ヒーロー、それは正義の象徴。

しかし、ヒーローとて生きていくためには稼がにゃならん。

というわけで現実を生きるヒーロー達は今日も戦う、己の生活のために。

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ちょっと息抜きに書いてみました


デリバリーヒーロー

退屈な平日の大通り、そこを一人の恰幅のいい男性が歩いていた。

その歩みは早く、その表情や態度から彼がいかにも怒気を孕んでいるのが周りの通行人も感じ取れていた。

 

「全く、ワシを300メートルも歩かせるとは何事だあのポンコツめ」

 

彼の名はパトリック・ギブソン、この大都市に支店を構える銀行の支店長である。

彼は常に怒っていた。本店から課せられる重いノルマ、そのノルマを達成出来ない無能な部下達、そして出先から店に帰る途中に何故か故障する車。会社で気の休まる時などほとんどなかった。

そして家庭に帰っても相変わらず彼の気が休まる事はなかった。長男は最近ガラの悪い連中と毎晩どこかへ遊びに行き朝まで帰って来ないし、次男はどうやら学校でいじめられてるらしいと聞く。家庭を任せているはずの妻はそんな息子達の事をまるで無視するかのように若いテニスのコーチに熱を上げている。

 

「全く、ワシが何をしたというのだ……」

 

そして最も彼を悩ませているのがこの街の事だった。この街、とにかく治安が悪い。

三日前、ライバル店に銀行強盗が押し入り多額の現金を盗んでいった。それを受け彼も警備強化のための予算を申請したものの、本店は彼の要求を突っぱねた。警備の予算は自分の所でやりくりしろという事らしい。

最初、この街の支店長に就任すると決まった時は天にも昇る気持ちだった。順調にキャリアを重ねればいずれは本店の幹部としての地位が約束される、はずだった。

しかし、彼の希望の全てをこの街は打ち砕いたのだった。

 

『HAHAHAHAHA! 今週末はグッドゲームホールでホークマンと握手!!』

 

不意にそんな声が聞こえた。足を止め音の方に目をやると、それは街頭に設置されてる大型ビジョンから流れるCMだった。どうやら今週末にホークマンというヒーローによるショーが開催されるらしい。

彼としてはあまり興味がないところだが、確か近々そのホークマンを自分の店のイメージキャラクターとして採用するという話を思い出した。だから何だという話だが。

 

「くっ、何がヒーローだ。所詮金の亡者じゃないか」

 

ヒーローなら今すぐ自分の状況を救って欲しいものである、そんな事を考えながら彼はまた歩き出す。

 

「本日開店でーす、よろしくお願いしまーす」

 

するとまた声が聞こえる。今度は前方に事務服を着た赤毛の若い女性の姿、彼女は通行人にポケットティッシュを配っていた。

 

「よろしくお願いしまーす」

 

彼女の手並みは鮮やかで、前を通る通行人のほとんどにポケットティッシュを渡していく。そして彼はそれを無視するかのように彼女の前を通り過ぎようとしたその瞬間……

 

「よろしくお願いしまーす」

 

目の前に差し出されるポケットティッシュ、彼は一瞬立ち止まりはしたものの無言でそこを通り過ぎた。

 

「お願いしまーす!」

 

しかし、彼女は彼の前にたちはだかりまたしてもポケットティッシュを差し出す。彼は少々苛立ちを覚えたものの、またしても彼女を無視してその脇を通り過ぎた。

 

「ギミックマンデリバリーでーす、よろしくお願いしまーす!!」

 

そしてまたしても立ちはだかりポケットティッシュをつきつけるかのように差し出す、よくよく見るとそれを差し出す彼女は中々の美人に思えたが彼にとってその笑みは悪魔のそれと変わらない様に見えた。

 

「ちっ!」

 

仕方ないので彼はポケットティッシュを彼女からまるで奪い取るように受け取り、ポケットの中に乱雑に詰め込んだ。すると彼女はすっと横にずれて彼の行く手を開けた。

 

「ありがとーございまーす」

「……全く、なんだあの女は」

 

そんな愚痴を吐きながら彼は歩き続ける、目的地である自分の店はもう目の前だった。

 

◆ ◆ ◆

 

「お帰りなさいませ、支店長!」

 

銀行に戻ると近くに居た行員が頭を下げパトリックを迎える、しかし彼はそんな部下も無視し自分の部屋に戻ってきた。

 

