劇場版のその後の創作です

人日の節句の日に、あえて年越しモノを投稿するという暴挙ですww

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原作捏造のあれやこれやが大丈夫な人にオススメです


マクロスF 悠久飛翼

「やれやれ、本当に勘弁してほしいぜ。あと三十秒で交代だったってのによ」

 

 そう言って、大して広くもないコックピットの中でミシェルことミハエル・クランは悪態をつく。

 

『ミシェル先輩、そういうこと言ったらダメですよ。僕も同感ではありますけど』

 

 ミシェルの悪態に答えたのは、彼の横に並んで飛翔している薄緑のVF-25(メサイア)のパイロット、ルカ・アンジェローニだ。

 しかしミシェルとしたことが、うっかりしていたのか自分たちの前方を行くクァドラン・レアにも聞こえていたようだ。

 

『文句を言うな、ミシェル。どのみち、この空域は次の部隊の巡回ルートから外れているのだ。とんぼ返りで緊急発進(スクランブル)命令が飛んでくるのがオチだ』

「それが分かってるから余計にムカついてんだよ、クラン。ったく、こんな日ぐらい外野は大人しくしとけってんだ」

『今日は荒れてますね、先輩。クラン大尉とデートの約束でもあったんですか?』

 

 ウィングマンとしての付き合いの長さで、ルカにはある程度ミシェルの考えそうなことがわかる。このイライラの仕方は、女の子との約束をしていた時に呼び出されて、しかも相手に断りの連絡を入れられない時のそれだ。そして、クランと『ようやく』彼氏彼女の付き合いを始めたミシェルは想いを真っ直ぐに伝えたあの日から、相談以外での女の子遊びをキッパリ絶っている。

 

『なぁっ⁉︎ そう言うお前はどうなんだ、ルカ。この前私に、すごくナナセが楽しそうに話してくれーー』

『なぁぁぁぁぁぁ⁉︎  行きましょう、さっさと行ってさっさと終わらせましょうミシェル先輩!』

「おいおい。こっちのことはからかったくせして、自分がやられる番になったら逃げんの。いい度胸じゃねぇか」

 

 藪の中に何があるのか分かってるなら、突つかなきゃいいだろうに。自分に言われたわけでもないのに赤面しているクランと対照的に、柳に風といった体で思うミシェルだった。

 しかし、ここで口撃に参加しない程度には浮かれているらしい。というより、予約していたレストランもキャンセルぜざるを得ないこの状況に少なからず怒りを覚えているだけだったりする。

 

『あの、隊長。実を言うと私もさっさと終わらせたい派なんですけど……』

 

 今度は、完全に空気になっていたララミアが参戦してきた。

 

『そう言えば、例の彼と逢瀬の約束をしてましたわね』

『ええ。今日のシフトは約束をした時には分かってたので、任務が終わり次第すぐに連絡するとは伝えたんですけど……』

「『それ何てフラグ』」

 

 思わず、ネネも交えたララミア以外の四人全員でツッコんでしまった。

 

『……あれ、これ私だけが異性との約束してない組ですか? ですよね?』

『「あっ……あ〜……」』

『み、皆さん! もうすぐデフォールド反応のあったポイントですよ!』

『分かった。フォーメーションはいつも通り、私・ネネ・ララミアの三人で接近。ミシェルは後方からの狙撃、ルカはミシェルの観測手をしつつ全体のフォローだ』

『「了解」』

 

 バジュラ、いや、彼らを影から操っていた真の黒幕たちとの戦いから数ヶ月が経とうとしているが、あの時に土壇場で最高に歌舞いて見せた『姫』と、インプラントの呪縛から開放された薄赤の目の少年は未だに帰ってこない。

 その事実に銀河の妖精と超時空シンデレラは何度も打ちのめされたが、それでも決してめげることなく『彼ら』を待ち続けながら唄っている。

 

「ったく、本っ当にあのバカ姫はどこをほっつき歩いてんだか」

『今日のライヴ、どこかで見てくれてるといいんですけどね』

 

 今夜は、惑星バジュラと呼称されることになったこの星では初となる銀河標準時での年越しだ。夜の10時からは、シェリル・ノームとランカ・リーという今を駆け抜ける豪華二大スターアイドルが夜通しでライヴを行う。SMSの隊員の中で、オズマはライヴでヴァルキリーを用いた演出を行うために駆り出されるが、それ以外の隊員には家族分も含めて招待状が送られており、ワイルダーの計らい(職権乱用)で職員全員が丸ごと休暇となった。

 統合軍ならお咎め間違いなしの雑談を思い思いにしながら飛んでいた一行から距離を開けたミシェルとルカは、デフォールド反応があった場所から少し離れた山の頂きにバトロイド形態で着地した。

 

「まったくだ。ルカ、付近に気になる反応はあるか?」

『二つです。とても小さいですが、デフォールド反応があった場所からそう離れてはいません。恐らく、フォールド遭難者かと思われます』

「へぇ、マジか。世の中、ツイてる奴ってのは本当にいるもんだな」

『そ、そんな!! 生存反応を二つ確認。どちらも生きてます!』

「……おいおい、アリかよ。そんなの」

 

