役目終了と思いきや異世界へ引きずり込まれたそうですよ? 作:問題児愛
「ジン坊っちゃーん!新しい方をお連れしましたよー!」
「うん、お帰り黒ウサギ。彼女達二名が?」
「はいな、こちらのお四人様が―――へ?」
振り返った黒ウサギは………固まった。
「あれ?もう二人いませんでした?目付きも口調も悪い、全身から〝俺は問題児様だぜ!〟なオーラを放つ方と、唯一黒ウサギの素敵耳を優しく扱ってくださった方が」
「ああ、十六夜君と万由里さんのこと?彼らなら〝ちょっと世界の果てに行ってくるぜ!〟と言って駆け出して行ったわ。あっちに」
黒ウサギの呟きに飛鳥は断崖絶壁を指さして答える。「は?」と呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて問いただす。
「なんで止めてくれなかったのです!」
「〝止めるんじゃねえぞ〟と言われたもの」
「ではどうして黒ウサギに教えてくれなかったのです!?」
「〝黒ウサギには絶対に言うな〟と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!面倒くさかっただけでしょう!」
「「大正解」」
「だと思いましたよ!」
ガクリ、と前のめりに倒れる黒ウサギ。だがハッとあることに気がつき問いかける。
「え?じゃあ一緒についていった万由里さんも実は問題児だったのですか?」
「万由里さんなら十六夜君に拉致されたわ。―――問答無用に」
「そうですか………良かった―――ってよくないのですよ!?」
万由里は拉致されただけで問題児ではないことを知り安堵しかけて頭を振る黒ウサギ。
一方、ジンは蒼白になって黒ウサギに言う。
「く、黒ウサギ!〝世界の果て〟には」
「分かってるのですジン坊っちゃん。………はあ、申し訳ありませんが、お二人様のご案内をお願いします」
「わ、わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに行きます。事のついでに―――〝箱庭の貴族〟と謳われるウサギを馬鹿にしたことを、骨の髄まで後悔させてやります!」
★★★★★★★★★★★★
一方、十六夜と万由里は〝世界の果て〟に向かっていた。万由里は呟いた。
「ねえ、あんた」
「なんだ?」
「なんだ?ではないわ。なんで私はあんたに脇に抱えられて強制連行されてるのよ………」
「ああ。それはお嬢様や春日部よりお前の方が面白そうだったから拉致った」
十六夜は誤魔化すつもりもなく率直に答える。万由里は「そ」と返して前方に目線を戻す。
「………それにしてもあんた足速いね。というか本当に人間?」
「失礼な奴だな。俺は歴とした人間様だぜ?」
「ふうん」
怪しい、と言いたげな表情で十六夜を見る万由里。それに十六夜は軽薄な笑いで返すと、森を抜けて大河の岸辺に出た。
その神秘的な光景に二人は「へえ」と驚嘆の声を発した。
「こいつはいいな。早速感動の補充をさせてもらうか」
「それもそうね」
十六夜の言葉に賛同した万由里は、共に大河や大滝を眺めて感動を補充していた。そこへ、
『こんなところに人間が来るとは珍しいな』
「あん?」
「え?」
何者かの声に反応した二人は、その声の主を探すように辺りを見回す。
すると大河から身の丈三十尺以上はある白くて長い巨躯の大蛇が姿を現した。
『我はこのトリトニスの大滝の主である蛇神だ。此処へ足を運んだというのならば我が試練を受ける覚悟もあろう?』
「試練?」
『そうだ。して人間共、試練を選べ。我に挑むのは〝力〟か?〝知恵〟か?それとも―――』
「ごちゃごちゃとうるせえヘビだな。〝試練を選べ〟だと?ハッ、素敵すぎる上から目線なお誘いだな」
『何?』
十六夜の態度に蛇神の目付きが鋭くなる。だが十六夜は気にせず挑発するような笑い、
「なら
十六夜は跳躍して一瞬で蛇神の懐に潜り込むと、その巨躯な大蛇の腹部を殴りつけた。
『―――ッ、ガァ!?』
「オイオイ、まさか今のでもうおしまいか?」
『ッ!!舐めるな、小僧ォ!!』
蛇神は着地した十六夜に向けて一本の水柱を放つ。それを難なく避けた十六夜は再び跳躍して、今度は蛇神の頭上へ現れるとその頭を蹴りつける。
『―――グ、ガァ!?』
今度は先程のよりも強めのを食らって大河に倒れ落ちた蛇神。その反動で跳ね上がった大河の水が近くにいた十六夜と万由里に雨となって降り注いだ。
「チッ、せっかく乾きかかってたってのにまたずぶ濡れか」
「なんで私まで濡れなきゃならないのよ………」
被害を受けた万由里は溜め息を吐く。その呟きに十六夜が振り返り、「へえ」と万由里を見つめた。
「なに?」
