やはり俺達のギャルゲー攻略はまちがっている。   作:ジョニー03

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「異論は認めん」

〜前回までのあらすじ〜

 

あくえり可愛い。

 

 

× × ×

 

『恵里奈:先輩、お昼ご飯一緒に食べましょうよー!今日お昼休みも使わなきゃ間に合わない仕事があるんですけど、それを手伝うついでに!』

『八幡:はあ?なんだそりゃ、何で俺がそんな事……』

『恵里奈:ダメ……ですか……?』

『八幡:……はぁ。はいはい、あざといあざとい。……別に手伝ってやらんとは言ってないだろ。ほら、とっとと行くぞ』

『恵里奈:……!はーい♪』

 

 

「……このキャラ可愛いなー」

 

それでいて攻略キャラじゃないってのが最高だわ。いや、普通なら残念に思う所なんだが、事この状況に関してはそれがありがたい。

 

「か、可愛い……ですか。このキャラ、可愛い……ですか……。えへ、えへへ」

「……や、何でお前がニヤニヤしてんだよ」

「……え!?に、ニヤニヤなんてしてないですよ先輩のバカ!!」

 

何故だか怒られてしまった。どう見てもニヤニヤしてたと思うんだけどなあ……。

 

「ま、マズイよゆきのん。このままじゃ……!」

「ええ。早急に手を打つ必要がありそうね。ゲームも、現実も……」

 

何やら真剣な表情で話す雪ノ下と由比ヶ浜。

ちなみに、こいつらに一色も合わせた三人は未だマウスを仲良く握りしめたままである。

 

右手だけ暖かくてなんだか落ち着かん……。

 

「あの……そろそろ手を離してもらえると助かるのですが……」

「無理ね」

「いや」

「ダメです」

 

少し不平を言っただけなのに拒絶のジェットストリームアタックを食らってしまった。

 

正直右手の熱が全身に流れてるみたいでかなり体が落ち着かないのだが、もうこいつらに何を言っても無駄なようなので、諦めてゲームを進める事にする。

 

落ち着け八幡。そうだ、この手を握る人間が異性を意識する相手ではないとイメージすれば良いのだ。

良い?落ち着いて八幡!この手を握るのは、小町、戸塚、鶴見留美……小町、戸塚、鶴見留美……。

 

……ダメだ、もっとドキドキしてきた……。

 

「……ふふ、先輩?心臓の音、凄いことになってますよー?」

「……横にいる私達にも分かるくらいにね。全く、何を興奮しているのかしらこの男は、……ふふっ♪」

「ヒ、ヒッキー。こういうのが好きなら、その、あたしに言ってくれれば……!」

「あっ、ちょっ」

「由比ヶ浜先輩ズルい!」

 

……どうやら俺の心音は周りにいて体をくっつけあっていた彼女達にも伝わってしまったようだ。

しかし、なんで今日のこいつらはこんなに喧嘩が多いんだ?

 

「……ああ。その、なんだ。恥ずかしい事に、今この手を握るのが小町や戸塚ならって思ったら、ついな……」

「……」

「……」

「……」

「……え、なに」

「死ね」

「キモい」

「埋まれ」

「え、なに!?」

 

何故そんな唐突に人に冷たくできる!?

っていうかいろはすがサラッとタメ口で死ねとか言ってきたんですけど、葉山さんあなたの所の後輩教育どうなってるんですか?

 

「あーはいはいそんな事言ってる間にまた選択肢ですよー。とっとと恵里奈ちゃんとのイベント進めてくださーい」

 

一色の声が冷たいのん……。

まあ、でも一色がこのキャラとのイベントを進めるのに賛成なのはありがたい。

他の二人は自分と同じ顔をしたヒロインを俺に攻略されるのは嫌だろうし、友情ルートらしい恵里奈ルートを一色が平気なら、この女の前でギャルゲーという拷問はいくらか楽になってくる。

 

 

『八幡:今日の放課後は……』

 

1、部活に行こう

2、生徒会に行こう

3、帰ろう

 

 

さて、ここに三つの選択肢が出現した。

普通なら今進めている2の選択肢、生徒会に行くの方を選ぶのだろうが……。

 

「離してください先輩方……!先輩が困ってるじゃないですかぁ……!」

「これ以上、あなたの好きにはさせないわ……!」

「ヒッキーは、奉仕部の物なんだからね……!」

 

現在マウスが操作不能なためどの選択肢も選べない状況になっている。

 

ていうかさ、このゲームもうほとんどお前らがやってんじゃん。俺の意思関係ないじゃん。もうこれ俺帰って良いんじゃないの?