 ミシェルは、口笛しながら驚いた。

 それもその筈だ。技術発展のおかげで限りなくゼロに近くはあるが、それでも億や兆という回数のフォールドを行えば、一件や二件はフォールド断層内での何らかのトラブルで事故が起きることもある。そして、大抵そういった事故で生き残ることは不可能で、良くて遺体がどこかの宇宙にデフォールド。普通はフォールド断層の中を永遠に彷徨うことになる。だから、こうして人が生きられる環境に、ましてや生きたままデフォールドするなど天文学的確率としか言いようがない。

 

『IFFをキャッチしました。先輩、これって……!』

 

 ルカが何か言っているが、それを聞き流してしまうほどにスコープを覗いているミシェル自身も現状を信じられなかった。ともすれば、自分の目がイカれたかとも疑った。

 

『こちらクラン。目視で観測したが、ルカの取得した情報に間違いはない』

 

 どうやら、狙撃手(スナイパー)の目はまだまだ狂っていないらしい。

 

「なぁ、ルカ」

『なんですか、先輩?』

 

 嬉しさを隠しきれずに少し興奮交じりの声になっているルカが応対する。

 

「偶然ライフルが暴走して、ハーモニカ吹いてスカしてる奴とバカ面でクランに手振ってる奴の頭が吹っ飛んじまってもしょうがないよな?」

『しょうがなくないですよ! 何言ってるんですか!?』

「そりゃ、なぁ」

 

 他人(ヒト)のデートの時間奪っといて何様だよって、思っちまうとな?

 

 とても素晴らしい笑顔と絶対零度の声音をダブルパンチで浴びたルカには、黙って高速タイピングでクランにSOSメッセージを出すしか出来なかった。

 

 

 

 

「はぁ……アルト君、ブレラお兄ちゃん……」

 

 衣装に着替えてボビーの渾身のメイクもしてもらって準備万端になったというのに、ランカはもう何度目かもわからない溜息をつく。

 あと十分もしない内にライヴが始まるが、ステージの下座にある段差に座り込んでから、まるで力が入らないでいる。

 

「どうしたの、ランカちゃん」

「シェリルさん……」

 

 どうやら、かなり陰鬱なオーラを漂わせていたようで、上座で待機している筈のシェリルが隣に腰を下ろした。

 

「今日のライヴにもやっぱり二人ともいないのかなって思うと、何だか……」

「そうね。ランカちゃんはライヴで舞台に上がる度に、客席を見渡してバカ二人を探してるものね」

 

 最近は一緒の舞台に立つことも増えたが、そうでない時もいつも駆けつけてくれているシェリルだからこそ気づいているのだろう。これまでの全てのステージで、終ぞ二人を見つけることは出来なかった。

 

「はい……。シェリルさん」

「なぁに?」

「シェリルさんは、どうして歌い続けられるんですか?」

 

 あの時、あの瞬間で聞いた言葉は、フォールドクォーツを通して彼女達の耳にしっかりと届いていた。だからこそ、自分より間違いなくシェリルの方が辛いはずだとランカは思っているが、シェリルはいつでも不敵に笑ったままでいる。まるで、何事も変わっていないかのように。

 

「そうね……。信じてるから、かしら」

「信じてる、ですか?」

「そ。あのバカがどこかでアタシの歌を聞いていて、そして必ず帰ってくるって。もちろん、貴女のお兄さんもね」

 

 そう言って、でも、と一拍開けた彼女は悪戯を企んでいる時の表情だった。

 

「それと同じくらい、驚かせてやりたいのよ。アイツを。アンタがどっかほっつき歩いている間、アタシはずっと歌い続けていたんだぞ。ってね」

「そっか、そうなんですか。私とは、やっぱり大違いですね。だからシェリルさんは──」

「ところがどっこい。実際はそんなことないのよ、ランカちゃん」

 

 二人の後ろから声がして見上げると、柔らかい笑みを浮かべた女性が立っていた。

 

「グぅレぇイぃスぅ?」

「フフ、ごめんなさいね。シェリル」

 

 表情を楽しそうな笑みに変えて先に謝るグレイス。シェリルにはもう、彼女が次に何を言うかの確信がついていた。

 

「ランカちゃん。本当はね、この娘、ただ強がってるだけなの。枕だって何回濡らしたことだか──」

「止めてよグレイス!」

 

 化粧以外の要素で頬を赤くさせたシェリルの様子に、グレイスだけでなくランカも口角が緩んだ。

 

「私、そのお話を聞けてよかったです。私だけじゃないんだって、わかったから」

「ランカちゃん……。もう、大丈夫なようね」

 

 シェリルもいつもの調子を取り戻したのか、挑発するかのように普段と変わらない大胆不敵な笑みを向ける。

 だから、ランカもいつもと変わらない、元気な声で返す。

 

「はい!」

 

 開幕まで秒読みになったので、さて自分の立ち位置に戻ろうかとシェリルが立ち上がった時に、グレイスが視線を右に逸らした。

 シェリルとランカがそちらを見ても、そこには壁があるだけだった。全身がインプラントである彼女だから無線連絡が入ったのかもと二人が思っていると、案の定、グレイスは「ごめんなさいね」と二人に言って後ろに向き直る。

