役目終了と思いきや異世界へ引きずり込まれたそうですよ?   作:問題児愛

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忘れてはならない或守姉妹のデート………いいえ、散歩です。

もう一人、忘れてはならない飛鳥とメルンの話です。


第八話 或守姉妹はデート中?洞穴にて鑑賞会だそうよ?

 ―――一方、鞠亜と鞠奈の或守姉妹は仲良く手を繋ぎながらガラスの歩廊を散歩していた。

 鞠亜は鼻歌を歌い、鞠奈は上機嫌な妹に思わず苦笑を零す。

 

「キミは本当に変わってるね。前のあたしはキミに酷いことをしたっていうのにさ」

 

「ふふ。過ぎたことですからもう気にしてませんよ。わたしは今、こうして姉さんと手を繋いで散歩出来ることが嬉しいんです」

 

「………そう。まぁ、あたしも悪い気はしないけどね」

 

「鞠奈!………ふふ、ありがとうございます」

 

 鞠亜は繋いでいた手を離して―――鞠奈の腕に抱きつく。

 突然のことに鞠奈は一瞬固まり、声を上げた。

 

「………は?ちょ、鞠亜!?」

 

「ふふ。姉さんから許可をもらいましたし、今日は思う存分甘えさせてもらいます♪」

 

「いや、ちょっと歩きにくいんだけど………!」

 

「駄目です。姉さんがいいって言ったんですからね?だから絶対に離れません」

 

 ムギュッと鞠奈の腕に抱きついて離れまいとする鞠亜。これには鞠奈はお手上げといった感じで溜め息を吐く。

 

「はぁ………仕方ないわね。今日だけだからね?」

 

「やりました!」

 

 子供のようにはしゃぐ鞠亜。それに鞠奈はやれやれといった調子で見つめた。

 

 暫くガラスの歩廊を歩いていると、大きな翠色(エメラルド)のガラスで作られた龍のモニュメントを見つけて鞠亜は声を上げた。

 

「す、凄いです!あれはなんですか鞠奈!ガラスで作られているように見えますが」

 

「うーん?ちょっと待ってて。こういうのには確か製作者の名前や何で造られているかが分かる看板が―――あ、あった」

 

 鞠奈は翠色のモニュメントに掲示された看板に眼を落とす。

 

 

『出展コミュニティ〝サラマンドラ〟

 タイトル:霊造のテクタイト大結晶によって彫像された、初代頭首〝星海龍王〟様

               製作者・サラ』

 

 

「………テクタイト大結晶?何コレ?鞠亜は分かる?」

 

「いいえ。私の知識にもないです………。ですが霊造ということは、誰かが人為的に造り出したモノということですね」

 

「へえ………天然物じゃないのね」

 

「―――!出展コミュニティ〝サラマンドラ〟ですか!?」

 

 出展コミュニティの名を見て驚く鞠亜。それに鞠奈が首を傾げて尋ねた。

 

「え?鞠亜はその〝サラマンドラ〟ってコミュニティを知ってるの?」

 

「はい。知っているも何も、〝サラマンドラ〟のコミュニティにはお世話になっていますから。勿論わたしだけでなく士道、琴里、四糸乃、十香、折紙もお世話になってますよ」

 

「ふうん………。あたしは〝ノーネーム〟に所属してる。あたしだけじゃなくて万由里、園神凜祢、凜緒もね」

 

「そうなんですか。道理で万由里と一緒に居たわけですね。凜祢と凜緒の記憶を無くしているはずなのに、親しかったわけです」

 

 納得したように頷く鞠亜。そんな感じで二人は談笑しながら散歩を再開していると、

 

「―――ん?あれは………久遠飛鳥?」

 

 鞠奈の視界には、見知った姿の少女―――真紅のドレススカートを着た飛鳥が何かを追いかけているのか、猛スピードで駆けている姿が映った。

 猛スピードといっても、少女にしては速い、全力疾走といった程度の速度だが。

 鞠奈の呟きに反応した鞠亜は首を傾げて聞いた。

 

「久遠飛鳥とは誰なんですか?」

 

「え?あ、うん。久遠飛鳥はあたしたちと同じ〝ノーネーム〟のコミュニティに所属している同士。問題児集団の一角でもあるけどね」

 

「問題児………ですか?」

 

「まぁ、そういうことになってるわね。―――ちょっと気になるし追いかけてもいい?」

 

 鞠奈のお願いに鞠亜ははい、と頷くが―――ギュッと鞠奈の手を握った。

 

「いいですよ。―――ただし、私もついていきます。いいですよね?」

 

