役目終了と思いきや異世界へ引きずり込まれたそうですよ? 作:問題児愛
『ギフトゲーム名〝月の兎と十六夜の月〟
・ルール説明
・ゲーム開始のコールはコイントス。
・参加者がもう一人の参加者を、〝手の平で〟捕まえたら決着。
・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。
宣誓 上記のルールに則り、〝黒ウサギ〟〝十六夜〟の両名はギフトゲームを行います。』
「これはコミュニティ間の決闘ではなく、個人の間で取引される〝
「へぇ………?」
物珍しそうに羊皮紙を読み直し、ヤハハと笑う十六夜。
「いいぜ。コインが地面に着くと同時に開始だな?」
「YES。トスは譲るのですよ」
「………ふぅん?随分と余裕そうじゃねえか」
「YES。このゲームは、どう転んでも黒ウサギに有利でございますから」
誇る訳でもなく、事実を述べるように語る黒ウサギ。十六夜も笑みを消してコインを取り出す。
互いを捕まえれば勝利というこの条件。走力は兎も角、腕力は必要ない。
対して黒ウサギには、高性能なウサ耳がある。審判としてギフトゲームの情報を収集する事が出来るというあのウサ耳が、プレイヤー時にも使用可能だというのなら、それは脅威だ。
ゲームメイクの際、相手より自分が有利になるカードを主軸に据えるのは基本中の基本だ。
理想的なのは、手の内を知られてもなお有利にゲームメイクできるカード。黒ウサギの持つ圧倒的な情報収集能力は、
しかし十六夜は臆することなくコインをトスし、開始のタイミングに全神経を研ぎ澄ます。
金属音と共に打ち上げられたコインを、軽薄な笑みで見守る十六夜。
黒ウサギは滑らかな弧を描くコインを、緊張した面持ちで見つめる。
―――……キン!という金属音が響くと同時に―――二人の姿はギャラリーから消え、スタートダッシュの爆発音だけがその場に残った。
<黒ウサギサイド>
ゲーム開始と同時に私は―――全力で後方に跳躍しました。これで十六夜さんから距離を一気に離しちゃうのです!
………と思いましたが、そう簡単に上手くはいきません。流石は十六夜さんです。私の動きを読まれておりました。
「あらら。やっぱり気が付かれていました?」
「ハッ、当たり前だ!」
息巻いて返事をする十六夜さん。ですよね!私のウサ耳を警戒しているはずの十六夜さんが、
私は苦笑しながらも全力で十六夜さんを突き放そうと屋根上を駆けます。しかし十六夜さんは猛追してきており差は一向に開こうとはしません。
私は右手に見える尖塔群の中心、巨大な時計塔に跳躍しますが、十六夜さんも追いかけてきます。まあ、当然でございますが。
巨大な時計塔を登っている際、下で観戦者が五月蝿いですが無視なのです。
私は瞬く間に時計塔を登りきり、尖塔の頂上にまで辿り着きますが、猛追してくる十六夜さんの表情が不満そうでございますね。一体どうなさったのでしょうか?
「オイコラ黒ウサギ!スカートの中が見えそうで見えねえぞ!どういうことだ!?」
「あやや、怒るところはそこなのですか?」
―――――………いきなり何を言っちゃってんですかこのお馬鹿様はああああああああああああああああああああ!!!?
私は心の中でそう叫びながらもスカートの裾を押さえながら、下から追ってくる十六夜さんに笑いかけます。
「フフン♪この衣装は白夜叉様の好意で、絶対に見えそうで見えないという鉄壁ミニスカートなギフトを与えられているのでございますよ♪」
ふふ。こういうときは白夜叉様のこのお洋服を着てよかったと思えるのですよ♪―――まあ、恥ずかしいことこの上無いのですけどね!
「はぁ?あの野郎、チラリストかよ。クソが。こうなったらスカートに頭を突っ込むしか」
「黙らっしゃいこのお馬鹿様!!!」
黙らっしゃいこのお馬鹿様!!!
声と心の声のダブルで同様の事を叫ぶ私。本ッ当に十六夜さんはお馬鹿様―――いいえ、大馬鹿様なのですッ!!!
全くもう!どうして十六夜さんはセクハラ行為をしようなどと考えるのですか!そういう所がなければ十六夜さんは十分格好いいのに。
――――――……………へ!?わ、私は一体何を考えちゃってるんでございましょうか!!? あうぅ………恥ずかしいのですよぉ……………!!