 

「それじゃ、アタシは向こうに行くわね」

 

 グレイスの通話も大したものではないだろうと踏んだシェリルが改めて戻ろうとした時だった。

 

「えぇっ!? それは本当なんですか?」

 

 いつも冷静沈着なグレイスの素っ頓狂な声を聞いて、思わずシェリルとランカがグレイスの元に駆け寄る。

 

「どうしたのよ、グレイス。貴女らしくもない大声で」

「何か、あったんですか?」

「──ええ、ええ、はい。わかりました。失礼します」

 

 どうやら通話は終わったようで、振り向いた時にはもう、いつもの落ち着いた女性に戻っていた。

 

「ごめんなさいね、いきなり大声出しちゃって。メインライトの調子が悪かったみたいなの」

「ちょっと、本番まであと数分しかないのよ?」

「間に合うんですか?」

 

 メインライトはライヴの開幕と同時に少女たちを派手に照らし出す予定になっていたので二人も心配になったが、グレイスの柔和な笑みは崩れなかった。

 

「心配ないわ。新しいものに交換したばかりで、差し込みが緩かっただけみたい。今はもう大丈夫だそうよ」

「そうなんですか。良かったぁ」

「もう、その程度で大声出さないでよ。大袈裟なのよ」

「そうね。さて、シェリルも戻って頂戴。あと三十秒で始めるわよ」

「はい!」

「ちゃんと見てなさいよ」

「はいはい」

 

 

 

 

──アルト。アンタは、アンタだけはちゃんと見てなかったら許さないんだからね。

 

──ブレラお兄ちゃん。どうか、聴いていてください。

 

「アタシの、アタシ達の歌をっ。聞けぇ!」

「みんな、抱きしめてっ。銀河の、果てまでぇ!」

 

 たとえ彼らがいなくても、それは今この瞬間で限ってしまえば少し寂しいだけの話。

 特別な誰かへの気持ちを込めた歌には、少なからず魂を揺さぶる力がある。それを聞いた聴衆から贈られる声援に返すように、歌い手はさらに感情を込める。

 銀河をも振るわせる少女たちによる、そんな無限の遣り取りが幕を開けた。

 

 

 

 

「二分前に連絡があったわ」

 

 ライヴの幕間。衣装交換の為に控え室に戻った二人にグレイスが話しかける。

 本当ならちゃんと聞きたいところだが、スケジュールはとてもタイトなので失礼を承知で着替えながら話を聞く。彼女もそれは承知なので構わず話を進める。

 

「もう二曲歌った後のカウントダウンだけれど、貴女たちは一機じゃなくて二機のヴァルキリーに乗せることになったわ」

「オーケイ。それで、立ち位置の変更は?」

「変わらない。歌い終わった場所に立ってくれていれば、ヴァルキリーの方で合わせてくれるわ」

「わ、わかりました!」

 

 ランカの返事と同時に着替えが終わったので、二人は別のドアから同時に控え室を飛び出した。

 その後を追うように部屋を出たグレイスは、ゆったりした歩調で廊下を歩きながら、呼び出し画面を開いてコールした。

 

『もしもし』

「グレイスです。二人には少しボカしながら説明しました」

『そうか、ありがとう。こちらからの急な要請に対応してくれたこと、深くお詫びすると共に感謝する』

「お気になさらないでください、ワイルダー艦長。これも一つの、私からの恩返しです」

 

 グレイス・オコナーという一人の女性は、バジュラ戦役での真の首謀者だったギャラクシー船団上層部の一人だ。

 だが、彼女もインプラントネットワークを介して操られていたに過ぎず、自力で呪縛から逃れた後はむしろ戦役の早期終結に向けて積極的に貢献したこと等が加味された為、シェリルとランカの総合マネージャーとしてフロンティア政府とSMSフロンティア支部から二十四時間体制で監視されることで保護観察処分となった。

 本来なら事態収束後に即座に処刑されてもおかしくはなかったのだが、ジェフリー・ワイルダー及びSMSオーナーのリチャード・ビルラー氏の口添え、また、事態収束時にギャラクシー側の首謀者に近い人間でフロンティア船団内の生存者が彼女しかいなかった事実もあってフロンティア行政府が極秘裏に回収、彼女自身からの技術提供でLAIが新しいボディを作り現在に至っている。

 それ故に、グレイス・オコナーにとってSMSフロンティア支部の責任者であるワイルダーは、感謝してもしきれない人物の一人である。

 

「それはそうと、非番だった整備員を休日返上で働かせてしまいましたよね?」

『いや。元々オズマ君の機体の整備をする必要があったのでね、一機だけの整備が何機か増えただけだ。気にすることではないさ』

「お言葉は嬉しいですが、そういう訳にはいきませんわ。ちゃんと、追加してもらった機体とその人員分も上乗せでお支払いいたします」

『そうかね。では、追加分は銀河の妖精と超時空シンデレラへの、我々SMSフロンティア支部からのお年玉ということで、ここは一つどうだろうか』

「よろしいのですか? そう安い額ではないでしょうに」

『そんなことはないさ。我らフロンティア船団の危機を救ってくれたお礼とするなら、これでも安いかと思うのだがね』

 

