リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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標的21 Fine(終息)

「・・・・・・・・知らない天井、つって」

 エミーリオはその場で静かに目を覚ました。

 真っ白い自分と同化するかのように白で埋め尽くされたなんとも殺風景な部屋だ。

 

 そこが病室であるらしいことはなんとなくわかった。

 

 白いベットに、まるで死装束のような真っ白い衣服。

 壁は白で覆われていて、清潔感があるといえば聞こえはいいが、なんだか不気味に感じた。

 唯一色のあるものといえば、部屋の隅に寂しくおかれた花瓶に指している花くらいのものだ。

「いつつ・・・・」

 所々どころか、全身を襲う痛みに耐えながら、彼はなんとか起き上がる。

「あん?」

 そして気づいた。自身の足にある違和感に。

「・・・すー・・・すー・・・」 

 なんだか重みを感じると思えば、そこで奇麗な寝息を立てている人物が一人。

 

 小野寺春。 

 

「なんでやねん・・・」

 

 思わず関西弁になるくらい彼は混乱していた。

 そこにいたのは紛れもなく彼女そのものだ。

 なぜ、彼女がこんな所で寝ているのか。そもそもなぜ自分は病室のベットの上なのか。

 湧き上がる疑問に明確な答えは得られない。

 なんとなく思い出せるのは、一条邸での出来事と眉間に銃弾を撃ち抜かれたこと。

 そして、その後に起こった自分の圧倒的力。

 あんな経験は初めてだった。戦場を手玉に取って、その優位性が揺らぐことはない。予想外の出来事が起きても、それを上回る予想外の出来事が自身に起こり。 

 けれどその力に驕ることはなく、常に頭が澄み渡っている。

 なんとも気持ちのいいものだった。

 なんてことを考えていると、不意に部屋の扉が開く。

「あら・・・・起きたの」

 出てきたのは花を持った風。驚いたというような顔ではなく、なんだもう起きたのか、という残念そうな表情だ。

「起きちゃ悪いかよ」 

「別に、そんなこと言ってないじゃない。性格悪いわよ?」

「おめえに言われたくねえ言葉堂々の第一位だよ」

 まったくもってあんな戦いのあった後だとは思えないほど、いつも通りな二人。

 そう戦いは終わったのだ。

「・・・・・」

「・・・・・」

 そして、会話は途切れ沈黙がやってくる。

 風は次の一言をどう発せばいいのか悩んで。方やエミーリオはその沈黙を意にも介さない。

 

「なんだおめーら。辛気臭いぞ」

   

「ぐはっ!!」

 

 そんな沈黙を破って飛びでてきたのは。

CHAOS(カオス)だな」

 

「てめぇ・・・」

 

 しっかりとエミーリオの顔を踏みつけて、無事床に着地したのはリボーン。

 飛んできた方向を見ると、天井裏がパックリと空いている。どうやらそこから飛び降りてきたらしい。

「今更なにしにきやがった」

「ふっ。今更・・・か」

「んだよ」

 意味ありげな視線を送るリボーンにわけがわからないエミーリオ。

「まあいい、どうせすぐにわかる」

「・・・・ああそう」 

 ここで追及しないあたりが、彼らしい。不服そうな顔は隠す気はないようだが。

「それよりも、知りたいんじゃねえのか?」

「なにをだよ」

「あの後、戦いの結末をさ」

 リボーンは帽子をクイと上げ、小さな笑みとともにエミーリオを伺う。

「けっ。何でも知ったような口ききやがって、てめえから聞くなんざ御免こうむるね」

 エミーリオはだがしかし、その提案を蹴っ飛ばす。  

「まあ聞け。あの後、六道骸が現れてからの話だ」

 六道骸。その名前を聞いて、ピクリとわずかながらに反応する。

「興味あり、ってか?」

「・・・うるせえな」

 先ほどとは、明らかに態度が違うエミーリオにリボーンは視線を送りながら続きを話す。

「あ、あの。私、外にいますね」

 そんな空気に気圧されたのだろう。確実に場違いな雰囲気を感じた風は、そそくさと病室から出ていこうとする。

 が。

「いや、いい。お前も聞いておけ」

 リボーンの静止に、風はそれ以上どうすることもできず。また、ちょっとはあの戦いがなんだったのか知りたいという気持ちがあったのだろう。

 扉にかけた手を放し、隅っこに佇んだ。

 そして、話は二日前に遡る——————————————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クフフ。予想以上の収穫です。君は十分、この僕にその力を見せつけてくれましたよ」

