東方希望録   作:紡ぎ手@異人

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これ書いてるの11月17日じゃないんで情報にズレがあると思います。ご了承ください。



11月17日。俺の誕生日。
今まで生きてきたことの確認と、関わってきた人への感謝、そして、これからも生きていくことを示す日。
そして、外の世界で、俺を含めた多くの人が"壊れた,,日でもある。
東方希望録シーズン2、始まります。


いつかの11月17日

これはいつかの俺の誕生日のお話。

 

 

 

 

 

「ふぁ………」

自分一人だけのベッドでいつも通り目を覚まし、いつものようにソシャゲのログボをもらい、目を軽く擦りつつフラン達のところへ向かう。

窓の少ない紅魔館の廊下は薄暗く、歩いていて少しばかり怖い。

「あ、おはよ、白狼。」

後ろからかけられる快活な声。外の世界で、何度も聞いた明るい声。

「おあよ…………狂華。」

「うん。ちゃんと起きてるね。」

赤い瞳、そして、太陽の黒点のように黒い髪。俺と能力を巡り争った少女、朝日狂華がそこにいた。

「ちゃんとってなんだよ。」

「だって、時々白狼寝ぼけてる時あるんだもん。」

それを言われると痛い。

「ま、それも白狼らしいと言えばらしいんだけどね。」

「なんだよそれ。」

もう暫く繰り広げていなかったこういう会話。今更になって気づく。俺はこういう日常を望んでいたのだと。

特別なことなんていらない。ただ誰も傷つくことなく、傷つけることもなく、笑って、幸せを享受出来るような、そんな日常を。

「そこで何をしているのですか、夜月白狼、朝日狂華。」

すうっと入ってくる平坦で、かつ温かさを秘めた声。

「いつもの挨拶をしてただけだよ。灰人。」

浮かべるは微笑、何の変哲もない目。そして、灰をかぶったような灰色をした髪。最後の親友、昼地灰人。

「全く…ここで話すのもいいですが、朝食があるでしょう?ここで立ち話をするより、食堂でした方がいいと思いますがね?」

「あ、やべ、そうだった…」

言いつつ、笑う。取り戻したのだ。三人の世界を。勿論、あの頃のままではない。俺はいろんな世界を見てきたから価値観や考え方が変わったと思うし、狂華達も、俺の事だけを気にすることはなくなった。

すごくいい傾向だと思う。

「あら、親友三人揃って来たわね。」

既に席につき、こちらを見て笑うのはこの紅魔館の主、レミリア・スカーレット。

「ま、親友だしな。」

「それで恋人を放っておくのかしら?」

「んなつもりはねぇ。だけどほら、俺はまだ17だし…元々同衾ってのがおかしかったんだよ。まだ早かったんだ。」

「そういって、ホントは照れてただけでしょ?フランちゃん大分残念がってたよ?」

と、隣で狂華が俺の脇腹を肘でつつきつつニヤリと笑う。相変わらず小悪魔的な奴である。

「……確かに、俺が恥ずいってのもある。けど。まだ結婚もしてねぇのに…」

「あら、結婚してたらいいの?」

「結婚!?良いですねぇー!」

結婚、というワードに反応して本から顔を上げるパチュリーとそばに控えていた小悪魔のこあ。

「まぁ、それならば問題解決ですね。」

「あ?なんで。」

突然、灰人が隣で笑う。

「貴方はことある事に日本の法律を持ち出します。つまり、結婚には18歳から…ということですね?」

「あ?ま、まぁそうだけど…?」

「夜月白狼、貴方は今日がいつか知っていますか?」

「え?そりゃあ…11月17日だろ?」

と、軽く返す俺に、灰人はため息混じりに、

「貴方の誕生日ですよ。忘れたのですか?」

「……………………は?」

そう。この時、俺は完全に忘れていた。今日、11月17日が俺の誕生日である事を。

「………」

「完全に忘れていたようですね…」

咲夜は苦笑する。

「まぁまぁ。私達妖怪も正直自分の誕生日曖昧ですし…」

美鈴がフォローしようとするも、正直できてない。というかちゃっかり俺を人間卒業枠に入れているあたりいつもどう思っているかが分かる。

「まぁでもとにかくこれで結婚できるわけだな?」

レミリアが問う。

「ええ。日本の法律上は。後は…本人達の気持ち次第です。」

灰人がそう言った、その瞬間。

扉が開く音がした。

「しろー………」

いつもとは違う低い声。その声に、俺の中の警鐘は最大音量で鳴り響く。

「お誕生日おめでとう。今日で何歳?」

「じ、じゅう、はち……」

ガシィッ!と肩を掴まれる。背後からの恐怖で元々動けないのに、吸血鬼の力で掴まれてはもう逃げ場は無い。

「ねぇ白狼、もういいよね?ずっとお預け食らってたんだもん。ちゃんと我慢できたんだから、御褒美くれるよね?」

耳元で囁かれる甘い声。こういう時は女声の武器を最大限利用してくるのだ。

「え、えと、御褒美とは…」

何を、までは言わせてもらえなかった。

フランは周りも気にせず、グイッと俺の体をフランに向けさせ、口を塞いできたのだ。

「っ!?むー!?」

「ん…ちゅ……は…」

「わお大胆。」

「咲夜、何も見えないのだが?」

「お嬢様には見せられません。」

恐怖と快楽と嬉しさと。色んなもので脳内をかき混ぜられた俺はどうすることも出来ず、口の中を蹂躙される。

しばらくして、満足したのかフランは口を離す。俺とフランのあいだには唾液で出来た橋が現れ、消えた。

フランの顔は少しばかり朱に滲み、口元は先ほどよりも増した笑み。

対して俺は…多分、かなり赤くなっていることだろう。まだ目も回っている。

「白狼。誕生日だよ。」

「…あ、ああ。そうだな…」

「今日は、白狼の為の日。紅魔館の皆も、白狼の親友二人も、皆白狼の為に動いてくれるの。」

「そ、そうなのか…?」

フランが俺の腕を掴んだまま力説する。少しばかり俺よりも体温の高い手が、俺の腕を暖かく包む。

「そう。だからね、咲夜は今夜、私達の部屋の近くに誰も来ないようにしてくれるし、灰人や狂華も今日から別の部屋に寝泊まりしてくれるし、パチュリーも、直上の部屋からの音も気にしないって言ってくれるの。」