 付き合いの浅いグレイスだが、それでも無線の向こうにあるであろう豊かな髭をたくわえた初老の男性のにこやかな笑みが思い浮かべられた。

 ここまで言ってくれるのでは、断るのも却って無粋というものだろうと思ったグレイスは、有難くそれを頂戴することにした。

 

「では、ありがたくお言葉に甘えさせていただきます。ご厚恩、感謝の言葉もありませんわ」

『なら、今度グレイス君の時間が空いている時に一杯どうかね?』

「残念ですけど、遠慮しますわ」

『なぜか、念のために理由を聞いてもいいかね?』

 

 脳にもインプラントを施している以上、(うわばみ)も下戸も思いのままだが、困ったような苦笑で断った。

 どうやら、この艦長さんもあの若いパイロット君並みに鈍感なようだ。

 

「そんなことしたら、モニカちゃんに怒られちゃいます」

『むむ、どうしてモニカ君が?』

「そこは、女同士の秘密、ですわ。それでは失礼します」

『うむ。ライヴの成功を祈る』

「重ね重ねありがとうございます」

 

──さて、お膳立ては済んだわ。『彼ら』は上手くやってくれるかしらね?

 

 

 

 

「「本気のココロ見せつけるまで、私眠らない」」

 

 歌い終わった後の底知れぬ余韻に浸る二人だが、午前零時まであと十分とない。少なくとも自分たちの視界にはヴァルキリーらしき影が見えないのだが、これは一体どういうことか。とシェリルが思っていた時だった。

 

「シェリルさん、アレ見てください……!」

 

 ランカが指差す方を見ると、彼方から二つの光点が大きくなっているのが確認できた。どうやら、時間には間に合うようだ。ランカに目配せして、彼女がそれを確認して頷いたのを見てマイクを口元に近づけた。

 

「それじゃ、今年最後のナンバー行くわよ!」

 

 シェリルの掛け声を合図に、バックバンドが前奏を始める。その間にもファイター形態のヴァルキリー二機は近づいて、ステージ上空でシザースを一度行ってからガウォークに変形してゆっくり降下する。その機体は二人にとって、忘れることもできない機体だったが、今は四の五の言ってられる状況ではない。ヴァルキリーは、足がステージに着くかどうかというところで制止して、腕を差し出してそれぞれの掌に一人ずつの歌姫(ディーヴァ)を乗せた。二人が乗って観客の方を向くタイミングと歌い出しのタイミングは、驚くほどに一致していた。

 

「すい星のような純な角度で」

「君のスカートがひるがえる」

「「get it on, get it on, ……」」

 

 

 

 

「「胸を張って無敵な teenage ジグザグ光になる」」

 

 第一部とも言うべき、年内に歌う曲を全て歌いきった二人は、いよいよカウントダウンに入る。

 

「さぁて皆、カウントダウン行くわよ!」

「みんなで一緒に! せぇの!」

 

 

『5!』

 

 シェリルとランカは内心では物凄く複雑な心境だったが、それを顔に出すことは無い。

 

『4!』

 

 遠くから、かなり甲高い音が聞こえてくる。

 

『3!』

 

 これは、反応エンジンが高出力状態の時に音ではなかったか? 二人がそう思っている間に、音源が近づいてくる。

 

『2!』

 

 山の向こうから、一つや二つではない光点が近づく。そもそも、大型の反応エンジンを使うものなど数が限られていなかったか?

 

『1!』

 

 よく見なくても、近づいてくるあれらはファイター形態のヴァルキリーとクァドラン・レアじゃないか。

 

 そして。

 

 

『Happy, new year!』

 

 観客たちの歓声を消さないよう、高度を取りながら鋼の翼と鋼の巨人が空を舞う。

 クァドランがインパクト・キャノンとミサイルを空に向けて放ち、ヴァルキリーは三段変形を繰り返しながら飛び交うその様子はまるで、全ての始まりだったシェリルのあの時のライヴを人員と規模と機材を巨大化させたかのようだった。

 

 

 

 

「オズマ! これはどういうことよ!」

 

 カウントダウン後の空白時間になったので、シェリルは無線のチャンネルを切り替えてこの空を飛んでいるであろうオズマを呼び出す。

 

『お前らのライヴを見てた奴等が揃いも揃って『俺たちも飛びてぇ!』と言い出して聞かなかったんだ。そしたら艦長が全機整備させちまってな……』

「そんなことはどうでもいいのよ!」

『シェリルさん!? どうでもよくはないと思いますけど──』

「アタシが聞きたいのは、この機体のパイロットよ!」

 

 そう言ってシェリルが指差したのは、今まさに自分を乗せているヴァルキリー──紅白のYF-29(デュランダル)、そう、バジュラ戦役でのあの最後の戦いで早乙女アルトが搭乗していた機体だった。

 