「六道・・・骸」

  

 突如として戦場に現れたその男。

 六道骸はいつも以上のその笑みを携えてやってきた。

「てめえ、何しに来た、ってう”おおおい!」

 スクアーロのその敵意も素通り六道骸は力を使い果たし倒れこんでいるエミーリオを抱きかかえる。

「いえ、ただ()()を回収しに来ただけですよ。キミに殺される前にね」

「ま、まって・・・あの子、ヘルリングを、持ってるわ」

 かろうじて残った意識で振り絞ったルッスーリアの言葉にスクアーロは大きく目を見開く。

 てっきり一条楽が持っているのだと思っていたが、これだからボンゴレ本部は信用ならない。

「ちっ!」「おや、やめておいたほうがいい」

 今彼を逃せば、また捜査はゼロに戻る。不自然なタイミングで現れた六道骸といい、信用ならない奴が多すぎる。

 ヘルリングはやはり、ヴァリアーが管理した方がいい。そう思い、剣の切っ先を六道骸へと向けるスクアーロだったが。

「予想以上にこの子が頑張ったようだ。今の君では僕たちには勝てませんよ」

 クフフと笑う六道骸に虫唾が走るほどブチギレそうになるスクアーロだったが、だが、また彼のいうことも正しいというのも心のどこかではわかっていた。

 予想以上に消耗し、予想以上に善戦された。

 結果的に勝利だったものの、現状を見ればそれも敗北に限りなく近い勝利だ。

 だがしかし、だからといってここではいそうですか。と逃がすわけにはいかないのである。

「ゴングチャンネル!」

「っ!?」

 いかないのであるが、完全に死角からの攻撃にスクアーロは攻撃を捌くことができない。   

「こい、つ!!」 

 かろうじて、仕込み銃で反撃したものの、肩から受けた傷はドクドクと痛々しいほどに血が流れていた。

「クフフ、では皆さんまた会う日まで、さようなら」

 霧に囲まれ、この場から去る準備を始める六道骸を誰も止められない。

 

 いや、いた。

 

 一人、この場で傷一つ受けず体力を消耗していない人間が。

 

 一人だけいた。 

 

「逃がさないよ」

 

「おや、そういえば君がいましたねえ。雲雀恭弥」

 

 並盛の最恐の風紀委員長、雲雀恭弥。

「君と殺り合うのは少々骨が折れる。また今度相手をしてあげますよ」 

 

「そりゃ残念だな。今なら俺も参加できるんだが」

 

 その声が六道骸の耳に届く。

 ゆっくりと振り返って、戦場に相対するのはアルコバレーノ、リボーン。

「まったく。次から次へと・・・」

 今日初めて、真剣さを灯すその顔はゾッとするほど冷たい。  

「ふむ・・・・まあ。いいでしょう。犬!」

「なんらぴょん?ムクロさま!」

「あっちに残っている千種とM・Mを拾って帰りますよ」

 そう告げると六道骸はおもむろに、リボーンに抱えていた荷物を投げよこす。

「さすがにこのメンツ相手では自分が逃げるので精一杯なので、ソレ。頼みましたよ」

 言いながら、六道骸は手にした三つ又の槍をクルクル回し、それと同時に右目の数字も高速で回転しだす。

「ちょっと。逃がさないって言ってるでしょ」

 しびれを切らしたのか、六道骸に突っ込んでいく雲雀恭弥。

 だが、それを読んでいたのだろう。先ほどから予め用意していた行動に六道骸は移る。

 飛んでくるトンファーをいなしながら。

 

「六道輪廻。畜生道」

    

「っ!!」

 

 足元からボコボコと無限に湧き出てくる蛇。その蛇たちに絡み取られ、雲雀恭弥は動くことができない。

「では、改めて。また会いましょう。そう、遠くない日にね」

 それだけ言うと、六道骸は去り際に。

「・・・クローム含めて、ソレの教育、よろしくお願いしますね。アルコバレーノ」

 そう言い残して、六道骸と犬は戦場から消え去っていった。

「・・・ロール」

「キュピ!」

 しばらくして、雲雀恭弥は自身の匣兵器のロールを使い蛇を駆逐する。 

 その際に、黒いスーツも所々が破けてしまったようで「・・・フン」トンファーを翻しながらもう用はないと、同様に戦場から立ち去っていった。     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな一部始終を、一番近くで見ていたのがポーラ・マッコイである。

