紅魔館の役立たず   作:猫敷

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紫の魔法使いとなんちゃってミステリー 2

 

 嵐は、空の底をひっくり返したみたいに降っていた。

 石垣をなめる雨脚、尖塔に噛みつく風、門扉の鉄がきしむ音。そこに馬車の轍が斜めに食い込み、最後の坂を登り切ったところで、御者台から短く息が漏れた。

 

「——着いたぜ、お嬢さん方。ここが地図の印の館だ」

 

 私は頷き、濡れた窓硝子の向こうにぼんやりと浮かぶ黒い塊を見上げた。

 灯りは少ない。だが無人ではない。雨に叩かれても消えない橙の灯が、玄関ホールらしき場所でゆらめいている。

 

「さあ行きましょうか、パチュリー」

 

 トレンチコートの女——テーター・フェアバルターは、いつもの軽すぎる声で言い、帽子の庇を指先で跳ね上げた。

 私は返事をせずに、下唇を噛んだ。胸の奥で、別の嵐が揺れている。追手の足音は気のせいではない。どこへ向かっても、耳の後ろに張り付いて離れない。

 だから私は、ここまで逃げてきた。ここで一度、呼吸を取り戻すために。

 

 重いノッカーが三度、扉を叩いた。間を置かず、鍵の外れる音。

 細い鎖がたゆみ、猫背の老人が半身だけ覗かせる。痩せた顎、ぎすぎすした目。家令の顔だ。

 

「避難かね?」

 

 老人は一瞥で私たちの濡れ具合と泥の跳ねを量り、うんざりを隠すように口角を持ち上げた。

 

「嵐だ。先客がおる。暖炉の火はある。乾かしたければどうぞ。ただし——靴は拭きなさい。ここは博物館ではなく、私の床だ」

 

「愛想がよろしいことで」

 

 バルターが肩をすくめる。

 

「靴のままでいいのね? 拭きますとも。こう見えても床は好きよ。特によく磨かれた床はね。転びやすいから」

 

「——あなたが転ぶなら、床の勝ちだろうな」

 

「いい勝負を期待してて」

 

 通された玄関ホールは、石と木が戦って和解したような空間だった。黒い柱、赤い絨毯、壁を走る漆喰の蔦。天井の梁から吊るされたランプが、湯気みたいに明滅する。

 そして、そこに——数名の先客。

 

「おやおや、新顔だ」

 

 最初に声をかけたのは、油で艶を出した口髭の男。軍服は着ていないが、軍隊が染みついている歩き方だ。靴音で距離を測る癖。背中に無駄な動きがない。

 

「ヴェンデルだ。退役少佐。君たちは?」

 

「旅人よ。小さなお嬢さんと、ちょっとした死刑執行人」

 

 バルターは勝手に名乗り、勝手に私を矮小化する。いつものことだ。

 少佐は片眉を上げ、すぐに視線を別の客へ滑らせた。

 

 暖炉の側、古びた肘掛け椅子に浅く腰をかけている女がいる。年は五十を越しているだろう。指輪が五つ。それでも指先に動物の匂いが残っている。——皮を扱う者の指だ。

 

「フリーダ。古物商。濡れたものは嫌いだよ。価値が落ちる」

 

「価値が落ちるのは、濡れたものだけ?」

 

 バルターが笑う。

 

「私なんて全身ずぶ濡れだけど、価値は上がると思ってる」

 

「言うだけはタダさね」

 

 そしてもう一人。机に置かれた紙束とペン。インク壺の口に革の蓋。薄い眼鏡の男は、私たちが入るなり、ペン先を拭ってから穏やかに会釈した。

 

「ユリウス。法院書記官だ。いや、今日は仕事じゃないがね。嵐のせいで立ち往生しているだけの、市民だ」

 

「書く仕事の人は、語彙が上品ね」

 

 バルターがぴたりと距離を詰めて覗き込む。

 

「でも、インクの蓋が新しい。出先で買い直した? 嵐の前かな、後かな」

 