「誰の許可を取ってあのバカ以外の他人を乗せたのよ! いい、よく聞きなさい! この機体に乗っていいのは──」

『早乙女アルト唯一人、だろ』

 

 さも当然であるかのようにしれっと言い返すオズマに、いい加減シェリルは怒りが爆発しそうだった。

 

「分かってるならさっさと──」

『だったら。誰がその機体を操っているのか、お前の目で直接確かめてみろ。ランカ、お前もだ』

『え? オズマ兄ちゃん、私もなの?』

 

 ブレラが自分の実の兄だと分かってからも、ランカはオズマも兄だと言って聞かず、今は名前も一緒に読んで区別している。

 ランカの問いかけに、オズマは一回だけ首を縦に振った。

 

『ああ。二人とも、今は誰に命を預けているのかを、しっかり見てこい』

 

 『やってやれ』と、オズマが明らかにシェリルとランカに向けてではない言い方をすると、シェリルの乗っているYF-29とランカの乗っている紫を基調としたYF-29の腕がそれぞれ自機のコックピットへと動いていく。

 オズマがあのような物言いをするなんて。まさか、いやあり得ない。

 希望に胸は高鳴るが、それと同じくらいに、もうガッカリしたくないと思うシェリルはギリギリまで視線を逸らしていたが、風防(キャノピー)の真横に付けられてしまった為に、恐る恐る視線をコックピットに向けた。

 

「嘘……!」

 

 その姿を見つけてしまっただけで、彼女の目からポロポロと雫が零れた。

 今まで、どれだけ探しても見つからない寂しさともう会えないかもしれないという恐怖で、何度眠れない夜を過ごしただろうか。

 だが、そんなことももう過去の話。もう、思い出の中に仕舞い込んでしまおう。

 

「ホログラフとか整形とかじゃないのよね……? 本当に本物よね?」

「当たり前だろ。お前な、人を何だと思ってやがるんだ」

 

 キャノピーを上げ、ヘルメットを取った少年は、早乙女アルトは、あの日あの時と変わらない笑みを浮かべた。

 ただ、ただそれだけのことなのに、シェリルには流れ落ちる涙を抑えることが出来なかった。

 

「バカ、アンタが行き先も告げずにどっか行っちゃうからでしょ!」

「すまなかった。でも、こうしてお前が、お前たちが歌ってくれてたから、俺『たち』は帰ってこれた」

「俺『たち』?」

 

 説明する必要もないと言わんばかりに親指を立てるのでシェリルがそちらを見遣ると、紫のYF-29ではブレラ・スターンがランカに抱きつかれていた。ブレラは困ったような、それでいて兄としての暖かな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「バカバカ、ブレラお兄ちゃんのバカァ! どうして、連絡してくれなかったのぉ」

 

 ゼントラーディ由来の高い身体能力を駆使してヴァルキリーの掌からコックピットまでジャンプしたランカは、ブレラに飛びつくなり涙で顔をグシャグシャにしてしまっていた。化粧が落ちてはいけないと思ったブレラは、自分のパイロットスーツにランカの顔を当ててハンカチ代わりにさせ、優しく丁寧に頭を撫でている。

 

「すまない、女王バジュラと共にフォールド断層を漂っていた。機体を大破させていたので、フォールド通信も出来なかった」

 

 心配かけたな、ランカ。そう言って優しく抱きしめるブレラ。

 本当だよぉ……。泣き崩れたまま何とか絞り出したランカの声に、ブレラはただひたすら穏やかな笑みを浮かべていた。

 

『二人共、感動の再会の所悪いのだけれど、そろそろ次のナンバーに入って頂戴』

 

 そう、年越しライヴはまだ終わってない。これから、初日の出を拝みながら最後の歌を歌いきってようやく終了のスケジュールだ。しかしながら、ランカが泣き止みそうにないまま予定通りの二重奏(デュエット)に行く訳にはいかないと判断したシェリルは、無線マイクに向かって声を張り上げる。

 

「グレイス! 悪いけど、この後はソロ曲の交互を前倒ししてもらえないかしら?」

『……その方が良さそうね、でも。シェリル、貴女はちゃんと歌えるの?』

 

 無線越しに事情を悟ったのだろうが、グレイスが念の為の確認をする。

 そして、それに返すシェリルの表情は、やっぱりいつも通りの不敵な笑みだ。

 

「グレイス、アタシを誰だと思ってるのよ。アタシはシェリル、シェリル・ノームなのよ」

 

 両目一杯に溜めていた涙を適当に拭おうとしたシェリルを、見かねた様子のアルトが慌てて止めた。

 

「おい待てって。そんな適当なことしたら化粧が落ちるだろ」

 

 特に意識してもいないのだろうか、アルトがグイと身を乗り出して親指で丁寧にシェリルの涙を拭った。

 

「キャッ、ちょっとアルト! アルトのくせに生意気よ!」

「はぁ!? どこがだよ!」

「全部よ、ぜ・ん・ぶ! あ、あんなに顔……近づけてきて……」

「え、あ……ぁぁっ」

 

