やはり俺達のギャルゲー攻略はまちがっている。   作:ジョニー03

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「……良く出来てますね、このゲーム」

〜前回までのあらすじ〜

 

遊戯部の二人からギャルゲーのテストプレイを頼まれた。

電源をつけると、そのゲームのヒロインはほとんどどっかで見た顔だった。おのれ遊戯部許すまじ。

そして何故か四方を女子達に囲まれながら、俺比企谷八幡の戦い(ギャルゲー)が始まる……!

 

× × ×

 

『 1、雪ノ上と用事がある

2、由比ヶ峰に勉強を見てくれと言われている

3、家に用事がある

4、生徒会に呼ばれている

5、わかった、やろう!』

 

ゲーム画面には、五つの選択肢が表示されていた。いきなり多いな。

だがまあ、とにかくヒロインが多い事を推しにしているギャルゲーのようなので、沢山の分岐選択肢が必要になるのかもしれない。

 

さてさて、では俺比企谷八幡が選ぶ最初の選択肢を決めようか……。

黒髪ヒロインか、茶髪ヒロインか、まだ見ぬ生徒会長か、それともこの目の前のテニス男の娘か……。

 

「……まあでも放課後は家帰るよな」

 

俺は大して迷う事なくカーソルを3に合わせ……。

 

「待ちなさい」

「待って!」

「ストップです!」

 

……合わせようとしたら三方向からマウスを掴まれて動けなくなった。

カーソルはどこの選択肢にも乗らず画面の端をフラフラと漂っている。

 

「あなた、正気?普通ここで帰る選択肢は選ばないでしょう。私は良く知らないけど、これは女子と仲良くなるゲームなのでしょう?家に引きこもっててどう仲良くなるつもりなのかしらこの引きこもり君は」

「そうだよヒッキー!ここで帰るとかマジありえないしキモイし!」

「……ていうか、このテニス部のキャラ戸塚先輩っぽいんですけど先輩は適当に扱ってて良いんですか?」

 

雪ノ下が吹雪のような視線を右からこちらに向け、由比ヶ浜が左からむー……と力強い圧力をかけてくる。

一色は声こそ呆れかえっているようではあるが、マウスにかかる力は他の二人に負けず劣らずの量が込められていた。

 

「いや、あのキャラは戸塚をパクったにしてはなんか微妙でな……戸塚の魅力の半分も表現できてない。戸塚ってのはな、もっとこう……天使で……ふわふわしてて……キラキラしてて、ぽわぽわしてて、癒されて救われて二人で海沿いの家のベランダで笑い合いながら静かに会話して俺がそっと指輪を差し出して下の名前を……」

「あーはいはい戸塚先輩への愛は分かりましたから!そんな事より、いきなり帰宅は無しです無し!!誰か一人ヒロイン選んでくださいよ!!」

「そ、そうだよヒッキー!由比ヶ峰さん勉強わかんなくて困ってるんだよ!早く助けてあげなきゃ!」

「……え、なんで由比ヶ峰限定なん?」

 

俺が驚いて由比ヶ浜に聞くと、由比ヶ浜はお団子と胸をビクッと震わせて顔を逸らす。

 

「そ、それは……」

「……由比ヶ浜先輩……?」

「……由比ヶ浜さん。あなたがそういう手段で来るなら……私達も容赦はしないわよ?」

「うっ、だっ、だってしょうがないじゃん!!こういうゲームなら、その……期待するじゃん!!きっかけになるかなとか思うじゃん!!」

「……???」

 

由比ヶ浜がヤケクソ気味に何かを叫んでいるが、きっかけってなんのきっかけだ?というか今全員何の話をしているんだ?

 

「……ではこれからお互い、いえ、全員……」

「容赦無しということで良いですね……!」

 

一色と雪ノ下から謎の炎が燃えている気がした。由比ヶ浜はそれに一瞬怯むも、即座に立ち直り逆に二人を威圧しだす。

 

……この隙に家に帰る選択すっか……。

 

「「「甘いっ!」」」

 

三人が喧嘩していく内に3を選ぼうとしたのだが、流石に見逃してくれなかったようで、またしてもマウスごと右手を掴まれる。勘弁してくれよ……。なんでモデル本人の前でヒロイン攻略しなきゃなんないんだよ……。ぼっちエンドで行かせてくれよ……。

 

「あぁもう、わかったわかった!ちゃんと選ぶから手を離せ!」

「……」

「……」

「……」

「いや離せよ!」

 

何故か三人はまるでマウスを離さず、多方向から力をかけられたマウスカーソルはフラフラと画面の中心辺りを漂う。

その度にカーソルが選択肢に次々と重なり、1……2……3……4……3……2……1……とちょっとしたルーレット状態になっていた。

 

(……て言うか、これってひょっとしてこいつらがそれぞれ別の所に操作しようとしてるのか?)