私が勝負の事をすっかり忘れて赤面していると、十六夜さんがもう目前に迫っていたのです。
「………へ?」
「おい、何他の事考えてやがる駄ウサギ。早く逃げねえと捕まえるぞ?」
「―――!!」
十六夜さんの声にハッとした私は、急いで時計塔から飛び降りようとしました―――が、ズリッ。
「え?………しまっ―――!」
足を滑らすという失態をおかしてしまい、私の体は空中に投げ出されてそのまま真っ逆さまに転落してしまいます。
………ッ!!流石に死にはしないと思いますが―――大怪我は覚悟しなければならないのですよ………っ、
〝箱庭の貴族〟と謳われていようと、空を飛ぶことは出来ないのです………!私は覚悟を決めて目を閉じました。襲ってくるであろう衝撃に耐えるために。
「―――黒ウサギ!」
十六夜さんの叫び声が私の鼓膜に響きます。ああ、もう一度十六夜さんの楽しそうな顔が見たかったなあ………
などと大袈裟な事を思いながら地面に激突―――しませんでした。
私は恐る恐る目を開けて確認すると、
「………十六夜、さん?」
「おう、十六夜様だぜ?それより大丈夫なのか、黒ウサギ?」
ヤハハと笑う十六夜さんに受け止められていました。しかもお姫様抱っこという形で。
―――――…………ふぎゃああああああああああああああああああああ!!!?なんで私は十六夜さんにお姫様抱っこされてるのですかああああああああああ!?!?
私が顔を真っ赤にしていると、不意に二人の〝契約書類〟が発光した後、私の紙が燃えて十六夜さんの紙だけが残り―――って、あっ!
『勝敗結果:勝者・十六夜。〝契約書類〟は以降、命令権として使用可能です』
わ、忘れていたのですよ………ッ!!そういえば私と十六夜さんはギフトゲームの最中で―――!
私は冷や汗をダラダラと流しながら十六夜さんの顔を覗き見ます。すると十六夜さんはニコォリと邪悪さを孕ませ笑って言いました。
「勝負の最中に別の事を考えていたみたいだが………勝負は勝負だ。俺が勝ったからには―――言うことを聞いてもらうぜ、黒・ウ・サ・ギ?」
「………ッ、は、はいぃい!!」
裏返った声で返事をする私。うぅ、絶対に十六夜さんは怒ってるのですよ………っ!
私は負けたという事実よりも、ゲームの最中に余計な事を考えてしまって、十六夜さんとの戦いを台無しにしてしまったことに対して罪悪感が湧き上がります。
しかし、十六夜さんはそんな私の気持ちを察してくださったのか、下ろすと私の髪をウサ耳ごと優しく撫でて言いました。
「ま、次俺とギフトゲームするような事があったらその時は―――余計な事は考えずに真剣勝負を頼むぜ?」
「………!YES!」
あれ?十六夜さんってもしかして………本当はいい人なんじゃ―――
などと私が思っていると、十六夜さんがフッと真剣な顔つきをして、
「それじゃあ黒ウサギ。早速だが付き合ってもらうぜ?」
「へ?付き合うって、どういう意味です?」
「は?どういう意味も何も、お前は俺の言うことを一回何でも聞かなきゃならねえんだぞ?だから今日一日付き合えって言ってんだよ。分かったか?」
あ、なるほどです。それなら私は喜んで十六夜さんに従うのでございますよ♪―――まあ、尤も………私には拒否権なんてありませんけどね!
ですが不思議と嫌ではないのです。何故なのでしょうか?ううん。本当は分かっているはずです。ただ自分の気持ちを否定して誤魔化してきただけなのかもしれません。
そう。だって私は―――――十六夜さんの事が大好きなのですから。
私はいつか、この気持ちを十六夜さんにお伝えしたい………いいえ。絶対にお伝えしてみせるのです!!
そんな決意を胸に、私は十六夜さんへ最高の笑顔で答えたのでした。
「―――YES。黒ウサギでよろしければ、慎んでお受けいたします♪」
<黒ウサギサイドアウト>
★★★★★★★★★★★★
―――一方、万由里と士道は十香達と別れた後、万由里が初デートということでまずは手を繋いで歩いてみることにした。
あの時も士道の手は握ったが、目的があったために別段気にすることはなかった。だが、今は手を繋ぐ必要はないのに繋いでいるというこの状況に万由里は少なからずドキドキしていた。
でも、万由里は表情には出していないため士道にその事は悟られることはない。
士道は万由里を見つめながら、ふと服装について問いただした。
「………なあ、万由里」
「なに?」
「さっきは十香達がいたから聞かないでいたんだが―――なんで服装がメイドなんだ?」
「―――――ッ!!」
士道の指摘に万由里は思わず足を止めて頬を紅潮させた。絶対に指摘してくるとは予想していたが、まさか二人っきりの時に言われるとは思いもしなかったのだろう。
それに士道は聞いちゃまずかったか、と思い慌てて誤魔化そうとした。
「あ、いや!別におまえの服装にケチを付けようとしたわけじゃ―――」
「………この服は着せられた」
「………は?誰にだ?」
「とある変態によ。私が眠っている間に、強制的に………ね」
はぁ、と溜め息を吐いて肩を落とす万由里。
そう。士道は知らないがとある変態に………否、白夜叉に眠っているのをいいことにメイド服を着せられたのだ。
それを知った士道は万由里に同情の視線を向ける。
「………そうか。それは災難だったな」
「ええ。まったくね」
