一人称ものの練習と前に友人が「この設定で書いてみて」と頼まれた事があったので投稿してみました。
連載するとすればシリアスなんてほぼない物語の予定です。

簡単なあらすじ。

記憶を失った少年が竹林の中で今泉影狼さんに会い、2人が知り合いを増やしつつ幻想郷の色々な場所に赴くといった内容の予定でした。

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ここは誰? 俺は何処?

 

――痛みで、目を醒ます。

 

 ……ここは、何処だろうか。

 周囲を見渡すと、草木が広がっているのが見える。

 自分が倒れていた場所は、小石や土にまみれた獣道、周囲に人影は見当たらない。

 

「痛っ……」

 

 全身から、小さくも鋭い痛みが走った。

 すぐさま視線を自身の身体に向けると、身につけている白の何の柄もないシャツや藍色のズボンの至る所が、赤黒く染まっている事に気づく。

 どうやら出血しているようだ、そういえば頭もクラクラするな……。

 だが、俺は何故こんな怪我を……?

 

「あ、見て見て! 人間があんな所に居るよ!」

「ん……?」

 

 幼い少女の声が聞こえ、周囲を見渡すが……声は聞こえども姿は見えず。

 空耳かと思いながら何気なく空を見上げ――絶句した。

 

――人が、空を飛んでいる。

 

 齢十にも満たぬ小さな女の子2人が、俺を見下ろしながら宙に浮いている。

 両方ともワンピースと呼ばれる衣服に身を包み、背中には小さな羽根のようなものが生えていた。

 ……俺は夢でも見ているのだろうか、そう思いたくなるほどに目の前の光景は信じ難いものだった。

 

「ねぇ、やめようよ? 人間に悪戯ばっかりしたら巫女に狙われるよ?」

「何弱気な事言ってんのよ、バレなきゃ大丈夫だって!」

 

 何やら、随分と物騒な事を考えているようだ。

 赤髪を短く切り揃えた女の子が隣の白髪の女の子をやんわりと止めようとしているようだが、もう1人は聞く耳を持たず視線を俺に向けている。

 嫌な予感がする、一刻も早くこの場から離れなくては。

 立ち上がる、その際にまた身体に痛みが走ったが我慢できないわけではなかったので無視する。

 

「あ、ちょっと何逃げようとしてんのよ!!」

「くっ………!」

 

 気づかれた、とにかくすぐに逃げないと……!

 全速力で走ろうとして、俺はすぐ傍に落ちていた鞘に入った刀を視界に入れる。

 これも俺の持ち物なのだろうか、それはわからないが護身用として頂戴する事にしよう。

 左手を伸ばし刀を素早く拾い、俺は全速力でその場を逃げ出した。

 

「待ちなさいよ!!」

 

 冗談じゃない、待てと言われて待つヤツが居るものか。

 相手は小さな子供、だがそれはあくまで見た目でしかないと本能が訴えている。

 だから俺は脇目も振らずに逃げ出した、傍から見ると情けない事この上ないが逃げ出したいと思ったのだからしょうがない。

 舗装されている道ではなかったが、幸い黒い靴紐がある運動靴を履いていたので難なく走れる。

 

 とはいえ、一体この後どうする?

 ここが何処なのかわからない、後ろから飛んで追いかけてくるあの羽根の生えた小さな女の子達が何者なのかもわからない。

 このまま逃げ続けるのはきっと無理だ、どうも俺は運動が苦手なのか既に息が切れ始めている。

 

「ハァ…く、そ……っ」

 

 少しずつ縮められていく、お互いの距離。

 追いつかれる、そう思った矢先――視界の隅に、竹林が見えた。

 奥は暗く、生える竹はどれもこれも八メートルはありそうなほど高い。

 だがこの状況では好都合だ、ここへ入れば後ろの女の子達もおいそれと追いかけて来れないだろう。

 そう思った俺は方向転換し真っ直ぐ竹林の中へと飛び込んだ。

 

「あっ!!」

「まず……っ!」

 

 後ろからそんな声が聞こえる中、俺はただがむしゃらに走った。

 走って走って……必死になり過ぎていたのか、足が縺れて勢いよく倒れこんでしまう。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 肺が苦しい、呼吸を整える事ができない。

 すぐに立ち上がろうとしても、膝が笑ってそれも叶わない。

 このままじゃ追いつかれる……焦りが俺の中でどんどん大きくなるが、そこで俺はある事に気づく。

 ……いつの間にか、俺を追いかけていた女の子達の姿が無くなっている。

 どうやら上手く撒けたようだ、なので俺は逃げるのを止め呼吸を整える事に専念を……。

 

「ハァ、ハァ、ゲホッ……あ、れ……?」

 