 シェリルが言おうとした文句は最後の方が小さくなっていったが、指摘されてようやく自分がしたことを理解したアルトは途端に恥ずかしくなった。

 

「す、スマン……」

「もういいわよ。それより、私があげたイヤリング、無くしてないでしょうね」

 

 耳元のイヤホンから、グレイスがスタッフに素早く指示を出してくれたお蔭で自分のソロに変わった次のナンバーの出だしが掛かった。

 アルトもスタントパイロットとして来ているので、足元に置いたヘルメットから曲が流れているのが聞こえた。

 

「ああ、ずっと耳に付けてるよ。ホラ」

 

 時間がないので手早く確認させようと、髪をたくし上げてアルトが身を乗り出す。

 シェリルも素早く確認しようと、片膝を機体について、こちらもまた身を乗り出して覗き込んだ。

 

「ちゃんと着けてくれてたのね。ありがと」

 

 お前なぁ。もう一回アルトが文句を言おうとした時だった。

 

「これはその礼よ、ありがたく受け取っておきなさい」

 

 それだけ言ったシェリルは、覗き込んだ姿勢のままアルトの頬に口付けた。

 

「なっ、なななななな……なぁ!?」

「何よ、この程度で動揺しちゃって。アルトは本当にウブね」

「こ、この程度って……!」

 

 前奏が中盤に入ったタイミングで、YF-29の掌に戻ろうとした正にその時だった。

 

「えっ? キャァァァァァ!」

 

 シェリルが機体に置いていた膝を上げてバランスが不安定になったその一瞬に、一際強い風が吹いた。

 履いていた靴がヒールだったことが災いして、シェリルはそのまま空中に投げ出されてしまった。

 

「シェリル!」

 

 初心な少年から、ヘルメットを被る一瞬の間でパイロットに戻ったアルトはキャノピーを閉じずに機体を下方に滑らせる。

 

 

 

 

 今のシェリルの衣装は白とピンクの明るい色合いだったため、地上からでも落ちていくシェリルがよく見えた。観客の何人かが悲鳴を上げつつも、紅白のヴァリキリーが追いかける様を見守った。

 

 

 

 

「ウオオォォ! シェリル!」

 

 YF-29でギリギリまで接近したアルトは、コックピットから身を乗り出してEXギアで空を舞った。

 シェリルに近づいて、上から拾い上げたのではシェリルの体に大きな負荷がかかると判断したアルトは、垂直降下でシェリルの下に回り込んでその華奢な身体をしっかり抱きかかえた。

 

「キャッ」

「大丈夫か、シェリル。怪我しなかったか?」

 

 目立った外傷は見当たらないが、打ち身や捻挫をしていないか心配して尋ねるアルトに、シェリルは思わず小さく吹き出した。

 

「ププッ」

「何だよ。俺がおかしなことでも言ったか?」

「違うわよ。ただ、あの時と全く同じねって思ったら、なんだか面白くて」

「……あぁ。それもそうかもな」

 

 シェリルのライヴでアルト達がスタントとして飛んだ時も、彼女はステージから落ちてアルトに受け止められた。

 それをようやく思い出したアルトも、楽しそうに笑い始めた。

 

「そうだな、確かにその通りだ。それじゃシェリル。どうする?」

「決まってるじゃない。『行くのよ』」

「『いいのか?』」

「『いいから、このまま行きなさい!』」

「おう! しっかり捕まってろよ!」

 

 あの時と違うのは、アルトが躊躇うことなく二つ返事で返したことと、YF-29に乗り込んだアルトの首元にシェリルが手を絡めて彼の膝の上にチョコンと座っていることだった。

 ファンサービスの一環のつもりで、アルトはキャノピーを開けたまま飛び続けた。そして、スタントパイロットに徹するためにヘルメットのバイザーを下ろして完全に顔を隠した。

 

 

 

 

『見せつけるね、姫』

 

 ヒュゥ、と口笛を鳴らしながらミシェルがアルトに無線で話しかけた。

 

「うるさい、ミシェル。これも仕事だ、仕事」

 

 横に視線を逸らすと、いつの間にか左右にミシェルの青いVF-25Gとルカの緑のRVF-25が、その二機の斜め後方には橙と白のこれまたよく目立つ配色のYF-25(プロフェシー)が二機ほど付いてきていた。

 

『あれ。それじゃお姫様としては、シェリルを膝に載せることには何とも感じないんだ?』

「……余計なお世話だっ」

『やれやれ、素直じゃないねぇ。『全機、アルト機をフォロー!』』

 

 先ほどの会話を聞いていたわけでもないだろうに、二人の動作だけを見て何があったかを見抜いたミシェルもあの時に合わせてきた。

 

「『スナイパーの目は誤魔化せないぜ』ってヤツか?」

『お褒めに預かり光栄です、ひ・め♪』

 

 全く、自分の周りにはマトモな奴が一人も居やしない。アルトは決して声に出さずに一人ごちた。

 

 

 

 

「「たった一つ命を盾に、今振り翳す感傷」」

 

