モノクロウサギよ、狂々回れ   作:メガネ愛好者

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 どうも、メガネ愛好者です。

 サブタイで察した方もいるでしょう……
 今回、ウサギさんのサービスカットあり。

 それでは。




第6喰目 「お風呂」

 

 

 リンドウさんからこれからのことについてアドバイスを貰っている内に、気づけば私達は用意された部屋の前に辿りついていました。途中、出会う人達に不可思議なものを見るような目で見られましたが……まぁ仕方がないですよね、こんな姿ですし……

 

 あ、姿と言えばそうでした。今の私、砂埃塗れじゃないですか。

 うぅ……思い出してしまったせいか気になってきちゃいました。早くお風呂入りたいです……あれ? そもそもここってお風呂あるのでしょうか? 聞いてみましょう。

 

 「リンドウさん、その……厚かましいことかもしれませんが……部屋にお風呂って、あります?」

 

 「ん? あるとは思うが……あぁ、そうだな。まずは風呂に入って一息吐くといい」

 

 私の問いかけにどうしたのかとリンドウさんが此方を振り向くと、私の身なりを改めて見て納得したかのように肯定する。どうやら察してくれたらしい。そしてお風呂もあるらしい。やった! 今はこんなことで喜んでる場合じゃないですけど、それでも喜ばせてください!

 

 「ただ着替えはどうするよ? 一張羅なんだろ、それ」

 

 「あっ……そ、それは……」

 

 しかし、次いで返ってきた言葉に私は言い淀んでしまう。

 そ、そうでした……私、これ以外の服持ってないじゃないですか……

 流石に体を洗った後、この砂埃塗れの服を着る気にはなれません。この服を洗うにしても、その間ずっと裸でいる訳にもいきません。流石に私用の服まで用意されてるとは思えませんし、どうしましょう……

 

 

 どうしようかと困り果てる私。そんな私の前に……救いの女神が舞い降りました。

 

 

 「……あら? リンドウ、それにウサギちゃんじゃない。どうしたのこんなところで」

 

 「あっ、サクヤさん!」

 

 「おっ、いいところに来たな。サクヤ、ちょいと頼まれてくれないか?」

 

 「何かしら?」

 

 頭を悩ませていると、なんと通路の向こうからサクヤさんがやってきました。どうやらちょっとした用事を終えて、今から自室に戻るところだったようです。

 そのことを聞きリンドウさんは、丁度いいとばかりに私をサクヤさんに押し付けつつ事情を話していきます。すると……

 

 「そうねぇ……あっ、なら一度私の部屋に来ない? お下がりになるけど、昔着ていた服が確かあったからそれをあげるわ」

 

 「えっ、いいんですか?」

 

 「えぇ。今はサイズ的に着れないし、どうせ捨てることになるなら誰かに使ってもらった方がいいと思って。まぁ貴女が嫌じゃなければだけどね?」

 

 「そ、そんなっ! 嫌なんかじゃ全然ないです! 寧ろ有難くて頭が上がらないぐらいですよ!」

 

 「そう? ならよかったわ」

 

 サクヤさんの言葉に慌てて肯定する。ついまた遠慮しそうになりましたが……先程リンドウさんと話したこともありますし、何よりここで断ってはサクヤさんの服が嫌だと言っているようなもの。それは流石に失礼です。……やっぱり直さないとですね、この悪癖。

 

 サクヤさんの提案を受け入れた私は、一旦そこでリンドウさんと別れてサクヤさんの部屋へと向かいます。「案内はしたし、ここから先は俺の出る幕じゃないな」とのこと。後は「また何か悩み事でもあったらいつでもこい」とも言っていましたね。とても頼りになる方です。

 そしてサクヤさんと会話を挟みつつ向かうこと数分、サクヤさんの部屋の前まで来た私達は、そのまま部屋の中へと入っていきます。

 