「……観察力がある」

 

「性悪とも言うわ」

 

 ショシャナ・アメレールは、黙っていた。濡れたマントは玄関で捨て、警察手帳を家令にだけ見せると、火に背を向けて立ち尽くす。

 肩が少し震えている。寒さだけではない。彼女の眼は、部屋の四隅を順にかすめては戻り、壁時計の針に吸い込まれていく。追われる仕事の眼だ。追う側であるはずなのに。

 

「……座るといい」

 

 私は、珍しく口を開いた。

 

「乾くまで」

 

 ショシャナはほんの少しだけ顎を引き、言葉の代わりに椅子の肘に指を触れた。

 バルターは彼女の顔を横目で盗み見る。その目は、冗談の布の裏地に刃物を縫い込んだみたいだった。

 

 家令——老人の名はフォーゲルらしい——が、布巾と真鍮の靴べら、それから灰色のタオルを私たちに押し付ける。

 

「礼儀正しくしてくれるなら、暖炉の火は平等だ。君ら、飲み物は? 湯は湧いている。葡萄酒も茶もある」

 

「紅茶を。——砂糖は二つ、ミルク少し」

 

 私は短く答える。

 

「私は、体の内側から燃えるやつを。ホットワイン、違法でなければスパイス多めで。違法なら二倍で」

 

「どちらにしても温まるさ」

 

 フォーゲルはぴしゃりと忠告を置いて、奥へ消えた。

 

 火の音が話の合図になる。

 何かの脚本みたいに、無駄話はそこから始まった。

 

「まずはこの館、名前はあるの?」

 

 バルターが暖炉の格子に両手をかざしながら言う。

 

「名前、ね」

 

 フリーダが肩を竦める。

 

「人は“丘の上の館”って呼ぶよ。名前より場所の方が覚えやすいから」

 

「創意がない。じゃあ勝手に“大学図書館”って呼んでもいい?」

 

「なんでだい」

 

「書物の匂いがする。棚の乾いた匂い。紙魚。——ね、書記官さん?」

 

 ユリウスは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、笑った。

 

「たしかに“何かが積まれている匂い”はする。君は鼻がいい」

 

「鼻はね、嘘を嗅ぎ分けるためにあるの」

 

「それは警官の台詞だろう」

 

 ヴェンデル少佐が口髭を撫でる。

 

「君は何者だ」

 

「何者でもないわ。名乗ったでしょう、ちょっとした死刑執行人。仕事は“縄をかける”。趣味は“お喋り”。特技は“迷惑”」

 

「特技まで名乗る客は珍しいね」

 

 フリーダが舌打ちするように笑う。

 

「で、そっちの小さいのは?」

 

 バルターがわざとらしく私を見る。私は目を逸らした。

 

「——観察者」

 

 それで十分だった。

 いる、ということだけ示して、あとは沈黙に戻る。沈黙は、相手の言葉で埋まる。そこに相手の穴が出る。

 

「観察者、ね」

 

 ユリウスがペンを回す。

 

「では一つ、観察してくれ。君たち、途中で誰かを見なかったか? この嵐の中、丘の下の分岐道で」

 

「“誰か”って、どれくらいの“誰か”?」

 

 バルターが椅子の背に肘をかける。

 

「小さい? 大きい? 濡れてる? 乾いてる?」

 

「外套を着た人影。背は高い。歩いていたようだ」

 

「見なかったわ」

 

 私が先に答える。事実だ。少なくとも私の目は、土砂降りの幕の向こうに人影を拾っていない。

 

「私は見たような、見てないような」

 

 バルターがあっけらかんと言う。

 

「見たという人を、私は見た。つまり私は“見た人を見た”。それで満足?」

 

「回りくどい」

 

 少佐が鼻で笑う。

 

「つまり見てないと言いたいのか」

 

「いいえ、“あなたが私に何を言わせたいか”は見えてるってこと」

 

