を蹴散らしながら確かに前進していた。

 

 その結果、大空洞付近に到達するまでの時間はそうかかりはしなかった。そもそも英霊という人間を遥かに超えたスペックを持つ存在の基本的なスピードで移動し続けたのだ、冬木市内であればどこへだろうとも短時間で到達できる。

 

 それでも、まるで動きを邪魔するかのように、シャドウサーヴァントが襲い掛かってくる。

 

 それらを一蹴し、そのまま見えた大空洞の入口へと飛び込む。

 

「スカサハ」

 

「心得た」

 

 名を呼ぶだけで此方の意図をくみ取り、スカサハが反応する。素早く魔槍を何本も生み出したスカサハがそれを檻の様に交差させ、大空洞へと入る為の入口を塞ぎ、追加する様に【原初のルーン】を発動させる。魔槍と組み合わさったルーンの効果により、結界が出来上がり、侵入と逃亡を閉ざす壁となる。結界の向こう側からシャドウサーヴァントがガンガンと力の限り叩いてくるが、それを無視して大空洞の奥へと、ゾォルケンが待ち受けているであろう場所へと向かって直進する。

 

 その進路上には再びシャドウサーヴァントやスケルトンの類が出現するが―――まるで損耗を狙うかのように放たれる雑魚程度では止まる事さえもなく、そのまま一気にダンジョンの様に続く大空洞の通路を抜けて行き、

 

 そして、そこへと到達する。

 

 到達した冬木の大空洞最深部、大聖杯があるという場所は―――一言で表現するなら()()()()()という言葉が一番しっくり来る。広い大空洞の奥には目に見える程巨大な巨大な魔力の塊が存在していた。いや、そうとしか表現が出来なかった。そもそもからして聖杯と言う形さえしていなかった。大聖杯と言う言葉はただの記号でしかなく、目の前に見えているのは黒い泥―――ひたすら濁った魔力と泥だった。赤く、そして黒く、考えられる限りの悪意と憎悪を、()を感じさせる、そういう魔力の塊だった。目撃するのと同時に理解させられる。

 

 これが聖杯の本質だと。

 

 そしてこれが本質であるが故に、聖杯は絶対に正しく使えない、と。

 

 それを見た直後、崩れ落ちる音がした。視線を横へと向ければ、そこには膝を折る切嗣の姿があった。その口の中では馬鹿な、という言葉が零れる―――どうやら聖杯に対する願いは強く、そして切望していたらしい。それだけに今、目撃してしまった光景に深い絶望を抱いた。その気持ちは理解できないも、感じられる驚愕は理解できる。今、目の前に存在するこの光景は、()()()()()()()()類のものだ。明確に、存在してはならないと断言する事の出来る絶対悪。

 

 それが、今、目の前にある大聖杯の感想だった。

 

「―――()()()()()()()()とはよく言ったものだ。知らなければ絶望する事もなかったのに、好奇心を働かせたばかりにいらぬものまで知ってしまう。救世を求めても世の中にはどうしようもない事がある。たとえば、今の様に、な」

 

 大聖杯の前の空間に、ゾォルケンが立っていた。その表情に浮かんでいるのは同情の色であり、そして悲しみの感情だった。そう、彼は今、心の底から此方の存在を憐れんでいるのだ。

 

「大聖杯の真実を知り、ここで大聖杯を破壊しよう。私を殺そう。私の持っている聖杯を破壊し、この特異点を突破しよう。それは幸福な結末の様に見えて違う。既に結末は()()()()()()()のだから、回避のしようはない。この状況を完璧に切り抜けてもこの特異点での記憶は全て喪失されるのが世界の法則だ。■■■も■■■も、本来の歴史と乖離する様な流れは好まないだろう。聖杯の干渉がなくなれば元の流れに戻り―――全てを忘却する」

 

 まるで道化の様だ、とゾォルケンは表現する。

 