「………はいはい、分かったわよ」

 

 鞠奈は苦笑して鞠亜の手を握り返し、鞠亜と共に飛鳥の背を追いかけたのだった。

 

★★★★★★★★★★★★

 

 そして、その飛鳥はというと―――琴里や四糸乃と別れた後、レティシアが買ってきていたクレープと格闘し、現在はとんがり帽子の精霊と壮絶な追いかけっこをして遂に精霊を捕まえたところだった。

 赤窓の歩廊を抜けて境界壁の真下まで走ってきていた。

 走り疲れたとんがり帽子の精霊を肩に乗せ、飛鳥は境界壁の麓の街道を散策する。

 

「別に取って食おう、というわけじゃないの。ただ旅の道連れが欲しがっただけよ」

 

「……………、」

 

 とんがり帽子の精霊は肩の上で大の字で寝そべり、「ひゃ~」と疲れ切った声を上げている。

 飛鳥は麓の売店で買ったクッキーを割って、とんがり帽子の精霊に分け与えた。

 

「はいコレ。友達の証よ」

 

「―――――!?」

 

 ガバッ!と甘い匂いに釣られて起き上がるとんがり帽子の精霊。

 焼き立てのクッキーはアーモンドの香ばしい香りとキャラメルの焼けた香りが混じり合い、追いかけっこで疲労したとんがり帽子の精霊の食欲を刺激した。自分の背丈ほどのクッキーをシャリシャリと齧ったとんがり帽子の精霊は「キャッキャッ♪」と愛らしい声を上げて飛鳥の頭の上まで登る。

 ―――飛鳥はこっそりと思った。「餌付けは成功したようね」、と。

 

「それじゃ、仲良くなったところで自己紹介しましょうか。私は久遠飛鳥よ。言える?」

 

「………あすかー?」

 

「ちょっと伸ばしすぎね。締まりがなくてだらしがないわ。もう少し最後をメリハリつけて」

 

「………あすかっ?」

 

「もう少しよ、頑張って。最後を綺麗に区切って発音するの」

 

 幼い口調のとんがり帽子の精霊は二度三度と頭を横に振り、小首を傾げて名前を呼んだ。

 

「………あすか?」

 

「そう。その発音で元気よく、疑問形抜きで」

 

「………あすか!」

 

「ふふ、ありがとう。それじゃあ貴女の名前を教えてもらえるかしら?」

 

 とんがり帽子の精霊は飛鳥の頭上で立ち上がり、元気よく答えた。

 

「らってんふぇんがー!」

 

「………?ラッテン………?」

 

 やや驚いた顔をする飛鳥。とんがり帽子の精霊を摘み上げ、両手の上に乗せた飛鳥は、

 

「それ、貴女の名前?」

 

「んー、こみゅ!」

 

「コミュ………コミュニティの名前?じゃあ貴女の名前は?」

 

「?」

 

 意味が分からない、という感じで小首を傾げるとんがり帽子の精霊。

 ふっと飛鳥はレティシアの言葉を思い出す。レティシアは彼女を〝群体精霊〟と呼んだ。ならば彼女はそういう種の精霊なのだろうか?

 

「(もしかして、個別の名前を持っていないのかしら………?)」

 

 考え込むように頬に指を当て、とんがり帽子の精霊に提案する。

 

「折角だから、私が名前をつけましょうか?」

 

「?んーん、らってんふぇんがー」

 

「ええ。だからそのラッテンフェンガーという名前以外に、」

 

「んーん、まきえ」

 

 とんがり帽子の精霊は、手の平の上で小首を振って否定する。

 

「らってんふぇんがー、まきえ」

 

「………マキエ?それが貴女の名前?」

 

「んーん。らってんふぇんがー!」

 

 要領が掴めないまま、飛鳥は溜め息を吐く。コミュニケーションが取れないのは仕方がない。名前の事は一度諦め、とんがり帽子の精霊と共に洞穴にある展覧会を見て回ろうとしたところで、ふと見知ったメイド姿の少女―――鞠奈がこちらを見ていたことに気づいた。

 飛鳥は鞠奈の下に駆け寄って話しかけた。

 

「あら、貴女は鞠奈さんじゃない。こんなところで何をしてるのかしら?」

 

「え?あ、いや、別にあたしはキミに用がある訳じゃ―――」

 

「嘘はいけませんよ、鞠奈。ここは正直に〝あなたの事が心配で追いかけてきました!〟って言いませんと」

 

「な、鞠亜は余計な事を言わないでくれる!?」

 

