Fate/Grand Zero   作:てんぞー

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初日-3

 ノリが大きいのは事実だが―――それでもこの展開は理想の、そして計画された展開であると言っても良い。

 

 そもそもの発端は”遠坂とアインツベルンの磐石さ”から来る話だ。

 

 聖杯戦争が間桐、遠坂、アインツベルンの三家を主導に開催されている為、どうあっても土地と情報と、そして事前準備のアドバンテージは向こう側に存在するのだ。魔術師の工房とは時間があればあるほど強固になって行くもので、聖杯戦争の開始期間、事前準備の期間はこの三家が一番早く反応できる。実際、アニムスフィア家が準備に利用できる期間は三、四か月程だったのに対し、聖杯戦争の御三家に関しては一年ほどの準備期間が存在したらしい。ともあれ、

 

 この時点で三家はアドバンテージを得ている。

 

 それに加えて先に召喚するクラスの確保、触媒と英霊の選別、英霊へのコミュニケーション、時間があればあるほど有利になるのが戦争というオペレーションの常識であり、英霊と共にある時間があったこの三家は此方よりも遥かに有利である事に間違いはない。それに付け加え、特にアインツベルンと遠坂の堅牢さが”頭がおかしい”と評価できるレベルになっている。遠坂、アインツベルン、そして間桐はそれぞれ霊脈の上に拠点を保有しており、それを利用した防備を拠点に築いている。

 

 今回の聖杯戦争、間違いなく間桐は捨てに来ている。それは間桐雁夜という未熟すぎるマスターの参戦を見れば良く分かる。おそらくだが間桐にはこの聖杯戦争はこれで完結しないという根拠があるのかもしれないが、間桐家は今回の戦いでは話にならない。問題なのは遠坂とアインツベルンが結託していることだ。共に御三家の一角であり、聖杯戦争の完結を目指す家。強力なサーヴァントを保有しながら同盟していなくても”終盤までお互いにノータッチ”なんて暗黙の了解があってもおかしくはない。

 

 つまり、アインツベルンか遠坂、そのどちらかを序盤の内に叩いておかないと終盤に入って遠坂とアインツベルン無双が始まる。

 

 勝つのであれば、それは絶対に回避しなくてはならない。ほかの陣営と手を組むことが可能であればともかく、そう都合よく同盟のできる陣営というのはなかなか存在しない。

 

 だから強引にも遠坂とアインツベルンをぶつける。計画の一段目は遠坂への攻撃。これで遠坂の陣地を破壊できるなら目的達成、そのまま逃亡すればいい。陣地を無くせば自然と新しい陣地を求めるし、強制的にアインツベルンを筆頭とした強力な陣営の力をそぐ必要が出てくるから争いが生まれる。これに失敗した場合、遠坂のサーヴァントを牽引する様にアインツベルンまで連れて行き、そこでアインツベルンを交えた乱戦を起こす。

 

 どうせ戦っていればハイエナしてくる奴は出てくる。そしてその予想通り、バーサーカーが引っかかった。そのままアインツベルンの結界を破壊する事が出来たし、

 

 理想の展開に入ってきた。

 

 ならば、やる事は決まっている。

 

 

                           ◆

 

 

 ―――迷う事無く【天を翔けろ、太陽よ(サルンガ)】をアインツベルンの城へと向けて放つ。距離的に2キロ程ありそうだが、神秘に物理法則はあったもんじゃない。ちゃんと照準して放てば命中する。だから迷う事無く英霊達から視線を外して魔力の込められた、太陽弓からの一矢を城へと向かって放った。それが最速で、そして戦いにおける最初の行動だった。

 

「アインツベルゥゥゥン! いいお()だね! 素敵だな! ローン何年で組んだ? 双子館(ウチ)よりもでけーじゃんか! だからリフォームしてやるよ! この更地化専用の匠がなぁ!」

 

「くっ、蛮族め……!」

 

「ヒャッホォ―――!」

 

 放たれた矢が閃光を生みながら一直線に城へと向かって飛翔する。その前に立つ様に入った騎士が透明な得物を振い、矢を叩き落とそうとした瞬間、狂戦士が吠えながら黄金と此方へと背を向け、狂気のままに騎士へと襲い掛かる。矢の迎撃の為に振われる筈だった刃は一瞬で引き戻され、自衛の為に動いた。それは狂戦士から身を守るための動きだ。だがそれは反射的な行動でもあるが故、騎士の表情に浮かんだのは後悔だった。狂戦士からの攻撃を迎撃する為に、騎士はその得物を使った防衛が不可能になったからだ。

 

