復活。
久しぶりに書くから主人公の口調がよくわかんね。
複雑な気持ちだった。
手紙に記された一文。私のこれからを案じるだけの一言に、私の心は様々な感情で満ち溢れていった。
最初はとても辛くて、悲しくて、寂しくて……そして、心細かった。
その手紙の送り主が誰なのかはわからない。名前も顔も知らないけれど……それでも、心が苦しくなった。
それは、なんとなく確信があったから。————もう
それが理由の一つ。涙を流した最初の理由。
そして、もう一つの理由は……
「これで、よしっ」
あれから一晩が経った。
今、私は身嗜みを整えていた。寝起きの為残っている寝癖を手早く直し、先日の内に洗濯しておいた服一式を身にまとう。後は細かなところをチェックしつつ姿見を見やれば、そこには埃やら汚れなどが落ちて綺麗になったウサミミコートを羽織る私の姿が映されていた。
「……見れば見る程、不審者ですね。私って……」
成人にも満たない幼い少女が、妙な身なりでアラガミが蔓延る場所を一人で徘徊していた。それだけならただの遭難者で済む話が、記憶喪失で身元不明という特異な事情によって少々話がややこしくなっているそうだ。
先日、サクヤさんから今の自分の立場を少しだけ教えてもらった。どうやら私が呑気にお風呂を堪能している間に
身元不明のせいで家族と引き合わせることも出来ないようですし、孤児院に預けるにしてもこのご時世、人一人増えるだけでも多大な負担が掛かるのは目に見えています。たった一人、されど一人。誰とも知れない赤の他人を養う程の余裕がないぐらい切羽詰まっている現状で快く受け入れてもらえるかと言われれば……まぁ言葉に詰まりますよね。
結論を言うと、今の私は経費や資源を減らすだけの穀潰しでしかないのです。
成り行きからこの場に留まっているものの、場合によってはすぐに追い出されるかもしれない危うい立場である。何かしらの理由で残留する可能性もあるかもしれませんが……そうなった場合、周囲からの視線は決して良好なものにはならないでしょうね。別に私は貴族でもなんでもないただの浮浪児です。そんな私が何もしていない癖に恩赦だけ受け取っていれば、周囲に不和をまき散らす原因にもなりかねません……
「何かの役に立たないと……ですよね」
現状、記憶喪失で身元不明の私が身を寄せられる場所は
私をここに留めておくに値する"価値"。私を手放すには惜しいと思わせるほどの価値が、今の私には必要なんだす。……まぁそんな都合よくあるとは思えないんですけどね。
「……頑張ろう」
何はともあれ、今はとにかく頑張るしかない。
目の前のことに必死になって、自分の価値を見出して、そうしてなんとかしていくしかありません。
不安は、勿論あります。目の前が真っ暗になるほどの大きな不安が。————でも、それに怯えて縮こまるだけじゃ、きっとダメなんです。
「大丈夫……やれる、頑張れる……」
目を瞑り、首に掛けた白銀のドッグタグを両手で優しく包み込む。すると、先程まで感じていた不安が徐々に収まっていった。
手紙と一緒に送られたドッグタグ。身に覚えのない、でも何故だかとても大切なものだと思えるそれを握り締めて————私は決意する。
生きるんだ。
生きて、そして自分の未来を掴むんだ。
私は————諦めない。諦めちゃ、ダメだから……
□□□□□
「やあ、キミがウサギ君だね? 初めまして、私の名はペイラー・サカキ。ここ極東支部にてアラガミ技術開発の統括責任者という立場のものだ。以後よろしく頼むよ」
「は、はいっ! モノクロウサギです! 変な名前でごめんなさい! 別に全然ふざけてないので許してください!!」
「いやいや、ユニークな名前で良いじゃないか。それに失礼だと思いつつも名乗るということは、それだけ気に入っているということなのだろう?」
「ぇ、えぇと……はい」
「なら、何も恥じることはない。個性というのは大事だよ? その者がその者たらしめる重要なアイデンティティさ。胸を張りなさい」
「は、はい! ありがとうございます!」
「————ただまぁ、これは私の考えであって、他の者が君の名を聞いてどう受け取るかはその者次第ではあるけどね?」
「上げて落とされましたぁ!?」
よくわからないけど確実に偉い立場の人に自分が決めた名前を言った瞬間、私は反射的に謝ってしまっていた。
いやだって、しょうがないじゃないですかぁ……ノリで決めたとはいえ一応自分の名前ですし、名乗らないわけにもいかないですし……でも普通に考えてふざけてるようにしか思えない名前ですよねコレ? ほら現に隣でツバキさんが呆れたような顔でこっち見てるぅ!!?