 痛みと、けだるげと、朦朧とした意識の中でまだ意識を手放さないというのは彼女がまた、暗殺者であるというプライド、その一点のみだったであろう。

「おい!ポーラ!ポーラ大丈夫か!?」

「・・・つぐ、み」

 自分の名前を呼ぶ声、紛れもなく鶫誠志郎である。

(ひどい怪我だ・・・肋骨も、足も折れてる上にこの外傷。ポーラがここまでやられたのを私は見たことがないぞ・・・)

「あんた・・・なんでここに?」

「それは後で話す!それより病院!きゅ、救急車!救急車って・・・あれ?119?110?どっちだ!?」

 満身創痍な友人の姿にパニくる鶫。

「ま、って」

 そんな携帯を取り出す鶫の腕を、弱々しくけれど確かに遮るポーラの手。

「なんだ?どうしたというのだ?」

 遮る理由がわからずに、鶫は困惑する。

 素人目に見たってどう考えても、それは早急に手術が必要な類のケガだろう。一分一秒が惜しいこの時に、それを遮るほど大事なものなんて鶫にはわからなかった。

 すると、ポーラは。

「見届け、たいの」

「なんだって?」

 その理由を聞いても、やはり鶫にはわからない。

 見届けたい?一体何をだというのだろう。と。

「せめて、あいつよりも、長く」   

 この状況の、その中心にいるのは紛れもなく彼だ。

 その中心にいたいと思うわけじゃない。

 けれど、彼は。

 あれだけのことをやってのけたのに、自分は結局こうやってうずくまっているしかできない。

 その悔しさを、一秒でも長く刻み付けておかなければ。

 と、白い髪の彼女はそう思ったのである。

「・・・そうか」

 その意図を完璧に汲み取ったわけではないが、また鶫もその悔しさの一端くらいは味わうものとして、またポーラの友人として、その友人の気持ちを優先することにした。

「ただし、危ないと思ったらすぐに救急車を呼ぶからな」

「ええ・・・」

 そして、二人は戦場へと目を向ける。

 急速に収束していく戦場へと。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「・・・・さて、その剣、降ろしてもらおうかスクアーロ」

 アルコバレーノ、リボーンは自身の後頭部に突き付けられている切っ先を感じながら言葉を発した。

「う”おい!冗談じゃねえ!言ったはずだぜアルコバレーノ。てめえらのお気に入りぶっ壊すってな」

「ああ、確かに聞いたな」

「だったら!」

 そう言いかけて、スクアーロは口を噤んだ。

 なぜなら。

 

 

「だったら、殺し合いでもするか?」

    

 

 殺し合い。

 その言葉の重みは常人のそれとは比較にならない。

 なにせ、それを発しているのはこの世で一番殺しが上手い人物だ。

「・・・どうするきだ。ソレ」

 ぐぐもったような声で尋ねるスクアーロ。

「そいつは()()()()()()()()()()()()()?」

「・・・・・」

「エミーリオのことか?それともヘルリング」「に決まってるだろ」 

 間髪入れずに答えたスクアーロにリボーンは笑みを崩さない。

 あくまでも余裕、あくまでも優位な立場は変わらない。

「心配いらねえさ。ヘルリングはちゃんと俺の手で管理する」

「いいや、ヘルリングは危険な代物だ。二度と人の手に渡らぬよう封印したほうがいい」

「そんな方法が、この世界にあるとでも?」

 できるのならとっくにやっている。言外にそう告げて、リボーンはエミーリオを抱えたままこの場を立ち去ろうとする。   

「う”おおい!どこに行きやがる!!」

「病院だ。お前もさっさと行ったほうがいいぞ。その傷浅くねえだろ?」

「・・・・今は見逃してやる。次はねえぞ。う”おい!姿を見せろマーモン!」

「な、なんでわかったのさ」

 完全に幻術で姿を隠していたはずのマーモンを怒鳴りつけるスクアーロに、びびりながらもマーモンは木陰から姿を現す。

「てめえはルッスを運べ、俺はベル達に連絡をつける」

「えー、なんでボクがそんな金にならないこと・・・を・・・」

 スクアーロの鬼の形相に、段々と言葉尻を失っていくマーモン。やがて最後には渋々、ルッスをおぶって行くことにした。

 そして、茂みに消えていく際に二人は小声で話をする。

 

「てめえがここに来たってことは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

  

「まあ、概ねそうだね。ただし、奴さんも馬鹿じゃない。どいつが幻騎士なのかは会ってみないとわからないよ」 

 