………おかしい。俺の知っている誕生日とは、こうも俺たちに都合のいいようになる日だっただろうか。…いや、俺というか、フランの都合、と言った方が正しいが。

「そうなのか……や、まぁとりあえず飯を…」

「だめ!ちゃんと言ってもらうの!」

ぎゅう、とフランの手に力が入る。

「夜月白狼。もうチェックメイトですよ?」

「白狼、これ以上は失礼だよ。もう、自分に正直になっていいんじゃない?フランちゃんは、白狼をちゃんと見てくれてる。白狼の想像してることは、絶対に起きないから。」

二人が、背を押してくれる。

「…俺は…」

 

 

 

 

 

 

俺は、あの世界で多くの傷を負った。生まれつきの外見や、性格で。偶然によって世界が揺れた。親友を一度失った。ここに来て、多くの人妖と出会い、俺を助け、成長させてくれた。別の世界を巡り、俺の能力を個性のひとつとして捉え、「都合のいいもの」として扱わない人達と出会って、俺があの日やったことが間違いでないことを教えてくれた。そして、今。俺という人間を一人の男性として見てくれる少女がいる。少しだけ子供っぽくて、無邪気で、溌剌としていて─────とても綺麗な少女が。

そんな少女にここまでストレートに愛情を注がれて、分からないはずがなかった。そして、好きにならないはずも無かった。もう、答えは出ていた。ただ、俺が怖がって、恐れて、遠ざけていただけ。胸中の氷も、頭の中の靄も、もうどこにもない。あとは、この想いを伝えるだけ。

「…俺と、ずっと、きつい時も、悲しい時も、居てくれるか?」

嗚呼。ここで、居てくれ、とか、居ろ。と強気に出れないのはもう性分なのだろう。けれど。

「…うん!楽しい時も、嬉しい時も。どんな時だって、離れてあげないんだから!」

彼女は、受け入れてくれる。俺が悲しい時はそばに来て慰めてくれる。楽しい時は一緒に楽しむ。喜ばしいことは一緒になって楽しむ。挫けそうな時は、励ましてくれる。どんな時だって離れずに、俺を支えてくれる。

俺はこの子に、何を返せるだろう。どうしたらいいのだろう。何を以てこの愛に報いればいいのだろう。

「…もう。こういう時くらい、白狼から抱きしめたりキスしたりしてよ。」

「あ、わ、悪い…どうしたらいいか、分からないから…」

「ふふっ…しょうがないなぁ、白狼は。じゃあ、教えてあげる。」

フランはいつも通りの笑顔で、

「白狼のしたいようにするの!好きな時に抱きしめていい。好きな時にキスしたり、手を握ったり、頭を撫でたり。好きなタイミングで、ここだと思ったタイミングで。私に好きって気持ちを表して欲しいの。それでいいの。」

「…」

「だからほら、やってみたいこと。今したいこと。」

フランが両手を広げ、待つ。

俺は─────────

 

 

 

 

──────

────

───

 

 

夜。吸血鬼にとって、最も活動する時間帯。

紅魔館の地下、図書館に、昼地灰人はいた。

「…さて、上ではお楽しみ中なのでしょうね…」

「そうね。妹様の積極性はすごいもの。というか、白狼が消極的にすぎるのよ。」

「言えていますね。しかし見た目通り、夜月白狼は一途でロマンチストですよ。」

「まぁ、彼に浮気は出来ないでしょうね。嘘下手だし。」

「ですねぇ…」

灰人はいつだったか、白狼の"創った,,ライトノベルを本棚から取り出し、ページをめくる。しばらくすると、天井から少しばかり軋む音がした。

「始まったようですね…」

「……」

パチュリーは無言で指を鳴らす。すると音がピタリと止んだ。

「…魔法ですか?」

「ええ。あの音を聞きながら読書なんて、出来ないもの。」

少しばかり顔を赤くして言うあたり、パチュリーも乙女なのだなぁ。と、灰人は思った。

 

 

 

 

「お誕生日、おめでとうございます。夜月白狼。貴方のこれからの道に、人としての生に、多くの幸せがあることを。私と朝日狂華は、願っていますよ。」




色々とやばいお話かも。
これはいつの話かは、まぁ色々解釈できます。まぁ少なくともシーズン2終了後なのは確実ですね。灰人がいますし。

白狼の誕生日は紡ぎ手こと僕の誕生日でもあります。まぁどうでもいいですね。


ちなみに、夜の出来事では、
白狼「あの、フラン。俺初めてだから…」
フラン「私もなんだけど?」
白狼「や、その…優しくしてね?背骨とか。」
フラン「…普通セリフ逆じゃない?」
なんてやり取りもあったとか無かったとか。

あ、シーズン2より後ももちろん書きますよ!だから感想ください!モチベになります!はい!書く時間があれば絶対に書くんで!

感想、評価、お待ちしてます!ではでは!

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