————早朝の決意から半刻後、ラボラトリにあるサカキ博士の研究室にて起きた一幕であった。
暫くして落ち着きを取り戻した私を確認すると、改めてサカキ博士は語り掛けてきます。
「さて、それでは本題に入るよ。まずは何故君がここに連れてこられたかというと、なんてことはない。メディカルチェックを受けてもらいたかったからさ」
「メディカルチェック、ですか?」
サカキ博士の口から告げられた言葉に私は内心で疑問を浮かべる。
メディカルチェック。簡単に言えば身体検査のようなもの。それをなんで私に受けさせようとしているのかでしょうか? 別にこれといって不調というわけでもないですし、何よりソレに費やす時間やら費用などを考えると……遭難者の自分を態々受けさせる必要性がわかりません。
そんな私の疑問を目敏く察したのか、サカキ博士は再び言葉を紡ぎ始めました。
「必要なことなのだよ。何せ君は経緯がどうあれ、アラガミが跋扈する危険区域を一人彷徨っていたことになるからね。それに加えて記憶喪失だ。もしも目覚める前に何らかの事態に見舞われていたとして、果たして君の身体は正常のままだと言えるかな?」
「それは……」
言えなかった。私が気付かないというだけで、実は内面化で何かしらの異常が起きているかもしれないと考えると、とてもサカキ博士の言葉を否定することは出来ませんでした。
「これは君自身の為でもあり、私達の為でもあるのさ。何の前触れもなく君の体に異常が起こり、それによって君の命はおろか、私達の身の危険に繋がるかもしれない。その原因にアラガミないしオラクル細胞が関わっていたとなれば尚更さ。……お互いに不安の種を残さないためにも、必要なことだと理解してもらいたい」
「……はい、わかりました」
サカキ博士の言い分は正しい。アラガミの細胞————オラクル細胞は未だに未知の部分が多大に残されているみたいですし、それなら何が起こっても不思議じゃありません。もしかしたら私の記憶が無いのもオラクル細胞が関わっているかもしれませんし、そういった可能性が僅かでもある以上、慎重に事を運ぶのは当然の帰結でした。
「あぁ、でもひとつ言わせてもらうと、此度のメディカルチェックはどちらかと言えば君の為のものだということを前提にしてもらいたい。決して君を危険視しているのではなく、君の身の安全を確認する意味合いの方が強い」
「……え?」
「だからそう深刻な顔をする必要は無いさ。不安にさせてしまったのなら申し訳ない。例え危険因子が見つかったとしても、君を見放すようなことはしないと約束しよう。それでどうか安心してはくれないだろうか?」
どうやら顔に出てしまっていたのか、私の不安を見変えてサカキ博士が言葉を補足しました。そこには確かな信憑性と何処か頼もしい力強さがあり……不思議と安心感がこみ上げるのでした。
「それじゃ始めようか。ツバキ君」
「……はい。では後のことは任せます」
そんな私の心持ちを察しているのか、サカキ博士は一度頷き、私の傍で今まで一言も話さずに控えていたツバキさんに言葉を投げかけます。それを受けたツバキさんは、同じく一度返事をした後私を残し退出するのでした。
……その際、ツバキさんは何だか「妙なモノを見た」と言わんばかりの顔を
「因みに、本来であれば昨日の内に済ませておくのがベストではあったけど、保護されたばかりの君に休みも無くメディカルチェックを受けてもらうには少々酷だと思ってね。心身ともに過大な疲労を残したままでは検査結果も著しくはないだろう。加えて幼い君に負担を強いてまで受けさせるのも、此方としても心苦しいものでね。それ故に一晩の休息を挟むことにしたんだ。ご理解いただけたかな?」
「そ、それはもう……なんだか余計な心配をかけさせちゃったみたいですいません」
お、おぉ……なんと言いますか、ここまで気にかけてもらえると余計申し訳なく感じてしまいます。
そうして私はサカキ博士に頭が上がらない思いでメディカルチェックを受けていくのでした。
□□□□□
「……やはり、か」
モノクロウサギのメディカルチェックは無事に終了した。
一先ずウサギは与えられた部屋に戻り、検査結果が出るまで待機。沙汰は追って伝えるとのこと。
そして肝心の検査結果————メディカルチェックを実施したペイラー・サカキは、得られた情報を自身の知識で補うことで……
辿り着いて、しまった。
「ヨハン、君は……」
暫く思考を巡らせた後、サカキは
通信はすぐに繋がった。————まるでサカキから通信が来ることをわかっていたかのように。
『何かな、ペイラー』
「単刀直入に言おう。……ヨハン、君は知っていたね?」
『ふむ……"知っていた"とは何のことか、聞かせてもらっても?』
「先日保護した子のことさ。君のところにも報告が行っているだろう?」
『あぁ、彼女のことか。……それで?』
「……あくまで白を切るつもりかい?」
サカキの声に鋭さが宿る。そこには数十年来に渡る友人に向ける気安さなどは無く、あるのは————
やがてサカキの剣幕に降参したとばかりに口元を緩めた
『……フッ。あぁそうだな。知っていたとも。
「……………………そうかい」
ヨハン————ヨハネス・フォン・シックザール支部長の肯定に、サカキは長い沈黙と簡素な返事をもって受け取った。
記憶喪失の少女。そんな彼女を
「
『まぁ多少、想定から外れた結果にはなったがね』
つくづく思い通りにはならないものだと自嘲気味に言葉を溢しつつ応えるシックザール支部長に、サカキは問う。
「……彼女も、ゴッドイーターにするのかい? ————
『勿論だとも。
さも当然だと述べるシックザール支部長に、サカキはこれで最後だと淡々と確認を取る。……
「————君は、"誰の子"に手を出したのか……わかっているのかい?」
『人類存続の為だ、ペイラー。例えこの身が地獄へ落ちようとも、私はそれを成さねばならん。……それが、あの忌まわしき事故を生き延びた私の"義務"であり"使命"に他ならない』
————その為の、必要な"犠牲"だ。
これ以上は時間の無駄だと早々に通信を切る支部長。サカキはそれを前に暫し硬直したままジッと通信画面を見つめ続け————
——————ガァアンッ!!
次の瞬間、ディスプレイに向けて無言で
「価値が見いだせそうだよ! やったねウサギちゃん!」←
早速どころか既に支部長にロックオンされていた模様。
尚、サカキ博士……?