 ただ、とマーモンは言葉を付け加える。

 

「幻騎士がこの並盛にいるってことだけは確かだよ」

 

「また並盛か」

 

 スクアーロは戦っていた時よりよっぽど険しい表情で。

 

「ここで一体なにをしようってんだ」

 

 戦場からまた一人帰還していくのであった。

 

 

 気づけば辺りは真っ赤に染まりカラスが叫び鳴く。

 

 

 夕焼けに照らされた戦場はこうして、終わりを迎えた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————————ということだ」

 リボーンの話をただ黙って聞いていた二人、いや、寝ている春も加えれば三人ではある。

「あっそう」

 自分が気絶している間にそんなやりとりが、なんて彼は微塵も感じない。  

 自分があの状態から生還した時点である程度の察しはつく。

 わからないのは。

「なぜ助けたりしたんだよ。アンタに僕を助ける義理なんかないだろ」

「俺はお前の家庭教師だからな」

「ほざけよ。教えてもらったことなんざ一つもねえよ」

「なんだ、拗ねてんのか」

「ざっけんな」

 質問した答えにはなっていないのに、リボーンは早々と話を切り替える。

「まあいいじゃねえか。改めて、今回の件で俺はお前の家庭教師だ。ケガが治ったら()()()()()()()

 これ以上なにを吠えても無駄と感じたのだろう。エミーリオはため息をつくばかりで、最早口答えするきにもなれない。

 そんなエミーリオを見て満足したのか、話は終わりだとばかりに「じゃな」と、扉を開いてリボーンは立ち去る。 

 

「リボーン君って、結局何者?」

 

 それまで黙っていた風がようやく口を開くが。

「俺が知るかよ」

 最強の赤ん坊、元、アルコバレーノ。橙色のおしゃぶりを持っていたのも今は昔の話だ。

 てか、リボーン君て、にあわねー。

「失礼、します」

 なんて思っていると、入れ替わるようにしてやってきたのはクローム髑髏。

 手に持っているのはお見舞いの定番。バスケットに入ったフルーツだった。

「起きて大丈夫・・・?」

「来たのか。・・・・大した事ねえよ」

 そんな二人をぱちくりと驚いたような目で見るのは勿論、風しかいない。   

「ちょちょちょ!」

 右の耳を引っ張り顔を近づける彼女に、しかめっ面で返す。

「んだよ」

「クロームさんといつ知り合ったの?あんた学校じゃ私たち以外しゃべらないじゃない」

「あー・・・」

 そういえば、学校では会話をしたことがなかった。する必要がなかったというのもあるが、両方とも、まあもともと積極的に人に関わっていくタイプじゃない。

「まあ、ちょっとな」

 説明するのもメンドイ、上手く躱すのもメンドイ。ので、適当に濁した。

「そ、そう」

 風もそれ以上は追及してこず、結果としてはよかったのだが。その時の風のなんともいえない表情が。驚いたような面食らったような、戸惑った表情が気になった。

「あんだよ」「い、いや」「歯切れ悪いな、言いたいことあんなら言えよ。いつもは言わなくていいことまで言うくせに」「なによ!ちょっと驚いただけでしょ!」

 そしてまた、口喧嘩へとヒートアップ。

「って違う!そんなことを聞きたいんじゃない!」

 風はどうやら、聞きたいことがあったらしい。両手をブンブン振り回して抗議を続けていた。

「あれなに!?」

「なにが?」

「あの時はパニックで気が付かなかったけど、よく考えたらあんな凄い爆発あって人が一人も来ないっておかしくない!?救急車とかパトカーとか野次馬とかもっと来るでしょ!?あんな住宅街なんだから!それに一条先輩の家の人も誰一人戦いがあったなんて知らないっていうし!笑われるし!家はいつの間にか修復されてるし!ってちょっと聞いてるの!?」

 矢継ぎ早に早口に、耳の近くで大声を出されたもんだからエミーリオは思わず耳を塞いで半分以上聞いていなかった。  

「あ、それ。私」

「はいい!?」

 すると思わぬ所から答えがやってきて、風は少々大きいリアクションで返してしまう。

「爆発と家は幻術で隠してて、家の人たちも幻覚を見せてたから・・・」

 あ、でも。家は本当にもう直ったよ。

 そんなことを真顔で返す目の前の少女にしかし不思議と彼女は納得できた。

 なにせ、あんな凄い戦いを。超人的なそれを目の前で見てしまったのだ。幻術だの幻覚だの言われてもピンときてしまう。

「・・・・ちょっと顔洗ってくる」

 頭を抱えて、フラフラと出ていく彼女にご愁傷様という気持ちはけれど全くない彼であったが、いっぺんに色々なことが起こって今まで普通の人として暮らしてきたのに参っているのは理解できた。

