Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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序章-3

「まず最初に紹介するけど、ここにいるのが今回、貴方を冬木市における聖杯戦争でサポートするメンバーよ」

 

 オルガマリーが呼び戻して連れてきたアニムスフィア家の屋敷の一室、そこには複数の人物たちの姿が見える。オルガマリーを抜いてこの部屋にいるのは自分とスカサハ、白衣の男、そしてローブに全身を隠す存在だった。部屋にいる二人を確認してから視線をオルガマリーへと戻す。

 

「まず白衣はロマニ・アーキマン、此方で用意した医療のスペシャリストよ」

 

「やあ、宜しく。君の事はマリーから聞いているよ。メンタルやフィジカルのチェックは僕の担当だから何かあったら真っ先に連絡してくれ、此方で出来る事はなんでも解決させるよ」

 

 白衣の男が挨拶しながら手を差し伸べてくるので握手を交わす。意外とゴツゴツとした、マメのつぶれて硬くなった手の感触を感じさせるそれは何か、武器を持つようなことをやりこんでいた、と思わせるような手だった。

 

「で、こっちが礼装のメンテナンスや作成、技術関連に関しての担当よ。本名は契約で口に出せないから”ダヴィンチ”って呼べばいいわ」

 

「よろしくダヴィンチ」

 

「あぁ、宜しく頼むよ。おそらく私は一番会う機会が少ないだろうけど、十全に動ける様に作成した礼装とかはなるべくそちらへと送るから」

 

 ダヴィンチの手はロマニとは違ってやわらかい、女の手だった。声質も女のものだったから、おそらくは女なのだろうが―――本当にそうか? と首を傾げる部分があった。ともあれ、ロマニもダヴィンチも会う回数自体はほとんどないと思う。彼らの仕事はバックでサポートする事であり、前に出て戦う此方とは立場が違うのだから。おそらくロマニは現地までついてくるかもしれないが、ダヴィンチはおそらく時計塔に残るだろう。しかし、聖杯戦争中に専門の医者と礼装作成の係がいるのは非常に大きなアドバンテージだ。

 

 なにせ、そういう事に注意する、つぎ込む時間を省略できるからだ。戦いとは時間の問題でもある。迅速に、そして最適に動く必要がある。専門のスタッフがいるならそれだけこちらも最大効率で動く事が出来る。

 

「もっとスタッフもいる訳だけど、直接関わりもしない人を態々呼ぶのも手間だし、セクションの担当をこの二人だと思えばいいわ。今はそれよりもほかの参加者たちの情報を確認しましょう。生き残るために重要なのは情報なんだから」

 

「まぁ、そうだな」

 

 会議室の椅子に座り直しながらオルガマリーが黒板に貼り付ける写真を確認する。黒板に張り付けられる写真はどれも見覚えのない男性のものだが―――おそらくこれが判明しているマスターの写真なのだろうと判断する。オルガマリーはそれを一つ一つ指さしで確認させてゆく。

 

「これが衛宮切嗣、これが言峰綺礼、この無駄な髭が遠坂時臣よ。そしてこの今にも死にそうな不幸そうな顔をしているのが間桐雁夜ね」

 

 そう言ってオルガマリーは完璧に七陣営中、四陣営のマスターの素顔を獲得していた。いや、ケイネスが令呪を保有していた事、そしてこのレフ・ライノール・フラウロスという人物と既に同盟関係にあるのなら、全陣営中六陣営のマスターを把握しているという事になる。正直、バックアップにはそこまで期待してはいなかったが、聖杯戦争の本戦開始前のこの状況でほとんどの陣営のマスターの情報を入手している、という事態には驚愕せざるを得なかった。

 

「情報の入手経路に関してはめんどくさいから質問しない事、いいわね? それじゃあロマニとダヴィンチはもう用が済んだし帰ってもいいわよ」

 

「相変わらず君は酷いねマリー……」

 

 愚痴りつつもロマニは立ち上がり、それじゃあ後でと手を振りながらダヴィンチと一緒に部屋から出て行く。二人が部屋から出たのを確認してからオルガマリーがこちらへと向き直り、そして話を続ける様に口を開く。

 

「まず不幸そうなのと髭は忘れるわ。この二人に関しては戦闘経験そのものが皆無だから、死徒とかの討伐経験がある貴方からすればそこまで怖い敵じゃないわ。問題は衛宮切嗣と言峰綺礼の二人よ。前者は”魔術師殺し”なんて呼ばれるほどまでに有名な魔術師、後者に至っては聖堂教会の元代行者よ。どちらも何年分もの戦闘経験に加え、殺し合いという行動そのものに慣れているわ……戦うとして、一番面倒になるのは間違いなくこの二組よ」

