俺がオーブに来てから一週間が過ぎた。
バルトフェルドさんとアスハ代表のおかげで、俺はオーブ国防軍に所属させてもらっている。
仕事は主に、レヴリアスの調査と、バルトフェルドさんの部隊に混ざっての哨戒任務。
それと――俺は国籍を持っていなかったが、代表の計らいでオーブ国籍を取得することができた。
異星人の俺が、だ。
今でも少し、信じられない。
住む場所も、代表とバルトフェルドさんの知人の屋敷に居候させてもらっている。
そこでキラ・ヤマトさんやマリュー・ラミアスさんと知り合い、良くしてもらっていた。
――平和だ。
それが、この一週間で俺が抱いた感想だった。
そんなオーブに来てから一週間程たったある日の事だった。朝早くに出勤していくマリューさんを見送り、俺は一人で朝食を食べていた。
窓の外では子供の声がする。
市場からは活気ある呼び込みの声が届く。
俺の故郷とは、まるで違う。
俺のいたアトリームは機械化が進み、仕事以外で外に出るのは子供とその親くらいだった。
買い物は通信販売。農業は無人化。投票すらネット上。
便利だった。効率的だった。
だが――街は静かすぎた。
サイバーテロは年に数回。
暴動は月に二回。
死者が出ることも珍しくなかった。
防衛部隊の任務には、暴徒鎮圧が当然のように含まれていた。
俺の仕事の半分は、死亡報告書の処理だった。
この街は、いつまで持つのか。
そんな不安と毎日戦っていた。
それに比べて、オーブはどうだ。
散歩すれば公園から子供の声が聞こえる。
市場では客と店員が世間話をしている。
人が、人として生活している。
……それが、少しだけ怖かった。
平和に慣れてしまえば、また失う時の痛みが大きくなる。
そんな予感が、喉の奥に引っかかっていた。
⸻
「やあ、ミスト君。どうだい、こっちでの暮らしは?」
「あ、バルトフェルドさん。おはようございます」
「ああ、おはよう」
後ろから声をかけられる。
バルトフェルドさんもこの屋敷に住んでいるため、朝食で顔を合わせることが多い。
「いやぁ、それにしてもオーブって平和ですよね」
「前回の大戦の時は酷いものだったんだがね。ここ一年で見違えるほどになったさ。……まあ、傷痕は根強く残っているがね」
その一言に、軽さの奥の重みを感じた。
「ところでミスト君、今日の任務についてなんだが……」
「何か起こったんですか?」
「事件ではないよ。ただ、最近この辺りでも“擬態獣”が頻繁に出現していてね」
「擬態獣……」
その名は、俺も聞いたことがあった。
擬態獣はこの地球に存在する正体不明の生命体。
ロボットや兵器を取り込み、自らの姿を変える。
かつて“巨神戦争”と呼ばれる戦いで大量に出現し、世界を混乱に陥れた存在だ。
「取り込むって……機械を、ですか?」
「ああ。外見だけじゃない。性能まで真似ることもある。だから厄介なんだ」
巨神戦争以降、存在は確認されていなかった。
だが六日前、ダンナーベース付近で出現。
それから、各地で目撃情報が増えている。
「ああ、それで代表はダンナーベース所長の葵霧子博士に相談してね。オーブ軍とダンナーベースで協力して、擬態獣掃討作戦を行うことになった」
「……それで、任務内容は」
「ああ、掃討作戦への参加だ」
俺は頷いた。
「参加するのは、俺とバルトフェルドさんの部隊ですか?」
「……いや。僕と君だけだ」
「えっ?」
二人だけ?
「それって、どういうことですか!」
ダンナーベースとの共同作戦だろ?
なぜ二人だけなんだ?
「代表が独断で決めた形だからね。他があまり良い顔をしていない。
しかも掃討地点は、日本の領海らしい」
「日本の領海……?」
「国際問題、というやつさ」
なるほど。
他国の領海で戦闘を行えば、たとえ共同でも外交問題になる。
「でも協力するんですよね?」
「その通り。ただし話し合いの結果、他は本土防衛に回された。
僕の部隊もな」
「……」
意味が分からない。
擬態獣はオーブにとっても敵だ。
なぜ、こんなに消極的なんだ?
「政治ってのは、難しいもんなんだよ」
バルトフェルドさんが、珍しく少しだけ渋い顔をした。
「僕も全部は納得していない。だが、決まった以上は動く」
静かな決意があった。
「準備して、向こうと合流しよう」
「……はい」
⸻
更衣室でパイロットスーツに袖を通す。
布が擦れる音が、やけに大きく聞こえた。
オーブの朝は穏やかだ。
なのに、俺の中だけが戦場へ向かって回り始める。
⸻
格納庫へ向かう途中、俺は聞いた。
「今回参加する人たちは、どんな人なんですか?」
「ああ、結構個性的だよ」
「例えば?」
「巨神戦争の英雄や、マジンガーZだ」
「噂に聞くスーパーロボットですか……豪華ですね」
「日本での戦闘だからね。参加は必然だろう。
ビルドベースは今回は見送るらしいが」
「ビルドベース?」
「五十年前、邪魔大王国との戦いで活躍した英雄ジーグの本拠地だ」
「邪魔大王国……」
「まあ、その話はまた今度だ。今は掃討作戦だ」
「はい」
レヴリアスの前に立つ。
整備員が機体腹部を覗き込み、小さく呟いた。
「……こんな構造、見たことねぇな」
その言葉に、胸の奥が嫌な形で鳴った。
平和な朝は、もう終わる。
俺はまた、知らない戦場へ向かう。
今回はいろいろと設定が出ましたが、それは作者の解釈です。また、矛盾もあると思いますが作者も無いように心がけていますがそれでもあると思うのですがそこの所はご了承下さい。