Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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特異点X日目-6

「―――我が無双の軍勢を見よ! 肉は滅び、魂は召上げられ! それでもなお余に忠義する伝説の勇者達よ!」

 

 大空洞の領域が一瞬で変化する。ひたすら邪悪さと息苦しさを覚える空間はイスカンダルを中心に変化してゆく。青空の見える、無限の荒野へ。その心の故郷、その大地へと変わって行く。大聖杯を、その泥を、醜悪な怪物へと変貌するゾォルケンを、自分を、仲間を飲み込んで無限の荒野を生み出す。そこに、彼方から参陣する様に出現する姿がある。

 

「時空を超えて我が召喚に応じる永遠の朋友達よ! 今こそ全力を尽くす時! この一戦に世界の興廃あり! 【王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)】よ! 今こそ()()を征服ぞ……!」

 

 イスカンダルの咆哮の様な呼びかけに、王の―――朋友の呼びかけに臣下が応えた。爆裂する様な歓声、そして歓迎の声、歓喜の声が荒野と大砂漠に熱風と共に突き抜ける。スカサハでさえ苦笑を漏らすほどの熱狂がイスカンダルを呼び込んだ。イスカンダルの声に応える様に咆哮が響き渡り、その号令に従ってイスカンダルの武勇すらも超えるような戦士が、知力の主が、魔術の使い手が、かつてイスカンダルと絆を結んだ永遠の朋友達が参戦し―――突撃する。

 

 誰もが一人一人、英霊としての格を保有する者達に合わせ、自分とスカサハも前へと出る。戦いと言う規模を超えて、イスカンダルが呼んだ勇者達と合わせれば―――戦争が開始した。大地を蹂躙する様に疾走する絆の勇者達と共に、大地に出現した醜悪な柱の怪物へとめがけ、武器を握りながら全速力で突貫する。無論己も、太陽弓を手に、縮地で一気に踏み込む。ここで後ろへと下がるなんて選択肢はなかった。

 

「一番槍は貰った!」

 

「なんの、我こそが一番槍!」

 

「一番槍をいただく!」

 

「一番槍は私のものだぁ―――!!」

 

 十人ほどの勇士が軍団を突き抜けて槍を手に一気に前へと突き進む。それぞれが瞬間移動に近い超高速移動技術を保有しており、一番槍を名乗り上げるにふさわしいだけの速度を一瞬で見せ、ゾォルケンへと向かって一直線に跳びかかる様に突き進む。それに負けぬ様に己も、縮地で移動しながら横切りつつも、矢を放ち、その巨大な姿を焼く。そして、槍がその胴体に突き刺さるのと同時に、

 

 大地が鳴動する。

 

 鳴動しながら黒い風がゾォルケンの周囲を包み込む様に発生し、一番槍を名乗り上げた勇士達を飲み込み―――その姿を一瞬で骨のみに変えて、消滅させた。ゾォルケンはレフとは違う。一片の慢心も油断もなく、慈悲として殺そうと本気で戦っている。故に繰り出す攻撃は必殺級で、そして最善の攻撃で殺しに来る。レフとは違い、待つなんて愚かな行動には出ない―――完全に殺す気で襲い掛かってきているのだ。それでも、

 

「おい、馬鹿が死んだぞ!」

 

「一番槍なんかにこだわってるのが馬鹿なんだけど……なぁ?」

 

「―――応、馬鹿(とも)の分まで頑張らにゃあならんなぁ!」

 

 そんな絶望的な破壊力を目撃したとしても、戦意を喪失する存在なんてものは一人として存在しなかった。そもそも、この場にいるイスカンダルの朋友達全てが英霊であり、その呼びかけに答えてやってきた存在なのだ―――逆境の中でこそ、その魂は何よりも輝く。であるなら、

 

 世界の終焉、その舞台でこそ英雄の魂は最も輝くに違いない。

 

 故に号砲を響かせながら死へと向かって突撃が発生する。圧倒的な質量に対して圧倒的な物量を叩きつける、という先ほどまでのシャドウサーヴァント戦とは全く逆の立場の出来事が発生していた。だけどそれを気にする存在などはいなく、熱狂のままに血液を沸騰させ、経験を通して冷静に思考を澄ませ、そして持てる力の限りで前進する。槍を、剣を、矢を放つ姿がドンドンと巨大なゾォルケンの姿へと向かって直進する。

 