 シェリルが歌ってる間に何とか泣き止んだランカが合流して、SMSの協力で予定よりもド派手なステージになったライヴも残す所は二曲。

 そして、満天の星だった空が白み始めた。初日の出の時間がやって来た。

 

「うわぁ、綺麗……」

 

 シェリルを真似てブレラの膝に座っているランカは、まだ恒星が顔を出していないというのにウットリしているようだ。もしかしなくとも、夜通しのライヴで疲れが溜まったのだろう、目が眠たそうにトロンとしていた。

 

「ランカ、ここで寝るのは勿体ないぞ」

「ん……。私、頑張って起きてるよ、ブレラお兄ちゃん……」

 

 眠い目を擦って睡魔に抗おうとする姿が愛おしくて、ブレラはランカが寝てしまわないように気を付けながら頭を優しく撫でた。

 これからは兄として見守りたい、と強く願いながら。

 

 

 

 

 隣を飛ぶアルトとシェリルは、声は聞こえないが二人の様子を見て顔が綻んだ。

 アルトとブレラのYF-29を先頭にV字編隊でヴァルキリーとクァドラン・レアの混合部隊が日の昇る方角に向かって飛んでいる。あれから更に大騒ぎして、気づけばマクロスクォーターまでもが参上している始末だ。子持ちのパイロットは来ていないが、SMSフロンティア支部の殆ど全戦力がお出ましのような光景だった。

 

「いいわね、兄妹っていうのは」

「そうだな」

「……私も欲しいかもな、兄妹……」

「シェリル……」

「な、何よ……」

 

 何気ない呟きを聞かれていたのか、いつになく真剣な声音のアルトに、シェリルも心持ちは身構える。

 

「お前なぁ、そういうことは他の奴に言わない方がいいぞ。本気にされかねないからな」

「……はぁぁぁぁぁ……」

 

 そうだった、コイツは掛け値なしに鈍感だった。今更そんなことを思い出したシェリルは、深い深い溜息をついた。

 

「な、何だよその深い溜息は」

「知らないわよ。このバカアルト」

 

 プイと顔を背けるシェリル。どうしたらいいのか分からずに、アルトはただオロオロするばかりだった。

 だが、沈黙はそう長くは続かず次の曲の前奏が流れ始めた。

 

『風に、翼を!』

 

 先ほどまでの寝ぼけ眼はどこへやら、といった様子でランカは既にいつもの元気な声を出していた。

 負けられない、とシェリルも気を持ち直して声を張る。

 

『銀河に、歌を!』

 

――アタシは、アタシの歌で銀河を震わせてみせる!

 

 ふと、幼い時に聞いた彼女の宣言を思い出して、かき鳴らされる前奏に隠すように、アルトは小さく小さく呟いた。

 

「お前はもう、とっくに銀河を震わせてるよ」

 

 

 

 

『全機、恋離飛翼(サヨナラノツバサ)!』

 

 オズマの合図に合わせて列機が順にブレイクしていく。アルトとブレラも、シェリルとランカを落とさないように気を付けながら機動(マニューバ)を決めていく。

 速度こそ低いが、二人の飛ぶ様はまるで最終決戦でのドッグファイトのようだった。

 

 

 

 

「「愛してる……」」

 

 まるで待っていたかのように、二人が歌い終わるのと同時に恒星の光が惑星バジュラの地上を照らし出した。

 誂えられたかのような状況に覚悟を決めて、アルトが言葉を紡ぎ始めた。

 

「『シェリル、お前に言ってなかったことがある』」

 

 目の前で聞かされているシェリルの身体がビクンと跳ねた。彼女もアルトと同じ瞬間を回想しているのか、性懲りもなく目に涙を溜め始めていた。

 

「『イヤ、アルト、アルトォ……!』」

「『今更かもしれないけど──』」

 

 

 

 

「『俺はお前を、愛してる』だから、ずっと俺の傍にいてくれ」

 

 

 

 

 あの時続けられなかった言葉を、今度こそ。

 ただその一心で紡いだ言葉は、果たして彼女に届いただろうか。その結果は、彼女の様子を見れば一目瞭然だった。

 

「今更すぎるのよ、このバカ!」

 

 抑えていた堤防が決壊したが、流れ落ちる雫を気にかけることもなくアルトにしがみつく。

 

「アタシが、アタシが今までずっとどんな思いでいたかも知らないで、よくも抜け抜けと!」

 

 ポカポカとEXギアを叩くが、アルトはゴメンとただ一言を言ったきり甘んじて受け入れている。

 叩くのも疲れたのか、シェリルはアルトに身体を預けるように凭れ掛かる。

 

「ねぇ、アルト……?」

「なんだ?」

「証明、しなさいよ」

「証明?」

 

 そうよ、とウィンクしてみせるシェリル。

 

「アンタが本当にアタシを愛してるんなら、それを証明して」

「証明って、どうやって──」

「そんなの、簡単よ」

 

 それだけ言うと、シェリルはアルトと向かい合ったまま目を閉じた。つまりは、『そういうこと』なのだろう。

 呆れかけたアルトだったが、自分の肩に置いている彼女の手が微かに震えていることに気付いた。本当に、しょうのない奴だ、と思いながらアルトも目を閉じて顔を近づける。操縦が疎かになってしまうが構わない。すっかり馴染んだ感覚に任せることにした。