 会話は円を描く。

 ユリウスはインクをたらし、紙に何かを書き付けた。フリーダは指輪を回している。少佐は暖炉の上の古時計を二度見た——秒針が遅れている。

 ショシャナは沈黙。だが、彼女の靴の踵がじっとしていない。何度も床を軽く鳴らしては止める。行動を抑える癖。

 

 フォーゲルが戻ってきた。大ぶりのトレイ、湯気の白。

 真鍮のカップに注がれたホットワインは、シナモンとクローブの香りに、淡い甘みを抱いている。

 ——その下に、別の匂いがいる。

 私は鼻腔の奥で僅かに、アーモンドの記憶をよぎらせた。早い。早すぎる。まだ、誰も攻撃を始めるタイミングではないはずだ。

 

「どうした」

 

 少佐が問う。

 

「飲まないのか」

 

「喉が——乾いていない」

 

 私はカップの縁に指を触れただけで離した。バルターは匂いを嗅ぎ、大袈裟に目を細める。

 

「好きな匂いね。シナモン、クローブ、オレンジピール。……あと、ほんのすこし、“早く寝かせた方がいい恋の味”」

 

「詩的だが、意味がわからん」

 

 ユリウスが苦笑する。

 

「いいのよ。わかる人だけわかれば」

 

 バルターは、飲まなかった。

 代わりに、ショシャナの手元を見た。彼女はカップに口をつけ、ほんのひと口、湿った唇を温める仕草をしてから置く。

 フォーゲルは、御者の分のマグを盆に残したまま、玄関の方へ視線を向けた。

 

「御者の男は? こちらに呼ぶか」

 

「呼ばなくていい」

 

 私は言った。

 

「彼は外で待つ。そう言っていた」

 

「律儀な人間だな」

 

「それより——」

 

 バルターが軽やかに拍手を一つ。

 場の目が彼女に戻る。その瞬間を彼女は逃さない。

 

「暇つぶしを提案しましょう。どうせ嵐で足止め、退屈で死ぬのは御免でしょ? “見た/見ない”の話、きちんとやりましょ。各自、順番に言うの。“自分が見たもの”を、正直に。目撃のくらべっこ。簡単だし、楽しい」

 

「楽しいかどうかは疑問だ」

 

 少佐がポケットに片手をっこみながら答える。

 

「楽しくするのが私の仕事」

 

 ユリウスがペンを構えた。

 

「記録を取ろう」

 

「書記官の血が騒ぐね。——じゃ、私から。私は“見た人を見た”の。黒い外套、帽子、背は高い。歩幅が大きい。道の中央じゃなく端を歩く。理由は簡単、靴が新しいからよ。泥を嫌がる」

 

「……なぜ新しいと?」

 

 フリーダが目を細める。

 

「踵の角。減ってない。灯りの反射でわかる。あとは、歩くときの音。硬い音が混じるのは、靴底がまだ乾いてるから」

 

「なるほど」

 

 ユリウスが紙に走らせる。

 

「次、そこの小さなお嬢さん」

 

「見ていない」

 

「正直。いいわ。じゃあ少佐」

 

「私は——見た。丘の曲がり角、稲光のとき。あれは男だ。肩幅がある。腕が下がりきらない。“何かを内側に隠して”歩く人間の腕だ」

 

「物騒だね」

 

 フリーダが鼻を鳴らす。

 

「私は見てないよ。雨で皺が増えるのは御免だし、窓なんか見ない」

 

「書記官さん」

 

「私は——“見た人を見た”」

 

 ユリウスは苦笑した。

 

「玄関のガラスに、影が二つ。重なる影は三つになった。ひとつは君たちの馬車。ひとつは——」

 

「——わたしよ」

 

 ショシャナが初めて割り込んだ。声が、少し掠れている。

 

「わたしは見た。……見た、ように思う。道の端、背の高い影。早足。わたしが声をかけようとしたとき、雷鳴でかき消えた」

 

「なるほど」

 

 バルターは満足げに指を鳴らした。

 

