紅魔館の役立たず   作:猫敷

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Einleitende Kapitel
紅魔館の役立たず


 どうも皆様、はじめまして。間宮ともうします。私、紅魔館というお屋敷で、女ではありますが、執事をさせていただいております。以後お見知りおきくださいませ。

 え? 紅魔館てあの東方Projectのかって? 

 私の前世の記憶が正しければ、Yesと言っておきましょう。

 

「おい」

 

「えっ? あ、はいはい。なんでございましょうか。旦那様」

 

 振り返ると紅魔館の主であり、私のご主人様でもある、吸血鬼スカーレット卿が何やら怖い顔をして立っていた。

 

「我の部屋にワインを持って来るように言ったはずだが?」

 

「……すぐにお持ちします」

 

 ヤベェ、すっかり忘れてました。

 

「ふん。役立たずが」

 

 役立たず。この屋敷において私のあだ名のようになっている呼び名だ。事実であるが。

 

 私には前世の記憶がある。いわゆる転生者というやつである。

 

 私は神様のミスでもなく、知らないまま、訳も分からないまま転生してしまった。

 ただの一般人である私がそんな状態で、生きて行けるはずもなく、空腹で行き倒れていたところを偶然にも、お嬢様に拾われたのである。

 自分に仕えることを強要された私は、すぐさま首を縦に振って傅いた。

 だってそうしなきゃ殺されそうだったんでございますよ!?

 力こそ全て! 強いものには逆らわないのが私の信条である。

 住むところを確保したかったのも理由の一つではある。

 そうして執事の職を与えられたわけだが、今まで前世も含め、人に仕えたことなどないし、執事なんて漫画の世界だけの職だと思っていた。

 

 そして、どうやら私は前世でも無類の生活能力欠落者だったのだろう。家事の知識がほとんど皆無であった。

 自分自身の記憶は曖昧であるが、読み書きなどの知識的な記憶はしっかりしているので、そうなのだろうと自分で納得した。

 

 当然、何一つ満足に与えられた仕事ができない私は次第にこう呼ばれるようになった。紅魔館の役立たず、と。

 

 うん。もう不条理に泣きそうですよ、私。

 

 しかし、旦那様の子供である二人の吸血鬼、レミリア様とフランドール様を見た瞬間は今でも鮮明に思い出せる。驚きとともにこの世界が何なのかを理解したのはあの瞬間だったりする。

 

「では」

 

「……いや、ワインはもう良い。代わりに貴様で我慢してやる」

 

「へ?」

 

 旦那様は私の髪を片手で引っ張り上げると、首元に牙を立てた。

 

 ぎゃあああああ! ち、ちょっと待って。そんなに吸っちゃらめぇぇぇ!!

 

「あがっ……だ、旦那様」

 

「黙れ」

 

 しばらく血を吸われた後、解放された。かなりの量を吸われたのだろうか、全身に力が入らずに、その場に崩れ落ちる。

 そこに旦那様の姿はなかった。本当に散々な目にあった。

 あのクソ主人、人を食料か何かと勘違いしているのではないだろうか。

 

 だるい体を起こし、フラフラと使用人のために設けられた控え室へと向かう。

 

「あら、役立たずじゃない」

 

「ありゃ?」

 

 少し目線を落とせばそこにはレミリアお嬢様がこちらを見上げている。

 

「……あの男にいたぶられたのね」

 

「あはは、また失敗してしまいまして」

 

 そう答えるとお嬢様は眉をひそめた。またやらかしてしまったのだろうか。

 

「お前はいつも笑っているのね」

 

 確かに、なぜだかは分からないが、この顔はいつも笑みを浮かべている。喜怒哀楽がない。すべての表情が貼り付けたような笑みだけなのだ。いや、喜怒哀楽を笑みで表しているのかもしれない。

 

「一体何がお前をそこまで歪めたのかしらね」

 

 そんなこと言われても分かりません。教えてほしいくらいですよ、私が。

 

「だけれど私はその歪さを気に入っている。せいぜい私を楽しませてちょうだいね」

 

 意味分からないから安定のスルーをしましょう。

 

