『言霊使いと幻想郷』   作:零戦

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第二話 大江山の鬼 後編

 

 

 

 

 

 

「ハハハッ!! どうしたどうした!? 手が休んでいるぞ!!」

「はぁッ!! はぁッ!! っとによぉッ!!」

 

 将樹は女の鬼——星熊童子からの攻撃を何とか避けていた……いや、一発は食らっていた。一瞬の隙を突かれて脇腹に星熊童子の右脚を喰らう寸前に左腕で防御したが予想以上に蹴りは重く、この時点で左肘付近の骨はヒビが入った。だがそれでも将樹は倒れる寸前に受け身をしてダメージの回避を行ってはいたが埒が明かないので、反撃として言霊を出す事にした。

 

「ショートカット『スタングレネード』」

「ッ」

 

 召喚したのは大音量や閃光を発する非致死性兵器である閃光手榴弾『M84スタングレネード』であった。将樹は耳を塞ぎ目を閉じる。いきなりの事に星熊童子は目を見開くがその瞬間、スタングレネードはその効果を発動した。

 

「うわッ!?」

「な、何だこの音は!?」

「蓮子、耳を塞いで!!」

「うひょぉッ!?」

 

 閃光と180デシベル以上の大音量が響き渡り、全く備えていなかった鬼達はのたうち回る。それは星熊童子も例外ではなく、のたうち回る星熊童子を見て将樹はチャンスと捉えた。

 

「『縄』」

「なッ!?」

 

 将樹は縄を召喚しそのまま星熊童子の身体を縛り上げるのである。但し、縛り方は亀甲縛りである。

 

「おぉ、姉御が助平な姿に!?」

「こりゃ有り難い。坊主、ありがとうな!!」

「もう俺、いつでも死んでも良いや……」

「お前ら少しは助けるという気持ちは無いのか!!」

「ちょっと将樹君……?」

「アハハハ……」

 

 将樹を拝む鬼達に星熊童子は怒るが鬼達は平然としていた。なお、蓮子は非難しメリーは苦笑している。

 

「いや、それくらいの縄なら姉御でも大丈夫だろ」

「んだんだ」

「力強いんだしな」

「んだんだ」

「強すぎて男も出来ないからな」

「んだんだ」

「誰だ最後にそれを言った奴ァァァッ!! フンッ!!」

 

 最後に言った言葉に反応しつつも星熊童子は縄を力尽くでブチブチと引き裂いた。

 

「これくらい——」

 

 そう言って将樹に視線を向けた瞬間、目の前に将樹の右拳が迫っていた。星熊童子は避けようとするが将樹の右拳が一瞬速かった。将樹の右拳は星熊童子の左頬に叩き込まれ崩れそうになるが星熊童子は耐え、左手に持つ盃からも酒は落ちなかった。

 

「っとと……へぇ、思ってたよりも力はあるんだな」

「……ソイツはどうも……(この鬼……思っていた以上よりも強いな……)」

「ほら、攻撃してみな。盃から酒が溢れたらアンタの勝ちだよ」

「……ほざいたなッ」

 

 将樹は痛む身体に鞭を入れつつ言霊を召喚する。

 

「『凍』」

 

 星熊童子はあっという間に氷漬けにされるがピシピシと身体中の氷にヒビが入りバキンッと氷が割れ星熊童子はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「しゃらくせェッ!!」

「マジかよッ!?」

 

 星熊童子はそのまま接近し右脚を振り回して将樹の左脇腹に叩きつける。

 

「グゥッ!?(ヤベ、肋骨も……)」

 

 将樹はゴリュッ!! と骨が折れた音を聞いた。恐らくは肋骨の一本か二本が折れたのだろう。息は一瞬出来なかったがそれでも痛みを堪えて息を吸い込む。

 

「はぁッ!! はぁッ!!」

「お、左側の肋骨は全て折った気でいたけど……力はあるんだな」

「……何の事だ……?」

「ハハハ、気付いてないのかい? まぁ気付かなければ此処で死んじまいな!!」

『将樹君!?』

 

