作者の妄想大戦k      作:kanaumi

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 いろいろと有りましたが、ぼちぼちと更新します。


第9話 つかの間の休息

 

擬態獣掃討作戦が終わってから、俺はダンナーベースで補助員として生活していた。

 ……けど、あれから一度も擬態獣は現れない。

 

 整備の手伝い。備品の補充。格納庫の掃除。訓練の立ち会い。

 最初の一週間くらいは作戦後の後始末で忙しかったが、敵が来ないぶん、次第に“空き”ができた。

 

 そんなある日、所長から交代制で一日休暇が出た。

 

 皆それぞれ、休み方が違う。

 猿渡さんは「打ち合わせ」だとかで基地を出たし、甲児君はさやかさんとデートらしい。

 ボスさんは悔しそうにしていた。分かりやすい。

 鉄也さんは甲児君に便乗して静流さんを誘ったが――断られたそうだ。これも分かりやすい。

 

 俺はというと、トレーニングと買い出し。

 ……結局、こういう休み方が一番落ち着く。

 

 時々、甲児君が「遊ぼうぜ!」と言い出して、鉄也さん、ボスさん、ヌケさん、ムチャさんまで巻き込まれ、街に出ることもあった。

 そんなこんなで、作戦から一ヶ月が経とうとしていた。

 

 

「ミストいるか? 至急、私の部屋に来い」

 

 整備を手伝っている最中、突然、葵所長の放送が流れた。

 工具を握った手が止まる。

 

「何かやらかしたのか?」と、おやっさん達がからかってくる。

 心当たりはない……はずだ。

 

 不安を抱えたまま、俺は所長室へ向かった。

 

 

葵所長室

 

「失礼します!」

 

「入れ」

 

 部屋には、葵所長が一人。

 それが逆に嫌な予感を強くする。

 

「ミスト。お前、教会の場所を知っているか?」

 

「教会……ですか?」

 

「ああ、教会だ」

 

 海沿いの、風が強くて……でも綺麗な教会。

 鉄也さんが「景色がいい」と言っていた場所だ。

 

「えー……はい、知っています」

 

「そうか。なら、お前にお使いを頼みたい。いいか?」

 

「お使い……ですか……はい、大丈夫です」

 

「なら、この場所に行ってきてくれ」

 

 渡されたメモを見て、俺は目を瞬いた。

 

「……? ここって、宝石店?」

 

「そうだ。そこで頼んでいた物を受け取って来るんだ。店の者に“ダンナーベースの葵”と言えば分かるはずだ。受け取ったら海沿いの教会に来い。そこで待ち合わせだ」

 

「えっと、分かりました」

 

「ちなみに――他の奴らに、ばれないように来ることだ」

 

「えっ」

 

「当たり前だ。ばれてもいいなら、お前に頼まん」

 

 ……宝石店。教会。秘密。

 嫌な予感しかしない。

 

「えーと……ダンナーベースの人達に知られたくない事、なんですか?」

 

「そう。受け取って来い。それで構わん」

 

 つまり説明はしない、ということだ。

 所長らしい。

 

「えー……では行ってきます」

 

 

 部屋を出てすぐ、廊下で声をかけられた。

 

「あれ? ミスト君、どうしたの?」

 

 弓さやかさんだ。

 

「えーと、ちょっとしたお使いです。さやかさんこそどうしたんですか?」

 

「ミスト君、今日、静流さん見てないかしら?」

 

「静流さんですか……見てませんね。どうかしたんですか?」

 

「買い物に誘おうと思ってたんだけど、見当たらなくて探してたの」

 

「そういえば……猿渡さんも居ませんね」

 

「あら、そうなの?」

 

「はい。甲児君が“見当たらない”って話してました」

 

 さやかさんは一瞬だけ、何かを察したような顔をした。

 ……気のせいかもしれないけど。

 

「あ、ミスト君。お使いは?」

 

「あっ、そうでした。すみません、行ってきます」

 

「ごめんなさいね。行ってらっしゃい」

 

 

街へ

 

 職員用駐車場でバイクに跨り、グリップを回す。

 エンジンの振動が、妙に心地いい。

 

「アトリームと運転の仕方が一緒で良かった……本当に。特別とはいえ、二週間で取れるとは思わなかったな」

 

 海岸沿いの道を走る。潮の匂いが強い。

 この世界の海は、俺の知ってる海よりずっと“近い”。

 

 街に着き、宝石店を探す。

 

「えーと、ここを右で、ここを左……おっ、ここだ!」

 

 看板には《luck & Fortitude》の文字。

 

「いつ見ても変わった店名だよな……」

 

 甲児君の話では、ここで宝石を買うと良いことが起こるらしい。

 ……本当かは知らない。でも、今の俺には“縁起”って言葉がちょっと欲しい。

 

 封筒を確認して、扉を開けた。

 

 

宝石店《luck & Fortitude》

 

「いらっしゃいませ。ようこそ《luck & Fortitude》へ」

 