 だが、いくら時間が経っても乱れた呼吸は戻ろうとせず、それどころか荒れていく一方だった。

 それに起き上がろうとしても力が入らず、視界もぼやけていく。

 一体なんで、そこまで考えて……俺は自分が怪我をしている事を思い出した。

 どうやら今の俺の身体には血が少々足りないらしい、だというのに全力疾走したのだからこうなるのは当然だ。

 でも、こんな所に居たらいずれ見つかってしまう、急いでこの場から、離れ、ない、と……。

 

 けれど、俺の身体は一向に動いてはくれず。

 俺の意識はそのまま薄れていき、抗う事もできずに意識を手放してしまった……。

 

 

 

 

「……んん?」

 

 竹林を歩く、1人の少女。

 手首まで隠れる長さの赤・白・黒からなるドレスに身を包み、少々赤みがかったストレートの髪、頭部に生えた狼の耳が生えている。

 この少女の名は今泉影狼、この“迷いの竹林”に住まう狼女と呼ばれる妖怪である。

 竹林を散歩していた彼女だったが、ある匂いを嗅ぎ取りその足を止めた。

 

「……血の匂い?」

 

 狼の特性を持つが故に、彼女は人間に比べ嗅覚に優れている。

 故に遠くの匂いも嗅ぎ分ける事ができ、影狼は少し躊躇いながらもその場所へと向かう事にした。

 彼女が嗅いだ血は人間のもの、だとすると助けてあげなくては可哀想だ。

 そんな妖怪にしては珍しい善意の考えを持ちながらその場所に向かった彼女の視界に、倒れたまま動かない一人の少年の姿を映った。

 

 何の柄も入っていない白いシャツと藍色のズボンで身を包み、短く切った黒髪を持った十代後半ほどの見た目。

 左手には鞘に張った三尺ほどの刀が握られており、気を失っているのか瞳を閉じたままピクリとも動かない。

 どうやら血の出所はこの少年で間違いないらしい、影狼の嗅覚がそう訴えていた。

 

「ど、どうしよう……とりあえず、このままってわけにはいかない、よね?」

 

 この竹林には自分のような妖怪が住んでいるし、その中には当然人間を食糧としている妖怪だって存在する。

 放っておけば間違いなく喰われてしまうだろう、それがわかっているのに見捨てるというのはさすがに目覚めが悪いし、そもそも怪我をしていると思ったから血の匂いを辿ってきたのだ。

 ただ、まさか男だとは思っていなかった影狼は困ってしまう。

 彼女は元々妖怪の中ではかなりおとなしく、極力人間とも関わろうとはしない。

 同姓ならばともかく、異性の人間を助けるというのは彼女にとってそれなりの勇気が居る行動であった。

 

(でも怪我してるし、永遠亭……まではちょっと遠いから連れて行けないとしても、せめて手当てぐらいしてあげないと……。

 だ、だけど人間の……しかも男を助けるなんて、抵抗が……)

 

 うんうんと悩む事数分、結局影狼は躊躇いながらも少年へと手を伸ばし……そのまま担ぎ上げてしまった。

 見た目は華奢な少女でも妖怪、人間1人くらいならば担いで運べるほどの力はある。

 しかし、今の影狼の顔は赤く染まり上がっていた。

 

(さ、触っちゃった……男の人に、触っちゃってる……!)

 

 羞恥心が影狼の中に生まれていくが、それを必死で振り払いつつ彼女は急ぎその場を離れる。

 なるべく揺らさないように、けれど早く離したかったからその足取りは素早いものであった。

 

 

 

 

「………うっ………」

 

 なんだ、この匂い……。

 僅かに香る香水と、獣の匂い。

 だんだんと意識が戻り、半身を起き上がらせると、俺は木造の小屋の中に居た。

 桶や毛布といった必要最低限のものしか置いていない、掘っ立て小屋と言った方が正しいかもしれない。

 

「あ、き、気がついた?」

 

 まだ視界がぼんやりとする中、誰かに話しかけられた。

 声からして女の子のようだ、頭を何度か横に振って視界を元に戻してから、俺は声の主へと視線を向け……固まってしまう。

 予想していたように、声の主は女の子と呼べるような少女だった。

 それもかなりの美少女、身に纏ったドレスと少しだけ赤みがかった長いストレートの黒髪は、そこらの男など簡単に魅了できるほど綺麗だ。

 しかし俺は違う意味で女の子から視線を外す事ができなかった、その原因は――少女の頭に生えた獣の耳と、お尻の近くから伸びる柔らかそうな尻尾のせいである。

 

「…………」

「え、えっと……言葉、通じる、よね?」

「あ、ああ……通じてる、けど……」

 

 上手く言葉が出てこない、女の子の困惑した表情はとても愛くるしい……じゃなくて。

 なんだあの耳と尻尾は、あれがコスプレってやつだろうか。

 だけどさっきから忙しなく動いているし、まさか本物……?