 星熊童子は振りかぶって渾身の右ストレートを将樹の顔に叩き込もうとし、それを見た蓮子とメリーが叫ぶ。だが、将樹は痛みに耐えながらも言霊を発した。

 

「『圧』」

「ッ!?」

 

 星熊童子は重力に負け、地面に倒れる。その拍子に盃も手放してしまい酒は地面に溢れたのである。

 

「なッ……が……ッ!?」

「……卑怯かも……はぁッ!! はぁッ!! ……しれないが……はぁッ、はぁッ……俺の勝ち……だな……」

「将樹君!!」

 

 将樹はそう言って膝から地面に落ちた。それを見て蓮子とメリーが駆け寄り将樹を支える。星熊童子が負けた事に鬼達はざわめいていた。

 

「姉御が負けたぞ!?」

「すげぇぞあの人間……」

「姉御でも負ける時はあるんだな」

「伊吹の姉御とも引き分けになるのにな……」

「茨木の姉御は負けるけどな」

「おい、やめてやれよ」

 

 そんな事を話す鬼達だが、不意に倒れていた星熊童子はゆっくりと起き上がる。

 

「てめぇ………」

「あっ……あっ……」

「…………ッ……」

 

 星熊童子の視線に蓮子は驚き、メリーは恐怖に耐えながらも傷だらけの将樹を抱き締める。だが星熊童子は落ちていた盃を拾い、盃に酒を入れて飲み干す。

 

「んぐっ……んぐっ……プハァッ。ハハハ、いやぁ負けた負けた……まさか人間にまた負けるなんてな」

「またって事は……まさか源頼光と頼光四天王の……」

「あぁ……いたね、そんなのも。まぁ、酒貰って飲んでたらだからね、卑怯かもね。けどその点……」

 

 そう言って星熊童子は痛みに堪える将樹に視線を向けて笑みを浮かべる。

 

「コイツはちゃんと私に立ち向かい、能力で私は倒した。アンタは卑怯じゃない、私に勝ったんだ。誇りに思いな」

「あぁ……誇りだな……」

「取り敢えずは傷を治すか。おい、あの酒を持って来い」

「へ、へい。ですが良いのですか姉御? あの酒は……」

「良いんだ。萃香も分かってくれるさ、早く取ってきな」

「へ、へい」

 

 星熊童子の言葉に鬼は頷き、何かの酒を取りに行くのである。

 

「さて……野郎ども、取り敢えずは飲むぞ。私に勝った人間を祝してな!!」

『オオオォォォォォ!!』

「わ、凄い声……」

「遠吠えみたいね……」

 

 喜ぶ鬼達に驚く蓮子とメリーである。その後、鬼達は酒と肴を持参して宴会が開催されるのである。

 

「取り敢えずはこの酒を飲みな。私ら鬼には毒だけどアンタら人間には力が増す薬となるな」

「それって……まさか神便鬼毒酒?」

「お、よく知ってるな小娘」

 

 蓮子の言葉に星熊童子は笑みを浮かべるが蓮子は酒呑童子を退治する事になる毒酒があった事に驚愕するのである。それを他所に将樹は差し出された盃に入った酒を飲み干す。

 

「グッ……思ってたより度数が高い……」

「直ぐにとは言わないが宴会が終わる頃には骨も治ってるだろ。破れた服は知らないけどな」

「デスヨネー」

 

 そう言いつつ将樹は右手で新しく酒が入った盃を星熊童子から受け取る。

 

「ありがとう……えっと……星熊童子で良いのか?」

「それでも良いけど……勇儀、勇儀で構わないさ。私を負かしたんだ。アンタには私の名前を言う資格はある」

 

 そう言って酒を飲む星熊童子こと星熊勇儀はニヒッと笑うが、若干頬はうっすらと赤みを増していたが将樹は太陽の光で見えていなかったりする。

 それはさておき、何故か宴会になる中で蓮子とメリーは星熊童子こと星熊勇儀に此処に来てしまった理由を話していた。

 