 

 何気にオルガマリーがひどいことを言っているが、確かに戦闘経験のない素人と戦闘経験のある者では脅威度が変わってくる。

 

「二人ともそこそこ有名人だから情報を集めるのもそこまで苦労はしなかったわ。衛宮切嗣は銃器をメインに狙撃や爆破、暗殺を得意としている……もはやテロリストね、そういう領域の人間よ。情報を調べて、潜んで、油断したところを必殺するってタイプね。正直一番戦争とかで相手にしたくないタイプだから排除の優先度としては一番高いわ」

 

「狙撃手か。この手の人間は矜持よりも効率や結果を選ぶものが多い。面倒な輩だ」

 

 しかし、ここでオルガマリーの言葉は終わらない。

 

「しかも最悪な事にアインツベルン陣営のマスターで、向こうは冬木に拠点を保有している。つまりは工房戦みたいに相手の陣地に踏み込んで戦う必要があるわ。此方から倒しに行くのならね。一番最初に排除したいのは事実だけれど―――序盤で倒せるかどうかと言われれば無理ね」

 

 用意された陣地に乗り込んで戦うのは自殺行為だ。だから相手が陣地に隠れている、或いは立てこもっている場合のセオリーは”爆撃”だ。陣地が陣地としての役割を果たせなくなる様に、陣地を徹底して破壊するのがセオリーだ。サーヴァント戦で考えるならば対軍、対城クラスの宝具を叩き込めば良いだろう。幸い、スカサハの宝具はそういう事が可能だ。だけど、

 

「序盤で攻めるとなると魔力の問題が出てくるな」

 

「そうね、陣地を破壊して突破して、それで倒したとしても参加者が多いと疲弊した隙を狙われるわね。となるとここは外に出てきた所を必殺するか、或いは終盤まで残して勝負を挑むしかないわね。……まぁ、それはそれで狙撃の不安がずっと残るから別の意味で恐ろしいんだけど」

 

 衛宮切嗣、厄介な相手だ。

 

「で、もう一つの要注意対象―――言峰綺礼ね。こいつは遠坂時臣とは師弟関係にあったそうよ。まず間違いなく個人的なチャンネルを遠坂家と保有しているわ。場合によっては同盟、半分脱落するまではお互いに不可侵なんて話をしていてもおかしくないわよ。こうなってくるとアインツベルンとは別の意味で面倒な話になってくるわね。こっちにも同盟者としてレフ館長がいるわ―――だけど彼のサーヴァントはキャスター、戦闘となるとやはり一対二の状況になるかもしれないわ。それに言峰綺礼自身が代行者としての戦闘能力が高い、限定的にサーヴァントとも殴り合えることを想定するとして、どうあがいてもこちらが押し込まれるわ」

 

「そうなってくると―――」

 

 そうだな、とスカサハが言葉を拾う。

 

「―――序盤の狙い目はこの間桐雁夜という男になるだろうな」

 

 

                           ◆

 

 

 そこからさらに数時間ほど、事前準備と対策の話が進む。聖杯戦争は戦うのは参加者に限定されるが、バックアップや持ち込みに関しては詳しい盟約が存在しないのだ。その為、有用な礼装や道具は事前になるべく持ち込みたいのが自分の正直な気持ちだ。そういう事もあってオルガマリーには色々と注文するものがあった。その中でも最も多いのが魔宝石だ。魔力が保存されている宝石である魔宝石はもっともコモンな礼装の一つだ。所謂使い捨ての礼装だ。だが魔力回路が少なかったり、魔力そのものを上手く放出できない者、とにかく魔力に対してある程度のハンディキャップを被っている者からすれば非常に使いやすい道具ではある。何せ、自身の魔力の代わりに魔宝石を消耗すれば魔力の代用ができるのだから。

 

 とはいえ、宝石は高価だ。代案として龍脈から魔力を、力を吸い上げるという礼装を用意する事で場所は限られるが、魔力を存分に使って戦うという方法も検討した。

 

 結局ここら辺は魔術師としての自分の非才さが目立つばかりだ。

 

 スカサハの維持、宝具の発動に関しては問題はない。だが基本的に魔術師の多くはサーヴァントを召喚、維持する事を考えて魔術を組んだり、礼装を作成したりしない。無論、そこには当然自分も含まれている。自分が旅路の末に覚えた魔術なんかはそこまで燃費の良いものではない。特に”奥義”に関しては魔力を完全に蒸発させる勢いで消耗する。ここで魔力を消耗してしまうとスカサハの維持や戦闘に支障が出てしまう。

 

 故に、魔力。その確保手段が重要だった。

 