「ふぅ……」

 

そして自分の椅子に座り、引き出しから取り出した葉巻に火をつける。この部屋でただ一人こうしている時こそ彼の数少ない癒しであった。

しかし、もうすぐ次の仕事に移らなければならない。数分もすれば馴染みの客が融資の相談をしにここにやってくる、それが嫌でたまらなかった。

 

「何か大きな事故か事件でも起きないものか、そうすれば店を閉めてゆっくりできるものなのに……」

 

自分の部屋の一部は鏡張りになっており、そこからは忙しなく働く部下達や客の姿が見える。

そんな中、店にいかにもガラの悪そうな男達が数人入ってきた。

 

「あれは……」

 

いや、ガラが悪いなんてレベルじゃない。その男達は全員目出し帽を被っていたのだから。

次の瞬間、その男の中の一人が持っている鞄から銃を取り出し天井や壁に向かって発砲した。

 

けたたましい銃声と共に穴を開ける壁や天井、その弾丸の一部はパトリックの部屋と店内を仕切るガラスを砕き、豪快な音と共にそれが崩壊する。

 

「ひぃっ!?」

「てめえらおとなしくしろ! ちょっとでも変な真似するとぶっ殺すぞ!!」

 

店内が一瞬にして凍りつき、次の瞬間には大混乱に陥る。入り口近くに居た客が店から逃げ出そうとするが、その背中に男達の一人が容赦なく弾丸を浴びせる。

それを見た客達はまたしても凍りついたように動きを止め、銀行の中は静まりかえった。

 

「ま、まさか私の店にまで……」

 

机の影に隠れて震えるパトリックの希望通りに事件は起こった、しかし最悪の形で。

治安の悪いこの街でなんだかんだこの店は平穏を保ってきた、しかしとうとう強盗が自分の店にやってきてしまったのだ。

 

「と、とにかく警察を……」

 

幸い自分の姿は強盗から見られてはいない、今ならこっそり警察に通報する事も出来るはずだ。

 

「…………」

 

自分の携帯電話から警察に電話を掛ける、すると数回のコールの後にオペレーターに電話が繋がった。

 

「うーっす、ゴッソリシティー警察でーす」

「銀行強盗だ! 今すぐ警察を寄越してくれ!!」

 

ゴッソリシティー、それがこの治安の悪い街の名前だった。何かに似ているような気もしなくはないが気にしてはいけない。

 

「ああ、今パトカーが全部出払ってるんすよ。なんでもう少しまってもらえますー?」

「な、なんだと……」

 

そしてこの街の治安の悪さの原因がこの警察の職務怠慢であった。彼らには街の犯罪組織と手を組んでいるとか、押収した武器や麻薬などを裏で横流ししているなどの黒い噂が絶えない。

警察では埒が明かないと判断したパトリックは電話を切った、この街の正義は既に死んでいたのだ。

 

「いや、待てよ……」

 

直後、パトリックの脳内にとある記憶が蘇る。それはあの街頭のCMだった。

 

『HAHAHAHAHA! 今週末はグッドゲームホールでホークマンと握手!!』

 

「そうだ、ヒーローだ」

 

すぐさま電話に新しい番号を入れなおす、そしてまた数回のコールの後に電話が繋がった。

 

「はぁい、マクシミリアン・ヒーロー・エージェンシー、ゴッソリ支店でぇす」

「すまない、ヒーローを頼む! 私の店が強盗に襲われてるんだ」

 

そう、この街の正義は未だ死んでいない。確かに警察は無能で怠慢だがそれでも悪が跋扈することはない。

何故なら牙なき人を守るヒーロー達がこの街には多数いるのだから、ただし有償での話だが。

高額な報酬を条件に悪を倒す彼らはまさに正義の味方である。まぁ、その報酬が高すぎて一部では悪魔と呼ばれたりもするが。

しかし今は背に腹は代えられない、この店にある金を全て持っていかれるよりヒーローに金を支払う方が幾分マシであるのだから。

 

「了解いたしましたぁ、ご希望のヒーローはいらっしゃいますか? 指名料が掛かりますけど……」

「ホークマンを頼む! 彼しかいない!!」

 

ホークマン、そのヒーローこそこのマクシミリアン・ヒーロー・エージェンシー最強のヒーローだ。そして子供達に絶大な人気を誇るヒーローでもある、だからヒーローショーなどというものも開いてしまう。