 サクヤさんの部屋の中は、隅々まで整理整頓が行き届いており、とても清潔感に満ち溢れた部屋でした。……部屋の一角に干されている下着は見なかったことにします。

 

 しかし、そんな綺麗な部屋を汚す存在がいます。……そう、私です。

 

 私が歩く度に服についた砂埃が部屋を汚していきます。部屋が綺麗な分余計に目立っちゃっています。ヘリに乗る前にある程度の汚れは落としたつもりでしたが……どうやら私が思っていた以上に汚れは残っていたようです。

 

 「あの、すいません……こんな格好で部屋に入っちゃって、しかもそれで部屋を汚して……」

 

 「もう、少し汚れた程度で咎めたりしないわよ。汚れたならまた綺麗にすればいいだけじゃない。……それと、部屋を綺麗にすることよりも、まずは貴女を綺麗にすることの方がさーきっ♪」

 

 「えっ、わわっ!」

 

 そう言ってサクヤさんは私の手を引っ張り脱衣所へと連れ込みます。そして、そのままの勢いでサクヤさんは有無を言わさず私の服を剥ぎ取っていくのでした。

 

 ウサミミと尻尾がついたコート、キャミワンピ、質素な下着と縞々ニーソを一気に剥ぎ取られ、気づけば私は生まれたままの姿に。あっという間に脱がされてしまいました……

 

 私から剥ぎ取った衣類をまとめていくサクヤさん。一方、現在進行形で裸体を晒している私はと言うと……未だに服を脱いだ場所から動かず、立ち呆けていました。

 

 「……」

 

 「あら? どうかしたのかしら?」

 

 いつまでも浴室へと入らずにいた私にサクヤさんは気づき、どうしたのかと声をかけてきます。そんなサクヤさんに、私は口をもごもごとさせながら答えるのでした。

 

 「いえ、あの、その……」

 

 「……あ、もしかしてお風呂の入り方がわからないとか?」

 

 「そ、そういうわけではないのですが……」

 

 「なら早いうちに入りなさい。そのままだと風邪を引いちゃうわよ?」

 

 「で、でも……」

 

 「もうお風呂は湧いてる筈だし、服はこっちで洗っておくから入っちゃいなさい。ここまで来て、遠慮なんて今更よ?」

 

 「……はい、ありがとうございます」

 

 「ふふっ、どういたしまして。それではごゆっくり」

 

 その会話を最後に、サクヤさんは脱衣所から出て行きました。

 

 「…………」

 

 サクヤさんが出ていくのを確認した私は、少し間を置くと恐る恐る浴室へと入っていきます。

 浴室に入った私は湯船を前にして、まず近くに備えつけられていたシャワーを手に取り身体の汚れを落としていく。石鹸やシャンプーなども気にせず使ってと言われていますので、心の中で感謝を告げながら必要最低限の量を使って身体を綺麗にしていきます。

 

 その時、浴室に備え付けられていた姿見で改めて自分の姿を確認します。

 

 身長は大体150㎝……もないですね。それよりも少し小さめです。

 髪と瞳は以前に確認した通りのもの。強いて言うなら洗ったことで、白黒の髪に艶が増したぐらいですかね?

 全体的にほっそりとした身体つき。胸は……ほとんどないと言っていいですね。まぁ仕方がないのでしょう。今の私の年齢はわかりませんが、多分歳相応のサイズだと思いますし、別に私はサイズにそこまでこだわりはありませんし。

 肌にはこれといって大きな傷痕などはありません。交じりっ気のない白肌ですね。水分を得たことで肌に少し潤いが満ちた感じがします。

 

 ……とまぁ、私の姿はこんなところですかね。奇抜な配色の髪以外は、何ともまぁ面白味の無い身体です。

 

 そうして改めて自分の姿を確認しつつ、隅々まで身体についた汚れを洗い流した私は……湯気が立ち昇る浴槽に()()()()()()浸かるのでした。

 

 