「それでお嬢様、ご用は?」

 

「相変わらず話を逸らすわね。まぁ、いいわ。ゴーレムを2体ほど貸しなさい。部屋の模様替えをするから」

 

「こんな夜中にやることですか、それ」

 

「うるさい。早くしろ」

 

「かしこまりました」

 

 私が指を鳴らすと同時に魔法陣が現れゴーレムを作り出した。

 私これでも魔法が使えるんですよ。

 

 この屋敷が紅魔館と名付けられる前から屋敷の地下には、現在はヴワル魔法図書館と呼ばれている、魔道書ばかりを集めた巨大な図書館があったそうだ。ちなみに私の寝床でもある。

 「主に魔法を使う程度の能力」を偶然にも持っていた私は、そこで魔法を独学で学んだのである。

 

「これでよろしいですか?」

 

「えぇ。少なくとも、お前に任せるよりは安心かしらね」

 

「……さようで」

 

 作り出した、燕尾服にピエロの仮面を付けた人型のゴーレムはレミリアの左右後ろに背筋を正しい控えた。

 何というか、幼い姿をしているが様になるものだ。部下を従えているとカリスマオーラが二割増しである。

 ただ、この小さな吸血鬼様は、自分の考えが合っているかどうかを、あまり気にせずに、口走り行動するのが玉に瑕だ。

 私への過大評価もその一つだと思う。せっかくのカリスマを自分でブレイクしてしまうのだから世話がない。

 

「もったいないお言葉でございます。では、私はこれで」

 

「相変わらず、心にもないことを言うわ」

 

 なぜ、私の言葉は素直に受け取ってもらえないのだろう。この薄ら笑いがいけないのだろうか。

 役立たずな上に、白々しく思われるって、私の印象は最悪じゃないか。

 

 45度に腰を折り、その場を去る。

 

 ……はぁ、何から何まで本当に疲れる館だ。

 特に目下の問題は旦那様であるスカーレット卿である。

 私はあいつが嫌いである。

 お嬢様と妹様の"親"は紅魔館が幻想郷に移った時には存在していなかったはず。長い年月を生きる吸血鬼が自然死するとも考えづらい。となると、幻想郷を吸血鬼が襲撃した吸血鬼異変がまだ起こっていないのではないか?

 確か、あの異変は妖怪の賢者である八雲紫と博麗の巫女が解決したはず。吸血鬼異変は吸血鬼側の敗北で幕を閉じるのである。

 

 つまり、それは何を意味するか。

 

 上手くやればスカーレット卿をぶっ殺せるということだ。いや、私は手を出す気などさらさらないので勝手に自滅してくださる。

 

 うむ、実に楽しみだ。そうなれば、自動的に紅魔館の主はレミリアお嬢様となる。

 そのために少しばかり動くことにしよう。お嬢様もスカーレット卿を毛嫌いしているため、ばれたところであまり問題はないように思う。ばれないようにやるけれどね。

 

 ブツブツと独り言をつぶやきながら廊下を歩いていると、ふと下へと続く階段の横で立ち止まった。別に意味はないが、何と無く地下に幽閉されている狂気の姫君の顔を拝見したくなった。

 フランドール・スカーレット、前に一度だけ見たことはあるが、本当に一瞬だった。会話することもできずに、彼女は旦那様によって地下に幽閉されてしまった。

 彼女には「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」がある。その能力に精神が引き寄せられたのか、精神がその能力を創り出したかは分からないが、少々気が触れているため、危険だと旦那様が判断されたのである。

 

 あぁ、会ってみたい。そんでもって、頬っぺたプニプニしたい! うりうりしたいよ!

 

 そんな妄想を繰り広げていたら、もうニヤニヤがとまらない。

 

 というか、あのクソ主人はなに自分の子供をあんな場所へ閉じ込めているんだよ。確かに、妹様は危険ではある。自分たちの身を守るための処置だというなら、それもしょうがない。だけれど、それでも曲がりなりにも親だろう。閉じ込めておくのは百歩譲って仕方がないとしても、それで良しとするのは違うだろ。どうにかしたいとは思わないのか。

 だんだんと腹が立ってきた。あのクソ主人をぶっ飛ばしてやりたい。

 

「ひっ」

 

 たまたま通りかかった妖精メイドが小さく悲鳴を上げて固まった。

 何だ? 顔に出ていたか?