「ふーん、境界の境目ねぇ……確かに何度か見た事はあるね」

「そうなんですか?」

「あぁ。アンタらのように時を超えてきたとかじゃない。所謂結界のようなのはあるけどね」

「そうなんですか?」

「あぁ、この山にも幾つかはある。もしかしたらそのうちの一つは……可能性はあるかもな」

「ならメリーッ」

「えぇ、希望はあるというわけね」

 

 そして宴会も終わりになる頃、漸く将樹は痛みも引いて動けるようになっていた。

 

「ガハハハ、姉御を倒すとはな。あんちゃんも中々やるじゃないか」

「ハハハ、それはどうも」

「おぅ、仲間が氷漬けで死んだ時はどうしたものかと思ったが……やっぱ人間でも喧嘩は拳でやらないとな」

「……氷漬けで死んだ?」

「あぁ、あんちゃんの能力だろ?」

(……人では無いとは言え……)

 

 鬼の言葉に将樹は最後まで言えなかった。それを言ってしまえば、思ってしまえば蓮子とメリーから拒絶されるかもしれないと過ったのだ。

 

「どうしたんだあんちゃん?」

「ん? あぁいや。やらない事をするのは慣れないものだと思ってな」

「俺の仲間をヤッた事にか?」

「……だな……」

「……あんちゃんの事は詳しくは知らんが、今の世は喰うか喰われるかの世だ。あんちゃんは勝った、アイツらは力が弱かったから負けた。それにあんちゃんが勝ったのは守るべき者がいるからだろ?」

「……そうだな。何だ、アンタも中々言うじゃないか」

「これでも京の都にはよく行って人間を観察し学んでいるんだ。人間をどう倒すかをな」

 

 鬼は将樹の言葉にニヤリと笑い酒を飲む。

 

「成る程。宿敵者みたいなもんだな」

「ガハハハ、違いねぇや」

 

 そして鬼達が泥酔し、寝入る頃になった時、メリーはふと森を見ると境界の境目を見つけた。

 

「蓮子、将樹君。彼処に境目がッ」

「え、ほんとメリー?」

「えぇ、行きと同じの境目だわ。この境目なら……」

「あれま、意外と早いお別れだな」

 

 まだ飲んでいた勇儀はそう言って立ち上がり三人と向き合う。

 

「また来れたら来な。そん時は決着をつけよう」

「将樹で良いよ。また会うまで鍛えておくよ。その時も勝つ」

「ハハハ、今度は負けないからな」

 

 そして勇儀に見送られて三人は境目に飛び込むのである。三人が消えた後、勇儀は再び飲み始めるのである。

 

「これで……良かったのかい……紫?」

「えぇ……感謝しますわ」

 

 勇儀の後方から境目が開き、中からスキマ妖怪で名を成している八雲紫が姿を現す。

 

「全く……急に来たと思えば、境目の修復するまで遊んでほしいたぁね」

「……ちょっととした事情がありましたのよ」

 

 扇子を拡げて口元を隠す紫に胡散臭そうに見つめる勇儀である。だが勇儀は興味を無くしたのか再び酒盛りを始めるのである。

 

「まぁ……今日の私は気分が良いからな。序に飲むかい?」

「あら、付き合いますわ(それにしても……秘封倶楽部が三人とは……どうなっているの……?)」

 

 酒盛りに付き合う紫は内面、そう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか帰って来れたー」

 

 境目から抜けるとそこは飛び込む前の鬼獄稲荷神社に続く道路であった。

 

「蓮子、時間は?」

「……20時46分、あれから4時間くらいしか経ってないわ」

「……取り敢えずは車に乗って帰るか」

「でも将樹君、飲んでいなかったかしら……?」

『あっ』

 

 取り敢えず、その日は次の日まで車で仮眠をして帰るのであった。

 

 

 

 

 

 




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