 

「おい、お前ら……」

「黙って」

「良いからヒッキーは」

「マウスをクリックしてください」

「いや、おい……」

 

これもう俺の意思関係ないじゃねえか。完全にお前らの意思じゃんアゼルバイジャン。

……しかし、ここで俺はある事に気づいた。三人が鬩ぎ合う選択肢ルーレットの中で、主に揺れているのは1〜4の選択肢の間。

つまり、俺が選びたい『3、帰る』が間に入っているのだ。

 

これは俺の目押し技術が試される時が来たな……。

つまり俺は上手いこと由比ヶ峰の選択肢と生徒会の選択肢の間にカーソルが入った瞬間に人差し指を動かせば良いのだ。

 

……見ろ、白いカーソルの動きを。

……予測しろ。不規則に動く矢印の行く先を。

 

(そして掴み取れ、帰宅への未来を!!)

 

33333333333333333333……!

 

(111111111111111111……)

(2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎2‼︎)

(444444444444444444‼︎!!‼︎!!)

 

 

カチッ……!

 

 

× × ×

 

『八幡:すまん冨塚、今日は生徒会に呼ばれてるんだ。テニスはまた今度な』

『彩華:そ、そっかぁ……。じゃあしょうがないね。また誘うから、今度こそ行こうね八幡!』

『八幡:ああ』

 

「よっしゃあ!!」

「くっ……」

「うぅ……」

「ちくしょおおおおおおおお!!!」

「イヤなんで先輩が一番悔しがってるんですか!?」

 

俺の帰宅への願いは届かなかった……!

ちくしょう!どこまでも!どこまでも俺の願いを打ち砕く気かぁ!!いろはすぅ!!

 

「うぅ、そんなぁ……よりによっていろはちゃんなんてぇ……」

「よ、よりによってって酷くないですか!?」

「くっ、こんな事ならやっぱり私が生徒会長をやっておけば……!」

「今更そんな台無しな事言わないでくださいよ雪ノ下先輩!!」

「……ああ、帰りたかった……」

「……先輩の落ち込み方は最早意味が分かりません……」

 

一色が呆れきった表情で俺を見る。まるで養豚場の豚を見るかのような眼だ。可哀想だけど明日にはお肉屋さんに並ぶのねって感じの……。

 

「ばっかお前。俺の帰宅欲を舐めんなよ。いついかなる時も帰りを待ってくれる場所があったから俺は頑張れたんだ。俺の家マジあったかハイム」

「……私としては、その暖かい家とやらがあなたが混ざる事でどれ程涼しくなるのか気になってしまうわね」

「おいおい、俺の家を馬鹿にするなよ?俺程度の清涼剤がいても余裕で南国レベルで暖かいっつーの」

 

特に小学生だかの時に、教師に三者面談で『比企谷君はクラスで孤立してしまっていて……』ってバラされた後の母ちゃんとかマジあったかかった。暖か過ぎて眼から汗が出たレベル。

 

「自分が清涼剤なのは認めちゃうんだ……」

「純然たる事実だしな」

 

ああ、それにしても帰りたい……。

俺は早く幸せな家に帰りたかっただけなのに……。

 

「……ていうか、ゲーム内の先輩が帰った所で先輩の現実は変わりませんよ?」

「……あっ」

 

気にしないことにした。

 

× × ×

 

『恵里奈:せんぱーい!こっちですこっちですー!』

 

ゲームを進めていくと、少し気になる事があった。

 

「このヒロイン、一色さんみたいだけど名前が擦りもしていないわね……。どういう事なのかしら?」

「このヒロインの上の名前は?」

「芥川恵里奈(あくたがわ えりな)ちゃんだってー。これ、ホントにいろはちゃんと関係ないね。どういう事なんだろ?」

「……うーむ……」

 

俺は一旦集中して名前の由来を考えてみる。

適当という事も考えられるが、これまでの法則的に全く無関係という事は無いはずだ。

何か、何か無いのか?

