役目終了と思いきや異世界へ引きずり込まれたそうですよ? 作:問題児愛
「………おかえり、凜祢」
「うん。ただいま、士道」
互いに笑顔で言い合う士道と凜祢。その様子を見て万由里と鞠奈はホッと息を吐き笑みを浮かべる。凜緒も嬉しそうに見つめていた。
だが、安心したのは束の間、この場に居合わせている十香・折紙・鞠亜の三人はまだ凜祢と凜緒の事を思い出していない。十香はうむ、と頷く。
「うーむ。よくわからぬが良かったなシドー!」
「うん。何やら感動の再会みたいなシチュエーションだった。おめでとう士道」
「ふふ。よほど彼女は士道にとって大切な人なんですね。………何だか妬けてしまいます」
「あ………そうか。俺が思い出せたら皆も、とはいかないんだな」
士道は悲しげな表情で凜祢を見つめる。凜祢は首を横に振って笑った。
「ううん。私は士道だけでも思い出してくれたから十分だよ。本当は士道にも忘れられちゃったんじゃないか、ってすごく不安だったから………」
「凜祢………」
無理して笑顔を繕う凜祢を見て、士道は切ない気持ちになった。―――本当にこのままでいいのだろうか?………と。
そんな二人の下に万由里が歩み寄って声をかけた。
「諦めるにはまだ早いわよ士道、凜祢」
「え?」
「………それはどういう意味だ、万由里?」
万由里の言葉に、首を傾げる二人。万由里は士道の方に向き直ると、
「ねえ、士道。手を出してくれない?」
「は?………あ、ああ。いいぞ」
士道は言われるがままに万由里に手を差し出す。すると万由里はその手を掴み握った―――瞬間。
「―――――ッ!!?」
士道の中に万由里の霊力と―――凜祢の記憶が流れ込んできた。
凜祢と初めて出会った日の記憶から、二度目の別れをした最後の日の記憶まで鮮明に。
もちろん士道は『勿忘草のキーホルダー』のお陰で凜祢の事を思い出せたが、全てを思い出していたわけではなかったため、彼の表情は驚愕に染まっていた。
驚くべきところはそれだけではない。先程まで凜祢の事を忘れていた十香達の態度が変わったのだ。
「………む?な、なんだ!?頭の中に何かが入ってくるぞ!?」
「これは………そこの彼女の記憶?」
「なんでしょうか………会うのが初めてなはずなのに、なんだかとても懐かしいような感じがします」
「―――――!!」
三人の反応を見て、士道はハッとした。十香達も士道と同じ現象が起きている事を察して。
「(………そういえば折紙を救った時に、折紙の霊力を封印した際に
士道はそんなことを思い出しながら、今起きている原理もこれじゃないかと予想してみる。
士道がそう思い始めた時、万由里から流れてきていた霊力の感覚が消え、そっと握っていた手を離した。
「―――ん。十香達の反応を見れば………どうやら成功したみたいね」
「成功?じゃあ万由里は俺と十香達を繋いでいる目に見えない
「ん、正解。手を握るだけだから失敗するんじゃないかって思ったけど………成功できてよかったわ」
「万由里ちゃん………!」
士道と万由里の会話を聞いていた凜祢は口元を隠しながら感動した。万由里はフッと笑って言う。
「私は友達が困っていたから助けただけ。だからお礼はいらないし、それに―――
「………!うん、そうだね。でもやるからには負けないよ?」
「ん。私だって負けない」
見つめ合い、不敵に笑う凜祢と万由里。その様子を士道は疑問符を頭の上に浮かべて首を傾げる。
そんな光景を鞠奈がニヤニヤと眺めていると、凜緒は鞠奈の服を引っ張って呟いた。
「こいのばとるのぼっぱつだね、まりな」
「え?そうね―――ってどっからそんな難しい言葉が出てくるのよ」
子供にしては難しい言葉を使うわね、と鞠奈は苦笑を零した。
十香は首を一度捻ったあと、凜祢の方に向き直り謝る。
「なぜ私は凜祢の事を忘れてしまっていたのだ!?………むぅ、すまぬ凜祢」
「え?ううん!十香ちゃんが謝ることじゃないよ。私は士道に封印してもらった時に記憶もリセットしちゃったから………覚えてないのが自然だからね」