 

「さっきのだけどな」

 

 さっきの、兄妹がどうのこうのって話。ギリギリまで近づいて、思い出したように呟く。

 

「俺もいいなって思ったんだよ。それで、お前が他の男とそういう話してるのを想像したらイラッとして、ただそれだけだよ」

 

 何か反応を起こされる前に、シェリルの後頭部に手を回して残りの距離を詰める。

 

 

 

 

 光に照らされながら、少年と少女は、長い約束の口付けを交わした。

 

 

 

 

『「おおぉぉ、デカルチャァァァァアー!!」』

「「!!!!!??」」

 

 数秒とも数分とも思えた時間の後、いきなり二人のイヤホンからランカとクランの叫び声が出力され、アルトとシェリルは驚いて離れてしまった。

 

『やるねぇ、姫! 見てるコッチが恥ずかしくなるぜ』

 

 ヒュゥヒュゥ! と柄にもなくはっちゃけたミシェルが何度も宙返りをする。それに合わせるように、クランの合図でピクシー小隊がクァドラン・レアの搭載武装を斉射する。

 

『あらあら、アルトちゃんもシェリルちゃんも若いわねぇ』

『いやはや、若いとはいいものだな』

『シェリルさんはやっぱり早乙女くんだったか~』

『ま、収まる所に収まったって感じかしらね?』

『ほらモニカ、ちゃっちゃとアンタも決めちゃいなさいよ!』

『うぇぇ!?』

 

 今度はクォーターのブリッジクルー達だ。

 

『カナリアには、お前たちから伝えておけよ』

『あらあら、シェリルったらせっかちさんね』

 

 オズマと、地上に居るはずのグレイスからも冷やかされた。もしかして、誰かに見られてたか?

 心持ち背中が冷や汗だらけのアルトに、ルカが助け船を出してくれた。

 

『シェリルさん。マイクはスイッチ切ってますけど、連絡用無線をONにしたままです』

「……あ」

 

 しまった、というように慌てて確認するが、赤面してるルカの指摘どおり連絡用無線の電源を切っていなかった。

 

「シェ、シェリルゥ!」

「ゴメ~ン!」

 

 アルトも本気で怒っていたわけではないので、特に何をさるでもなくブツブツと何かを言っている。

 

「でも、良かったんじゃない?」

「はぁ? なんでだよ」

 

 だって、とそこで一度区切ってシェリルは周囲を見回す。アルトもそれに釣られてシェリルの視線を追いかける。

 追いかける先では、SMSの機体が思い思い(メチャクチャ)に飛び交ってる。

 

「だって、反対する人も諫める人もいなかったじゃない。グレイスとSMSは公認ってことでしょ」

「……まぁ、そうなる、か」

 

 アルトが納得したところで、シェリルが彼の目の前でマイクの電源を入れる。それを見てアルトがヘルメットのバイザーを下ろす。

 

「ランカちゃん。ラストナンバーの用意はいい?」

『はい! あ、あの! やっぱりちょっと悲しいですけど、私もすごく嬉しいです! 幸せになってください!』

 

 少し顔が上気したランカが連絡無線で言ってきた。

 やっぱりいい子よね、ランカちゃん。シェリルの問いかけにアルトは首肯で返した。

 

「それじゃ、ラストナンバー行くわよ!」

 

 マイクに向けてシェリルが声を張る。それだけで地上の観客席がこれまで以上の熱気に包まれる。

 

「アタシが作詞してランカちゃんが作曲に携わった、それぞれの大切な人への想いを込めた歌『悠久飛翼(トコシエノツバサ)』で締めるわよ!」

 

 会場の熱気が益々高まる。それを肌で感じ取って歌を更に昇華させる為に、二人の歌姫も再び舞い降りた。

 

「それじゃ……」

 

 

「「アタシたちの歌を、聞けぇ!!」」

 

 

 

 

 こうして、惑星バジュラでの初の年越しライヴは大成功の内に幕を閉じた。

 

「あ、言い忘れてたわね。アルト」

「んー?」

 

 会場からSMSの基地まで飛ぶ道のりにシェリルが同伴することになると思わず、ついアルトの返事が生返事になった。

 

「今度、アルトのご実家に挨拶に行きましょ。その時に、仲直りも済ませましょ」

「んな!?」

 

 危うく機体を垂直落下させてしまうところだった。今、なんと?

 

「何言ってるのよ。シェリル・サオトメになる以上、ご実家と仲が悪いままじゃいられないでしょ。アンタも男なら、いい加減に腹括りなさい」

 

 そう言って、シェリルは大胆不敵に、でも幸せそうに微笑む。

 コイツには勝てそうにないな。調子に乗ることがわかってるから口には出さないが、アルトはそう確信した。

 

 

 

 後日、実家の前でウジウジしていた所を彼女らしき女性に引っ張られて屋敷の中に入って行った天才女形が目撃されたそうだが、それはまた別のお話。

 

fin.

 

 

 

 

 

 

 


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