役目終了と思いきや異世界へ引きずり込まれたそうですよ? 作:問題児愛
それはさておき、再会編です。
―――東と北の境界壁。
4000000外門・3999999外門、サウザンドアイズ旧支店。
店から出た万由里と鞠奈の頬を、熱い風が撫でた。
いつの間にか高台に移動した〝サウザンドアイズ〟の支店からは、街の一帯が見渡せる。
万由里と鞠奈は瞳を大きく見開いて驚嘆の声を上げた。
「………すご。街全体が真っ赤。しかもなんか妙に熱いような………」
「へえ………時間の間隔が狂いそうね。東側とはまるで景色が違う」
天を衝くかというほどの巨大な赤壁の境界壁。掘り出される鉱石で彫像されたモニュメント。ゴシック調の尖塔群のアーチ。外壁に聳える外門が一体となった巨大な凱旋門。
色彩鮮やかなカットガラスで飾られた歩廊。境界壁の影に重なる場所を朱色の暖かな光で照らす無数の巨大なペンダントランプ。これが時間の間隔を狂わせる原因だ。
万由里は街から視線を十六夜達の背に移し、駆け出して文句を言おうとした―――その時。
「
ズドォン!!と、ドップラー効果の効いた絶叫と共に、爆撃のような着地。その声に跳ね上がる十六夜・飛鳥・耀。万由里と鞠奈は憐れみの眼差しで問題児達を見つめた。
遥か彼方、巨大な時計塔から叫んだ黒ウサギは全力で跳躍し、一瞬で問題児達の下に現れた。
「ふ、ふふ、フフフフ………!ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方………!」
淡い緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラを振り撒く黒ウサギ。危機を感じ取った問題児の中で、真っ先に十六夜が動く。
「逃げるぞッ!!」
「逃がすかッ!!」
「え、ちょっと、」
十六夜は隣にいた飛鳥を抱きかかえて展望台から飛び降りる。耀も慌てて飛翔するが、黒ウサギの大ジャンプを前に無情にも捕まってしまった。
「わ、わわ、………!」
「耀さん、捕まえたのです!!もう逃がしません!!!」
どこかぶっ壊れ気味に笑う黒ウサギ。耀を引き寄せ、胸の中で強く抱き締め、黒ウサギは耀の耳元で囁く。
「後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテクダサイネ♪」
「りょ、了解」
反論を許さないカタコトの声に、耀は怯えながら頷く。着地した黒ウサギは、白夜叉に向かって耀を投げつける。三回転半して吹っ飛んだ耀と白夜叉は悲鳴を上げた。
「きゃ!」
「グボハァ!お、おいコラ黒ウサギ!最近のおんしは些か礼儀を欠いておらんか!?コレでも私は東側のフロアマスター―――!」
「耀さんの事をお願い致します!黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」
聞くウサ耳を持たずに叫ぶ黒ウサギ。白夜叉は勢いに負けて頷く。
「ぬっ………そ、そうか。良く分からんが頑張れ黒ウサギ」
「はい!―――って万由里さんと鞠奈さん!?どうしてメイド服なんか着ちゃってるのですか!?」
「え?………あ、これは起きたら着せられていて」
「ええ。あたしたちは嫌がってたのに無理矢理着せられたわ………逆廻十六夜に」
無論、十六夜が着せたというのは真っ赤な嘘である。鞠奈はただやられたからやり返そうと、悪戯心が働いたのだ。
そんなことを知らずに黒ウサギはさらに怒りを募らせて、展望台に亀裂を入れると、
「フフ、フフフフ!あの問題児様だけはどうやら本気で御説教しなければいけないようでございますね………!」
ドス黒いオーラを発しながら展望台から飛び降りて猛スピードで駆け出していった。
その背を見送った万由里と鞠奈。万由里は半眼を作り鞠奈を見つめた。
「鞠奈。どうしてあんな嘘をついたの?」
「うん?だってあたしたちにこんな恥ずかしい格好をさせたのはあの
「………そ。じゃあ今回の件は十六夜が悪いのね」
「ええ。だからあの男に気を許しちゃ駄目よ。簡単に漬け込まれるから」
「………ん、わかった。気をつける」
鞠奈の言葉に頷く万由里。鞠奈は万由里の肩をポンと叩くと、
「まあ、せっかく北側に来たんだし、少し見て回らない?」
「ん、それもそうね。それじゃあ行きましょ」
万由里と鞠奈は一緒に北側の街を見て回ることにするのだった。
★★★★★★★★★★★★