 「ふあああぁぁぁぁぁ~♪」

 

 

 湯船に浸かった瞬間、そんな気の抜けた声が私の口から上がってしまう。

 表情を綻ばせ、気の緩んだ顔を晒しながら湯船の中で全身を可能な限り伸ばし、張り詰めた気持ちをほぐしていく。

 

 ここで一言。

 

 「お風呂……サイコーですぅ……♪」

 

 ……この時の私は、"遠慮"と言うものを完全に忘れ去っていたのでしょう。

 というのも、直前までお風呂を借りることに躊躇いを感じていた私ですが……いざ目の前にお風呂があるのを視認した途端、我慢の限界を迎えました。

 実のところ、脱衣所で立ち尽くしていたのも今か今かとうずうずしていただけでした。形ばかりの謙虚さを示したところで、心には嘘を吐けません。どうやら私は自分が思っていた以上にゲンキンな性格だったようです。意固地なまでに遠慮しておきながら、目先の誘惑に対してのこの手のひら返し……自分の浅ましさに恥ずかしい限りです。

 

 でも、抗えません。

 恐るべしお風呂の誘惑。まるでそれは冬場のお炬燵、お布団と同等の吸引力です。逃れられません……っ!

 

 

 

 

 

 「……だからって、のぼせるまで浸かってる子がいるかしら?」

 

 「め、面目ないです……」

 

 ……はい、という訳で、調子に乗って長風呂した結果……のぼせました。

 長風呂にしてはあまりにも遅いとサクヤさんが様子を見に来てくれた時には既に手遅れでした。浴槽で目を回して項垂れる私の姿を確認したサクヤさんは、慌てて私をお風呂から引っ張り出し救出してくれたのです。

 そして現在、私はサクヤさんのベッドに寝かされております。服はサクヤさんが子供の頃に来ていたもので、花柄のパジャマを頂きました。

 

 「お手数おかけしてすいません……」

 

 「そう思うなら、次からは気をつけてね? 私がいたから大事にならなかったけれど、貴女一人だったら大変なことになってたんだから」

 

 「はい……次からは気をつけます」

 

 サクヤさんの言うことは最もなので、次が無いよう心掛けるようにしましょう。今回はタガが外れてしまいましたが、何事も限度が大事ですからね。

 

 ただ、のぼせたことを抜きにすれば、いい気分転換になったと思います。何せ先程まで悩んでいた事もスッカリ忘れて堪能してしまいましたからね。そのおかげで今の私は晴れやかな気分に満たされています。心も少し軽くなった気がしますね。

 今の気分を例えるなら、そう……抑圧されてた何かが解き放たれた感覚——なるほど、これがバースト状態というものですか!?

 

 「違うわよ」

 

 「あれ?」

 

 

 □□□□□

 

 

 あれから数分、体調が元通りにまで回復した私はサクヤさんからお下がりの服を数点頂きました。

 因みに服装は綺麗になった元の服に着替え直しています。どうやら私がのぼせて寝込んでいる間に洗濯も終わっていたようで、私のウサギコート一式(私の初期衣装の総称)は今や新品同様の輝きを取り戻しています。まぁ左耳の千切れた部分は直してませんが、これはこれで味があっていいでしょう。

 

 「お風呂に洗濯、それにおさがりも頂いちゃって……サクヤさんには頭が上がりませんね」

 

 「別に気にしなくてもいいわよ。困ったときはお互い様なんだから、助け合うのが当然なの。またいつでも来てね?」

 

 「はいっ、ありがとうございます!」

 

 サクヤさんの言葉に素直にお礼を述べる。なんだかお風呂に入ったおかげか、少し前向きな思考になった気がします。お風呂効果、侮れませんね……

 もしもこの先、また暗い気分になって私の悪癖が表立つようになったら、一度お風呂に入って頭をスッキリさせることにしましょう。その方が、なんだか上手くやっていける気がしますからね!