「それでも凜祢はわたしたちの大切な友達です。本当にすみませんでした」
「私もごめんなさい。貴女ほどの人を忘れていたなんてどうかしてた」
鞠亜と折紙も頭を下げて謝罪する。凜祢は困ったように頬を掻くと、士道が止めに入る。
「おい、おまえら。凜祢はいいって言ってるんだ、あまり苛めるなよ」
「む、別にいじめてなどないぞシドー」
「うん。そう思われるのは心外」
「そうですよ。凜祢をいじめるわけないじゃないですか」
「お、おう………それは悪かったよ」
注意したはずが逆に言われてしまい謝る士道。それに苦笑する凜祢。万由里は士道達を見回して尋ねた。
「それで、これからどうするの?見たところさっきまで士道と鞠亜はデート中だったみたいだけど」
「え?あ、そうだったな………鞠亜はどうしたい?」
「そうですね。わたしは鞠奈と再会できたので、鞠奈と一緒に回りたいです」
「え?あたしと?」
いきなり指名されて驚く鞠奈。鞠亜は上目遣いでお願いした。
「………駄目、ですか?」
「………別に駄目ってわけじゃないけど、鞠亜はいいの?」
「はい。わたしはいいですよ。十分士道とのデートを楽しみましたから」
「………そう。ならいいわ。付き合ってあげる」
仕方ないわね、と鞠奈は鞠亜の要求をのむ。鞠亜は嬉しそうに笑って、よろしくお願いします、と告げた。
だがフッと不機嫌そうな表情になると、鞠奈は士道の方に向いて言う。
「そういえば五河士道。あたしのことは軽くスルーしてくれたみたいだけど酷いじゃない。それともあたしとはもう会いたくなかった?」
「や、そういうわけじゃねえよ。鞠奈と再会できて嬉しいと思ってる」
「ふうん、どうだか」
「おまえなあ………」
万由里と凜祢には挨拶したのに自分だけハブられていたことを根に持っていたらしい。不機嫌そうな表情の鞠奈に士道は困ったような表情を見せると、鞠亜が苦笑しながら鞠奈に耳打ちした。
「鞠奈。そこは素直に喜びませんと何時までたっても士道に振り向いてもらえませんよ?」
「う、煩いわね!キミに言われなくてもそんなことは分かってるわよ………!」
鞠亜に指摘されて顔を赤らめて声を上げる鞠奈。クスクスと笑う鞠亜。士道は首を傾げていると、凜緒が歩み寄ってきた。
「パパ。りおのこともわすれないでほしいんだよ?」
「え?あ………わ、悪い凜緒。さっきまで凜祢の事ばかりで頭がいっぱいだったんだよ」
「え?」
「うん。パパのそのきもち、りおにもわかるよ!ママはびじんでかわいいからね!」
「り、凜緒ちゃん!?」
凜緒の発言に慌てる凜祢。凜緒はしてやったりな表情で凜祢を見る。
凜祢は居住まいを正すようにコホン、と咳払いした。
「そんなことないよ凜緒ちゃん。十香ちゃんだって鳶一さんだって鞠亜ちゃんだって鞠奈さんだって万由里ちゃんだってみんな美人だし可愛いよ。もちろん凜緒ちゃんもね。私だけが見劣るわけにはいかないよ」
「そうだな。これまで俺が出会った精霊達はみんな美人で可愛い」
「「「「「「………ッ!」」」」」」
士道の不意の一言に凜緒を除いた精霊達一同は頬を赤らめる。それに気づいた士道は尋ねた。
「………?おまえらどうしたんだ?顔が赤いんだが」
「「「「「「なんでもない(よ・わ・です)」」」」」」
「お、おう………」
精霊達のハモりに少し驚く士道。気を取り直して凜祢が十香と折紙を見た後、万由里に視線を向けて言う。
「私と凜緒ちゃんは十香ちゃんや鳶一さんとお話したいから、士道のことお願いね?万由里ちゃん」
「………え?」
「そっか。それじゃあまたあとでな」
「うん。あ、でも士道。万由里ちゃんを苛めちゃ駄目だからね?」
「は?苛めねえよ!?俺を何だと思ってるんだ!」
「え?キミは女の敵なんでしょ?」
「だからなった覚えねえよ!?」
叫ぶ士道。固まっていた万由里はハッとして凜祢に問いただす。
