昼食を終え、艦内をぶらついていると、艦内放送が流れた。
『――擬態獣出没エリアまで、まもなく到達します。各員、第一種戦闘配置』
空気が一段変わる。
通路を行き交う足音が速くなり、艦内の照明も戦闘用の色に切り替わった。
俺も急いで更衣室へ駆け込む。
オーブで新調したパイロットスーツを引き上げ、手早く袖を通した。
心臓が、少し早い。
――いよいよだ。
格納庫に着くと、機体の周りは整備員が忙しなく動いていた。
俺はダンナーベースから派遣されたらしい整備員に声を張る。
「すいませーん! レヴリアス、乗り込んでいいですか!」
「おお! 良いぞ。行って来い!」
短い返事。
それだけで、背中を押された気がした。
コックピットに滑り込み、シートに体を沈める。
計器類を確認しながら、簡単にストレッチをして身体をほぐす。
出撃までのわずかな時間――この数分が、妙に長い。
その時、モニターが「ピピッ」と鳴った。
「……通信?」
発信元表示に目をやる。
「マジンガーZ……から?」
俺は回線を開いた。
モニターに映ったのは、自分と同い年くらいの青年だった。
目が強い。声も勢いがある。
『よう! お前だろ? オーブから来たっていうパイロットって』
「えっと……ああ、そうだよ」
『俺の名前は兜甲児だ。お前は?』
「俺はミスト・レックスです」
――兜甲児。
名前だけは聞いていた。
でも、実際に喋ると想像以上に“前へ出る”タイプだ。
『いやー、通路でバルトフェルドさんには会ったんだけど、お前には会わなかったからな』
「ああ、それで」
『一緒に戦うのに名前が分からないと不便だろ。連携だって取れないしな』
「……そうですね。よろしくお願いします」
『おう、よろしくな! ミスト!』
通信が切れる。
たったそれだけの会話なのに、妙に心が軽くなった。
その後も同じように、ブリッジで挨拶できなかった面々――弓さやかさん、剣鉄也さんらと簡単な自己紹介と雑談を交わし、俺は出撃命令を待った。
『パイロットの皆さん、目的エリアに到達しました。指示に従い、順次出撃してください』
アナウンスとともに、格納庫が動き出す。
先陣はゴーダンナー。
続いてマジンガーZ。
コアガンナーも滑るように射出されていく。
『次に、ミストさん。出撃してください』
俺の番だ。
レヴリアスを前進させ、カタパルトに乗せる。
機体が固定され、振動が足元から伝わる。
『レヴリアス、発進してください』
「ミスト・レックス、レヴリアス行きます!」
叫んだ瞬間、視界が引っ張られた。
射出――重力がふっと抜け、外の空が一気に広がる。
⸻
擬態獣の群れは、海上に散っていた。
黒い塊のように見えるそれらが、時折“機械”の形をなぞりながらうごめいている。
俺は前線より少し後ろ――“援護位置”に付いた。
狙うのは、前で暴れているマジンガーZに寄りつく個体だ。
「……危ない、そこだっ!」
マジンガーZの死角から迫る擬態獣に、ステアードを構えガンモードで撃ち抜く。
胴体が弾け、擬態獣が海面へ崩れ落ちた。
『サンキュー、ミスト! オリャッ!』
甲児君の声。
マジンガーZが俺の撃った擬態獣を掴み上げ、そのまま投げ捨てた。
「あと、どんくらいですか!」
『まだまだだな! だが大丈夫だ!』
作戦開始から三十分。
事前ミーティングでも「長丁場になる」と言われていたが、想像以上に数が多い。
それに、戦艦級の擬態獣も確認されているらしい。
本来の作戦はこうだった。
中央をスーパーロボットが抑え、左右から高速機が切り込む。
狙撃部隊が各個撃破。
だが――数が多すぎた。
作戦は変更され、危険だが二機編成の小隊を複数作る。
“必ず二機で動く”。エリアを分け、面で押し返す。
俺の相方は――マジンガーZ。
『おっと、危ねぇ……お返しだぁ! ロケットパーンチ!』
鉄拳が飛ぶ。
擬態獣が潰れ、海面が跳ねる。
――凄い。
画面越しじゃなく、本物のスーパーロボットは“重さ”が違う。
『一気にいくぜ! 喰らえぇ、ブレストファイヤー!』
胸のV字から熱線が走り、前を塞いでいた群れごと溶かし尽くした。
「……すげぇ……!」
テンションが跳ね上がる。
俺もステアードを握り直した。
「よし、俺だって!」
ガンモードで連射しながら速度を上げ、甲児君の横に付ける。
「チャンスです、甲児君!」
『任せな! 吹き飛べぇ、ルストハリケーン!』
口から噴き出した酸の風が、擬態獣を押し流す。
流れた群れが一箇所に固まり、動きが止まる。
――今だ。
俺は腕部の砲身を展開する。
照準が収束していく感覚が、手の中にあった。
「ロック……グルーヴァイン・バスター、シュート!!」
砲撃が走る。
固まった群れを貫いて、爆発が連鎖した。
煙と破片が、海上に散る。
「……よし!」
『おう! うまくいったな!』
「急だったのに合わせてくれて助かりました!」
『こんぐらい良いって事よ! 次だ、次!』
戦闘開始から四十分。
息を整える暇はない。
だが――“二機で合わせる”感覚が、少し掴めてきた。
⸻
戦闘後
一区画の掃討が完了し、ようやく通信が落ち着いた頃。
『なあ、あの時の技、何て名前にするんだ?』
「……えっ?」
『必殺技には名前がいるだろ!』
「急に言われても……」
『たとえば、ブレスト・バスターとかさぁ!』
「ブレスト、どこから来たんです?」
『マジンガーのブレストファイヤーからだ! ……で、なんかねぇのか?』
「うーん…………浮かばないです……」
『あー……もう、コンビネーション・アタックでいいか』
「……はい。それでいいと思います」
『必殺技の名前を考えるのも大変だな……』
「ええ……そうですね……」
戦場の真ん中で、何の話をしているんだ俺たちは。
……でも。
こういうくだらない会話ができるってことは、
少なくとも“今は”生きているってことなんだろう。
擬態獣掃討作戦が続いていますが、本当は3話で終わるつもりだったのですが、区切りやなんやでとても3話で終わりそうに無いため、もう少しお付き合い下さい。