 なぜかガタガタと震える妖精メイドを心配して近づこうとした刹那、後ろから気配を感じた。

 

「ま、間宮、メイドを虐めないで欲しいのだけれど」

 

「……お嬢様なぜここに?」

 

 妖精メイドは私の気がお嬢様に向いた瞬間、一目散に逃げていった。

 ショックだ。

 

「あのゴーレム、新しい家具を運ばせたら、家具もろとも階段から落ちていったわ」

 

 な、なんですとー!?

 旦那様に見つかったらまた何をされるか分からない。一刻も早く証拠を隠滅せねば!

 

「お嬢様、場所は!? すぐに片付けてきます!」

 

「ち、ちょっと。はぁ、本当にあの役立たずは」

 

 お嬢様が何かを言っていたが気にしない。私は急いで現場へと急行したのだった。

 

 廊下を抜けたその先の階段の下で、私のゴーレムが家具の下敷きになっていた。人の背よりも高いクローゼットである。さすがにあれを二体掛かりで運ぶのは無理があったのではないだろうか。

 

「ぶっ壊れてはないですよね? あー、もう動かないし!」

 

 我ながら、笑ながら怒れる自分は器用だと思う。

 

「家具は無事な様ね」

 

 やって来たお嬢様がクローゼットを撫でる様に見ながら言った。

 

「すぐに何とかします! ばれないうちに!」

 

「あの男に隠すのはいいけれど。私からのお仕置きはなくならないわよ?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……人間どもが騒ぎはじめた」

 

 食事の給仕をしているとき、旦那様が口を開いた。誰に言うでもなく。旦那様が役立たずと評する私へ喋りかけることなど、何らかの理由があるとき以外は、絶対にあり得ないことだ。

 

 最近では、旦那様とお嬢様が揃って食事をすることは、全くと言っても差し支えないほど、なくなった。

 旦那様と私の二人だけの空間に、カチャカチャと皿と金属が触れる音が虚しく響く。

 

 吸血鬼狩り。人間が技術革新を起こしてから、どの程度過ぎているかは分からないが、拳銃に小銃といった武器が作られるようになり、昔のように、吸血鬼が一方的に人間を狩るという構図が一変した。下手をすれば吸血鬼も狩られる側になったのである。

 

 ……幻想郷。人間から疎まれ、忘れ去られ、拒絶された者たちの最後の楽園。その情報をこの状況で、旦那様に伝えるとしたら、どのようなことになるだろうか。

 

 きっと素敵なことになるだろう。私の期待は裏切られることはない。

 

「旦那様、楽園に興味はありませんか?」

 

 そう口にする私の顔は、いつも通りの能面の様な、冷たい笑みを浮かべているのだろうか。

 

 きっと私の言葉で誰かが傷つき、誰かが泣く。誰かを不幸にする。

 それでもなお私は言葉を続ける。そうしなければならない。お嬢様や妹様のために。まだ見ぬ、紅美鈴、パチュリ・ノーレッジ、小悪魔、十六夜咲夜のために。紅魔館はこれではダメなのだ。紅魔館の未来のために。

 

「役立たず、何と言った?」

 

「……とても耳寄りなお話を教えてさしあげますよ」

 

 なぁーんか、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。うしろめたいというか、罪悪感というか。

 まぁ、いい。私は善人ではないし悪人でもない。ただの執事である。ちっぽけな存在である私が歴史を創ろうとは思わない。世界を創ろうとも思わない。どちらも荒唐無稽な話だ。

 私は運命という巨大な河を流されるままに進む舟に乗っている。河を塞き止めることなどできはしない。

 私にできることは、舟の進路を少し変えることだけだ。

 

 ……だから私はそっと旦那様に耳打ちをした。

 

 すべては紅魔館の未来のために。というか私の幻想郷満喫ライフのために!

 

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