―――同刻。赤窓の歩廊を楽しそうに歩く、二人の姿があった。
一人は青色の髪に茶色の瞳、黒い上着と青の長ズボンを着た長身の少年―――五河士道。
もう一人はアッシュブロンドの長髪を黒のヘアバンドで止め青色の瞳を持ち、桃色の上着と純白のミニスカートと黒のニーハイソックスを着た少女―――或守鞠亜。
士道と鞠亜は手を繋いで異世界デートを楽しんでいた。鞠亜は笑顔で話しかける。
「士道。わたしはあそこの屋台に行ってみたいです。構いませんか?」
「ああ、いいよ。今日は俺と鞠亜のデートの日だからな。鞠亜が行きたいところに行けばいいよ」
「そうですか。では行きましょう、士道」
「おう!」
鞠亜に手を引かれて士道は鯛焼き店へと足を運ぶ。生地が焼けているいい匂いがした。
鞠亜はクリーム味を、士道は無難な餡子味の鯛焼きを買って食べ歩きする。
鞠亜は鯛焼きの頭から小さな口でかぶりつく。サクッと音を立てながら中身からクリームが溢れて鞠亜の口内を甘味が満たしていく。
「………美味しいです」
「そっか。それはよかった」
鞠亜の美味しそうに食べる顔を見ながら、士道も餡子味の鯛焼きにかぶりつく。―――が、
「熱っ!」
「し、士道!?大丈夫ですか………!」
鞠亜は急いでバックの中から水の入ったペットボトルを取り出し、キャップを捻り開けると士道に手渡す。士道はそれを受け取って水を飲み、火傷した口を癒す。
「わ、悪い鞠亜。助かった」
「いえいえ。それより士道。鯛焼きは焼きたてですから食べるときは注意しなくてはいけませんよ?」
「あ、ああ。気をつけるよ」
「ふふ。分かればいいんです」
まるで母親のように注意する鞠亜に、苦笑して頬を掻く士道。だがふと自分が飲んだ水の入ったペットボトルの口を見てハッとした。
「………鞠亜。もしかしてこの水………鞠亜が飲んでたヤツじゃ!」
「はい。―――ふふ、間接キスですね、士道」
「平然とした顔で答えるなよ!?」
ツッコミを入れる士道。すると鞠亜は急に瞳を潤ませてモジモジと恥ずかしそうな表情で尋ねた。
「で、では士道。恥ずかしがった方が………いいですか?」
「―――ッ!!!………す、すまん。俺が悪かった………!」
士道は頬を赤く染めてそっぽを向く。その様子を可愛いと思い、クスクスと微笑する鞠亜。
士道は居住まいを正すようにコホンと咳払いし水の入ったペットボトルを鞠亜に返す。
「ほ、ほら。馬鹿やってないで行くぞ!」
「はい。ふふふ」
鞠亜は士道からペットボトルを受け取りバックの中にしまう。そして鞠亜は鯛焼きを片手に士道の手を繋いで再び歩き出した。
そんな光景を物陰から盗み見ている二つの影があった。
一人は膝まであろうかという夜色の長髪に水晶の瞳、黒のブレザーに青のスカートと胸にRのエンブレムがある来禅高校の制服を着た少女―――夜刀神十香。
もう一人は同じく来禅高校の制服を着た、白色のショートカットの髪にダイヤモンドの瞳の少女―――鳶一折紙。
十香は興味津々にペンを奔らせメモ帳に記載していく。
「ふむふむ。火傷をした場合はすかさず水を飲ませる………うむ!鞠亜は相変わらず気転が利いてるな!」
「流石は鞠亜。良妻を名乗るだけの事はある。とても侮れない敵」
折紙はそう呟きながら鞠亜の行動の一つ一つを目に焼きつける。彼女の両手にはあんぱんと牛乳を持って。
それを見て十香を首を傾げた。
「む?折紙。なぜあんぱんと牛乳を持ってシドーと鞠亜のデートを観察しておるのだ?」
「張り込みといえばあんぱんと牛乳。コレは絶対に欠かせない。そういう十香もきなこパンを食べながらだけど、張り込みを甘く見てない?」
「何?それはどういう意味なのだ折紙!私はきなこパンが食べたいから買ってきて食べているだけだぞ!」
「そう。なら私から言うことは何もない。引き続き士道と鞠亜のデートの動向を監視しなければならないから、これ以上貴女に構っている暇はない」
「な、何だと!?私だって折紙なんかに構っている暇はないぞ!シドーと鞠亜のデートを観察してベンキョーしているのだからな!」
フン、と折紙から顔を背けて士道と鞠亜の方に視線を向けて二人の後を隠れながら追う十香。折紙も同様の行為を行う。傍から見ればストーカーにしか見えないが。
すると士道と鞠亜は角を曲がり、姿が見えなくなった事に十香と折紙は慌てて走って追いかけた―――が、角を曲がったところで足を止める。
「………む?」