 

「ああ、申し訳ありませんお客様。只今ホークマンはヒーローショーの稽古中でして……」

「そこをなんとか頼めんのか!?」

「申し訳ありません、契約で決まっている事でして……」

「……他のヒーローは居るのか?」

「それが、生憎他のヒーローも出払っていたり休暇を申請している者が多くてですね…… そうだ、最近入ったヒーローのルーズマンなど如何でしょう? 新人ですのでお安くさせて頂きますよ? まぁ、一度も勝った事がないんですけど……」

「要るかそんなもの!!」

 

怒りのままにパトリックは電話を切る、やはりこの街の正義は死んでいたらしい。

 

「ああ、どうすればいいんだ……」

 

こんな事をしている間にも強盗は着実にこの銀行から資金を回収している、そしてこんな横暴を許せば本店は確実にパトリックになんらかの責任を取らせる事になるだろう。よくて左遷、もしくは出向、最悪クビもあり得る事態である。

 

そしてパトリックは机の影で紫煙をくゆらしながら物思いにふける、もう彼に取れる手段など何もなかった。

 

「……ん?」

 

ふとポケットに手を突っ込むと何かが手に触れる、取り出してみるとついさっき貰ったポケットティッシュであった。

 

「ちっ、今日は厄日だ……」

 

車に乗れば故障で止まり、やたらしつこい女に絡まれ、挙句の果てには銀行強盗。

パトリックにとって今日こそ人生最悪の日であった。

 

「……ん? これは……」

 

ポケットティッシュの裏側には当然のように広告が入っており、パトリックはそれを眺める。

そこにはこう書いてあった。

 

『速い! 安い! 強い! お客様の平和を守るギミックマンデリバリー! 開店記念オプション無料サービス中!』

 

「こ、これはもしや……」

 

そう、どこからどう見てもヒーローの広告だった。

速い、安い、強いと言った所で名の知れてないヒーローなど簡単に信用できるものではない。しかしパトリックにとってこれこそが最後の綱、それに縋る以外の選択肢はなかったのだ。

すぐさまパトリックは書かれている番号に電話を掛ける、するとコールが一回鳴った直後に電話の相手は出た。

 

「はいっ! あなたの平和を守るギミックマンデリバリーです! 本日開店記念としてオプション無料サービスを行っております!!」

 

電話に出た相手の声はこのポケットティッシュを渡した女のものだった。しかしパトリックにとってそんな事はどうでもよく、口から唾が出そうな勢いで喋りだす。

 

「す、すぐにヒーローを頼む! 私の店が強盗に遭ってるんだ!!」

「ああ、そう言えばさっきそれらしい男が入ってきていきましたね。それに銃声も……」

「場所が解ってるなら早く頼む! 誰でもいいからヒーローを寄越してくれ!!」

「はい了解しました! でしたら当店最強のヒーローのギミックマンを派遣しましょう! と言っても当店のヒーローは彼しか居ないんですけどね」

「そんな事などどうでもいい! 早くしてくれ!」

「了解しました~、ではギミックマンに連絡いたしますので少々お待ちくださ~い」

「頼んだぞ!!」

 

電話を切ったパトリックは再度紫煙をくゆらす、もうすぐ現れるであろうヒーローがどういう奴かは解らないがきっと自分を助けてくれる、もう彼にはそう願う以外出来る事はなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

『♪~~♪♪♪~~♪~♪♪~~~』

 

緊迫した銀行内に軽快なメロディが流れる、金を用意していた行員やそれを回収する強盗達、さらには怯えて震えている客達は一様にその動きを止めその方向に視線を集中させた。

そしてその先には緑色のパーカーを着たぼさぼさの金髪の男が椅子に座っていた。

 

男はポケットにてを突っ込み携帯電話を取り出し、通話を始める。

 

「あ、もしもしチカちゃん? なんかあったの? え……あ、うん。お客様第一号? そりゃめでたいね」

 

その光景は銀行強盗の真っ只中であるこの場において異様な光景を醸し出していた。

そんな光景に我慢できなかったのか強盗の一人が金属バットを握り締め、男に近づいていった。

 

「おう兄ちゃん、こんな中でいい度胸してんじゃねーか」

「で……場所は……ああ、そこね。よく知ってる」

 

しかし強盗の威嚇も空しく未だに通話を続ける男、無視をされた形となった強盗の眉間には深い皺が刻まれ、額には血管が浮き出ていた。

 