「いい話が揃ったわ。じゃ、結論——“全員、正しい”。どう? これなら揉めない」

 

「ふざけているのか」

 

 少佐の声が低くなる。

 

「半分はね。半分は真面目。目撃ってそういうものよ。場所、光、恐怖、願望——それぞれが調味料。誰も“嘘をついていない”のに、“同じものを見ていない”。だからまず、喧嘩をしないために合意を作る。“私たちはバラバラに正しい”。はい、これでいい?」

 

 言い終えるや、バルターは暖炉の上の古時計に視線を滑らせた。秒針は、やはり遅れている。

 ユリウスのペン先が、紙の上で小さく跳ねる音がした。フリーダは肩のコートを引き上げる。

 ショシャナの指が、ふと、カップの取っ手から離れた。——ほんの一瞬、彼女の鼻翼が震えたのを、私は見た。遅れて届いた匂いに、彼女の身体が反射している。

 

「フォーゲル」

 

 私は家令に向き直る。

 

「御者に、湯だけを。ワインはいい」

 

「ふむ」

 

「どうしてだ」

 

 少佐が眉を寄せる。

 

「お嬢さんが、喉が乾いていないからよ」

 

 バルターが緩く笑った。

 

「喉が乾いてるのは別の誰か。——それに、ここは大学図書館。飲み物は必ず持ち込み禁止。でしょ?」

 

 意味のわからない冗談の形をした注意。

 フォーゲルは目を細め、無言で盆を持ち直した。その仕草は、老いた狐が巣穴の前で風向きを測っているみたいだった。

 

 嵐はなお強まる。

 玄関の奥で、遠雷と共に何かが軋む。私は、肘掛けの布目を指先で撫で、火の粉の飛び方で空気の流れを測った。

 この部屋に、目に見えない流れができ始めている。

 言葉が積もり、疑いが絡み、視線が寄り合う。その結び目の中心に、バルターが立っている。彼女は軽口の裏で、糸を一本ずつ、指に巻き取っていく。

 

「さて——」

 

 彼女が手を打ち鳴らす。

 

「次は、もっとどうでもいい話をしよう。例えば“玄関マットを踏むべきか踏まざるべきか”とか、“帽子は時計回りに掛けるべきか反時計回りか”とか、そういう重要なテーマ」

 

「重要か?」

 

 少佐。

 

「論争は、緊張をほぐす最良の方法よ。ほぐれたとこに、本当の顔が出る」

 

 嘲るような、しかしどこか親しい笑い声が、嵐の音に混じった。

 私は、紅茶の表面に落ちる火の色を見た。薄く、波打つ。

 ——ここで、何かが始まる。

 その確信だけが、喉の奥で苦く熱く、ほどけない結び目みたいに、居座った。

 

 

 館の外壁を叩く雨音は、一段と激しさを増していた。

 その轟きの合間に、暖炉の火がぱちぱちと木を弾く。人の声もまた火花のように飛び散っては消え、残るのは沈黙と眼差しの交錯だけだった。

 

「——で、だ」

 

 バルターが足を組み替え、革靴の踵で床を軽く鳴らした。

 

「議題は“帽子の掛け方”。私は反時計回り派ね。なぜなら、時計回りに掛けると重力が加速して脳に血が上るから」

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

 少佐が鼻で笑う。

 

「物理法則を捻じ曲げる気か」

 

「物理法則なんて、人間が決めただけでしょ? 私の法則ではそうなってるのよ」

 

「その理屈で行けば、この世の全員が“お前の法則”で生きていることになる」

 

 フリーダが皮肉を混ぜて返す。

 

「えぇ、それで結構。人は皆、誰かの法則に生きてる。夫の法則、上司の法則、戦場の法則。なら、今ここは“バルター法則”に従うのが筋じゃない?」

 

「笑わせる」

 

 少佐は口髭をいじりながら目を細める。

 

「自分を王だとでも?」

 

「王様遊び、嫌いじゃないわ。処刑人と王様は近い職業だもの。どちらも“命を上下に振り分ける”」

 