 

芥川恵里奈……?

芥川、恵里奈……。

芥川、恵里……。

芥、恵里……。

 

「あっ」

 

ドリンク繋がりかよ。寒っ!

 

「え?ヒッキー分かったの?」

「ああ。分かったよ。超どうでもよかった。真面目に考えて損したわ……。ああもう、とっとと進めるぞ」

 

俺は「おしえてー、おーしーえーてー」と駄々をこねる由比ヶ浜を無視してゲームを進める。ええい鬱陶しい可愛い邪魔くさい。

 

ちなみに雪ノ下は一瞬ピクッと何かに気づいたかのように震えたかと思うと、そのまま突っ伏して肩を震わせていた。

ゆきのん、ダジャレに弱いのね……。

 

まあ、名前とか腕に当たるおっぱいの事とか放っておいてゲームだ柔らかいゲーム。雑念を捨柔らかいてて集中す柔らかいるんだ。……集、ぐにっと形が歪んだボールがヒットアンドアウェイで柔らかい柔らかい柔らかい……。中!!

 

よし、集中できたな!!

 

「……比企谷君。後でお話があります」

「……な、なんの事ですか?」

「自分の胸に……自分の腕に聞いてみなさい。……くっ」

 

女の子がくっとか言うんじゃありません。

 

× × ×

 

『恵里奈:先輩、最近女の子と仲良くしてますか?私が先輩が周りの女の子とどのくらい仲が良いか教えてあげますね!!』

 

台詞を幾つか消費して行くと、突然あくえり(今命名)がそんな事を言い出した。

 

……ちょっと待て、その台詞は普通ヒロインの台詞じゃ無いだろ。モテないけどハイスペックな親友ポジがやるべき役目だろ。

って、あっそうか。俺親友いないんだ。

 

『恵里奈:これが今の女の子達の先輩への好感度です!』

 

あくえりがヒロイン達の好感度が記されたメモを渡してくる。

そしてその中に、彼女自身の名前は無かった。

 

「これ、要するにこいつは攻略ヒロインじゃないって事みたいだな」

「えー、なんですかそれー……」

「(良しっ!)」

「(やたっ!)」

 

 

あくえりが渡してきたメモを良く見ると、幾つかメモに不自然な空欄が見て取れた。

どうやらまだ会ってないヒロインの欄らしい。今の所俺があっているヒロインは雪ノ上と、由比ヶ峰と、冨塚と……。

 

『雪ノ上 167

由比ヶ峰 138

冨塚 82

平月112 』

 

えっ、全員軒並み高っ!?

 

「おいおい、どうなってんだこれ……早速バグか?こんなもんもう堕ちてるも同然じゃねえかよ」

「……あ、先輩先輩。説明書に好感度の上限は400って書いてありますよー?」

「400ぅ?なんでそんな中途半端な……。まあ、兎に角バグじゃないってことだな。じゃあま、進めるか」

「そうですねー。……うん?これ、は……」

 

一色が説明書を見ながら動きを止め、「雪ノ下先輩、由比ヶ浜先輩、ちょっと」と俺から離れるように二人を呼ぶ。

二人が近づくと、一色はヒソヒソと何かを話し始めた。その声は当然俺には届かないため、気にせずゲームを進行して行く事にする。

 

「(これ、『※ヒロインの好感度は現実にも関係します☆』って書いてあるんですけど……)」

「(えっ、何それ……。て、ていうかそれが本当だったらゆきのん!?)」

「(……あの遊戯部とやら、一度制裁する必要がありそうね)」

 

 

おお、こいつは主人公とは別の男が好きなのか。そして主人公と協力してその男を落とそうとしている、と……。本当にどっかで見た設定だなー。

 

 

「(こ、これ見てください。製作者の所で、『シナリオ監修:比企谷小町』って……)」

「(小町さん、何してるの……。道理で私達に関して詳しすぎると思ったわ……)」

 

 

ふむ、意中の男とのデートの練習を俺でしたいのか。まあこのキャラのルートは友情ルートっぽいし、行ってやるか。

……ていうか、このキャラならストーリーを進めても気不味くないんじゃね?おお、来たぞ!この状況を打破する光!

友情ルートなら、なんか変な雰囲気になる事も無いはずだ!