「私、変なこと言ったかな」

「さあな」

 じっと扉を見つめるクロームと、反対に窓を見つめるエミーリオ。 

「私、ちょっと行ってくるね」

「あ?ああー、そう」

 一瞬なんのことかわからなかったが、きっと風のもとに行くのだろう。 

 別にクロームのことよく知っているというわけではないが、それでも、それはなんだか珍しいことのように思えて。

 その背中を少しばかり、見つめたりなんかしてみたりして。

 

 

「・・・で、いつまで狸寝入りしてんだてめー」

 

 

「あいて」

 

 

 ポコッと春の頭をはたくエミーリオ。 

「えー、ばれてたの?」

 えへへとしまったという顔で春に、エミーリオは視線のみを返す。

「いやー、なんだか起きるタイミング失っちゃってさー」

 春はばつが悪そうな表情で、やがて、その表情は段々と湿り気を帯びてくる。

「・・・ありがとう」

 潤んだ瞳で、さて何を言われるのか。罵倒されるのか、それともなんでもないように無視を決め込んで話をするのか。

 そう予想していたエミーリオは驚いた。 

 まさか、感謝されるとは思ってもみなかったからだ。

「・・・礼なんて、そんな筋合いねえだろ」

「あるよ。だって、ちゃんと私たちを守ってくれたじゃん」

「お前らを守った覚えはない。俺はただ負けたくなかっただけだ」

 戦う覚悟を決めてから。その気持ちが揺らいだことはない。

 死んでいいとは思えても、負けていいとは思えないから。

「うん。でも、私どこも痛くなかった。そりゃ怖かったし、エミ君やポーラちゃんが傷ついているのを見て心が痛かったけど。私の体に傷一つついてない。それは二人が守ってくれたからだよ」

 だから、と春は言葉を続ける。

「ありがとう。生きててくれて」

 十全な笑顔で、心からの笑顔で、彼女は感謝を述べる。

 

「——————————————、」 

 

 けれど、彼には返す言葉が見当たらない。まっすぐな気持ちに返す、まっすぐな気持ちが彼には見当たらない。

 自分が生きていることに感謝などされたことなどないから。

 だから、言葉が出てこなかった。

「でも、もうあんな無茶しちゃダメ!ね?」

「・・・るっせーよ」

「あ、私、みんなを呼んでくるね。きっと心配してると思うから。元気な姿を見たら喜ぶよ」

「いいよ、別に」

「そんなこと言わないの」

 ね、すぐ戻ってくるよ。と春は軽快に皆を呼ぶべく病室を後にする。

 結局、ヘルリングは手元にないし、得たものなんて限りなくゼロに近い。

 が、もともと自分が持っているものなぞたかが知れている。

 それに、一時だけだが不思議な力の体験もすることができた。

 今回は何も失っていない。それだけで納得することにしよう。

 なに、自分を誤魔化し騙すのには慣れている。   

 だからまあ、とりあえず今は生きているという事実を素直に受け取るのも、たまにはいいかもしれない。

 そう彼は一人ごちて、この一件はようやくの終息を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い廊下、そこに人影が二つ。

「まさか、六道骸に雲雀恭弥まで出てくるとは。現実とは想定通りにはいかないものだ」

「いかがなさいますか?」

「スクアーロくらいは仕留めてほしかったが、まあいい。これでボンゴレ内部に亀裂が入ったことだろう。もともと、ヘルリングなどという代物に期待したことなど一度もないしな」

 言葉を発していた一人はそれに、と続きを口にする。

「面白い存在も見れた」

「彼のことですか」

「ああ、あの()()()()()()()()()()()()()()()()。調べる価値はあるだろう」

 

「おーい!橘ー!?エミーリオが意識取り戻したってよ!」

 

 廊下の先から聞こえてくるのは、男の声。 

 それに応えるべく、人影の一つは返事をする。

 

「はーい!楽様ー!今行きます!!」

 

   To be continued.

 

 

 




どうも!2017年ヴァージョン高宮です。
新年開けて一発目、ようやくヘルリング編が終わりました。
来月から新編突入!やったね!
ということでこれからもよろしくお願いします!  
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