みたいなノリをやりたかった。
アニメを見てから二人の戦闘を思い描いてました。
けど、思い出補正なのか、カズマに勝てるビジョンが見えないんですよね。
「君は一体……?」
「はぁ? 俺が誰だろうと、お前が誰だろうと関係ねぇよ。目の前に強ぇ奴がいる、それだけで戦うには十分だろう?」
「見覚えがないけど、《伐刀者》だよね?」
「あぁ? そんなもん関係ねぇよ。喧嘩だ喧嘩、お前が来ないなら、こっちから行くぜ!」
会話にならない男を前に、彼は困惑していた。
朝のトレーニングを終え、一息ついている所に突如現れた謎の男。ただの冷やかし目的であるなら、相手にはしなかっただろう。
しかし、強者と戦いたいという思いを理解できる彼は、男の挑戦を正面から受けて立つ。
「少し、落ち着こうか。ここでは満足に戦えないんだ、校則違反になってしまうからね。君さえよければ、訓練場で相手をするよ」
「ッチ、わーったよ。けどよ、訓練場でなら、本気を出すんだな?」
男は嬉しそうに、握り拳を前に突き出しながらニヤリと笑った。
「……勿論だよ」
彼もまた、挑戦者の闘志をその身に受けて笑った。
まだ知らぬ強者との戦いを喜ぶかのように、激闘の高揚を体現するかのように。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。僕の名前は黒鉄一輝」
「カズマだ。名字はねぇ、ただのカズマだ」
「カズマさ「カズマでいい」……カズマ。訓練場に案内するよ」
第三訓練場、朝の時間であっても、自主錬を行っている生徒も珍しくないのだが、この日に限って、そこには誰も居なかった。
「それじゃ、始めようか。固有霊装は幻想形態でいいよね?」
「はぁ? なに言ってんだ、それじゃ喧嘩になんねぇだろ」
カズマは一方的に会話を止め、実像形態で固有霊装を展開し始める。
固有霊装が彼の右腕を覆うと、髪が逆立つように反り返る。人差し指から順番に指を折り、拳が軋むほど強く握り締められた。
「来てくれ。《陰鉄》」
仕方なく実像形態で展開した陰鉄を構え、今にも殴りかかろうとするカズマを牽制する。
「へっ、そうこなくっちゃぁな!」
「レフェリーも居ないんだ、致命傷は避けるよ」
「知るかよそんなこと!」
カズマの立っていた地面が爆発したかのように轟き、一瞬で間合いを詰めた拳が一輝の顔面に襲いかかる。
「ッ!? 速い!」
一輝は己が油断していた事を恥じ、気を引き締めた。
「さっきのは、地面を殴って加速したのか。やはり彼は僕と同じ、身体強化の能力」
武器の形態はまるで違うものだが、二人の能力は伐刀者として最低の身体強化。
彼もまた、決して認められる事のない《落第騎士》と言うことだ。
「おらおらぁ! 逃げてばっかじゃつまんねぇぞ!」
「……まさか、僕以外に《落第騎士》がいるなんてね」
高速で繰り出される拳をいなしながら、一輝はカズマの力を認めていた。
才能は無くとも、努力のみで強者を目指す者の力を。
「なんだそりゃ、俺は難しい言葉はわかんねぇんだよ!」
大ぶりの一撃を一輝が弾き、二人は同時に距離をとった。
「模倣剣技を使うまでもない、君の動きは無駄が多すぎる」
相手の動きから全てを盗む一輝の十八番、しかし、カズマ相手には意味のない技。ただ目の前の敵を殴る、技術の欠片も感じさせない、純粋な暴力。
柔よく剛を制す、という言葉があるように、どんなに強力な力であろうと、卓越した技術があればそれを征することができる。
しかし、カズマの純粋すぎる暴力を前に、一輝は互角以上の戦いができないでいた。
カズマの暴力は、言うなれば無意識の殺意。達人の領域とも言える技を、本能的に扱う彼に、完全掌握は意味を成さない。
「これほどまでの力を持った伐刀者が居るなんて、知らなかったよ」
「あぁ? だからどうしたよ」
「けれど、君では僕に勝てないよ。ただの暴力じゃ、僕にはとどかない」
戦いの中で分析したカズマの力では、一輝を倒すどころか、一撃を届かせる事すらできない、そう結論付けた。
たとえ完全掌握が使えなくとも、カズマの攻撃は単純で大雑把。避けるのは容易い。
「見下してんじゃねぇぇぇぇぇ!」
爆発のような怒りの感情、その瞬間、カズマの魔力が跳ね上がる。
「力を隠していたのか?」
これがただの試合であったのなら、相手がただの伐刀者であったなら、一輝が力量を読み違える事など無かっただろう。
しかしその勘違いこそが一輝のミス。
「《衝撃のファースト・ブリット》」
カズマの背中が爆ぜ、獰猛な拳が一輝へと襲いかかった。
今までの比ではない威力の衝撃を受け、一輝の足が地面を削りながら吹き飛ばされる。
「なんて威力だ、ただの身体強化じゃ、こんな威力はありえないはず」
「へっ、とどいたじゃねぇか」
一輝が口端から流れる血を拭う。
これまでに出会った事のないタイプの強敵、底が見えない力。
「すまない、君の事を甘く見ていたみたいだ」
「ふっ、へっへへへ……。守ってばっかじゃ俺は倒せないぜ」
挑戦者が一転する。油断をしていた訳ではなかった、ただ、カズマという男の底が分からなくなった以上、一輝は彼に全力を賭けてみたくなった。
「僕の最強を以って、君の最強を打ち砕く!」
「派手に決めるぜぇ!!」
二人の魔力が跳ね上がり、一直線にぶつかり合う。
「《一刀修羅》」