「てめぇ無視すんじゃねえよこの野郎!!」

 

その言葉と同時に振り下ろされる金属バット、その狙いは男の頭に向かっていた。

しかし、次の瞬間そのバットは金属がぶつかるような音と共に動きを止めた。

男が電話を持ってない方の手である右腕で金属バットの攻撃を防いでいたのだ。しかし腕で防御したとはいえ骨が折れるような衝撃を男は受けているはず、だが男はそれを受けてもなお平然としていた。

 

「オーケイ、すぐに行くよ。っていうかターゲットは目の前だ」

 

男は金属バットを防いだ右腕を思いっきり振り上げる、それはバットを持つ強盗の顎を捕らえ、そのまま強盗はその勢いそのままに天井へと突き刺さった。

そして男は立ち上がりこう言う。

 

「えー、お待たせしましたお客様。ギミックマンデリバリー所属のヒーロー、ギミックマンです」

「ひ、ヒーローだと!?」

「やべぇよ、やべぇよ……」

 

唐突なヒーローの登場にいろめき立つ強盗たち、その額には冷や汗が浮かんでいた。

 

「びびんなお前達!! たかがヒーロー一人来たからなんだってんだ! 俺達で叩きのめしてやるぞ!!」

 

そんな中、威勢のいい強盗が一人いた。その強盗は他の強盗よりも体が大きくいかにも強そうである。

 

「ア、アニキ!!」

「そ、そうだ。俺達にはアニキが居るんだ!!」

 

アニキと呼ばれた男に触発されたのか、さっきまでの威勢を取り戻す強盗たち。しかしギミックマンは未だ平然としていた。

 

「あー、別に抵抗してもいいんだけどさ。そうなると命の保障までは出来ないよ?」

「はっ、だったらこれならどうだ!」

 

アニキが合図すると強盗の一人が女性客を捕まえ、そのこめかみに銃を突きつける。

突きつけられた客は恐怖のあまり失禁し、今にも気絶しそうな様子であった。

 

「あー、うん。まぁそうなるよね」

「こいつの命が惜しかったらおとなしくしておくんだな」

「いやいや、この程度でヒーロー止められるわけないでしょ。舐めないでくれるかな?」

「は?」

 

そう言うとギミックマンは人質を取る強盗に向かって右手を突き出す。しかしその距離は5メートルは離れており、全く届かない。

 

「なんだそれ? 舐めてるのはお前の方じゃないか」

「おばちゃん、目を閉じておいたほうがいいよ」

「は、はひ……」

「な、何しようってんだよ?」

 

人質を抱える強盗の声が震えだす、ギミックマンが何をするかは解らないにしろ彼は本能的に危険を察知していた。

 

「……いくよ、ロケットパンチ」

 

次の瞬間、ギミックマンの右腕が轟音と共に火を吹き超高速で射出され、壁へとめりこんだ。

 

「あ、あああ……ひいぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

その射線上に居た強盗は首から上が吹き飛んでおり、首の辺りからその血液がまるで噴水のように勢いよく噴き出していた。

そして人質に取られていた女性はそんな光景を間近で見てしまったために絶叫した後気絶し、自分の尿と強盗の血液が入り混じった水溜りの上に倒れこむ。

 

「だから目を閉じていたほうがいいって言ったのに……」

「こ、こいつもしかして……」

「そう、いわゆるサイボーグってやつ。普通の人間じゃ太刀打ちなんて出来ないよ? まぁ、そもそもヒーローに普通の人間が太刀打ち出来るわけがないんだけどさ」

「ア、アニキ……」

「怯むな野郎共! いくらサイボーグってったって生身の部分には攻撃が効くはずだ!」

「で、でもどうやって……」

「こうやって全身を蜂の巣にしてやるんだよ!!」

 

そう言うとアニキは持っていた機関銃を構え、ギミックマンに向けてありったけの弾をばら撒く。するとギミックマンの姿は着弾の煙で掻き消えてしまった。

 

「おめえらも援護するんだよ!」

「で、でも姿が……」

「適当に弾ばらまきゃ当たるかもしれねぇだろうが!!」

「了解ッス、アニキ!!」

 

指示を受けた二人の強盗がその煙に向けて銃を撃つ。そう、もう強盗の人数はたった三人になってしまったのだ。

 

