リボーン×ニセコイ!-暗殺教室~卒業編~-   作:高宮 新太

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めだかボックス編
標的29「Mondo sconosciuto」(知らない世界)


 

「ここ・・・は・・・?」

 

 急な事態に、脳みそはまだ理解が追い付かない。

 こういう時はゆっくりと一つ一つ思い出しながら行くといいと、誰かが言っていた気がする。

 そう、確か俺は体育祭に出てわちゃわちゃとクラスメイトたちからもみくちゃにされていたのを逃げだしていたはずだ。

 そこでポーラに連れられて、沢田綱吉にあった。

「うん、覚えてる」

 どうやら記憶に齟齬はないらしい。

 あの意味不明な出来事も、しっかりと思い出される。

 十年バズーカで打たれた、そのことを。

「ということは、ここは十年後ってわけか?」

 改めて、そこで辺りを見回す。 

 どこかの地下空間だろうか。辺り一面真っ白で何もない。

 広さはそこそこのものがあるようだが、なんの用途かははっきりしない。

 そもそも、なぜこんなところにいるのか。

 これも沢田綱吉の差し金か、はたまた意味はないのか。

(いや、考えていても仕方がない)

 情報が少なすぎる今は、どれだけ考えたところで推測の域は出ない。

 ならば行動するしかあるまい。少しでも有益な情報を得るために。

「まずはここが十年後なのかどうかから調べねえとな。あれが本当に十年バズーカだったのか確かめたいし」

 そこの確証を得られなければ、エミーリオは動けない。

 

 なにせ信用も信頼も彼は沢田綱吉に対して抱いてはいなかったのだから。

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ」

 取り敢えず、エミーリオは自身がいる部屋を調べていた。

 ペタペタと壁を触っていき、扉の有無を調べる。 

 そして目覚めた当初から抱いていた懸念が段々と現実的になるのを彼は感じながら、やがて一番最初に目印として靴を置いた場所へと戻ってくる。

「おいおい、まじかよ」

 たらりと垂らした冷や汗が頬を伝って地面に落ちる。

 

「この部屋。扉がねえ」

 

 その、ただ一点のみの事実に肝を冷やしながら。

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく、彼は考えた。

 あの後何週もより丁寧に扉を探したが、やはりお目当てのものは見つからない。

「どういうことだ・・・ここに俺がいるってことは入ってきた入り口はあるはずだろう・・・」

 部屋の中央に胡坐をかいて、エミーリオはブツブツと現状を確認する。

「それとも塞がれたのか、なんで?一体だれが何の理由で?」

 現状確かなのは、自分が謎の部屋に密室で閉じ込められていること。ただそれだけだ。

「くっそ、一体全体十年後の俺は何をしたってんだ?」

 ここが十年後だと仮定するとして、こんなわけのわからんところに閉じ込められるほどのことって一体なんだ?