 残された道はその身自体を盾にすることだが―――それすら、狂戦士の圧倒的な筋力に押し込まれる形で体を動かしてしまった為、不可能に近い。故にそれは妨害される事もなく一瞬で飛翔し、アインツベルンの拠点に衝突しようとしたところで、

 

「―――おいおい、それはちょっとないんじゃないかぁ?」

 

 雷鳴と共に阻まれた。投擲されたおそらくは武器と矢が空中で衝突し、矢が空中で爆発しながら弾けた。無数の焔となって夜を照らしながら散る中で、空には牛によって引かれる古代の戦車が見える。その操縦者は巨大な体躯を持つ赤毛の男であり、彼が邪魔をしたのだと即座に理解する。だがそこで新たな参加者のエントリーを加えた所で、動きは止まらない。

 

 そのまま、素早く矢を連続で放つ。先ほどの熱量は存在しないも、それでも炎上させるには十分なほどの熱量が籠った矢を。それを戦車に乗ったサーヴァントは―――おそらくはライダーは空に浮かぶその戦車と共に一瞬で加速し、矢に追いつくように戦車と牽引する牛で引きつぶし、矢を完全に破壊して鳴り響く雷鳴で爆炎を飲み込んだ。

 

「祭りの状態は悪くはないがお前さん、ちっと打算を見せたな。この祭りの主催者ってなら最後まで馬鹿を演じ続けなきゃ駄目だろう。と、いう訳で余も参戦を果たしに来た! 我が名は征服王イスカンダル、此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!」

 

「ぐえ……本当は俺が先にアレやりたかったけど痛いとこ突かれちゃったしまぁ、名乗り上げ一番槍は譲ろう……」

 

 ちょっとした悔しさを感じつつもライダー―――イスカンダルの堂々とした名乗り上げを聞いた。その背後でイスカンダルの背中を叩く小さい姿が見えるが……それがおそらくマスターなのだろう。宝具である戦車と、そしてサーヴァントであるイスカンダルと共にいるのは少々、やり辛い。対軍宝具クラスを持ち出さないとこれは狙えないと判断し、横へ跳躍する。直後、黄金の放った宝具が大地に突き刺さって爆散する。それを回避する様に縮地で姿の残像を残しながら右へ、左へと瞬間的に移動しながら距離を取る。その合間を縫う様に連続で投擲される赤い魔槍が宝具の射出ペースを崩すように放たれてくる。圧倒的物量の弾幕が超絶技巧によって最小の労力で回避へと繋がって行く。アインツベルンの森の方から、剣戟の音が響き渡り、バーサーカーの咆哮が耳に届く。全員、視線をイスカンダルへと奪われていたが、直後の行動へと直ぐに戻り、

 

「あぁ、待て! こら、待たんか! 人が話をする時は最後まで話を聞けと教わらなかったのか貴様ら。ちなみに余は今から諸君らをスカウトする気満々なのだが……どうだ、うぬらが一体どういうめぐりあわせ、どういう思想を持って聖杯を求めるのかは知らぬが―――」

 

「―――面白い事を語るな、雑種」

 

 そう言って黄金が砲門をイスカンダルへと向けた。黄金の王の表情には明確な殺意が宿っていた。

 

「元より我の物である聖杯を求めるばかりか、この我に軍門に下れと言うのか? 無知蒙昧ここに極まれり、と来たな! 良いぞ雑種。そこの悪童の相手をするのはなかなか愉快だったが……この我を除いて王を名乗る者は生かしておけん。死に物狂いで足掻けよ雑念……!」

 

「おぉ、っとぉ! ここで新たなチャレンジャーに黄金の王様がロックオンッ! ランサーさん、ここでコメントを一言!」

 

「城を落とすなら今の内だな」

 

「じゃあそういう事で!」

 

「ライダァァァァ! お前ぇ! お前ぇぇぇー!」

 

「いやぁ、ちょっとだけ余の計算違いかなぁ、って。でもほら、試さないと確率などないだろ?」

 

「お前ぇぇ―――!!」

 

 夜空で漫才が開始されるが、それに気にすることなく影の国の技と、そして修行を通して体得した技術を持って一瞬で加速し、全ての反応速度を超えて一瞬で移動する。一歩目、二歩目、

 

 ―――そして三歩目。

 

「―――【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】ァァァァァァ!」

 

 アインツベルンの森へと踏み込むのと同時に英雄の聖剣の名が響きながら輝き、極大の閃光が破壊となって森を、大地を、そしてすべてのサーヴァントを薙ぎ払う。それは破壊の本流であり、騎士の英霊―――おそらくはアーサー王が放った閃光だった。ほぼすべてのサーヴァントが一堂に会するこの瞬間、この時を置いて、対軍、対城クラスの宝具を放たない理由は存在しなかった。