 反応する様にキュィィ、と獣の鳴き声が響き渡る。地響きとともに空間を砕かんとする衝撃が走り、振り払う様に黒い風が襲い掛かってくる。飲み込まれてしまえば絶死の風、その前に動きは怯む事もなく、直進し、飲み込まれながらも英霊達は腕一本になった状態でも武器を巨大な異形の姿へと突き刺す。ゾォルケンの姿に穴が、傷が、攻撃が叩き込まれる。クラスが付与されていない無色の英雄達の攻撃は宝具のランクには届かない。が、それでもゾォルケンの姿に触れ、傷つけている姿は英雄のものでしかない。

 

 が、直後、薙ぎ払われる。黒い風が平等に死を生んで存在を飲み込む。数十の英霊が一瞬で飲み込まれ―――数百の姿が殺す為に一斉に押し寄せる。それを再び潰す様に、邪眼から放たれる邪光が見た者全てを精神から焼き殺さんとする。精神的な防御手段を持たぬものが一瞬でその全てを焼き尽くされ、形すら残さずに蒸発して行く。だがそれを持つ者にとっては、

 

 黒い風が来ない、凪の時でもあった。

 

「【原初のルーン】よ―――!」

 

 魔力の塊がルーンと組み合わせて失われし時代の魔術を描く。それによってスカサハが呼び出すのは赤色の魔槍と黄色の魔槍だった―――ルーンを通して契約してある、或いはストックしてある英霊の武装をピンポイントで呼び出し、限定的に支配する。或いはその技術の、神話の()であるからこそ許される横暴。赤の魔槍と黄色の魔槍、

 

 魔道破壊と不治の呪いを持った魔槍が弾丸の様に放たれ、深々と怪物の体に突き刺さる。途端に生み出される直前だった黒い風が全て霧散し、消える。その光景に合わせる様にゾォルケンの口もないその体から悲鳴のような冒涜的な鳴き声が溢れだす。二種の魔槍の内、片方は再生と共に徐々に押し出されつつあるが、もう片方の魔槍は突き刺さったまま一切の変化を見せない―――再生が始まらない。

 

 それを勝機とみて、英霊達が突き進む。

 

「【遥かなる蹂躙制覇(ヴィアエクスプグナティオ)】ォ―――!!」

 

 英霊の集団に交じる様にイスカンダルもまた雷鳴を響かせながら集団に交じり、先頭を突き抜ける様にゾォルケンへと向かって特攻して行く。

 

 傷口を広げる様に、抉る様に、潰して広げる様に雷鳴が響き―――ゾォルケンの肉を貫いた。抉り、焼き、そして更に奥に不治の呪いを持った魔槍を突き刺した。奥へ、奥へと抉りこまれる魔槍の呪いが全体へとルーンの力によって浸透し、やがて、その体そのものから再生能力を奪って行く。魔術師殺しの槍がその体から抜けても、一気に逆転した形成を押し切る為にも英霊達の攻勢は更に苛烈なものとなって蹂躙して行く。

 

 英霊達の合間を縫う様に自分も無論攻撃を放つが―――規模が違いすぎる。

 

 それは何年、何十年、そして生涯を戦争に捧げた戦士達の戦いだった。何十、何百、何千、何万にも及ぶ戦士達が二つの陣営に分かれ、連携しながら敵を殺すという歴史の中、それをずっと戦い、経験し、そして支え続けた人生を送った者達の戦争。遠距離から一気に火力で殺す現代の戦争事情ではたとえ紛争地域で死んだとしても絶対に経験のできない、濃密な()()()()を理解する、戦争の勇士達の戦い。

 

 それは、自分が今までの人生で経験した事とは次元の違う戦いだった。

 

 仲間が目の前で骨になって消えても、それでも前進しながら武器を体に突き刺す熱狂、狂気。正気でありながら絆を持って勝利を信じ、次に託す。仲間に託す。正しく()()と呼ぶのにふさわしい英霊達の戦場だった。笑い、怒鳴り、そして突撃する。ただそれだけだが繰り返された闘争の日々によって培われてきた経験は現代の人間が経験できるそれとはまったく違う、異質なものになる。

 

 故に、自分が参戦し辛い状況が出来上がっていた―――だからこそ見えるものもある。

 

「来るぞ―――!」

 

 言葉と共に空が暗雲で―――黒い風によって覆われる。それが広範囲を覆う様にゆっくりと空から、徐々に潰すように落ちてくる。それはゾォルケンを中心に押し潰す様に、集団を飲み込む様に破壊する死の風であり、その規模から逃れる術はないと断定しても良い。故に逃げ場のない勇士たちは死のその前に、殺す為に自殺にも似た特攻を果たす為、正面から得物を叩きつけて行くイスカンダルの朋友達は一切死を恐れずに前進する。その先に勝利があると信じている故に。