「うぎゃっ!?」

「ごふっ!?」

「な、なんだ!?」

 

そんな中、二人の強盗が血飛沫を上げて倒れる。アニキが銃を撃つのをやめて部下の姿を確認すると倒れている二人のうち一人の近くに佇むギミックマン。

アニキは何故こんな事になっているのかまるで検討がつかなかった。

 

「ギミックマンブレード、こいつら位だったらバターを切るより楽に切れるね」

 

そういうギミックマンの左手首から横に伸びるナイフには血がこびりついており、それで二人の強盗を切ったのだとありありと想像させる。

そして強盗はついにアニキ一人だけになってしまった。

 

「て、てめぇ……」

「で、どうする? あとはあんた一人だけだけど」

 

そんな事を言うギミックマンの元についさっき飛ばしたロケットパンチが戻ってきて右腕に装着される、アニキとしては万事休すの状態であった。

 

「くっ、だからと言って今更引けるかよ!」

「おいおい、意地張るのはよせって。普通の人間のアンタじゃ逆転できないって」

「ふっ、そういうわけじゃないんだよなぁ……」

「え?」

 

そういうアニキは懐から一本の注射器を取り出し、躊躇うことなく自分の首にそれを突き刺した。

直後、恍惚の表情を浮かべるアニキ。そしてその股間に何故か出来る染み、性的快楽でも感じているのだろうか。

 

「うっ、ううーっ。き、気持ちいいーーーっ!!」

「な、なんだよそれ」

 

イッちゃってる男の表情に流石のギミックマンも後ずさる、そんなギミックマンをアニキは血走った目でみつめて見つめていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…… ああ^~、たまらねえぜ! こんな感覚は他では味わえねぇ」

「おいおい、ヤバイお薬かよ。体に良くないぜ?」

「ヤバイお薬? バカ言っちゃいけねぇ、こいつは凄く元気になるお薬さ」

「いや、だからそういうのをヤバイお薬って言うんじゃ……」

「うるせぇ! このスゴク・ツヨクナールの効果をなめんなよ? コレを打てばヒーローにも劣らない身体能力を持てるって話だ」

「えぇ……だったら手下が生きてるうちに使ってあげなよ……というか名前凄く適当だね」

「黙れ黙れ黙れ! 今からてめぇを八つ裂きにしてやる、覚悟しとけよ?」

「覚悟するのはそっちの方じゃないか……なっ!!」

 

次の瞬間、ギミックマンはアニキへ飛び掛りその勢いそのままにアニキの腹を殴りつける。

 

「あ……れ?」

「ほう、中々やるじゃねぇかサイボーグ。ちょっと痛かったぞ?」

 

ギミックマンの驚きも当然だった、彼の打撃を受けて生き残った人間など今まで一人も居なかったのだから。もしかしるとアニキが彼に語ったヒーロー並みの身体能力を得るというのは強ち間違いではなかったのかもしれない。

 

「さて、次はこっちの番だ。一発でやられてくれるなよ? つまんねえからさ」

 

その言葉と共に繰り出されるアニキの拳、それはギミックマンのボディーをアッパー気味に捕らえ、ギミックマンを天井まで叩きつける。

しばらく待つと、ギミックマンは自分の重みで天井から引き剥がされ地面に落ちる。

 

「あ、あう……」

「どうした? さっきまで威勢がよかったのに、一撃食らっただけでおねんねか?」

 

そう言いながらアニキはギミックマンを持ち上げ何度も床に叩きつける、その間ギミックマンは糸の切れたマリオネットのようにされるがままであった。

 

「が……はっ……」

「おいおいマジかよ。マジで打たれ弱いのな、お前」

 

アニキがギミックマンの首根っこを掴んで持ち上げる、ギミックマンは死んだ魚のような目をしており、部下を殺しつくされたアニキは心底がっかりした表情を見せた。

 

「はぁ、仕方ねぇな。お前なんてもう要らねえや、さよならだ」

 

そう一言残すと、アニキはギミックマンをゴミでも捨てるかのように放り投げる。しかし放り投げるといってもアニキは現在スゴク・ツヨクナールでヒーロー並みの身体能力を手にしているわけでその勢いは強く、ギミックマンは遠くの壁に叩きつけられた。

 

「さて、もうやることもないし帰るとしましょうかね……」

 

そう言ってアニキは集めた現金が入っている鞄を数個抱える、そしてギミックマンの居るであろう場所を一瞥し……

 

