空を裂くような悲鳴で目を覚ました、だがそれだけではない、よく聞けばあちこちから、老若男女の怒号とも悲鳴ともとれる喧騒が外から聞こえてくる、何か異常な事態が起きていることは確かだが、しかし、目覚めたばかりの薄ぼんやりとした頭では、それに対する反応も鈍く、ただぼんやりと寝床を抜け、戸口に足を運ぶことしかできなかった。
この暢気さ、というより鈍さは、寝起きという点だけでなく俺の性格でもあるが、そんなぼんやりとした思考は目の前に広がる惨事を目の当たりにしたことで一瞬にして凍りついた。
村が燃えていた
あらゆる場所から火の手が上がり、大地は夥しい量の血で染まり、辺りには誰とも知れない屍が点々と横たわっている、いや、少し違う、その点在する屍の内二つには見覚えがあった、いや、これも少し違う、それはもう見覚えというより、確信をもって言えた、だって見間違えるはずがない、あの後ろ姿は、あの優しげな瞳は、俺の父と母だ。
壁にへたりこんでいる母を父が守るように覆い被さっている。
その場面はまるで、昔みた劇のようで、二人とも演技をしているのではないかと逃避的に思うのだが、父の胸部を貫通し、その下の母の腹を突き破っている一本の槍が、その傷から流れ出たであろう多量の血溜まりが、周囲の地獄のような風景が、これは劇などではなく現実であると示していた。
ふと、母の視線が玄関先で呆然と突っ立っている俺のほうに向いていることに気がついた。
もうけして動くことはないその眼差しは、いつもと同じでどこまでも深い優しさと芯に聡明さを秘めていた。
しかし、その目を湛えた顔は、すでに死人のもので、かつてのいつもはもう永遠に来ないことを無慈悲に宣告している。
パカリッという馬の蹄の音で俺の凍りついていた意識は砕けた。
すると目の前に馬に乗った「人」がいることに気づいた。
闇の暗闇と炎の逆光のせいでそいつの顔は暗く、見ることは叶わなかったが、だが、そいつがとても巨大で、それに、とても強大であることは本能的に理解できた。
不思議と逃げるという気持ちは起きなかった、というのも、こいつからは逃げることなどできないと、瞬時に悟っていたからだ、それこそ本能的に。
そうして、俺がなにもできないでいると、そいつは声の一つもたてず右手に持つ一振りの刀を振り上げた。
ああ、斬られる。
そう思ったそのときにはもう俺は左肩から右脇腹を深々と切り付けられていた。
俺は血を吐き、膝を曲げ、地に倒れた。
寒い、血がどくどくと流れ出て、身体中から血と体温が急激に失われていく。
やけつくような痛みとは対照的に眠気にもにた感覚が意識を襲う。
そうして薄れ行く視界の隅で何かが動いた気がした。
そいつは百足だった。
細長い体にテカテカとした甲殻、凶悪そうな牙と、数えることが億劫になる数の足を波打たせてどこかへと向かっている。
俺はその百足を見てどこか滑稽な気持ちで思った。
俺はここで死ぬ、まるで虫けらのように、なのに目の前にいる本当の虫けらが生きていて、人間である俺が死ぬというのはおかしい、だからお前が死ね、虫けらのように死ぬのは虫でいい、人間は人間のように生きるべきだ、と。
視界はもうほとんど暗闇で、意識も朦朧としているなかでも、自分が今思ったことが支離滅裂としていることはわかっていた、だがそれほどまでに、生きたかった、両親は死んでしまったが、俺には妹がいる、6才の頃、その才能を買われ、遠方へと行ってしまったが。
しかし、その願いは叶うはずもなく、俺は次第に死のまどろみへと沈んでいった。