 場が一瞬、凍りついた。

 ショシャナが眉をわずかに寄せた。彼女の唇は動かないが、目だけが「やめろ」と訴えているように見えた。

 

「やはり君は危険人物だ」

 

 ユリウスが眼鏡を押し上げ、ため息混じりに言った。

 

「軽口の皮を被った狂気だよ」

 

「狂気? 違う違う。ただの退屈しのぎよ。——ほら、観察者さんも何か言ってあげて」

 

 いきなり水を向けられ、私は肩をすくめた。

 

「……退屈しのぎにしては、火が強すぎる」

 

「でしょ? でもね、火は強い方が真実を炙り出す」

 

 バルターの声が柔らかくなり、しかしその目は冷たい。

 私は理解していた。彼女は“遊んでいる”のではない。あくまで“支配”しているのだ。無駄話を、論争を、冗談を使って。

 

 そのとき、フォーゲルが戻ってきた。

 盆に乗せられたままのマグカップを片手に持ち、彼は言った。

 

「御者が飲んだ。湯だけを、と言ったが——」

 

 言葉が途切れた。

 フォーゲルの目が一瞬だけ揺れ、次の瞬間、遠雷と共に外から人の叫び声が響いた。

 

 御者だ。

 

 低く、湿った地鳴りのような呻き。その直後、馬車の横で鈍い倒れる音がした。

 

「……毒か」

 

 少佐が立ち上がる。

 

「いやぁ、早いね。私の予想より二十分は早い」

 

 バルターが軽く指を鳴らした。

 

「ねぇ、見た? 誰が入れたか見た? 私は見てないけど、“見たって人を見た”のなら信じる」

 

「ふざけてる場合じゃない!」

 

 ショシャナが声を荒げる。

 

「殺人だぞ!」

 

「はいはい、警官さん。“まだ未確定”ね。御者が転んだだけかもしれない。……で、ここで議題。“見た/見てない”再開しましょう。御者が飲む瞬間を、誰が見た?」

 

 空気が重くなり、沈黙が流れる。

 少佐が唇を動かしかけたが、ユリウスが先に口を開いた。

 

「——私は見た。御者がマグに口をつけた。確かに」

 

「なるほど。じゃあ“御者を見た人を見た”人は?」

 

 バルターが手を上げる。

 

「はい、私。“御者を見たユリウスを見た”。だから保証できる。君は御者を見た」

 

「詭弁だ!」

 

 少佐が机を叩く。

 

「証言が証言の証人でしかない!」

 

「詭弁? いいや、これは論理の正義よ。見た人を見たなら、それも証拠。で、フリーダさんは?」

 

「私は……見てない。正直に言えばね」

 

「正直、いいわね。じゃあ少佐は?」

 

「俺も見てない。馬の足元を見ていた。雷に怯えていないか確認していた」

 

「なるほどなるほど。じゃあまとめ。“御者を見た”のはユリウス。“御者を見た人を見た”のは私。残りは見ていない。——面白い構図ができたわね」

 

 バルターの口元に笑みが浮かぶ。

 それは、嵐の稲光よりも鋭く、ぞっとする笑みだった。

 

「ここで新ルール。“私

の嘘に乗った奴は、全員、敵”。わかりやすいでしょ?」

 

「何だと……?」

 

「つまりね、“見た”って言った人間は、私の嘘に巻き込まれた。私が“見た”って言えば、見てない人間も“見た”と証言したことになる。……だから敵。わかる?」

 

「狂ってる……」

 

 ショシャナが呟く。

 

「狂ってる? 褒め言葉ね。狂気は支配の潤滑油」

 

 銃口が、静かに光を帯びた。

 誰も見ていなかった。いつ彼女が抜いたのか。バルターはすでにホルスターから二丁の拳銃を抜き、両手に構えていた。

 

 雨音と、呼吸と、火のはぜる音。

 次の瞬間、銃声が館を裂いた。

 

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