「ちょっと凜祢?あの流れだとあんたが士道とデートをするべきじゃないの?」
「ううん。最初に士道と再会できたのは万由里ちゃんと鞠奈さんなんだよね?それに十香ちゃん達に私のことを思い出させてくれたのはあなただから………それに、」
スッと優しげな瞳で凜祢は告げた。
「私は士道にたくさん幸せをもらったから、
「………
本命は譲らない、という凜祢の強い意思に苦笑いを浮かべながら頷く万由里。互いにもう一度士道に会えるチャンスはないと思っていたのだ。本気になるのも無理もない。
凜祢は万由里に手を振った後、凜緒を連れて十香達の下へ向かい、
「それじゃあ行こっか十香ちゃん、鳶一さん」
「うむ!万由里もシドーとのデェトを存分に楽しむのだぞー!」
「嫌なら代わりに私が士道とデートをするから断ってもらっても構わない」
「だめだよおりがみ。まゆりのじゃまをしちゃ、ね?」
元気よく手を振る十香。万由里に詰め寄ろうとした折紙を止める凜緒。万由里はそんな三人に手を振り返すと、士道に向き直る。
「………成り行きで私があんたとデートすることになっちゃったけど、平気?」
「え?そうだな、俺は問題ないけど………万由里の方こそ大丈夫か?」
「ん。私も平気よ。………あんたとは、初デートになるわね」
「………そ、そうみたいだな」
万由里と士道のデートはこれが初だ。そのためなんだか急に気恥ずかしくなる二人。
万由里はコホンと咳払いして、
「じゃあ、行きましょ」
「ああ、そうだな」
士道は頷き二人は歩き出す。こうして万由里と士道の初デートが開始されたのだった。
★★★★★★★★★★★★
―――時は少し遡り、レティシアに捕まった飛鳥は、その彼女と一緒に十六夜と黒ウサギのいる方向とは反対側の歩廊を歩いていた。
だが不意に飛鳥が立ち止まり、屋台を見つめて呟く。
「ふぅ。なんだかお腹がすいてきたわ。少しあそこで休憩しましょう?」
「ん?ああ、そうだな。丁度いい椅子があるから休憩にするか」
レティシアは同意してとある屋台の近くにあったベンチに腰かける。飛鳥が息を吐いてリラックスしていると、レティシアは立ち上がって飛鳥に問う。
「飛鳥は何か食べたいのはあるか?」
「え?………そうね。レティシアにお任せするわ」
「ん、了解したぞ」
レティシアは頷いて近くのクレープ屋へ向かった。飛鳥はその様子を眺めていると、
「あの………お隣、いいですか?」
「え?ええ、いいわよ」
飛鳥は声をかけてきた少女に視線を向ける。
そこには、水色の髪にサファイアの瞳、左手には眼帯をつけたコミカルなデザインのウサギのパペット『よしのん』、純白のワンピースを着た幼い少女―――四糸乃。
四糸乃が遠慮がちに空いていた飛鳥の隣にチョコンと座る。飛鳥が四糸乃の顔を窺っていると、左手のパペット『よしのん』がお礼を言った。
『ありがとねーおねーさん。いやー助かったよー』
「………!?」
喋り出す『よしのん』に驚愕する飛鳥。四糸乃を見たが口を動かしている様子もなく、本当にウサギのパペットが喋っているのだと思った飛鳥は思わず彼女の両肩をガシッと掴んで声を上げた。
「え?え?す、凄いわ!一体どういう仕組みになってるのかしら………!?」
「ええっ?あ、あの………い、痛いです………」
「あ、ごめんなさい!」
痛がる四糸乃に気づいて慌てて肩を掴んでいた手を離す。『よしのん』はやれやれといった調子で飛鳥に注意した。
『ダメだよおねーさん。四糸乃イジメたらよしのん怒っちゃうよ?』
「え?べ、別に苛めてなんかいないわ。でも、ごめんなさい。痛かったわよね?」
「はい。でも………もう大丈夫、です」
四糸乃はコクリと頷く。飛鳥はそう、と返して安堵した。そこへ、クレープを買いに行っていたレティシアが戻ってきた。
「買ってきたぞ、あす………か?」
「あら、早かったわねレティシア。………?それは、何なの?」
「ん?飛鳥はクレープというものを知らないのか?」
「クレープ………?」