 

「あの、さ。ちょっといいかな?」

「な、何かな?」

「えっと……その、その耳と尻尾、本物……なわけ、ないよね?」

「えっ? 本物だけど?」

「――――」

 

 あっけらかんと、「何言ってんの?」と言わんばかりの表情を浮かべたまま答えを返されてしまった。

 ……いやいやいや、そんなのありえないって。

 どこの世界に獣の耳と尻尾が生えた女の子が居るんだ、きっと今のはこの女の子なりの冗談に決まってる。

 

「冗談、だよね?」

「えっ? 冗談じゃないけど?」

「――――」

 

 またしてもあっけらんと、しかもちょっと呆れ気味に返された。

 あれ? もしかして、俺の方がおかしいの?

 こんな質問した俺の方が間違ってるの? でも獣の耳と尻尾が生えた女の子なんてこの世に居る筈が……。

 

「……もしかして君、“外来人”なの?」

「外来人?」

「私も詳しくは知らないんだけど、“幻想郷”じゃなくて“外の世界”で生きる人間の事をここでは外来人って呼ぶの」

「幻想郷? 外の世界?」

 

 女の子の言っている事がわからず、オウム返しに訊ねてしまった。

 すると女の子はそんな俺に、ここは幻想郷という人間と妖怪と妖精と神様が暮らす世界だと言ったが……当然、俺はポカンとしてしまう。

 ちょっと待て、妖怪とか妖精とか……しかも神様? そんなの居る筈が無い。

 けれど女の子は嘘を言っているようにも見えないし、何より今思い出したが俺を追いかけていたあの小さな女の子達の背中には羽根が生えていたし、何より空を飛んでいた。

 

「あのさ、また質問なんだけど……俺、さっきまで羽根が生えた小さな女の子2人に追いかけられてたんだけど」

「あ、それは妖精だよ。悪戯好きの困ったやつらで、時々私も悪戯の被害に遭ったりするんだ」

「…………」

 

 待て、一旦落ち着け俺。

 今までの話を整理すると……ここは幻想郷と呼ばれる世界で、目の前に居る女の子は人間じゃなくて、さっき俺を追いかけていた女の子達は妖精で……。

 あ、ダメだ。整理すればするほどわけがわからなくなっていく。

 おもわず頭を抱えてしまう、すると女の子が心配そうな声色で話しかけてきた。

 

「えっとね、時々こういう事ってあるらしいよ? 私は初めて見たんだけど……」

「…………」

「その……元気、出して?」

 

 少し尻すぼみになりながら、けれど確かな優しさを込めて女の子は俺に慰めの言葉を送ってくれた。

 ……正直、まだ頭は混乱している。

 でもこの女の子は見ず知らずの俺をここまで連れてきただけでなく、こうやって俺の事を慰めようとしてくれている。

 その気持ちは素直に嬉しいし、その優しさには感謝すら抱く。

 

「ありがとう」

 

 だから俺も精一杯の感謝を込めて、女の子に言葉を返した。

 

「え、あ、ぅ………」

 

 すると、女の子は顔を真っ赤にして俺に背を向けその場にしゃがみ込んでしまった。

 更に両手で顔を覆い出し、「うぅ……」と小さな呻き声まで上げている。

 感謝されると思わなかったのか、それとも単なる恥ずかしがり屋なのか。

 どっちかはわからなかったけど、その姿は可愛くてつい小さく笑ってしまう。

 

「な、何が可笑しいのよ!!」

「わっ!? ご、ごめん……」

 

 赤い顔でがーっと怒鳴る女の子。

 眼前に彼女の口の中に生えている鋭く尖った牙が見えて、俺はおもわず謝ってしまう。

 こ、恐かった……噛み付かれるかと思った。

 

「そ、そういえばあなたの名前も訊いてなかったね、私は今泉影狼。狼女よ」

「今泉さん……でいいのかな?」

「別に下の名前で呼んでも構わないけど」

「い、いや、さすがに会ったばかりの女の子を呼び捨てにするのはちょっと抵抗が……」

「…………女の子」

「?」

 

 どうしたんだろう、またちょっと今泉さんの顔が赤くなった。

 まあいいや、気にせずに今度はこっちの名前を明かさないと……。

 

「…………あれ?」

「? どうしたの?」

「…………」

「あなたの名前、教えてくれる?」

「うん……俺もそう思ってたんだけどさ」

 

 今の今まで、冷静に自分の事を振り返る事なんてできなかった。

 何せいきなり妖精とやらから逃げ出し、竹林の中で気絶して、狼女である今泉さんに保護されて……今に至る。

 なかなかに濃いイベントをこなしているな、だから今気づいたんだけど………。

 

 

 

 

 

「…………俺は、誰だ?」

「………………はい?」

 

 俺、自分の名前はおろか自分が何者なのかも思い出せなかった……。


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