「いや、お前の髪が金髪だからかな。濡れてると水滴が太陽に反射してキラキラと輝いて見えたから綺麗だなって思っただけだ」
「………そ。ありがと―――ってあんたも金髪でしょ?」
「まあな!」
ヤハハと笑う十六夜。万由里は不意に〝綺麗〟と言われたためか、ほんのり頬が赤くなっていた。
そんな二人の下に森を抜けて黒ウサギが駆け寄ってきた。
「見つけたのですよ十六夜さん!万由里さんを拉致して一体どこまで来てるんです!?」
「〝世界の果て〟まで来てるんですよ、っと。まあそんなに怒って髪染めんなって」
「本当だ。その髪どうなってるの?」
「え?〝髪色がどうして変わってるのか?〟ですか?それはですね―――って話を逸らさないでください!」
純粋に興味本意で聞いたのに黒ウサギに怒られて少し拗ねたような表情を見せる万由里。
そんな彼女をニヤニヤと見ていた十六夜は、視線を黒ウサギに戻して笑う。
「しかしいい脚だな。さっきヘビと軽く遊んでたとはいえこんな早く俺達に追いつけるとはな」
「むっ、当然です。黒ウサギは〝箱庭の貴族〟と謳われる貴種―――え?ヘビ?」
十六夜の意味深な発言に首を傾げる黒ウサギ。すると、
『まだだ!まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』
激怒した蛇神が大河から再び姿を現した。黒ウサギはギョッとした表情で声を上げる。
「あ、あれは蛇神!?―――って、なんであんなに怒ってるんです!?」
「ああ。実は『試練を選べ』って言われたからちょっとイラッと来てな。だから代わりに俺が試したんだが………まあ、結果は残念な奴だったが」
『貴様!付け上がるな人間!これしきのことで、我を倒せると思うなよ!!』
蛇神の甲高い咆哮と鋭い牙と瞳を光らせた。黒ウサギは咄嗟に十六夜を庇う。
「下がってください、十六夜さん!」
「あ?下がるのはテメェだ黒ウサギ。俺とヘビの喧嘩だ。邪魔すんなよ」
「で、ですが!」
なお食いつく黒ウサギに、万由里は彼女の肩を叩いて止めに入る。
「彼がそう言ってるんだしその辺にしといたら?」
「ま、万由里さん!?何を無責任な」
「それに、さっきまであの蛇を圧倒してたんだし問題ないと思うわ」
「へ?十六夜さんが蛇神様を―――圧倒!?」
黒ウサギが驚くと、万由里は「ん」と返した。十六夜は軽薄な笑みで言う。
「ああ。万由里の言う通りだぜ。今は俺とヘビの喧嘩だ。分かったらどいてな」
「はぁ………分かりましたよ、十六夜さんがそこまで仰るなら黒ウサギは手を出しません。というよりゲームが始まっているのなら、最初から私達は手出し出来ないのですが」
黒ウサギが溜め息混じりに言うと、十六夜は「へえ」と物騒に笑った。
「そうかそうか。なら黒ウサギ。俺はあとでお前のそのウサ耳を引き千切るとするか♪」
「や、やめてください!っていうより笑顔でそんな物騒なことを言わないでくださいお馬鹿様!」
うがー!とウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。ケラケラと笑う十六夜。
一方、万由里は〝敵を前にして何やってんのよ〟と口にしそうな呆れ顔で二人を見ていた。
すると、蛇神が堪えきれずに激怒した。
『貴様らァ!我を放置するとはいい度胸だな!そんなに死にたいか!?』
「ハッ、〝死にたいか?〟だと?寝言は寝て言え駄ヘビ。お前ごときが俺を殺すは愚か、倒せやしねえよ」
挑発する十六夜。それにまんまと乗せられた蛇神は十六夜に―――死刑宣告を下した。
『そうか、そこまで言うなら―――望み通り殺してやるわ!!』
蛇神は雄叫びを上げて三本の水柱を発生させる。そしてそれらを束ねて一本の巨大な水柱に変えると、十六夜に放った。
これを見て黒ウサギは叫んだ。
「十六夜さん!」
だが時すでに遅く、十六夜の体は巨大な水柱の激流に呑み込まれ―――
「―――ハッ、しゃらくせえ!!」
―――る前にその巨大な水柱を殴りつけて吹き飛ばした。
「嘘!?」
『馬鹿な!?』
「………すご」
もはや人間技じゃない十六夜の一撃に驚愕する黒ウサギ達。蛇神に至っては放心していた。
十六夜はその隙を見逃さず獰猛な笑みを浮かべると、
「ま、中々だったぜお前」
跳躍して蛇神の胸元に飛び込み、その巨躯な大蛇の胴体を蹴りつけ空中高く打ち上げた。そして自由落下した蛇神は大河に落ちると、その衝撃で川が氾濫し水で森が浸水する。
またずぶ濡れになった十六夜はバツが悪そうに戻る。
「くそ、今日はよく濡れる日だな」
「まったくね。私もまたずぶ濡れ………ついてないわ………」
また被害に遭った万由里は「はあ」と深い溜め息を吐いた。
一方、黒ウサギはパニック状態に陥っていた。
「(人間が………神格を倒した!?それもただの腕力で!?そんなデタラメが―――!)」