 それとも、自分からここに入ったということでもあるまい。もしそうならそれこそお手上げだ。

 ごろり、と堅い床に寝っ転がり天井を見つめる。 

 長いため息を一つついて、エミーリオは発想を変えた。 

 一旦ここから出ることは諦めて、自身の身の振り方について考えてみる。

「ここが十年後だろうがそうじゃなかろうが、結局何の目的か、それを知らなきゃ意味がない」

 あの沢田綱吉がわざわざ出しゃばってきたんだ。無意味なことをするような暇人でもないだろう。

 そこには必ず意味があり、目的がある。 

 だとするなら、やはりこの状況も無意味ではないはずだ。出るにしろ、出ないにしろ。

 と、そしてもう一つ。

「この謎のキャンディー、だな」

 カシャカシャと二度三度、振ってみる。

 キャンディーケースにはいった緑色の丸いそれは音を立ててこすれていた。

 これがなんなのか、あの一瞬で渡され説明も何もないのにわかるわけがない。

 だが、やはり先に言ったようにこれが無関係で無意味だとは思えない。もしそうだったらマジで一発殴る。

「今は、くっそ、信じるしかねえのか」

 歯嚙みしながらエミーリオはそう呟いた。

 ほかに持っているものはない。

 リングも匣兵器もない。せめてあの時、あのジジイから無理矢理にでもリングを受け取っていればよかった。

 今更ながらの後悔に苛まれ、また一つため息が出る。

 ため息をすると幸せが逃げるというのが本当なら、彼はこの瞬間にも大量の幸せを逃がしていることになるだろう。

「こんな手詰まりで、どないせーっちゅうねん」

 何もできな過ぎて寝ることしかできない。武器だって、一条楽と喧嘩した時に勢いで全部捨ててしまった。

 まったく、なぜあんな馬鹿なことをしたのか。己のことながらに理解できない。 

 そう、理解できなかった。なぜあんなことをしたのだろうか。体育祭のことも、喧嘩のことも、それもこれも。

 風のせいだ。あの少女が言ったことが未だに心から離れない。

 そんなことを考えながら、そう言えばここ何日寝てなかったことに気付き。

 

 瞼は沈み、意識は段々と自らの手から零れ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれあれあれぇ?ちょっとちょっと、もうお昼だっていうのにこの子ってば眠り姫は美少女だから許されるんだぜ?』

 

 ん?なんだ?

 あれから何時間が経ったのか、そもそもこんな部屋じゃあ今が何時で何時間眠ったのかもわからんが。

 そんな中でとてもじゃないが心地よいとは言えない、そんな眠りを声の主は妨げてくる。

 ぼーっとする目覚めのまどろみの中で、眩しさに目を細める。

 

『やあ。おはよう』

 

 黒髪に学ランの少年、人懐っこいようなそうでないような、何とも言えない笑顔を貼り付けたその少年。

 いつの間にいたのか、というかどうやってこの部屋に入ってきたのだろう。

 エミーリオの寝顔をしゃがんでのぞき込んでいたその少年は、おもむろに立ち上がって。

 

『君のことは聞いている。僕の名前は球磨川禊。大したことのないそこら辺にいる噛ませ犬だぜ☆』

 

 るんっ。

 と、ばっちり決めたキメ顔で彼は、球磨川禊はそういった。

「ああ、そうかい。ところであんた、どうやってこの部屋に入ってきたんだ」

 くわーっと、あくびしながらエミーリオは会話を試みる。

 目の前の球磨川禊はなんなのか、この部屋にわざわざ現れたんだ。そこらの通行人とはわけが違う。

 明確な意志と、目的があるのは火を見るよりも明らかで。

 

『おいおい、人に会う時はまず自己紹介だろ?』

 

「あ――――――――――――?」

 

 螺子。

 

 一瞬で、螺子が飛んできた。

 

 考える暇なく、避ける間もなく。

 

 エミーリオは串刺しにされた。

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

     

「・・・・・・がっ!?はっ!?はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

 なんだ?何が起こったんだ?今、確かに俺は螺子に貫かれて?

 一瞬の出来事過ぎて頭が混乱していた、しかし確かなのは混乱する頭は無事にあるということだ。

 確かに先程貫かれたはずの頭が。

 

『なーんてね!ウソウソ!怒ってないよ?』

 