 ともあれ、そんな事もあって議論は割と伸びてしまった。会議室から出る頃には随分と遅い時間になり始めていた。これから鍛錬するにしたって少々遅すぎるかもしれない、何てことも思い始めていた。メシを食ったら素直に寝て、明日の朝から鍛錬するか、と判断し、会議室から離れようとしたところで人の気配を感じ、その方向へと振り返る。

 

「―――おや、もしかして君がランサーのマスターのセノ・マサヒロかな」

 

「まぁ、俺が瀬野正広(セノ マサヒロ)だけど―――」

 

 答えつつ片目で視線をスカサハへと向けようとすれば、既に彼女の姿はそこにはない―――霊体化したらしい。つまり目の前の相手には警戒している、というサインでもある。成程なぁ、と思いつつ改めて前方の男へと視線を向ける。

 

 緑色のスーツ姿に帽子をかぶった、男の姿だった。特徴的なのはその細目だろうか、本当にその視線がこちらへと向けられているのかどうか、掴み辛い人物だった。ただその物腰は柔らかであり、英国らしい紳士的な雰囲気を持っていた。その姿を確認して、そして誰かを理解した。

 

「あぁ、アンタが―――」

 

「―――えぇ、レフ・ライノール・フラウロス、此度の聖杯戦争でキャスターのマスターをするものだよ。今回は同盟者の顔を伺おうと思ってね」

 

 そう言ってレフは近づきながら握手の為に手を伸ばしてくる。故に笑顔のままその手を取ろうとして、動きを止める。一回自分の手に唾を吐いてから両手をこすり合わせ、もう一度手を前に出す。が、それを見たレフは既に手を引っ込めていた。

 

『見た目は良いが―――中身が濁っているぞ、こいつは、気を付けろ。最後まで味方かどうか解らんぞ』

 

 スカサハからのお墨付きまで来た。となると成程、自分の直観も捨てたものではないかもしれない。なんとなくだがあの魔性菩薩と会った時同様、吐き気を覚える、根底にそんなものを感じる―――が、今は同盟相手、そしてアニムスフィア家にいるのだ。いきなりアクションを動かす訳にもいかない。

 

「ま、なんか強い相手がいるっぽいけど、陣地構築に優れたキャスターが一緒だってのは安心できるわ。魔力の回復を促進させれればガンガン宝具をぶっ放して此方が有利に動けるからな」

 

「キャスターは後方支援をメインとするサーヴァント、強力な前衛型のサーヴァントと組めればこの戦いも優位に進めるだろう。と、それでは私は用事がある故……」

 

「あぁ、じゃあな」

 

 横へと体をズラし、レフに道を譲る。そのまま先ほどまで使っていた会議室へと入り込んで行くのを確認し、息を吐いて廊下を歩き始める。後方支援が、同盟者が一気にきな臭くなってきた。いや、冬木で会う前に確認できたのは幸いだ。事前に情報があれば対策できるという事でもある。だからレフ―――つまりはキャスター対策を行う時間も得られるという事だ。

 

「爆撃機をアニムスフィア家名義でレンタルできないかなぁ」

 

『おそらく協会にも教会にも命を狙われるぞ』

 

 まぁ、そうなるよな、と苦笑し、歩き始める。聖杯戦争の開幕は目前へと迫っている。あと少し、あと少しという所までやってきている。おそらくは近日中には準備と拠点の確保の為に日本へ、冬木へと戻る事になるのだろう。

 

「―――……」

 

『思案顔を浮かべてどうした』

 

「いや、な」

 

 日本の事となるとどうしても実家の事を思い出す。意図的に考える事を避けてきたが、さて―――実家の連中は放逐した息子が聖杯戦争に参戦していると聞いたら、いったいどう反応するのだろう。アニムスフィア家を通して煽りメールを入れるのはこれ、結構楽しい事なんじゃないか? と思う。

 

 まぁ、それは暇な時にするとして、

 

「日本へと行く準備を進めますか」

 

 きっと、数年ぶりに食べる日本食は美味しいだろうな、と思いつつ重かった足取りを少しだけ軽くして進んだ。




 【悲報】キアラ存在する

 きっと正義のウルトラ求道僧が五穀粥を片手にアポカリプスガトースペシャルを決めてテラニーからこの宇宙を救ってくれるでしょう。ラグナロォォォク!

 情報があった場合、一番怖いのは切嗣。真っ先に殺すべし。でも防備も凄い。しかしマスターかどうかって人材の出入りを監視していれば直ぐに解りそうなもんだけどなぁ。カルデアの科学力だったらグーグルアースっぽいもので確認してそうだし。

 全陣営の見解:おじさんはカモ

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