 

 それを嘲笑うかのように異形のゾォルケンが勇士たちを蹂躙する。地平線を黒が埋め尽くすような光景が広がって行く。それから逃れるために一気に後ろへと下がろうとも、限界が来るのは見えている。そもそも逃げる事の出来る類の攻撃ではないからだ。相手は間抜けな姿をしているが―――その姿を取っても十分なだけの理由があるのだ。

 

「刺し穿つ―――」

 

 ルーンの加護と智慧による強化が加わり、凄まじい勢いで魔力の込められた魔槍が闇を切り裂きながら一瞬でゾォルケンに突き刺さられ、そうやって出来上がった道にバックステップを取りながら新たな魔槍を取り出し、ありったけの魔力と呪いが込められる。

 

「―――【貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)】ッ!」

 

 空間と時間を貫いて呪いの魔槍が異形の体に風穴を開けた。僅かな隙間、僅かな成果―――だった。直ぐに死の物量がそれを埋めようとして、閃光と共に()()した姿がそこに出現した。それは輝ける希望を両手に聖剣の形として握り、完全に放つ準備を、今までを超える最高の魔力と破壊力を持って降臨していた。両手に輝ける聖剣を握りながら、

 

 ―――騎士王アーサーは令呪のバックアップと共にそれを振り下ろした。

 

「【約束されし勝利の剣(エクスカリバー)】ァァァ―――ッ!!」

 

 希望を形とする神造の兵器―――宝具が閃光と共に弾ける。()()()()()()()()()()()()()()()()で放たれた【約束されし勝利の剣(エクスカリバー)】は意識外からの攻撃であったが故、完全に踏ん張る事も、堪える事も出来ずにゾォルケンに【貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)】によってあけられた穴から侵入し、その体内全てを蹂躙する様に溢れながら光に変えて消し飛ばして行く。光の粒子へと変換し、姿を消し飛ばしながら聖剣を構え直していた。

 

「―――残念ながら挫折や夢破れる事等()()()()()()()()。確かに聖杯でどうにもならないと聞かされれば心も折れそうになりますが、それでも腹立たしいですがそこの準ピクト系蛮族の言う通りです。挫折や悲劇なんてものは何度も経験しているものです―――()()()()()()()()()()、味わっている以上これ以上折れる事は不可能ですからね」

 

 経験した事がある。それ故にもう折れる事はない。それだけの簡単な話だ。アーサー王は悲劇の王だ。そして衛宮切嗣もまた、この道を選んだのは多くの悲劇を経験し、その道を歩み続けてきたからに他ならない。それでも挑戦しているという事は折れてから再び立ち上がった、と言うだけのシンプルな話だ。

 

 願ったけど駄目だった―――じゃあ次の手段に期待しよう。それだけの簡単な話。

 

「えぇ―――英雄(私達)を舐めましたね?」

 

 光の粒子に飲まれながら徐々に、徐々にゾォルケンの姿が崩れて行く。その凄まじいまでの質量も軍勢と、そして令呪による強化を得た聖剣の前に屈した。その敗因は間違いなく英霊―――というよりは精神力を甘く見たからだろう。目の前に希望を見せ、そしてそれを潰すところを見せれば、今までとこれからが完全に無意味だと知れば、それで心が

 

 ()()()()()()()()と考えてしまったのが敗因だろう、か。

 

 そこから数秒間、消え行くゾォルケンの姿を眺め―――そしてその姿が完全に消えた所で歓声が爆発する。

 

 イスカンダルの号令に参陣した英霊達が、この場で戦った者全てが歓喜の声を上げ、勝利に祝福を響かせる。

 

「これで……後は聖杯を壊せばいいのか……」

 

 呟きながら太陽弓を下ろそうとして、気づく。

 

 ―――ゾォルケンの持っていた聖杯が見えない。

 

「まだ終わ―――」

 

 言葉を放とうとした瞬間、

 

 ―――全てを黒が一色に塗りつぶした。




 ゾォルケンさんの強キャラ臭。

 夢破れた程度で英霊がボロボロになる程度のメンタルな訳がないだろ! いい加減にしろ!! え? 原作? 聞こえないなぁ。それにしても原作における騎士王のぼろぼろメンタル具合は一体何事なんだろうか……。ちょっくら精神攻撃に弱すぎませんかねぇ。

 個人的に強い奴程メンタルがキチガイになってると思っている。てんぞーの世界観はそれが基本なので、強ければ強いほど普通からメンタルや考えが離れていく感じで。

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