 

 

「(……ゆ、ゆきのん。これ、『総監督:雪ノ下陽乃』って書いてあるんだけど……)」

「(…………どうやら私達は、とんでもないパンドラの匣を開けてしまったようね)」

 

 

まあ、選択肢はOKで良いか。今日の放課後デート?急だな……。

 

 

「……って、私達が話してる間に何勝手に進めてるんですかぁー!!」

「え?だってお前らの方が勝手に離れてったんじゃん……。つーか、別にこのヒロインは攻略キャラじゃないみたいだし、そんなに注視する必要もないんじゃねえの?」

「ありますよ!全然あります!だって私がモデルのキャラじゃないですかー!気になりますよぉー!」

 

一色がぶーぶー言いながら俺の肩に顎を乗せて画面を覗いてくる……って、近い近いこれまでにないくらい近い!!頬っぺちょっとくっついちゃってんじゃん!!

 

「……ヒッキー早く進めて」

「そうよこのノロマ。早くしなさい。……あと一色さん、調子に乗りすぎよ?」

 

いつの間にか定位置に戻っていた雪ノ下達が冷水のような声を浴びせかけてくる。

て言うかゆいゆい、そんな声も出せたのね……ギャップのせいでマジで怖いからやめて。

 

「ま、まあとにかく今はこのキャラとデートの練習中だな。なんでもこのキャラが好きな男が別にいて、それの練習台に主人公を使ってるんだと。好感度が無いのも多分そのせいだな」

「……へぇ〜。なんだか……」

「何処かで聞いた事のある話ね……」

「……えぇ〜?何の話ですかぁ〜?」

 

なんだか部屋の空気がピリピリしてる気がする……。

 

現実逃避をするかのように、俺はマウスをクリックした。

 

『恵里奈:先輩先輩、次はボウリング行きましょうよー!木山先輩が好きだっていう情報を掴んだんです!』

 

『恵里奈:先輩先輩、次はご飯食べましょう!何でも良いですから、先輩が決めてください☆』

 

『恵里奈:せーんぱーい……超疲れましたぁー。そこのカフェで休憩していきましょうよー。あそこ結構良い雰囲気のお店で……あ、その、木山先輩が好きそうなお店だなーって、行く時の予行演習に!』

 

『八幡:(いつも何かを勘違いしてしまいそうになる俺だが、こいつにだけは勘違いが起きそうもない。まあ……先輩として、できるだけ協力してやるか)』

『恵里奈:先輩、今日はそれなりに楽しかったです。また行きましょうね!……先輩も、参考にしてくださいね?』

『八幡:おう、まあ行く奴なんていないけどな』

『恵里奈:……だったら、また私が誘ってあげますよ』

『八幡:あん?』

『恵里奈:な、何でもありません!』

『八幡:……良いぞ、また誘え。暇だったら行ってやる』

『恵里奈:え?何ですかそれ口説いてるんですかごめんなさい一回デートしただけで彼氏面とか図々し過ぎるので聞こえないふりなんてしないで普通に誘ってもっと回数を重ねてからにしてください』

『八幡:うん、俺は何回お前に振られれば良いんだ……』

 

 

「……よ、良く出来てますね、このゲーム」

「ホントだね、うん……。ていうか手口がそっくり……」

「ええ、本当にね。本当にリアル……」

 

なんだか女子三人がやたら辛そうな声を出している。

原因は分からないが、何にせよ俺は安パイを見つけたのだ。

この友情ルートを進めていけば、安全にこの時間を進めることができる……!

 

やったねはっちゃん!

 

 

× × ×

 

 

……うふふ、すっかり安心しちゃってぇ。馬鹿な比企谷君♪そんな比企谷君にはこの言葉を送りましょう。

 

曰く。

 

ー そこで私という安パイが伏へ、……ふくよかな癒しとなるわけじゃないですかぁ? ー

 

……と。

 

 

一色ちゃん、だったかな?間接的とは言えこの子の作戦が成功しちゃってるし、雪乃ちゃん大ピンチかなー……?私が何とかしなくちゃいけない?

 

大丈夫ですよ陽……H監督!小町におっまかせ!

 

あら?こ、……Kちゃん。あなたが何とかしてくれるの?

 

はぁい!小町、未来のお義姉ちゃん候補の為なら何でもしちゃいますよー!

 

ん?今何でもするって……。っていうかKちゃん。名前言っちゃってる言っちゃってる。

 

あっ!




H監督……一体何乃さんなんだ……。

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