奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
個人的にシャルロットは人間らしいと思います。
「ねえ、一夏?」
「ん?何だシャルル」
「川神先生の訓練てそんなに大変なの?」
シャルルが来てから翌日の放課後、那々姉さんに
『デュノア君が自主的に私の訓練に参加しないかするかどうかは彼自身に考えてもらいます。
それに今日は鈴さんとセシリアさんのことを重点的に鍛えますので男の子同士で交流を深めなさい』
と言われて交流を兼ねて俺たちは自主的に訓練をして今はその帰りである。
いつも那々姉さんの訓練を受けていて最近麻痺して来ているが、那々姉さんの訓練はスパルタなんてレベルじゃないが的確だ。
厳しさの中に理論があると俺でさえ思う。
ただ今回受けたシャルルのアドバイスを受けてみてわかったことだけどシャルルの教え方もかなり的確だった。
少なくとも、箒や鈴、セシリアの教え方よりは身になる教え方だった。
ここで雪風を挙げなかったのは理由がある。
雪風に関しては教え方は上手いが少し無茶ぶりが半端ないので心臓に悪い。
「ああ……仮に指導を受けるなら覚悟しておいた方がいいさ……
少なくとも、あの人の前じゃ一回は校庭に肥料をばら撒くことになるぞ?」
「……肥料?」
「……追求しないことをおすすめするぞ?」
貴公子然としたシャルルに下品な暗喩の意味を教えるのは止めようと思った。
下手したらシャルルのファンに殺されかねない。
だが、ここで前以て話した方が逆にシャルルのためなのかもしれないが。
「へえ~……でも、そう考えると山田先生てすごいなぁ……」
「……?どうしてだ?」
俺はシャルルの話の持って行き方に少し違和感を覚えてシャルルに理由を訊ねた。
確かに山田先生はすごかった。
那々姉さんに一年間鍛えられた鈴と最近雪風に触発されて実力が伸びているセシリアを二人がいがみ合っていたとは言え完勝したのだ。
でも、どうして那々姉さんの話題から山田先生の話題に移ったのかは俺にはわからなかった。
「だって、二人の仲が悪いと言っても
しかも「
本当にすごいよ」
「あ~……」
シャルルの言わんとしていることがわかった。
成程、確かに鈴とセシリアは学年でもトップクラスの実力で那々姉さんの弟子で「第三世代」を専用機としている。
それを山田先生は「第二世代」の訓練機で圧倒しているんだから驚かない訳がない。
しかも、那々姉さんの指導を受けている生徒二人を負かしているのだからシャルルがそう思うのは無理はない。
うん。だけど、シャルルの発言には大きな間違いがある。
「いや、シャルル……鈴とセシリアは確かに俺より実力は圧倒的に上だけど、「学年最強」はあの二人じゃないぞ?」
「……え?」
それは二人を「学年最強」と思っていることだ。
確かに二人は学年の中でもかなりの実力者だ。
しかも専用機持ちで「代表候補生」と言う時点でそう思うの仕方がない。
だけど、あの二人を倒している存在がこの学年には一人いる。
昨日、転校してきたばかりのシャルルはそのことを知らないのだろうが。
「この学年で一番強いのは
「……
俺は確信を持ってその名を口に出した。
今の所、「専用機持ち」三人(俺は初心者だけど)に勝利し、その中でその三人を完膚無きまでに叩きのめしている彼女は紛れもなく「学年最強」だろう。
シャルルは初めてその名を知ったのか理解できていないようだった。
「ほら陽知のことだよ」
「『ヤチ』……
あ、ボーデヴィッヒさんを止めたあの娘のこと?」
「そうそう。あの茶髪の女子」
名字で教えたらあの衝撃的な出来事を思い出してシャルルも顔と名前が一致したらしい。
「そうなんだ……そう言えば、あの娘も班のリーダーをやっていたね。
あの娘も「専用機持ち」なんだ」
シャルルにとっては意外な事実だったのか驚きながら雪風のことを訊ねて来た。
「ああ。「初霜」って名前の機体なんだけど確か、「打鉄」のカスタム機だったはずだ」
「え!?「第二世代」のカスタム機で「第三世代」を二人倒してるの!?」
「ああ。だから「学年最強」は間違いなく雪風だ」
実際、俺は「第二世代」と「第三世代」の違いに関しては詳しくないし、「第三世代」の何がすごいのかもイマイチ理解できない。
ただ俺よりも実力が上の鈴とセシリアを負かしている時点で雪風が俺たちの上を行っていることだけは分かる。
何よりもあの千冬姉と那々姉さんが俺やセシリア、鈴と違ってそこまで何も言わない時点で明らかに別格だ。
俺が「最強」だと思っている二人が雪風を認めているのだ。
嫌でも理解できてしまう。
「そんなすごい娘がいるなんて……
あれ?それじゃあ、どうして川神先生はヤチさんを選ばなかったんだろう?」
意外な事実に衝撃を受けたシャルルであったが一つ疑問が湧いたらしい。
確かにシャルルの言う通り、あの状況でなぜ雪風でなく鈴とセシリアを那々姉さんは選んだのだろうか。
強さで考えると雪風が順当だろう。
「……いや、多分そうなったら最早、模擬戦じゃなくなるからじゃないのか?」
「……え?」
俺は何となくだがその理由が理解できてしまった。
シャルルは俺の言っていることが理解できないようであるがそれは仕方がない。
なぜならシャルルは雪風の戦いを見ていないからだ。
雪風の戦いは常にガチだ。
「初霜」の見た目と武装の性質もあるが、雪風の苛烈な戦闘スタイルも相俟って彼女の試合は最早、鉄火場だ。
比喩で「戦場」と言う言葉が使われることが多いが、彼女の戦闘はそれが現実化したと言っても同然だ。
何よりも大変なのは雪風は常に本気だ。
絶対に手を抜かない。
その雪風がかなりの実力者である山田先生と戦うことになったそれこそ予想不可能なことになるだろう。
……それに
先月の無人機に対する雪風の目。
あの時の雪風は鈴との戦いの時よりも格段に速さもキレも射撃能力も上だった。
今までの戦いがまるでお遊びのように見える程だった。
もしかすると、雪風は無意識のうちに相手によって出す実力を制限しているのかもしれない。
だとすると、山田先生相手にはどうなっていたのか本当にわからない。
「まあ、シャルル……いつか、お前にも分かる時が来るさ」
「え?それ、どう言う意味―――?」
俺がシャルルに口で語るよりも実際に見るか、体験する方が早いと言うことを告げようとした時だった。
「あ、一夏さん」
件の人物の声が聞こえて来た。
その声がした方に俺たちは顔を向けた。
「雪風じゃないか?