 口を挟んできた鞠亜に怒る鞠奈。

 飛鳥はえ?っと鞠亜と呼ばれたアッシュブロンドの髪の少女を見て驚いた。

 

「………まさか、貴女が鞠奈さんが言っていた鞠亜さん?」

 

「はい。わたしは或守鞠亜と申します。いつもわたしの姉さんがお世話になっております」

 

「え?ええ、こちらこそ貴女のお姉さんには毎日のように私のメイドとしてお世話を」

 

「した覚えないわよ!?何嘘言っちゃってるのキミは………!」

 

 格好がメイドだからといってとんでもない誤解を鞠亜に吹き込もうとした飛鳥を速攻で断じる鞠奈。

 鞠亜が苦笑していると、飛鳥は腰に手を当てて首を横に振った。

 

「いえ。もういっそのこと私が貴女をメイドとして雇いたいくらいだわ!」

 

「なんでそうなるのよ!嫌、絶対にやらないッ!!」

 

「えー?なら仕方がないわ。鞠奈さんが駄目なら―――貴女に決めたわ!」

 

「………え?私、ですか?」

 

 飛鳥は今度はターゲットを鞠奈から鞠亜に切り替えて詰め寄る。

 

「ええ。お姉さんの尻拭いをするのは妹さんである貴女がやるべきだもの。よって、私は鞠亜さんをメイドに」

 

「させるわけないでしょう!?あたしの大事な妹を汚さないでくれる!?というよりメイドならレティシアがいるんだからいいじゃない!いい加減にしなさいよこの問題児娘ッ!!」

 

 全力で叫んだ鞠奈。それに飛鳥ととんがり帽子の精霊は驚き―――鞠亜に至っては何故か頬を赤らめていた。

 それに気づいた鞠奈は、首を傾げて尋ねた。

 

「………鞠亜?どうしてキミは頬を赤らめているのよ」

 

「え?だって、姉さんがわたしの事をそこまで大事に思っていたなんて………嬉しくてつい」

 

「………?いや、話が見えないんだけど」

 

「………ふふ。わたしはちゃんとこの耳で聞きましたよ?鞠奈が〝あたしの大事な妹を汚さないでくれる!?〟って言ってくださったことを」

 

「……………っ!!?」

 

 無我夢中で叫んでいたため、恥ずかしい台詞を言っていたことに気づかなかったようだ。

 鞠奈はそれに気づくと、顔を真っ赤にして鞠亜から顔を背けた。

 それをニヤニヤと見つめる飛鳥。ニコニコと見つめる鞠亜。

 鞠奈は誤魔化すようにコホンと咳払いをして先を促した。

 

「………ッ!!い、いいからあの洞穴に入るんだったんでしょ?早く行かないの?」

 

「………!それもそうね。行きましょう鞠奈さん、鞠亜さん」

 

「はい」

 

 三人ととんがり帽子の精霊は洞穴の中に入る。

 巨大なペンダントランプがシンボルの街だけあって、出展物には趣向を凝らしたキャンドルグラスやランタンに、大小様々なステンドグラスなどが飾られている。

 飛鳥達は境界壁の中にある展示会場の岩棚や天井を見回し、感心したように呟いた。

 

「凄い数………こんなに多くのコミュニティが出展しているのね」

 

「本当に多いですね。どれから見ようか迷っちゃいますね、鞠奈」

 

「え?あ、うん。そうだね」

 

 出展物の前にはそれぞれのコミュニティが持つ名前・旗印がぶら下がっている。中でも飛鳥の眼を引いたのは、キャンドルホルダーに旗印が刻まれている銀の燭台だった。

 

「ふふ。細工も綺麗な銀の燭台ね」

 

「きれー!」

 

 肩に下りたとんがり帽子の精霊は、飛鳥と一緒に愛らしい声を上げた。

 飛鳥が見ている出展物に眼を向けた鞠奈と鞠亜も感嘆の声を漏らした。

 

「へぇ………中々素敵な燭台じゃない」

 

「お店で売っているモノとは比べ物になりませんね。コレも誰かが造ったというのでしょうか」

 

「出展物なんだしそうでしょ。製作者は―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟?」

 

「〝ウィル・オ・ウィスプ〟?そこのコミュニティは確か歩くキャンドルも造っていたわね」

 

「そうなんですか?えーと、」

 

「あ、鞠奈さんをからかっていたから自己紹介がまだだったわね。私は久遠飛鳥よ。よろしくね、鞠亜さん」

 

「はい。よろしくお願いします飛鳥」

 

