「はいはい、そっちは作業効率下がってるわよ! もう少しテキパキとやりなさい! 3番はどうなってるの? 繋がってる? ならいいわね。時間は無限じゃないんだから出来る事は出来る内に終わらせるわよ!」
声を響かせれば返答の声が返ってくる。本当に解っているのだろうか? 今、自分たちがやろうとしている事の重大さに。その認識がちゃんと存在するのか否か、それは仕事の効率を大幅に変える。ただでさえ自分が所長になってから色々と大変になってきたというのに―――これ以上結果を遅らせる事は出来ない。
人理保障機関カルデアの所長として、最高の結果を出さなくてはならない。その考えはずっと変わりはしない。
カルデアの実験スペース、そこに続々と科学と魔術の融合を果たした装置がセッティングされ、そして準備が整って行く。これから行われるのは
これを成功させれば、父が亡くなってからの明確な手柄になる―――自分の事を、もっと認めさせる事も出来る。そう、頑張らなきゃいけない。自分はまだ
なのに誰もそれを理解してくれない。
苛立ちに親指の爪を軽く噛みながら、全体の進行とミスのチェックを並列して行う。魔術のみで何かを進める時代は終わった―――いや、カルデアが終わらせる。もはや魔術のみ、科学のみではどうしようもないのだ、人類の未来は。相反する魔術と科学、その両方を取り入れて融合させ、その先を目指す事によって成し遂げられるのだ。だから無論、自分も科学、魔術の両面に精通する様に訓練したし、勉強もした。
ノートパソコンを通してデータの閲覧を行い、魔術的なチェックを、そして科学的なチェックを行いつつ、現場へと向ける。そこで働いているカルデアのスタッフを眺め、その中で本当に自分の為に働いてくれている者はどれぐらいだろうか? 他の所から紛れ込んだスパイはどれぐらいだろうか? 味方と敵、その区別が完全に終わってはいないのも心が疲れる話だ。
「―――完全に信用できるのは―――」
ロマニ、レフ、ダヴィンチ達英霊ぐらいなものだろう。それ以外の者は本当に信じていいのかどうか、微妙なラインにある。嫌だ、本当に嫌だ。頑張らなきゃいけないのに、なんでこんなことばかりなのだろうか―――とはいえ、人類の未来を考えると決して投げ出せる事ではない。皆を認めさせないといけない。カルデアの所長は己しか無理だ、と。
「オルガマリー所長! 此方完了しました!」
「5番から8番までもオールクリア!」
「魔術班、儀式の準備を完了しました」
「触媒のセット準備オッケーです!」
「……よし」
呟きながら実験室の中央に完成された魔法陣へと視線を向ける。何もないところから始めた英霊召喚術式を何度も改良を重ね、そしてサーヴァント達の意見を聞きながらここまで完成された、カルデア式英霊召喚術。その触媒は通常の品ではなく、聖晶石と呼ばれる特殊な魔術道具になる。これは魔力が結晶化したものでもあり、
マスター適正が低く、魔力を満足に供給する事が出来なくても、この聖晶石を触媒に召喚されたサーヴァントは非常に安定して現界し続ける事が出来る―――サーヴァントのランニングコストは優秀なものになればなる程、非常に重くなってくる。その為、これは非常に重要な事だった。特に目的達成の為に強いサーヴァントを従えたければ、コスト管理に関しては常に意識しておかないとならない。
だから虎の子の聖晶石を四個、魔法陣にセットしてある。それ以上の触媒はない。
「英霊召喚を開始します!」
「5……4……3………………、スタート!」
カルデアの魔術師の声によって魔法陣の励起が開始する。それと同時に聖晶石が魔法陣に吸収されるように溶け、純粋な魔力へと変換される。魔力の循環が開始し、それが魔法陣に吸い込まれ、英霊の召喚の為の術式と反応する。第一魔道リング形成、
―――その色は虹色に光っている。
「これは―――SSRな予感ですよ所長!! この流れなら俺も引ける!!」
「仕事場にソシャゲを持ち込んでいる馬鹿を誰か連れ出して!! それよりも観測班! しっかりと記録を取るのよ!」
返答と共に第一魔道リングが三つに分離し、三つのリングが高速回転をはじめながら中央に収束する。やがてそれは閃光を放ち、魔力を集めながら召喚術式の役割を果たし、座に記録された英霊をダウンロードする。そうやって英霊は霊核を形成し、それを中心に肉体を魔力で構築して召喚される。
溢れんばかりの閃光を引き裂きながら、その姿は出現した。
「―――超末世救世主―――」
上半身に呪布を巻きつけた、白い肌の持ち主だった。ただその服装は不思議と近代的で、下がダメージジーンズ、上が呪布を巻いた素肌の上から白いパーカー付きのジャケットという格好であり、黒髪と琥珀色の瞳の持ち主だった。
「セイヴァー・カルキ! 見参! 特異点の果てよりいざ
こいつは、
いったい、
なにを、
いってるんだ……?
「あぁ、所長が軽くレイプ目になってる……! ってちょっと待て、そこのサーヴァント―――セイヴァー? その馬はなんだ! 馬は!」
「これ? 未来から持ってきた我が相棒ハヤグリーヴァ君MK-Ⅴ。ⅠからⅣは影の国をクリタ・ユガる時に足場にして壊しちゃった。このMK-Ⅴは
「すげぇ……! どこから突っ込めばいいか解らないぞこいつ……!」
「誰か、スカウターを! スカウターを早く使うんだ! こいつ絶対に【狂化】か【精神汚染】が……ない……だと?」
虚空から出現したメカメカしい馬に所員達が追い掛け回されるのを眺めながら、これは、きっと悪い夢であるに違いないと、そう呟きながらゆっくりと顔を両手で覆い、現実から逃げようとする。そう、これはきっと夢なんだ。きっと目を開けたらあんな色物ではなく、騎士王とか、そういうもっとまともな英霊が仲間になった、きっとそういう風になっているのだ。うん、そう思えばまだがんばれそうだ。そう思いながら顔を持ち上げると、
救世主がメカ白馬の上に所員達と7ケツしてた。若干白馬が苦しそうな表情をしているが、一体どういう技術を使っているのだろうか。いや、違う、そうじゃない。
「あなたは一体何なのよ!! 何をしにきたのよぉ―――!!」
召喚されたサーヴァントへと叫ぶ。救世主・カルキ。それは
「勿論
直後、
「―――お前を笑顔にしに来た。世界が変わっても俺達は友達だ。な?」
その言葉を正しい意味で理解する事は出来なかった―――が、なぜか、懐かしさと同時に、軽い怒りがわき上がり、何か、恥ずかしい様な感覚を隠すために叫んだ。
「―――さっさと自害しろぉ! 馬鹿ぁ!」
笑う救世主へと向かってそう叫んだ。
めでたしめでたし。死んで後悔したことはオルガマリーに聖杯を届けられずに笑顔に出来なかった事、青王を煽れなかった事、スカサハを殺せなかった事なので召喚されて暇な時間があるならそれに全力を費やする抑止力エンジョイ勢。
新人のエミヤくんもこれぐらいのエンジョイ精神を期待しましょう。
インドなのでこの後急に踊って歌いました。
とりあえず、このお話はこれで終了です。次回作やなにやらのお話はこの後のあとがきにて。1日2更新というハイペースの更新でしたが、お付き合いありがとうございました。
それではまたどこかで本能寺。