一輝の陰鉄が魔力を帯びて薄らと輝きを持ち、力強い一閃となってカズマを切り裂く。
「《撃滅のセカンド・ブリット》」
カズマの拳が唸り声を上げるかのように軋み、回転を加えた一撃が一輝を貫く。
刀と拳が打ち合い弾け、衝撃が訓練場を揺るがした。
「さっきよりも威力が上がった? 魔力も行動も同じ筈なのに、本当に不思議な人だ」
「へへっ、楽しませてくれるじゃねぇか! 今は、お前を殴れりゃそれでいい!」
一分に全力を出す、一輝の一刀修羅。極限まで振り絞った魔力を込めた一撃でさえ、カズマと互角であった。
そして気付く、カズマの背中にあった羽のような飾りが減っている事に。
「もしかして、次が最後の伐刀絶技かい?」
「いいぜ、見せてやるよ。お前も限界みたいだしな、ここらでいっちょ、白黒つけようじゃねぇか!」
互いが距離をとり、最後の一撃に全てを込める。
「《第七秘剣雷光》」
「《抹殺のラスト・ブリット》」
己の全てを賭けて、目の前を強敵を打ち破らんとする二人の男。この勝負、どちらかが相手の一撃を避けるだけで決着はつく。けれど、それでは意味がない。
全力を以って相手の一撃に勝らない限り、本当の意味で勝ったことにはならない。
「今はただ、この人に勝ちたい、それだけだ!」
「もっと、輝けぇぇぇ!」
互いに打ち合った全力、空気が轟き、地面が唸り、訓練場の全体が軋むように響き渡る。
刹那の静寂の後、パキリと砕けるような音が空間を破った。
一輝の陰鉄にヒビが入り、砕け消えていく。
カズマの拳が割れ、バラバラと地面に落ちては消えていく。
互いの伐刀絶技は互角、けれど、余力があるカズマの方が、有利なのは明白であった。
敗北を悟った一輝は己の至らなさを悔み、目を伏せた。
拳を砕かれた驚きと、強者と出会えた喜びを受け、カズマの口角が吊り上がる。
そんな二人の元に、突然の来訪者が現れた。
「カズくん!」
「イッキ!」
二人の女の子の声が訓練場に届き、二人は声のした方へ同時に振り向いた。
「帰ってこないから探しに来てみれば、こんなところで何やってんのよ! 心配したんだからね……って、本当に大丈夫なの!?」
「ステラ、……ごめん」
「ほら、つかまって。……それで、この人は?」
倒れそうな身体をステラに支えてもらい、一輝はバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「ちょっとカズくん! 心配したんだからね!」
「だから言っただろう、強ぇ奴に会いに行くって、それだけだろ」
「もう! 人に迷惑かけちゃだめなんだからね!」
「わーったよ! もう帰るって!」
一方、カズマは身長の半分程度の女の子にヘコまされ、頭をかいていた。
女の子が一通り説教を終えると、一輝とステラの方へ向き直り、ペコリと頭を下げた。
「あの、すみませんでした。カズくんが迷惑かけてしまって」
「あ、いや、いいんだ。僕もいい勉強になったよ」
「ごめんなさい。ほら、カズくんも謝って!」
「あぁ? なんでだよ、いいだろ別に」
そんな押し問答を繰り返していたが、小さな女の子は諦めたように溜息をつき、カズマを引きずるように帰ろうとした。
「あっ、ちょっ、かなみ! 待てって!」
すこし慌てた様子のカズマだったが、最後に一輝の前に来ると、睨むように目を合わせた。
「……なまえ」
「えっ?」
「名前だよ! もう一回教えろ」
「あ、あぁ。黒鉄一輝だよ」
「一輝か、オッケー、刻んだ。今度はお前が俺を刻め、俺の名前を、カズマという名を」
今にも倒れそうな身体を無理やり立たせ、一輝はカズマへと向き直る。
「ああ、確かに刻んだよ。……カズヤ」
「カズマだ!! 間違うんじゃねぇよ!」
「あはは、冗談だよ。……できれば、また戦いたいな」
「へっ、次も負けねぇよ」
「次こそは、僕が勝つよ」
魂で握手を交わし、カズマはその場を後にした。
彼の背中が見えなくなると同時に、一輝は意識を手放した。
一輝が目を覚ますと、見慣れた天井と、見慣れた女の子の横顔がそこにあった。
「あ、気が付いた? もう、本当に心配したんだから。急に倒れちゃうし、状況がわかんないし、あの後理事長先生に説明しろって言われて、でもわかんなくて、んもー! 本当に大変だったんだからね!」
捲し立てるように詰め寄るステラをなだめ、事の次第を説明した。
「……と、言うわけで、よくわからないうちに戦う事になったんだけど」
「なんだか、わがままな人ね」
「それで、僕は……」
あの時ステラが来なかったら、あのまま戦いが続いたいたなら、負けていたのは一輝の方だった。
共に騎士の高みへ向かうと約束したにもかかわらず、負けてしまった事に引け目を感じているのだ。
「引き分け、でしょ」
「えっ?」
「私達が邪魔しちゃったんだし、あれは引き分け。それでいいじゃない」
それは、彼女なりの慰めだった。ステラ程の実力者なら、あの状況でどちらが有利だったか、解らない筈は無い。
騎士の高みに行く為に必要な敗北ならば、彼女は優しく包み込んでくれる。それが、一輝にはたまらなく嬉しかった。
「ありがとう、ステラ。……抱きしめてもいいかな?」
「ふにゃ!? ななな、なによ突然! ……許可なんて取らなくてもいいわよ、一輝は私のご主人さまなんだから」
身体に伝わる温もりを感じながら、さらなる高みへ向かう決心をするのだった。