 一瞬見せた最悪の笑顔から、今はまた貼り付けたようないい笑顔を見せている。

 その手には螺子どころかなにもなく、細い腕はとても人体を貫くような造りをしてはいない。

「・・・すんませんねえ。エミーリオ、エミーリオ・ピオッティっていうんですよ。俺の名前は」

 さっきのが何だったのか、そしてここがどこなのか。わからない以上無暗に敵は作るべきじゃない。

 状況判断くらいはできるんだ。こう見えても。

『うん!いい名前だ!よろしくね!』

「ああ・・・よろしく」

 その怖いような笑顔に、エミーリオは引きつったそれしか返せなかったが。

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、ここは一体全体どこなんだ?」

『おっと、そんなことも知らないのかい?』

 意外そうにそう煽ってきた球磨川禊は、それでもうんうん頷き丁寧に説明を加える。

 まるで知らないことを尊んでいるように。

『そうだね、ここがどこかという質問に馬鹿正直に答えるのなら、ここは箱庭学園。ちょっとばかし変な奴らが集まる学園さ』

 箱庭学園?当然だが聞いたことも見たこともない。

「あの部屋のことは知ってるのか?」

『知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らないなあ』

 イラッと、しないこともないが、その思わせぶりな態度に付き合うと話はいつまでも平行線だ。

 先の見えない暗い廊下を歩きながら、エミーリオは特技の一つ、感情をオフにして話を聞いた。

「つまり?」

『あの部屋には一度行ったことがあるからね。扉がなかっただろう?それは僕の仕業なのさ』

「アンタの?」

『うん!』

 明朗快活なその笑顔は嘘をついている風には見えない。

 この目の前に突然現れた男を全面的に信用するのもどうかと思うが、それでも今はそれにすがるしかないのだからしょうがない。

 騙されているのなら、そんときはそんときだ。

「てことは、俺にも会っているのか?」

『さあ?』

「曖昧だなあ」

『僕が見たときは、全身を拘束されて袋に入れられている状態だったからね、生きてるのか死んでるのか、そもそも人間なのかもわからなかったよ』

 ・・・なるほど、少しだけ理解できた。

 やはり、あそこは何かの収容所だったわけだ。

 十年後の俺は”何かがあって”そこに入れられていた。

 その何か、を、目の前を歩いている球磨川は知らないのか興味がなさそうだ。

『それじゃあ、これも知らないだろう?”フラスコ計画”』

「・・・当然、知らないな」

 摩訶不思議なその計画の名前には心当たりなんぞあるわけがない。

 もしかしたら、十年前の僕にしかできないことがあってだから飛ばされたのかとも思った。

 それなら合点がいくからだ。まるで、十年後の世界に飛ばされた中学生のころの沢田綱吉たちのように。

 だが、その計画の名前を聞いてもこの俺は何もわからない。

 と、なると、この線は薄くなる。

『じゃあ特別(スペシャル)異常者(アブノーマル)そして過負荷(マイナス)。ここら辺の言葉に聞き覚えはあるかい?』

「・・・笑っちまうほどねえなあ」

 一応考えてはみたものの、ボリボリと頭をかいてしまうほどにはその言葉たちに心当たりはない。

『うんうん、なるほどねえ』

 だがそんなエミーリオにも怒ることも呆れることもなく、球磨川はただ嬉しそうに頷くだけだった。

(気色悪いなあ)

 あまり人のことをそんな風に思ったことは興味がないという理由でなかった、エミーリオだが、この時人を初めて気持ち悪いと思ったかもしれない。

 そんなことには気づかず、エミーリオはそれでも会話は続ける。

「で、それはなんなんだ?当然、教えてくれるんだろう?」

 高圧的にも取られかねない(いや実際そうだった)が、それでも球磨川は喜んで答える。

『もちろん!持たざるものには慈悲の手をってのが僕のポリシーだからね』

 言葉だけを聞けば、なんたる善人だと辟易していたところだが。

 どうもこの人間の言葉を額面通りには受け取ってはいけない気がすると、ここ数分で既に思い始めてきたエミーリオである。

『そうだね、全部一から教えてあげてもいいんだけど。今は時間が惜しい。だから僕ら過負荷(マイナス)のことだけ、簡単にだけど説明してあげるね』

 んんっと、わざとらしく咳払いをしてからもったいつけてできる限り高慢に球磨川は高説し始めた。

『とは言っても過負荷(マイナス)ってのは、結構忌み名の通りでね。皆何かしら人に疎まれるような欠点を持っている人たちのことだよ』

 先ほど言っていた言葉の中で一際異彩を放っていたそれは、説明を聞いてもあまりピンとは来ない。

『ほら、例えば何をやってもダメな子っているじゃない?運動をやらせても、勉強をやらせても、友達の輪の中に入ろうとしても、何をやっても裏目。そんな出来ない子ってのが世の中にはいるでしょう?』

「それがアンタらだって?」

『いやいや、そこまで良くは言って無いさ』

 良くは?