 鞠亜が微笑んで返すと、飛鳥は「いきなり呼び捨てなのね」、と内心思ったが別に悪い気はしなかったので苦笑で止めた。

 からかわれたことを思い出して半眼で飛鳥を見た鞠奈は―――ふととんがり帽子の精霊と目が合い、尋ねた。

 

「ねえ、飛鳥」

 

「何?」

 

「ずっと気になっていたんだけど………キミの肩に乗っているのは何?」

 

「え?あ、この子はね。レティシアが言うには群体精霊の〝はぐれ〟かもしれないって言ってたわ」

 

「ふうん………精霊ねえ」

 

 箱庭の精霊は随分と小さいものね、と興味深そうにとんがり帽子の精霊を見つめる鞠奈。

 すると鞠亜もとんがり帽子の精霊を見つめ呟いた。

 

「………可愛いですね」

 

「でしょう?だけどこの子は私に懐いているようだからあげないわ」

 

「それは残念です。わたしも飛鳥みたいに餌付けしなければなりませんね」

 

「………っ、どこから見てたの貴女達!?」

 

「飛鳥がその精霊を追いかけているところからだね」

 

 鞠亜の代わりに鞠奈が答えると、飛鳥は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「そ、それってほとんど最初からじゃない………!」

 

「はい。まるで野獣の如くその精霊を追いかけてましたね」

 

「流石にそれはないわ!追いかけるのに夢中だっただけよ………!」

 

「………あすか、やじゅー?」

 

「貴女も変な言葉は覚えなくていいわ!」

 

 慌てる飛鳥を不思議そうに小首を傾げて見るとんがり帽子の精霊。それをニコニコと鞠亜が、ニヤニヤと鞠奈が見つめる。

 飛鳥はからかい返された事を不服に思い、不機嫌そうな顔をして、

 

「………他にも展示品はあるのだから行きましょう」

 

「はい」

 

「ええ、そうね」

 

 誤魔化すように先へ進んだ。その後を鞠亜と鞠奈が続く。

 

 展示会場を進んだ四人は大きな空洞に出る。

 急に開けた場所に出た飛鳥達だが、雑踏や周囲を見回すことなく、大空洞の中心に飾られていたものに瞳を丸くして驚いた。

 

「あれは………!」

 

「大きいですね。巨大なロボットでしょうか?」

 

「紅い………()()()()()()?」

 

「おっき!」

 

「大きいなんてものじゃない。あれはロボットにしては大きすぎる気がするわね………」

 

 鞠亜と鞠奈もコレには驚く他なかった。

 紅と金の華美な装飾に加え、目測でも身の丈三十尺はあろう体躯。太陽の光をモチーフにしたと思われる抽象画を装甲に描いたその姿は圧巻である。

 加えて人間の倍はあろうかという巨大な拳と足。

 寸胴な頭と体は、このか細い出入り口で一体どうやって搬入したのか疑問に思える。

 

「す、凄いわね。一体何処のコミュニティが………?」

 

「あすか!らってんふぇんがー!」

 

 とんがり帽子の精霊は瞳を輝かせ、飛鳥の肩から飛び降りる。

 展示品の看板には確かに『製作・ラッテンフェンガー 作名・ディーン』と記されていた。

 

「まさか、貴女のコミュニティが作ったの?」

 

 えっへん!と胸を張るとんがり帽子の精霊。どうやらそのようだ。

 これに飛鳥だけでなく鞠亜と鞠奈も再度驚く。

 

「コレをあなたのコミュニティが?それは凄いですね」

 

「その小さな体で造ったってことよね?………凄いわね」

 

「ええ、そうね。………凄いのね、〝ラッテンフェンガー〟のコミュニティは」

 

 にはは、とはにかんで笑うとんがり帽子の精霊。よほど嬉しかったのだろう。

 

「軽く見た感じだと、この紅い巨人だけじゃなくて、大空洞に集められた展示品がメインの扱いみたいね。貴女達のコミュニティがギフトゲームの勝者になるかもしれないわ」

 

 はしゃぎながら「らってんふぇんがー!」と叫び続けるとんがり帽子の精霊。

 呆れながら摘まみ上げた飛鳥はとんがり帽子の精霊を肩に乗せ、他の展示品を見て回ろうと足を運ぶ。

 その様子を苦笑しながら見つめていた鞠亜と鞠奈。

 

 ―――異変はその直後に起きた。




長くなるので半端ですが今回はここまでです。

次回はネズミの殲滅とこちらも忘れてはならない耀の回です。

次の話を書け終えたら『堕天使』に一旦切り換える予定です。………なんとなく22話で話数揃えたいので(笑)
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