 

「ほら、先輩!今です!今クリックしてください!」

「「させない!!」」

「あぁやっぱりダメです先輩!まだクリックしないでぇ!!」

 

……俺は静かに目を閉じ、身体からだらんと力を抜く。

 

雪ノ下、由比ヶ浜、一色の怒号混じりの声を聞きながら、俺の意識は異次元へと飛んだ。

 

現実逃避である。

 

もうどうにでもな〜れ☆

 

 

……カチッ!

 

 

× × ×

 

三人の声が止んだ。

一体俺はどの選択肢を選んだのだろう。薄っすらと目を開けると、そこには。

 

『八幡:今日は家に帰るか……』

 

希望への未来(帰宅)が、広がっていた。

 

まあ、現実の俺には何も関係がないんですけどね。

 

 

「くっ、一色さんルートへの阻止はできたけど、奉仕部の方へカーソルを行かせられなかった……!」

 

雪ノ下の悔しそうな声を聞きながら……っていうかお前の言ってる内容、全部現実の用語に変換されてるじゃねぇか。

大丈夫?このお話はゲームだって分かってる?

 

『八幡:たでーまー』

 

俺の不安はどこ吹く風と、ゲームの中の主人公が家へと到着する。

それを出迎えたのは……。

 

『小町:おかえりー!お兄ちゃん、今日は部活はどうしたの?(声あり)』

『八幡:今日は休んだ』

『小町:えー……。それって小町的にポイント低いなー。未来のお義姉ちゃん候補の元へはちゃんと行ってもらわないとー!(声あり)』

 

 

「「「「……」」」」

 

「なんでこいつだけフルボイスなんだよ……!」

「小町さん、声優も兼任していたのね……。と言うか、このキャラだけ名前も捻りが無いのだけれど……」

「そ、そのまんま小町ちゃんだね……」

 

一体どんなコネクションを使って遊戯部に擦り寄ったのかは不明だが、どうやらこのゲームの作成には小町が関わっているらしい。通りでやたら俺達の事情に詳しいと思った……。

 

『小町:さてさて、そんなお兄ちゃんは、最近女の子と仲良くしてるかな?小町の情報網で、お兄ちゃんがどれだけ女の子に好かれてるか教えてあげる!』

 

突然、ゲームの中の小町がそんな事を言い出した。

ん?でも、この台詞は……。

 

「あれ?この流れって……」

「わた……恵里奈ちゃんの流れと同じですねー。キャラの好感度を教えるっていうの。もしかして、そういうキャラがこのゲームには……ふた……り……」

 

言いながら、一色の声量がどんどん下がっていく。

そして、何かに気づいたようにハッと口に手を当てた。

 

「み、見ちゃダメです先輩!このメモは見ちゃダメぇ!!」

「……はっ、そうか!由比ヶ浜さん、一色さんを二人で抑えるわよ!!」

「……っ!うん!!」

 

雪ノ下の合図で二人が俺から離れ、一色の腕を片方ずつ掴み、後ろへと引きずっていく。

 

「は、離してー!離してくださいぃー!先輩助けてー!」

「気にしないで比企谷君はゲームを進めなさい。そして真実を知りなさい」

「そうそう!あたし達の事は気にしないで!」

「いや、この状況気にするなってのが無理だろ……」

 

まーたこいつらはいきなり喧嘩しだして……。このゲームが来てから急に仲悪くなったな。何が理由なんだろうか。

 

(マズイマズイマズイマズイ!!きっと小町ちゃんの好感度メモの方には『全てのキャラ』の好感度が書いてある……!)

(となれば、今まで隠されていた一色さんのキャラの好感度が割れる。そうすれば……)

(友情ルートだと勘違いしているヒッキーも、間違いに気づくはず。なら、これ以上ヒッキーはイベントを進めようとはしない……!)

 

『あ、そうそう!お兄ちゃんは恵里奈さんから好感度メモ貰った?あれってねー。実は全くの嘘っぱちなんだよ!数字も完全ランダムで、その時々によって変わっちゃうしね!』

 

「えっ、じゃああのイベント丸々俺を引っかけるためだけの物なのかよ」

 

なんでそんな無駄な事を。さっぱり意図がわからん。何か俺を勘違いさせたかったとか?