 

 「あ、まって、ウサギちゃん。ちょっといいかしら?」

 

 「はい? なんです?」

 

 サクヤさんから頂いたおさがりを両手に持って部屋を後にしようとした私でしたが、部屋を出る直前にサクヤさんに呼び止められる。

 何だろうと思って振り返ると、サクヤさんが何かを差し出してきました。

 

 「さっき貴女の服を洗おうとしたときなんだけど、貴女のコートの裏にね? 隠しポケットがあったの。そこに入ってたわ」

 

 そう言ってサクヤさんが渡してきたものは……封筒でした。

 グシャグシャに折れ曲がり、皺だらけとなった薄汚れた封筒。元は白色だったのでしょうが、砂埃のせいか所々が土気色に染まっています。

 そして、おそらくは入っているであろう手紙と、それとは異なる膨らみがある封筒に、私は不思議と目が引かれてしまいます。

 

 「……ごめんなさい」

 

 「え?」

 

 「こういうのはマナー違反なのはわかってる。でも、立場上無視することは出来なかったの。……先に中身を見てしまったわ」

 

 「っ!」

 

 私が封筒に目を奪われていると、サクヤさんが急に謝罪の言葉を溢してきました。

 どうやら私の許可なく中身を見てしまったことに、後ろめたさを感じて頭を下げてきたみたいです。ですがそれは……

 

 「……気にしないでください。当然のことですよ、身元もわからず記憶喪失だというなら、その手掛かりとなるであろう物を確認しない訳にはいきませんからね」

 

 「……汚い大人だって、幻滅したかしら?」

 

 「いえ、全く。寧ろ黙っていれば気づかなかったことを正直に言って、その上で頭を下げてくれたんです。立派な大人だと思いますよ?」

 

 「……ありがとう」

 

 申し訳なさそうに暗い表情を浮かべていたサクヤさんに、私は気にしないでと朗らかに笑いながらそう告げます。

 そうです。サクヤさんの行動は間違っていません。こう見えてサクヤさんも一人のゴッドイーター……軍人です。

 確かに()()()()私の記憶喪失の手掛かりとなるかもしれないこの封筒を、今後の為にも確認する必要があったのでしょう。

 それに加え、例え見た目が幼い少女でも……得体の知れない人物の持ち物を確かめない訳にはいきません。もしもそれが自分達に悪影響を及ぼす何かであれば、見過ごす訳にはいきませんからね。

 だからこそ、こんな私に真摯に対応してくれたサクヤさんに不満を持つなんてことはありえません。自身の立場と公私の分別をきちんと理解している立派な大人だと私は思います。

 

 「えっと……今、中身を確認した方がいいですか?」

 

 「出来ればそうしてもらえるかしら? もしもそれが貴女の記憶を呼び覚ますものだったとき、記憶が戻った貴女がどんな行動に出るかわからないから……」

 

 「それもそうですね、わかりました。……私に何かあった時は、すみませんがお願いします」

 

 「えぇ、任せて」

 

 サクヤさんに確認を取り、私は封筒の中身を取り出します。

 

 

 「……………………」

 

 

 ……封筒の中に入っていたものは、二つ。

 

 一つは二つ折りにされただけのシンプルな手紙。封筒同様にしわくちゃで、所々破れていますがどうやら中身は無事みたいです。

 

 もう一つは黒く縁取りされた白銀のドッグタグ。そこには何も刻印されておらず、唯一小さな擦り傷のみが伺えます。まるで刻印を打つ前に渡されたかのような真新しさを感じました。

 

 ……私は、そっと手紙を開いた。

 そこに記されていたのは、たった一言——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『君の行く末に光があることを、私は願おう』

 

 ——気づけば私は、涙を流していた。

 

 






 ウサギさん、お風呂の誘惑には勝てなかった模様。
 そしてラストに唐突なシリアス展開。手紙の主は一体誰……?


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