「じゃあな、ヒーローさんよ。お前、すげえつまらなかったぜ」

 

と、言いながらアニキは銀行の出口を目指した。

 

◆ ◆ ◆

 

「お、おい……大丈夫かね!?」

「だ、だいじょう……ぶ……」

 

そんな中銀行の支店長室では二人の男が会話していた、一人はついさっきアニキに投げられたギミックマン。もう一人はこの銀行の主であるパトリックであった。

 

「だったらあいつを早くなんとかしろ! ワシの金が持ち逃げされる前に!!」

 

パトリックはワシの金と言ってるが、もちろん今アニキが持ち逃げしようとしているのはパトリックの金ではなくこの銀行の金だ。

 

「あ、もしかして依頼主さん?」

「そうだ、だから早くなんとかしろ」

「いや、無理だわ……あいつ強えーもん」

「そこをなんとかするのがヒーローだろ!!」

 

と言ってみたもののパトリックにすら理解できていた、この弱弱しいヒーローではあの強盗に勝つ事は出来ないだろうと。

 

「まぁ、なんとか出来ないわけじゃないんだけど……」

「だったらなんとかしろ! そのために呼んだんだぞ!!」

「でもオプション料金が……あれ? ねえ依頼主さん、赤毛の女にティッシュ貰わなかった?」

「ティッシュ? なんだこの非常事態に! 確かにそんなもの貰った気がするが」

「ああ、ちょっとそのティッシュ見せてくれない?」

「なんなんだこいつは…… ああ! これがお前の御所望のティッシュだ! だから早く働け!」

 

ギミックマンはパトリックからポケットティッシュを受け取る、これこそがギミックマンがこの銀行で戦う事になった原因であった。

そしてその裏にはもちろんこんな広告が差し込まれていた。

 

『速い! 安い! 強い! お客様の平和を守るギミックマンデリバリー! 開店記念オプション無料サービス中!』

 

「ああ、やっぱり…… 開店記念だからって気合入れすぎだよチカちゃん……」

「ほら、これで満足だろう! 早くあいつを倒してこい!!」

「ああ、うん。ところで依頼主さん」

「……なんだ?」

「オプション使ってみない? 今なら開店記念で無料サービス中だよ?」

「はぁ!?」

「だからオプションだって、きっとオプションがあればあいつ倒せると思うんだけどなぁ……」

「もうどうでもいいからあいつを倒してこい!」

「おっ、かしこまり! それではオプション入りまーす!!」

 

ギミックマンはついさっきまで発していた弱々しい声から一転し、急に元気を取り戻す。

そして今まさに銀行から出ようとしている兄貴に向かって……

 

「おい、そこの筋肉ダルマ! まだ戦いは終わっちゃいないぞ!!」

 

と大きな声で叫んだ。

 

「おっ、まだ生きてたのかよ。でも無理しないほうがいいぜ? 今度こそ死んじまうぞ?」

「それはこっちの台詞だ、オプション使用の許可も下りたんでな。さっきまでのようにはいかないぞ?」

「ははははっ、随分威勢がよくなったじゃねーかサイボーグ! 今度こそ八つ裂きにしてやる!」

「やれるもんならやってみろよ! 行くぜ、ギミックマンブレェェェェエド!」

 

ギミックマンがそう言うと、その左腕から折りたたみ式のナイフが出るかの様に刃が飛び出し、腕に垂直に固定される。

 

「はっ、オプションってその剣か? さっきも使ってたじゃねえか!」

「まだまだ! ギミックマン・アサルトモオォォォォォォォド!!」

 

ギミックマンがそう言うと、今度はギミックマンが着ていたパーカーの背中が破れ、そこから機械の翼が顔を出す。そしてそれに呼応するかのように今度は脚部を覆うズボンが破ける。そして腿の形が変形し、中からスラスターらしきものが顔を出した。

 

「な、なんだそれは!?」

「いきなりだけど終わりにさせてもらうよ?」

「なにっ!?」

「必殺! ギミックマンスラッシュ!!」

 

直後、遠く離れていたギミックマンとアニキの距離は一瞬にしてゼロになり、アニキの首はその体から切り離されていた。

 

「あ、な……んで……」

「ヒーローに楯突いた奴は大体こうなるのさ」

 