「救いがたい。余りにも救いがたい。断言しよう()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 

 それはゾォルケンから放たれる偽りのない真実だった。本人が心の底から信じている言葉だった。

 

「この聖杯に万人を救う事は不可能だ。なぜならばこれは破壊と殺戮でしか願いを叶える事が出来ない。この聖杯で祖国を救う事は出来ない。それはただ新たな人理定礎の崩壊を生み、そして特異点を生み、世界の未来を滅ぼす一端にしかならないからだ。この聖杯で運命を覆す事は出来ない。なぜならこの聖杯にはそんな能力はないからだ。受肉? したければするが良い。ただし、この溢れだす怨念を乗り越えるだけの自我と狂気を持っているならばな。正道を、そして王道を歩むものにこの泥は()()()()()()()()。或いは彼の英雄王であれば話は違うだろうが―――純粋な人間には不可能だ」

 

 故に、ゾォルケンは答える。

 

「―――願いを捨てろ。ここを乗り越えても冬木は滅び、人の未来は潰える。お前たちの願いは絶対に叶わない」

 

 それは絶対の真実であり、宣言だった。だから答える。

 

「―――3画目の令呪を持って命ずる―――」

 

 最後の令呪で宣言する、

 

「全ての制限を振り払い、全力を持って敵を滅しろ、スカサハ!」

 

 スカサハに課せられた心理的、肉体的リミッターの解除を。そして全力で眼前に敵を滅ぼすという事を。それに応える様にスカサハの姿に、薄いベールが頭から被る様に追加される。美しさの中に凛としたかっこよさがあるその姿を晒しつつ、スカサハが二本の魔槍を構える。

 

「任せろ勇士よ―――このスカサハ、死を知らぬ。故に敗北はないッ!」

 

「抗うか。それもいいだろう。所詮は泡沫の夢だ。私にとって、そして無論―――()()()()()()()、だ」

 

 この場で誰よりも救いがないのは俺だって理解している。自覚している。だけどそれでも、

 

 死に場所を選べるほど上等な生き物になったつもりはない―――それに簡単に終わりを迎えるつもりもない。聖杯が目の前にあるのだ。それを使えばまだ、どうにかなるのかもしれないなんてこともある。だから、教える。

 

()()()()()()()()()()()ってもんさ。覚悟なんてものもなければ別に信念も誇りってものもないさ。蛮族上等―――でも、最低限、やらかした事のツケは払わないとな」

 

 【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】を構える。その動きに合わせる様にイスカンダルが剣を抜き、そして戦車を呼び出した。それに騎乗しながら横へと、前衛へと出る。ウェイバーは後ろの方で大聖杯の気に当てられたのか、まともに動けないようだったが、

 

「まぁ、此度の聖杯戦争では割と満足するぐらいには楽しませて貰ったからな―――この程度で引いておっては征服王として情けなさすぎるわ。無論、余も加勢しよう。その為の同盟であり、戦友であろう」

 

 イスカンダルの言葉に笑みを浮かべ、ゾォルケンへと視線を向ける。その姿は徐々に、徐々に光に包まれて行く―――あのレフと同じ、怪物へと変化する時の前兆だ。故にこれから、ゾォルケンもまた姿を変化させるのだと認識し、

 

 聖杯戦争、最後の戦いを始める。




 BGMはきっとグランドバトル的なFGO。

 大聖杯を確認したら絶望したドン!でも終わったら全部忘れてまた聖杯戦争続行だドン! 無駄なのに忘れてもっかい無駄な戦いで人を殺せるドン! というかこの無駄な事の為に割といっぱい殺したドン!

 イジメか。切嗣さんはボロボロォ。not arthurも流れ弾でボロボロォ。

 結局、聖杯に頼らなかったり、たいして願いもないエンジョイ勢ばかりが救われるってのがねぇ。周りは真剣さが足りない、願いが適当とか言ってるけどそいつらに限って救われるという。

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