初めて聞いた名に首を傾げる飛鳥。レティシアが少し驚いたような表情をすると、四糸乃がじーっとクレープを見つめて呟く。
「クレープ………おいしそう、です」
「あら、貴女はクレープというものを知っているのかしら?」
「はい。とても、おいしい食べ物………です」
「そう」
四糸乃の言葉に飛鳥は相槌を打ち、クレープを見つめる。一方、レティシアは四糸乃を見て小首を傾げていた。
「………ところで飛鳥」
「何かしら?」
「飛鳥の隣にいる彼女は誰なんだ?」
「え?えーと、四糸乃さん………でいいのかしら?」
「はい………あってます」
「そう、よかったわ。それで、四糸乃さんの左手に装着している可愛らしいウサギのパペットが」
『よしのんは〝よしのん〟っていうんだよー。ヨロシクねーお二人さん』
「………!?」
『よしのん』が喋っていることにレティシアは先程の飛鳥と同じように驚愕する。だがレティシアは冷静に四糸乃と『よしのん』を見比べて尋ねた。
「………もしかして君は腹話術でも出来るのか?」
「………ぇ?」
〝腹話術〟という言葉を聞いて固まる四糸乃。すると『よしのん』が返した。
『んんー?おねーさん、腹話術ってなんのこと?ジョーダンを言わないでくれるかな?』
「む、違うのか?てっきりそういう類いのものかと思ったのだが………勘違いしてすまない」
レティシアは小首を捻るも『よしのん』が言うのだからそうなのだろうと納得した。
レティシア達は知らないが、『よしのん』が話している時は四糸乃の中にあるもう一つの人格が喋っているだとかなんとか。
そんな話をしていると、
「―――あ、いた!急にどっか行っちゃうから捜したわよ四糸乃」
「え?………あ、ごめんなさい琴里さん」
琴里と呼ばれた少女が四糸乃達の下へ駆け寄ってきた。
黒いリボンで二つに括られたツインテールの赤色の髪にルビーの瞳、肩掛けにされた真紅のジャケット、そして口に咥えた白い棒………否、チュッパチャプスが特徴的な少女―――五河琴里。
琴里は四糸乃を見たあと隣の飛鳥とレティシアに視線を向ける。
「………?あなたたちは?」
「私は久遠飛鳥よ。それでこっちはメイドのレティシア」
「レティシアだ。君は四糸乃に琴里と呼ばれていたが………」
「ええ、そうよ。私は琴里。五河琴里よ」
「そう………琴里さんというのね。………ん?五河?」
〝五河〟と聞いて飛鳥は首を傾げる。何処かで聞いたことがあるような―――
「―――!ねえ、琴里さん」
「何?」
「違ってたら悪いのだけれど琴里さんは―――五河士道さんの妹か姉だったりするかしら?」
飛鳥の問いに、え?と固まった琴里と四糸乃。だが次の瞬間、驚きの声を上げて飛鳥に問いただした。
「え?あなた、士道を知ってるの!?」
「飛鳥さんは、どうして士道さんの事を知ってるんですか………!?」
「え?ええ。それはね………万由里さん達から聞いたからよ」
「………は?万由里!?万由里がこの箱庭にいるっていうの!?それに、達ってどういう意味よ!他に私達の世界の精霊を知ってたりするわけ!?」
「ん?そうだな………万由里の他には凜祢と凜緒と鞠奈が私達のコミュニティに所属しているぞ」
「なっ―――!」
聞き覚えのない凜緒はともかく、万由里だけでなく鞠奈やつい先程思い出した凜祢の名前が出てきて、さらにレティシア達のコミュニティに所属しているという情報に驚愕した琴里と四糸乃。
琴里はコホンと咳払いして、飛鳥達に尋ねた。
「飛鳥にレティシアと言ったわね。………ちょっと詳しく話を聞かせてもらうわよ」
「え?分かったわ」
琴里の要求をのんだ飛鳥とレティシアは、万由里達のことについて話し始めるのだった。
万由里が士道の手を握って霊力を流す。
士道は霊力を維持できないため
十香達は凜祢の記憶を共有し思い出す。
私のキス以外の方法で凜祢を思い出す最善策はこんな感じです。十香達の霊力を共有している万由里だからこそ可能だと思ってコレにしました。