 その言葉の端っこに怪訝そうな顔をしたエミーリオのことを見逃さず、球磨川は語る。

『さっき言ったろう?過負荷(マイナス)ってのはその名の通り”(マイナス)”なのさ。自分が出来ないだけじゃなくて、周りまで出来なくさせてしまう。自分がダメになるだけじゃなくて、周りまでダメにしてしまう。そういう連中のことさ』

 両手を広げ、とんでもないことを誇らしげに語る球磨川の顔は真っ黒に澱んでおり把握が付かない。というよりは”したくない”と言ったほうが正しいか。

「ふーん・・・」

 なるほど、概要はわかった。

 だが内容が分からない。

 なにせ、自分が何をすればいいのかその大事な部分が分かっていないのだから。

『それにしてもさ!君の格好もまた奇抜だよね!めだかちゃんや高貴ちゃんも奇抜だったけれど、君はそれとは違う意味でまた人目を惹く。なんだい?そんなに必死にキャラ付けしてお前主人公にでもなるつもりかよ』

 中傷と侮蔑、それを皮肉交じりに繰り出してくる球磨川にしかしエミーリオは屈さない。 

 そんなことはこの姿で生まれた時から受けてきた。

 

「それで最後にもいっこ質問なんだけどよ、さっきのあの螺子。なんだあれ?」

 

『・・・・・・』

 わざとらしく間を作って、球磨川は何かを考えている。

『うん、なるほど。今ようやく、僕がここに来た理由が分かったよ』

「はあ?」

 質問に答えてないのはお互い様だが、エミーリオはあからさまに不躾な態度だ。

『まあまあ、怒らないでくれよ。君も何も知らないようだけど。僕だってなんで君とこうして仲良く歩いているのかわかってないんだからさ』

 これも弱者の宿命だよね。

 なんてやれやれとかぶりを振りながら、球磨川は呟いた。

『そうだね、出口もそろそろだし。最後の質問にはちゃんと答えよう』

 廊下を歩いて、エレベーターに乗り、廊下を歩いて、階段を上り、廊下を歩いて、そして廊下を歩いている現在。どうやらちゃんと目的地には向かっているらしい。

 途中何度も球磨川をタコ殴りにして情報を吐かせようかと考えたが、あの螺子の一件がどうにもそれをためらわせた。

『さっき言った過負荷(マイナス)の話だけれど、あれにはちょっとだけ続きがあってね。突出した才能ってのは良くも悪くも周囲を巻き込むんだ。人はそれをスキルと呼ぶ』

「さっきのそれもそうだと?」

『そう、察しがいいね。ただ、スキルって呼ぶとなんか良さげな能力な気がするけど、僕らは腐っても過負荷(マイナス)。数学じゃあマイナスにマイナスを掛けるとプラスになるけれど、現実はそう単純じゃあない』

 やがて廊下は突き当り、大きな扉を球磨川が開ける。

 太陽光が一気に差し込んで、思わず眩しさに目を背けた。

『マイナスにマイナスを掛けたって、一緒に堕落していくだけさ』

 そんな眩しさの中で、その暗闇は。球磨川禊はただ、笑っていた。

『ようこそ箱庭学園へ。歓迎するよ。エミーリオちゃん』

「ああ、歓迎されるよ。球磨川禊」

 

 まだ、何もかもが分からない中で。

 

 ようやく、彼の一つ目が始まる。

 

 

     

 

 




どうも!約四か月ぶりの高宮です。
言い訳はめっちゃありますが、取り敢えず月一更新をこれからは守っていこうと思います。
物語もようやくやりたいとこまで来たんでね、時間かかっても完結まではいきます。
というわけで次回もまたよろしくお願いいたします。

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