 

「……ふっ、やっぱりね。私を模したキャラがあんなにチョロく好感度が上がる訳がないもの」

「えっ」

「えっ」

「……えっ?」

「……雪ノ下先輩、それ本気で言ってるんですか?」

「……?」

「いや真顔で首傾げられても……」

 

何やら後ろの馬鹿三人組が馬鹿な会話を繰り広げていた。

 

……まあ、何にせよ、いつまでもあいつらに付き合っていたら一生ああやってじゃれ合ってそうなので、俺はとっとと台詞を進める。

 

そして、小町からキャラの好感度メモが渡された。

一色の「って、あーーーー!!」という叫び声を聞きながら、俺はその内容を確認する。

 

 

『雪ノ上 雪菜 301

由比ヶ峰 唯 301

芥川 恵里奈 378』

 

 

「さんびゃくななじゅうぶはっ!?」

 

一色が噴き出すように声を上げる。おい、その声全然可愛くねえぞ。もっとキャラ安定させろ。

 

「ち、ちがうもんちがうもん!わたし、そんなに先輩のこと好きなんかじゃないもん!!嘘だもん!!」

「ふふ、どうやら化けの皮が剥がれたようね、一色さん。今に現実の方の皮も剥いであげるわ」

「……ていうか、あたしもゆきのんもかなり行ってると思うんだけど……」

 

そうですね。俺の方もぶっちゃけあくえりよりそっちの方が気になってました。

 

『小町:あ!ちなみに、キャラの好感度はMAX400で、現実の好感度が300まで、ゲーム内の好感度が100までの数値を足し合わせた数値だよ!』

 

「え、じゃあこのゲームのキャラ軒並み300超えてるんですけど……?」

 

それじゃあ全員現実の好感度がMAXって事になってしまうんだが。…………まあ、どうせ小町のおふざけか。話半分どころか話一割に受け取っておこう。

 

……あれ?なんで後ろの方々はそんなに顔を赤くしているんです?

 

俺が不思議に思い三人を見ていると、雪ノ下が「い、いいから進めなさい」と言ってきた。まあ、女子には何か男子にはわからない事情があるのだろう。忘れることにして台詞を流す。

 

『小町:このゲームのヒロインは好感度をMAXにして初めて固定ルートに入れる条件が満たされるゲームだよ!……でもぶっちゃけほとんどのキャラは最初の時点で300になってるし、基本楽勝!!部長に部員に生徒会長、教師に先輩クラスメイトまで大体チョロインだよ!むしろもう堕ちてるよ!!』

 

おいおい、ゲーム開始から大体のキャラが堕ちてるってどんなギャルゲーだよ。ギャルゲーの醍醐味全カットじゃねえか。

 

「あとまあ、さっき判明したが、あくえりって攻略キャラだったんだな……。俺てっきり友情ルートだと思ってやってたわ……」

「せ、先輩!そんなの関係ありませんよ!どうせここまで来たんですから、攻略しちゃいましょう!!」

 

俺が呟くと、拘束から抜けた一色が抱きつくように定位置に戻って来る。ええい近い抱きつくな心臓破裂するかと思っただろ。

 

ちなみにいつの間にか雪ノ下と由比ヶ浜も戻ってきていた。なんなのおたくら、黒い三連星かなんなかの?

 

「いいじゃ無いですか、折角378まで攻略したんですよ?今更他のキャラに乗り換えるのも骨でしょう!このまま行きましょう!」

 

一色がやけにあのキャラを推してくるが、俺としてはやはり気が乗らない。何故なら……。

 

「……いや、でもなぁ……。お前らの前でやるって事だけじゃなくてさ、このキャラ好きな奴いるんだろ?そんな奴と恋人になるって間接的にNTRしてるみたいでなんか気分がなぁ……」

「え?……は、はぁ……」

 

「(……現実で似たような事をしている男が何を言っているのかしら……)」

「(まあまあ、ヒッキーには自覚ないし……)」

 

俺が悩んでいると、ゲーム内の小町の一際明るい声が部室内にまた響く。

 

『小町:あ、そうそう!小町が今一番好感度が高い女の子について教えてあげるね!今一番好感度が高いのは〜……芥川 恵里奈さんだね!通称あくえりさん!』

 