だが黒ウサギはある言葉を思い出した。万由里を除いた彼らを召喚するギフトを与えた〝
「彼らは間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ」
黒ウサギはその言葉をリップサービスか何かだと、眉唾だと思っていた。
「(信じられないけど、これなら私達のコミュニティ再建も夢じゃないかもしれない―――!)」
黒ウサギは内心で興奮していると、十六夜が彼女の背後に回って声をかけた。
「おい、どうした?ボーっとしたままだと胸とか脚とか揉むぞ?」
「へ?―――きゃあ!」
そう。十六夜は言葉の通り黒ウサギの豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から脚の内股に絡むように手を伸ばしていた。後ろから。黒ウサギは十六夜を押しのけて跳び退き叫んだ。
「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」
「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」
「お馬鹿!?いいえ、お馬鹿!!!」
疑問形から確定形に言い直して罵る黒ウサギ。十六夜はニヤニヤと笑った。
「ま、今はいいや。後々の楽しみにとっておくぜ」
「さ、左様デスか」
「ああ。それで―――なんで万由里は俺から後ずさってんだよ」
「だってあんた変態なんでしょ?近づかないでくれる?」
十六夜の変態行為を見てドン引きした万由里は後ずさる。十六夜はそれに肩を竦ませた。
黒ウサギは苦笑いを浮かべていると、ハッと思い出したように蛇神を見た。
「と、ところで十六夜さん。蛇神様は生きてます?」
「命まで取らねえよ。殺しは面白くねえしな。〝世界の果て〟にある滝を拝んだら戻るさ」
「そうですか。では蛇神様からギフトだけでも戴きましょう。十六夜さんは勝者ですし文句はないでしょうから」
「あん?」
黒ウサギは小躍りしそうな足取りで蛇神の下へ向かう。それを十六夜が不機嫌な表情で立ち塞がった。
「―――――」
「な、なんですか十六夜さん?」
「いや、な。黒ウサギ、お前―――俺達に何か隠してんだろ?」
「………え?」
黒ウサギが一瞬固まる。それに万由里は首を傾げて尋ねた。
「………十六夜?あんた急にどうしたの?」
「ああ、ちょっと気になる事があってな。悪いが万由里は少し黙っててくれねえか?」
「………ん、わかった」
十六夜に言われて万由里は黙って従うことにした。それを確認した十六夜は続けた。
「さて、黒ウサギ。お前が何を隠してるのか当ててやるぜ?お前んとこのコミュニティは弱小、もしくは何らかの原因で衰退したんじゃねえか?」
「……………!?」
「それで俺やお嬢様や春日部は組織を強化するために呼び出された。俺がコミュニティに入るのを断った時に本気で怒ったことと、一番の決めては万由里が自分達が呼び出した人材ではないのに必死になって引き止めたことだな―――どうだ?テストで言や満点だろ?」
「―――――っ!!」
十六夜の指摘に黒ウサギは〝やられた〟というような表情をした。そして黒ウサギは覚悟を決めて口にした。
「はい………十六夜さんの言う通りです。黒ウサギ達のコミュニティはわけあって衰退してしまいました。それをこれから全てお話させて戴きますが―――いいですね?」
「ああ。一番聞いておきたい重要部分だからな。万由里も聞いておいた方がいいぜ?」
「ん、わかった。黒ウサギ………話してくれるかな?」
「はいな。黒ウサギは覚悟を決めました。話させて戴きます」
頷いて黒ウサギはコミュニティの現状を話し始めた。
★★★★★★★★★★★★
「魔王から誇りと仲間をねえ………いいんじゃねえか、それ」
「は?」
「HA?じゃねえよ。協力するって言ってんだ。もっと喜べよ黒ウサギ」
「―――!!あ、ありがとうございます………!」
嬉し涙を流して笑う黒ウサギ。十六夜は「おう」と返して万由里を見た。
「んで、万由里はどうする?」
「私?そうだな、断って見知らぬ人がいるコミュニティにお邪魔するよりあんたたちの方がいいかな」
「そ、それって!」
「うん。私もあんたたちに協力する。正直その魔王とかいうのを許せなくってね。私の力が必要なら手伝うわ」
「ま、万由里さん!本当は無関係なのにありがとうございます………!」
黒ウサギは再度嬉し涙を流して笑った。そんな彼女を十六夜と万由里は苦笑しながら見つめるのだった。
大凶の万由里はずぶ濡れの刑に処されたようです←
次回は女性店員と白夜叉と精霊登場回ですね。
時系列的に登場する精霊が消滅組の誰かと気づけていればオッケーです。