 

「令呪を持って強化する―――スカサハ……!」

 

 閃光が放たれるのと同時に肺の底から吐き出すように言葉を叫び、令呪を消費した。

 

「魔境―――深淵の叡智ッ!」

 

 【魔境の智慧】を令呪で強化し、本来の、オリジナルのスカサハへとその性能が一歩だけ、近づく。それによって発生するスキルの選別、発動、技術への転換がノータイムで発生し、時間を置き去りにする様な加速を持ってスカサハが閃光の間合いから抜けた。縮地を利用した加速で同時にこちらも範囲外へと抜け、

 

 そしてバーサーカー、黄金、イスカンダルが真正面からその範囲に入る。その結末を眺める事無く炎剣を生み出し、自分の体内に残存する魔力、魔宝石で捻り出した魔力の全てを炎剣へと宿し、それを【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】を振りぬいた直後のアーサー王へとまっすぐ、突き立てる様に向け、

 

「【梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)】ァ!」

 

 古代インドの奥義、本来は対国クラスではあるが出力と未熟が原因で”対軍程度”でしか放てないそれをアーサー王の側面から迷う事無く叩き込む。炎剣は一瞬で変化する様に放たれ、巨大なビームの様な閃光となって大地を飲み込みながら一直線に放たれて行く。それはアーサー王らしき騎士に命中する直前に、振り向きざまに、

 

「―――二撃……!」

 

 二発目の【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】が【梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)】と正面から衝突する。英雄の時代の神秘、古代戦士達の奥義。それが正面から衝突し―――リソースで敗北して此方が食われる。地を覆った破壊の炎は希望を象徴する光によって砕かれ、飲み込まれて行く。その進行方向には自分の姿がある。

 

 が、

 

「終わったぞ」

 

 直撃する前にスカサハが音もなく横に立ち、体を掴み、再び音も衝撃も殺して跳躍し、一撃目よりも魔力の損耗のせいで破壊が小さくなった【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】から逃れた。跳躍、否、”超”跳躍とも呼べる大跳躍をスカサハが見せ、【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】の光を飛び越える様にしながら、此方を眼下が望める様に抱えていてくれた。

 

「それでは皆さん、夜更かしは美容の天敵だから早めに寝る事を心がけよう! おやすみなさい! 俺は帰る!」

 

 宣言し、戦場から逃れる様にアインツベルンの森からほど近いビルの上へと着地した直後、スカサハが虚空を握りつぶす様に拳を作った。

 

「およそ私に殺せぬものなどない―――無論、土地も」

 

 刻まれた原初のルーンの効果が発動する。神話の魔術は一瞬で大地を抉り、そして近代の魔術を食い散らしながらその毒を霊脈へと突き刺し、一瞬で殺した。その結果を眺めずに背中を戦場に向け、追撃が来る前にスカサハと共に全力で戦場から離脱する為に振り替える事もなく、走り、跳躍を始める。

 

 怒声と怒りの気配を感じるが、気にするまでもない。”大戦果”だ。その結果を後で使い魔を放ったりして調査するとして、

 

「帰ったら祝杯だ!」

 

「戦い、飲み、抱き、そして再び戦場へ。うむ、大分らしくなってきたな。懐かしい」

 

 笑い声を響かせながら確かな成果に笑みを零す。常に全力を出し続ける事の出来る舞台、全力の己が要求され続ける舞台―――聖杯戦争。それはなんて楽しいのだろうか。だがこれで自分の危険度は全ての陣営に理解された。同盟を改めて組んでくる所もあるだろうが、

 

 こちらもこちらで、見極めは終わった。

 

 ―――次の目標は既に決まっていた。

 

 だがその前に、魔力の使い過ぎで既に目の前が真っ暗だった。今夜、酒を飲むだけの余裕が残っているかどうか、それが今はどうしようもなく不安だった。




Q.なにがあったんだ?

A.乱戦利用して霊地に原初のルーンで腹パン

 プロのテロリストはチャンスを逃さない。あと基本的にてんぞーは宝具ガンガン使ってく派。明確な弱点のあるサーヴァントならともかく、明確な弱点がないサーヴァントは正直真名バレてもどーしようもないと思う。

 令呪使用1:魔境の智慧強化。おそらく永続。たぶん永続。原作でやってるの見たことないから詳しい事は知らぬ。サーヴァントの自害とか裏切りとか一切考えない蛮族にとって令呪はただのパワーアップアイテムなだけである。

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