どうしたんだ?」
そこには紛れもなく俺たちが噂していた「学年最強」がいた。
彼女は普段通り、いや、ここ一か月程どこか穏やかになっている表情をしていた。
本当にこの少女があの戦場染みた空気を流すのが不思議で仕方がない。
「川神先生があなたのことを呼んでましたよ?」
「……え?那々姉さんが?」
雪風の言葉を一体なんだろうかと思ってしまった。
「さあ?多分、明日の訓練の内容じゃないでしょうか?」
「あ~、確かにそれはありそうだな。
シャルル。悪い、先に戻っていてくれないか?」
恐らく、那々姉さんのことだから直ぐに終わると思うが待たせるのはどうかと思ってシャルルには先に帰ってもらおうと思った。
「あ、うん。わかったよ一夏」
「ああ、じゃあな」
「では、お二人とも。私も失礼します」
そう言って俺たち三人は別れた。
「あれが……ヤチさんかぁ……」
僕は一夏に教えられた本当の学年最強を見て少し呆けてしまった。
見た所、彼女はとても穏やかな人らしい。
少なくとも、篠ノ之さんやオルコットさん、凰さんよりも。
ボーデヴィッヒさんにあんな啖呵を切った人と同一人物とは思えないや……
あの時はボーデヴィッヒさんの乱暴さにも驚きを隠せなかったが、ヤチさんの毒舌と物怖じしない態度にも驚いた。
そして、そんな彼女が「第二世代」で「第三世代」を駆使する「代表候補生」を何人も倒しているのはある意味納得はできたけれども先ほど目にしたばかりの彼女の穏やか姿には大きなギャップを感じた。
「……あれ?」
そんな彼女の実力と態度に衝撃を受けているとヤチさんが去っていた場所に何か落ちていた。
「これって……」
落ちていたのはどこか機械的な意匠が見られるブローチの付いた黄色いリボンだった。
「「IS」だよね……?」
「専用機持ち」だからこそ、これが収納状態の「IS」だと理解できた。
見た所、これは一夏の物じゃない。
となると、これは
「……ヤチさんのかな?」
消去法的に考えてヤチさんの物だ。
どうやら、彼女は自分の「IS」を落としてしまったらしい。
「……「第三世代」を倒した「第二世代」のカスタム機……」
ヤチさんの「専用機」は僕の「専用機」と同じコンセプトのはずだ。
デュノア社の「ラファール」と並ぶ名機とされる第二世代量産機「打鉄」のカスタム機。
僕は「第三世代」を圧倒したこの機体のポテンシャルに誘惑に駆られてしまった。
「………………」
僕はそれをポケットにしまうと足早に自室へと向かった。
今から僕がやろうとしていることはとても悪いことだとは自覚している。
だけど、少しでも結果を示さないと明日の身が知れない。
一夏の「白式」だけでなく、この「ハツシモ」のことまで、いや、後者だけでもデュノア社にリークすれば僕はこれ以上こんなことをしないで済むはずだ。
そうすれば、一夏のことを裏切らないで済むかもしれない。
最初に更衣室に行って最初の授業に向かう時の笑い合ったこと、僕を昼食に誘ってくれたこと、僕に川神先生の訓練に誘うかどうかを真剣に考えてくれたこと、訓練を一緒にしてくれたこと。
本当にこの二日間が楽しくて仕方がなかった。
お母さんがいなくなってからこんなに楽しかったのは久しぶりだった。
それに一夏は僕を友人として見てくれている。
それだけに彼を騙しているのが辛い。
ヤチさんに関しては申し訳なさもあるし、罪悪感もあるけど面識が浅い分、まだ踏ん切りがつきそうだ。
それでも心苦しいけど。
「よし、とりあえず……」
部屋に着いた僕は一夏が戻ってくる前に何としても作業を終わらせようと「IS」を分析する端末を鞄から取り出した。
だけど、どうしても手が震えて手際が悪かった。
迷っている場合じゃないのに……
これをやらないと未来がないと自分に言い聞かせようとするがどうしても踏ん切りがつかない。
「……私の「ハツシモ」に何をしているんですか?」
個人的にシャルロットて流されてるだけのキャラだとは思いますが、それでも生きようと必死だったと思うんですよね。
ただ原作で他人任せになったのは少し頂けないと思います。
頑張れば強い子だと思います。
ですので、ここで試練を与えます(ゲス顔)