作戦開始から一時間半が経過した。
開始時より擬態獣の数は確かに減った――だが、まだかなりの群れが日本へ向けて進行している。
戦闘開始から一時間を過ぎたあたりから、補給が必要な機体が少しずつ出始めた。
補給を受けて再出撃――その流れ自体は、キャプテン・ガリスの指揮のもと、うまく回っていた。
だが、戦いが長引くにつれ、補給が追いつかない瞬間が増えていく。
そこで各エリアで戦っていた機体を一度“大空魔竜の近く”へ集め、
急いで補給が必要な機体と、まだ戦える機体に分けて再編成が行われた。
俺はまだ大丈夫だった。
だがマジンガーZと、バルトフェルドさんのムラサメは補給が必要で、大空魔竜へ戻っていった。
――つまり。
前線は、さらに薄くなる。
⸻
「猿渡さんは、大丈夫なんですか?」
「ああ、まだな。俺まで抜けたら戦線が維持できなくなるだろう」
「……やっぱり、そうですよね。……でも、減りましたね」
「ああ。残ったのは俺、ミスト、ボス、リーさん、ヤンマさん達だけだ。前線だけじゃない、後ろもだいぶ減った」
「甲児君も、バルトフェルドさんも、鉄也君も補給組ですからね……」
今回参加した戦力は多い。
オーブからレヴリアスとムラサメ。
ダンナーベースからゴーダンナーとGガンナー。
光子力研究所からマジンガーZ、ダイアナンA、ボスボロット。
大空魔竜隊からは母艦の大空魔竜、スティンガー、サーペント、クラブバンカー――。
だが“数”としては、多いようで足りない。
作戦会議の時点で、前線戦力の薄さは指摘されていた。
その対策として当初は、マジンガーZとゴーダンナーで中央を抑え、
レヴリアス、ムラサメ、スティンガーが中距離から援護。
後方からGガンナーなどが波状攻撃――の予定だった。
しかし擬態獣の数が想定を超えた。
そのままでは押さえきれず、日本へ被害が及ぶ。
だから俺たちは、少数の二機小隊をいくつも作って、区域ごとに“面で削る”やり方に切り替えた。
――それでも、時間がかかる。
時間がかかれば、弾も燃料も体力も削れていく。
そして今、マジンガーZが補給に下がった。
前線の厳しさが、さらに一段増した。
⸻
「セヤッ! ハッ! トリャッ!!」
ゴーダンナーがパンチとキックで擬態獣を叩き落とす。
だが擬態獣は、絶え間なく押し寄せてくる。海面が黒く見えるほどだ。
「ステアード、ガンモード! そこだ! ……まだまだ行くぞ!」
俺は空中から速度を付け、ステアードを連射しながら接近する。
距離が詰まった瞬間、スラッシュモードへ。
「セイッ! ヤァッ!」
切り上げ、返しの刃で切り下ろす。
飛沫と破片が散った。
さらに腕部の砲身を展開する。
「グルーヴァイン・バスター、シュート!!」
砲撃が海面を叩き、衝撃で数匹が吹き飛んだ。
……だが、まだ押し寄せてくる。
「くっ……きりがないですよ、猿渡さん!」
「諦めるな! 空中で戦えるのはお前だけなんだ。遊撃のお前が崩れたら一気に劣勢になる!」
「補給組はまだなんですか!?」
「ああ、まだ連絡は来てない。だが、いずれ駆けつけてくれる。それまで持ちこたえるぞ――それとも、限界か?」
「いえ、機体はまだ動きます! ……でもこのままだと弾倉が尽きそうです!」
「じゃあ、後退するか?」
「……嫌、大丈夫です」
「フッ。ならやるぞ、ミスト。補給組が帰って来るまで!」
「はいっ!」
⸻
「猿渡さん! そっち行きましたよ!」
「わかっている!」
数十分。
補給組はまだ来ない。
擬態獣は、相変わらず押し寄せてくる。
「ミスト!」
「はい!」
猿渡さんが擬態獣を投げる。
俺は空中から蹴り落とし――
「ヤッ!」
猿渡さんがそれに追撃のアッパーを叩き込む。
「ナイスパスだ!」
「どんどん行きましょう、猿渡さん!」
「よし! 次だ!」
倒しても倒しても、波が引かない。
むしろこの海域に集まってきたのか、数が増えている。
被弾が増える。
機体がきしむ。
体が重い。
「ミスト! そっち行ったぞ!」
「……」
「ミスト!」
「……っ、はい!」
「大丈夫か!」
「す、すいません……!」
まずい。
ぼーっとしていた。
戦闘の最中に――。
猿渡さんが俺の方に来ていた擬態獣を蹴り飛ばす。
「後ろにいるか?」
「……いえ。まだ行けます」
「そうか。無理はするなよ」
「はい!」
……“無理をするな”。
それが、今一番難しい。
戻りたい。
補給を受けたい。
でも戻った瞬間、この戦線が崩れる気がした。
「……まだ着ませんね」
「後ろでも何か起きたのかもしれないな」
「戻りますか?」
「いや、今戻ったら余計にダメだ。俺達は、皆が来ることを信じるしかないだろう」
「わかりました……」
耐えるしかない。
分かっている。
それでも、胸の奥から“逃げたい”が湧き上がる。
機体も、体も、あまり長くは持たない。
「……急いでくれよ……」
⸻
――補給組(大空魔竜)――
「整備班、あとどれくらいだ?」
「あと十分は必要です!」
「出せる機体は?」
「Gガンナーとスティンガーなら出せます!」
「マジンガーZはまだなのか?」
「はい。エネルギーは大丈夫なんですが……装甲の修復がまだです!」
「そうか。出来るだけ急げ。前線もそろそろ限界だろう」
「了解です、キャプテン!」
キャプテン・ガリスが短く息を吐く。
「……厳しいな」
ローサ副艦長が頷いた。
「ええ。前線も、ゴーダンナーとレヴリアスだけで押さえているようなものです」
「ああ。さすがにボスボロットやクラブバンカーでは厳しい」
「文句を言うつもりはありませんが……オーブからの戦力が、もう少し欲しかったですね」
「そうだな。バルトフェルドもミストも頑張っている。だが正直、足りない」
「これだけの数だ。どうしても、質より数が欲しくなる……」
キャプテン・ガリスがブリッジの窓の向こう――前線の方角を見た。
「頼む。もう少し……耐えてくれ」