再度溜め息を吐く万由里。士道は頬をポリポリと掻いて呟く。
「でも、万由里のメイド姿………俺は可愛いと思うけどな」
「……………っ!?」
不意に士道に可愛いと言われて万由里は頬を赤らめた。そんなことを言われてしまったら、この服を認めてしまいそうになる。
万由里の『知識』では、メイドというものはご奉仕目的やメイドカフェなどを知っている。だが問題はそれではなく格好なのだ。
今万由里が身につけているのは、頭にフリルで飾られたヘッドドレスと青色のロングドレスの上にフリルのたくさんついた純白エプロン。この可愛らしい格好こそが万由里の嫌う理由なのである。
しかし士道に可愛いと言ってもらったことにより、この服を着てよかったと思える自分がいたりする。
そんなメイド服に対して矛盾した感情がぐるぐると万由里の胸中で渦巻き、最終的にはそれらの感情を紛らわすように咳払いした。
「………そ、そんなことより、行きましょ」
「え?あ、おい、引っ張るなって………!」
万由里は繋いでいた士道の手を引っ張るように歩みを進める。流石は精霊だ。士道を容易く引き摺り回せるだけの力はある。
士道は慌てて万由里と歩調を合わせる。怒っているのかと思ったが、恐らく照れ隠しの方だろう。その証拠に士道からは見えないが万由里の表情は嬉しそうだったりする。
先を急いでいた万由里だったが、ふと芳ばしい匂いにつられて足を止めた。
「………<ラタトスク>特製きなこパン?」
万由里はそう書かれた看板を発見してその屋台へと近づく。どうやら此処から芳ばしい匂いがしているようだ。
それについて士道が説明した。
「ああ。それは
「そ。それで、<ラタトスク>っていうのはあんたたちのコミュニティの名前だったりするの?」
「いや。俺達は〝サラマンドラ〟のコミュニティに拾われて世話になってる。ある人に言われてらしいんだが………一体誰なんだか」
「え?〝サラマンドラ〟ってこの誕生祭の主催コミュニティじゃない。あんたたちは凄いところの厄介になっているのね」
士道達が〝サラマンドラ〟のコミュニティに拾われていることに驚く万由里。士道は苦笑で返す。
「そういう万由里はコミュニティに所属してるのか?」
「うん。〝ノーネーム〟のコミュニティに所属してる。凜祢も凜緒も鞠奈もね」
「へえ………。でも〝ノーネーム〟ってことは『名』も『旗印』もないし色々不便なんじゃないのか?」
「ええ。けど結構楽しいコミュニティよ。黒ウサギのウサ耳はモフモフで気持ちいいし、子供達が一生懸命作ってくれる料理はとても美味しい。あ、でも十六夜と飛鳥と耀の三人が引き起こす問題行動には日々頭を悩ませているけど」
万由里は思い出して苦笑を零す。士道はそれはご愁傷様と返し同じく苦笑する。
そんな調子で談笑していると―――きゅるる。と可愛らしい音が聞こえた。士道は首を傾げて万由里を見ると、
「……………っ、」
顔を真っ赤にして俯いていた。士道はすぐさま万由里のお腹からなった音だと察して提案する。
「あー………きなこパンでも食べるか?」
士道の提案に万由里は顔を真っ赤にしたままコクリと頷いた。その様子に士道は思わずにやけそうになったが、なんとか今の表情をキープして屋台へと足を運ぶ。
「琴里ー、四糸乃ー、いるかー?きなこパンを二つ買いたいんだが」
だが琴里は愚か四糸乃(及び『よしのん』)の返事はない。代わりにこの屋台の見張りを頼まれていたであろう男の人が返した。
「その二人なら急に飛び出していったぞ。随分前に」
「は?店番放ったらかしにしてか!?」
「ああ。というより、一人が飛び出していったのをもう一人が追いかけるようなカタチだったな。あー、だが丁度焼き終えていたパンは完売してるから焦げる心配はなかったよ」
「そ、そうだったのか。すみません、店番をしてもらって。どなたか知りませんがありがとうございました」
「ああ、お礼なんていいっていいって!………それじゃあ私はこの辺で失礼するよ」
士道がお礼をすると、男は手を振って帰ろうとした―――その時。
「ちょっと待って」
万由里が男に待ったをかけた。男はギクリとして立ち止まり振り返る。
「………まだ何か?」
「ええ、あるわ。聞きたいんだけど、見ず知らずのあんたがどうして士道の店を見張ってたの?まさか―――」
「………チッ!」
万由里が言いかけたところで男は舌打ちと共に駆け出した。この行為を意味するのはただ一つ―――窃盗犯ということだ。
「な、あいつ!待てッ!!」
士道はハッとしてその男を追いかける。逃げる男。そこへ、
「―――ハッ、窃盗は犯罪だぜオマエ」
「何?―――グハッ!?」
第三宇宙速度で飛んできたポケットティッシュが男に命中して吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられた男はその場に倒れ落ちると、ウサ耳を頭部に生やした少女が現れて男を押さえ込む。
「確保なのです!」
「く、くそ………!」
そこへ士道と万由里が駆けつけると―――ヤハハと笑う十六夜と、窃盗犯を取り押さえた黒ウサギの姿があった。
すると万由里達に気がついたのか十六夜と黒ウサギは視線を向けて声を漏らしたのだった
「「………あっ、」」
ようやく十六夜と士道が接触しました。
というわけでヒロイン解禁です。