宙を舞うアニキの首と会話するギミックマン。流石ヒーロー並みの身体能力、首を刎ねられたとは言え少しの間は生きているようだ。

そしてそのアニキの首はギミックマンにキャッチされる。

 

「じゃあな、ギミックマンクラッシュ!!」

 

そう言ったギミックマンはその首を思い切り銀行の壁に投げつける。そしてその壁にアニキの頭が激突した瞬間、真っ赤な花のアートが咲き誇った。

 

「ふっ、ミッションコンプリート!! さぁみなさん、もう安心ですよ!!」

 

そう言いながらギミックマンは笑顔で振り返る、しかし銀行内の生存者は多数が気絶しており残った者もみな一様に震えるばかりでギミックマンに賞賛の声を送る者は誰一人居なかった。

 

◆ ◆ ◆

 

「あ、ヒロくん。もう終わった?」

「あっ、チカちゃん。この通りもう終わったよ。っていうかタカくんって呼ぶのやめてよ、仕事中はギミックマンだよ」

「あはは、ごめんごめん」

 

それから数分後、職務怠慢な警察や消防がやっと駆けつけ、気絶している人々を搬送する中一人の女性が我が物顔で銀行の中へと入ってきた。

 

「うわぁ、それにしても凄いスプラッタ劇場ね。まぁ、アタシの会社とかじゃないんで別にいいんだけど」

「うん、そうだね。で、もしかして……」

「うん、ちゃんと働いたんだからしっかり精算しないとね。ええと、依頼人さんは……」

「あっち」

 

ギミックマンが指差すと、やたら疲れたような顔をした恰幅のいい男性が葉巻を吹かしている。もちろん彼こそがこの銀行の主であるパトリック・ギブソンであった。

としてチカちゃんと呼ばれた女性はつかつかとそのパトリックの下へと歩いていく。

 

「すみませーん、ギミックマンデリバリーの者なんですけど……」

「あ、ああ。やっぱり君か。もしや……」

「ええ、私が渡したポケットティッシュが役に立ったようでよかったですね。あと、代金のお支払いをして頂ければと思いまして……」

「……そうだな、私の銀行はこんな有様だが彼には一応仕事をしてもらったわけだし払うものは払わないとな」

 

そう言いながらパトリックは銀行の中を見渡す、戦闘の余韻で机やカウンターなど様々な物が滅茶苦茶にされ、壁や天井や床には真っ赤なアートが塗りたくられている。きっと気の弱い人ならこの光景を見ただけで気絶してしまうだろう。

 

「はい、という事で代金としてこれを貰っていきますね」

 

チカはそう言うと、ついさっきまで強盗が持ち出そうとしていた鞄を持ち上げる。

その後ろではギミックマンが更に多くの鞄を抱えていた。

 

「おい、それは……」

 

言うまでもなくこの銀行に保管されている現金のほとんどである。

 

「はい、ということでさようなら。今後ともご贔屓に」

「ちょ、ちょっと待て! おたくの会社は速い、安い、強いじゃなかったのか!?」

「あ? 安いって誰基準だよ。アタシに取っちゃこれでも十分安いわ」

 

チカの声色が急に変わる、それはまるで何人も殺してきたかの様なドスの効いた声だった。

 

「横暴だ! そんなの許されるわけないだろう!」

「ちっ、うっせーな。ヒロくん、ロケットパンチ」

「うん! ロケットパンチ……で、出ますよ……」

 

そう言いながらギミックマンが右手をパトリックに向けて構える、それを見たパトリックは急に顔を青くした。

 

「ひぃっ! こいつら悪魔か!? けっ、警察! この二人をなんとかしろ!!」

「ヒーロー相手に警察が勝てるわけないじゃないですか、ここはおとなしくしておいた身の為ですよ」

「依頼人さん、そういうことでもう帰っていいかしら?」

「ちっ……か、帰れ! そして二度とワシの前に姿を現すな!!」

「あら残念、このお金ここに預金してもよかったんだけどやめておきましょう」

 

そう言いながらギミックマンデリバリーのふたりは多数の鞄を抱えて銀行から出て行った。

 

「この世に本当のヒーローなんて居るのだろうか……」

 

パトリックが一人愚痴る、その声に答える者は誰も居なかった。

 

しかしあえて答えるならそんな者は居ないとしか答えるしかないだろう、この治安の悪い街には犯罪者とその被害者とその生き血をすする金の亡者(ヒーロー)しか居ないのだから。




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