 店内には、男性が一人。

 静かで、空気が少し冷たい。宝石の光だけが妙に眩しい。

 

「あの……ダンナーベースの葵所長から、これを持って行くように言われたんですけど……」

 

「ダンナーベースの方ですか?」

 

「はい」

 

「かしこまりました。では、封筒を頂戴します」

 

「はい、これです」

 

「確かに。……では、こちらへ」

 

 案内された奥には、宝石やアクセサリーが並んでいた。

 俺は思わず立ち止まる。

 

「……綺麗なの、沢山あるな」

 

「お気に召しましたか?」

 

「えっと……良いもの沢山ですね」

 

「フフッ。ありがとうございます。当店の自慢の品々ですから」

 

 “美しい”って、戦場から遠い言葉だ。

 だからこそ、少し落ち着く。

 

「では、お待たせいたしました。こちらがご注文の品です。……ご確認を」

 

「えっ、あ、はい……確認しました」

 

 箱は軽い。

 でも――妙に、重く感じた。

 

「では、またの機会をお待ちしております」

 

「ありがとうございました」

 

 店を出ると、太陽が高い位置にあった。

 思っていたより長居したらしい。

 

「……物は受け取った。急ごう」

 

 所長に連絡し、バイクを走らせて教会へ向かう。

 

 

海沿いの教会

 

 教会にはすぐ着いた。

 ……けど、所長がいない。

 

「……所長、どこだ? 教会近くだろ……?」

 

 バイクを停め、周囲を歩いて探す。

 

「居ないな……」

 

 時間が早かったか? 控え室の場所、聞いときゃ良かった。

 こういう所、所長はいつも説明が足りない。

 

「……どこだろう?」

 

 その時。

 

「ん? そんな所で何してる、ミスト」

 

 背後から声。

 振り向くと、葵所長がいた。

 

「あ、所長! 居なくて心配しました」

 

「すまなかったな。少し用事があった。……それにしても早かったな。もう少しかかると思っていたが」

 

「頼まれてそのまま行ったので……早かったんだと思います」

 

「そうか。じゃあ、こっちに来てくれ」

 

「はい? あっ、ちょっと、所長!」

 

 届けたら終わりだと思っていた俺は、慌てて追いかけた。

 所長はそのまま教会の中へ入っていく。

 

 

 奥まった部屋の前で所長が立ち止まる。

 

「コンコン。ゴオ、準備できてるか?」

 

「所長か。ああ、できている」

 

「なら入るぞ」

 

 ……猿渡さん?

 なんでここに?

 

「失礼します」

 

 部屋に入った瞬間、俺は固まった。

 

 タキシード姿の猿渡ゴウさんが、椅子に座っていた。

 ……似合いすぎて怖い。

 

「ん? ミストがなんでいるんだ?」

 

「私がミストにお使いを頼んだからだ」

 

 所長は平然と言う。

 つまり、猿渡さんにすら説明してない。

 ……所長、ほんとに情報共有しないな。

 

「じゃあ所長、これです」

 

「ん、ご苦労。ゴオ、もう少しで始まるぞ」

 

「はい」

 

「何が始まるんですか?」

 

「ん? 聞いてないのか?」

 

「はい」

 

 所長が、さらっと言った。

 

「ああ、言ってなかったな。これからゴオと杏奈の結婚式さ」

 

「……結婚式……?」

 

 頭が追いつかない。

 宝石店、教会、秘密――全部つながった。

 

 ……言ってほしかった。本当に。

 

「ミスト、付いて来い。式場に行くぞ」

 

「えっ、はっはい。でも、服が……」

 

「大丈夫だ。来い」

 

 所長に引っ張られるようにして部屋を出た。

 廊下で、忍くんと合流する。

 

「そういえば、杏奈さんってどういう人なんですか?」

 

「ん? ああ……そういえば言ってなかったな。私の娘だ」

 

「僕と同い年です」

 

「……娘……?」

 

 理解が一拍遅れて。

 

「……ええぇぇぇ!?」

 

「何だ? 何を驚いている?」

 

「うん、わかるような気がする」

 

 忍くんが苦笑いする。

 俺はまだ驚きから戻れていなかった。

 

 

結婚式

 

「――生命ある限り、あなただけを愛すると誓いますか?」

 

 式は始まっていた。

 新郎は猿渡ゴウ。新婦は杏奈さん。

 体格差はあれど、不思議と釣り合って見える。……いや、むしろ似合っている。

 

 教会の空気は静かで、海の風の音が遠くに聞こえた。

 誰もが、猿渡さんの言葉を待っていた。

 

 猿渡さんが、口を開けようとした、その瞬間――

 

 ゴゴン、と床が揺れた。

 

 続いて、サイレン。

 

 静黙な教会を、赤い音が切り裂いた。

 

 誰かが息を呑む。

 誰かが立ち上がる。

 祈りの場が、一瞬で“戦場の入口”に変わる。

 

 そして――つかの間の休息は終わりを告げ、

 始まりの時を告げた。

 

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