足を止めた理由。それは士道と鞠亜が立ち止まっているからでもあるが、その眼前に見知った二人の姿があったからだ。
一人は天使の羽のような髪飾りで括られたサイドテールの金髪に紅玉の瞳、白地に黒のラインが入った何処の学校か分からない制服………ではなくフリルのたくさんついたメイド服を着た少女―――万由里。
もう一人は同じくフリルのたくさんついたメイド服を着た、黒鉄の長髪を白のヘアバンドで止めた金の瞳の少女―――或守鞠奈。
士道は万由里の姿を確認すると、瞳を大きく見開いて彼女の名前を呼んだ。
「え?まさか………万由里!?」
「………ん?え、し、士道!?」
万由里も士道の声と姿を認めると、同様に驚く。
その一方、鞠亜も鞠奈の下に駆け寄り名前を呼んだ。
「鞠奈!貴女もこの箱庭に来ていたんですね………!」
「ええ。………でも驚いた。本当にお願いした通りに鞠亜が来ちゃうなんて、ね」
「お願い?それはどういう意味ですか?」
「………ッ!!な、なんでもないわ!」
何故か顔を真っ赤にしながらそっぽを向く鞠奈。それを不思議そうに首を傾げて見つめる鞠亜。
士道は万由里をマジマジと見つめて、ふと呟く。
「………万由里がいるとは思わなかったよ。元気にしてたか?」
「ん。おかげさまで………ってこの回答はおかしいわね」
「だな」
苦笑し合う士道と万由里。万由里は「あ、」と声を発して言った。
「そういえば、この箱庭では私―――<
「え?それってつまり………『システム』じゃないってことか?」
「うん。この箱庭では私は精霊扱いになってた」
「………そっか。よかったな、万由里。これで消える心配はなくなったんだよな?」
「ん。………心配してくれるの?ありがと、士道」
「当たり前だろ。あの時、俺は万由里を救えなかったんだ。だから今度こそは………絶対に守ってみせる」
「………っ!」
士道の言葉に万由里は頬を赤らめて言葉を詰まらせる。それに気づいた士道も照れくさくなって頬を掻く。
そこへ、影から様子を伺っていた十香と折紙が飛び出して乱入した。
「久しぶりなのだ万由里!」
「これは新たな強敵の予感」
「ん。久しぶりね、十香と折紙………あ、折紙とは初対面だったわね」
「そう。私と貴女は初対面。なのに名前を知っているのは驚いた。………やはり侮れない」
身構える折紙。万由里は苦笑して説明した。
「私はあんたたち精霊の霊力から生まれた存在だから、精霊になった折紙の事を私が知っていても何もおかしくはないわ」
「私が精霊になっていることも知ってる………!?」
驚愕する折紙。士道は頷くが、ふとおかしな点に気づき首を傾げた。
「………あれ?たしか万由里って十香・四糸乃・琴里・耶倶矢・夕弦・美九の六人だけじゃなかったっけ?」
「ん。
「じ、15人!?」
なんとも馬鹿げた数字に息を呑む士道。何の事かさっぱりな十香達は首を傾げていた。
「(万由里を構成している精霊の霊力は15人、か。だとすると十香・四糸乃・琴里・狂三・耶倶矢・夕弦・美九・鞠亜・鞠奈・七罪・折紙・二亜・六食………あれ?あと二人は―――誰だ?)」
士道は自分が知っている精霊の人数と、万由里が言った精霊の人数が合わない事に気づく。
「………なあ、万由里」
「なに?」
「俺が知っている精霊は13人なんだが………あと二人は誰と誰の事なんだ?」
「………え?」
士道の言葉に万由里は一瞬キョトンとする。だがすぐに半眼で見つめ返して呆れたように言う。
「あんた、自分に好意を向けている精霊を忘れるなんて酷くない?」
「や、でも俺が知る限りでは13人しかいないんだ!あと二人は一体誰なんだ?」
「………ハァ、ま、いいわ。あと二人は園神凜祢と園神凜緒なんだけど………本当に忘れちゃった?」
「園神、凜祢と凜緒………?」
万由里が口にした二人の精霊の名を声に出して言ってみる士道。だが、万由里が求めていた反応とは全く違うものが返ってきた。
「なあ、万由里」
「なに?」
「園神凜祢と凜緒の事なんだが………その二人の事を悪いが俺は―――
「……………え?」
早くも士道と万由里、鞠亜と鞠奈を再会させました。
凜祢と凜緒の登場はレティシアが北側へ着いた時なので士道との再会はもう少しお待ちください。
万由里の情報。
<
知識は、人格が形成される際に、元となった精霊たちの
あくまで『知識』で実際に見聞きしたわけではないため、反応は初めてそのものである。