あ、その名称公式なのね。

 

『小町:あざとい外面の中に小悪魔な本性を持つ後輩キャラだよ!現実主義者で計算高いけど、実はロマンチストで乙女な部分もあるかも!素直に優しくしてあげると、素の好意を示してくれるかもね!』

 

「……ですって、先輩」

「え?急になに?」

「『素直に優しくしてあげると良い』、ですって、先輩。……先輩も、その、素直に優しくしてあげるべき人が……近くにいるんじゃないんですかー……?」

 

一色が少し蠱惑的な声で俺の耳に言葉を吹きかけて来る。その顔は暖房でも効きすぎているのか少し赤い。

……しかし、ふむ。俺が素直になるべき人間か……。

 

「……ああ、そうだな。俺も、たまには素直になるべきかもしれん」

「せ、先輩……!」

「ヒッキー!?」

「比企谷君!?」

「……いつもなんだかんだでぞんざいに扱っちまう小町に、偶には愛してるって言ってやるべきなのかもな」

「せ、先輩ぃ……」

「ヒッキー……!」

「比企谷君……!私、信じていたわ!あなたがそういう人だって……!」

 

何故か一色の声のトーンがガクッと下がり、雪ノ下と由比ヶ浜がキラキラした目でこちらを見てきた。

 

「まあとにかく、一旦これであくえり攻略は終了だな。俺は年下は苦手じゃねえが、流石に略奪愛ってのは罪悪感が」

『小町:ちなみにこの人のルートには擬似妹プレイがあるよ!』

「よっしゃ恵里奈ルート攻略じゃああああああああ!!!」

 

「……ヒッキー……」

「……比企谷君……」

「わたし、信じてました!先輩がそういう人だって……!」

 

今度は何故か一色からキラキラした目を向けられてしまった。何故。

 

× × ×

 

 

「とにかくこれからの方針はいもう……恵里奈ルートを攻略していく。異論は認めん」

「くっ、このシス谷君め……!」

「流石です先輩!その潔さ、尊敬しますぅ!」

 

役二名の恨めしそうな視線と約一名の明るい視線を胸に、俺はこれからのプレイの方針を固めた。

 

そう、俺は擬似妹プレイをしたい……じゃない、俺は可愛い後輩を攻略したいのだ。本当だ。

 

この決意は揺るぐ事は決してな……

 

『小町:そうそう、妹と言えばこのゲームはこの私、小町のルートもあるよ!攻略したいお兄ちゃんがいたら是非家に帰ってね!!』

 

 

「これからの方針は小町を攻略していく!!異論は認めん!!!絶対にだ!!!」

「「「…………」」」

 

あれ?恨めしそうな視線が約三名様に増えたぞ?

 

まあ良い、そんな事より妹だ!!

 

 

× × ×

 

 

えへへ、た、たまには愛してるって言おう、なんて……。お兄ちゃんったら、もう、ふへへぇ……。

 

……ねえ。

 

しょうがないなぁ本当にお兄ちゃんったらぁ……。ふひぇへへへへぇ……。

 

おい。

 

は、はいぃ!?

 

こま、……Kちゃん。あなた、さっき自分にお任せとかなんとかしますとか言ってたわよね?

 

はい……、陽……H監督。いえ、H様。

 

私としては、雪乃ちゃんとフラグが立つように誘導するようなシナリオになっているのかなー、とか思っていたんだけど、そこの所どうなの?何か状況が変わった?

 

い、いや、小町の方としてもどちらかと言えば奉仕部の方々有利なシナリオにしたはずなんですけど、あのごみいちゃんの行動が今一予測しきれなくて……。

 

ふーん……。

 

あ、あぁいや、その……。

 

……ねえKちゃん。私がどうしてこんなに怖い顔してるか分かる?

 

そ、それは、お兄ちゃんが雪乃さんのルートの方に進もうとしないから……?

 

うん、それもあるわ。それも。でも、それだけじゃあ決して無いのよねぇ……。

 

は、はい……。

 

一番の理由は……。

 

ごくり……。

 

……なんで妹のあなたが雪乃ちゃんよりも誰よりも比企谷君を誘惑できてるのよぉーーーーーーーーーっ!!!!!

 

ひ、ひえぇ〜〜〜!!ごめんなさ〜〜い!!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二人の陰謀は続く……。


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