役目終了と思いきや異世界へ引きずり込まれたそうですよ? 作:問題児愛
「さて、無事凜祢と凜緒が〝ノーネーム〟の仲間入りを果たしたところだ。そのカードについて説明しようかの」
白夜叉は十六夜達を見つめて説明した。
「それの正式名称は〝ラプラスの紙片〟、即ち全知の一端。そこに刻まれるギフトネームとはおんし達の魂と繋がった〝
「へえ?じゃあギフトネームが〝
「何?―――いや、そんな馬鹿な………〝ラプラスの紙片〟は全知だぞ、エラーを起こすなどありえん」
「だが鑑定は出来なかったんだろ。ま、俺はこっちの方がありがたいから構わねえがな」
ヤハハと笑う十六夜。納得いかないような表情を見せる白夜叉。
一方、女性組もギフトカードの見せあいっこをしていた。
「………万由里さんのギフト多いわね。〝審判者〟とはどういったギフトなのかしら?」
「し、審判者!?万由里さん!なぜ貴女が審判のギフトを持っているのですか!?」
「なぜって言われてもね………向こうではとある人物を監視して問題があれば裁きを下す役回りだったからじゃないかな」
黒ウサギの驚愕の声に答える万由里。その呟きに白夜叉が反応した。
「裁きを下すとな?ではそのギフトは〝
「え?〝主催者権限〟ですか!?まさか万由里さんは」
「いいや、魔王ではないよ。恐らくその〝審判者〟のギフトは―――
白夜叉の言葉にホッとする黒ウサギ。だが白夜叉の読み通りのギフトならば、これはこれで凄いギフトだ。
十六夜が興味深そうに覗き込み、〝不可視〟を見て納得した。
「〝不可視〟―――なるほどな。それでお前は俺達に『どうして姿が見えるのか?』と質問したわけだ」
「そ。向こうでは私は特定の人物以外には見えない存在だったから………まさかギフトになっているとはね。だから姿が見えたんだ」
十六夜達に視認される疑問が払拭して納得する万由里。
耀が〝供給者〟を見て小首を傾げた。
「………この〝供給者〟ってなに?」
「これはアレのことかな。私は他の精霊に霊力を供給することができるんだ―――こんな風に」
万由里は説明しながら凜祢の手を取り握る。すると凜祢の体が瞬く間に発光した。
「………これが万由里ちゃんの力なんだね。温かい気持ちに―――ッ!?」
「え?どうしたの凜―――ッ!?」
凜祢と万由里は霊力の供給に伴い、互いの過去を共有して言葉を失った。
士道に幸せをたくさんもらっても、イレギュラーな存在な為、二度の別れを迎えてしまった凜祢。
士道を愛した精霊達の霊力から生まれたイレギュラーな存在で、彼と触れ合えたのは少しだけですぐに別れを迎えてしまった万由里。
共に士道を愛しているが為に、彼との別れは悲しく切ない気持ちになったのだろう。
「………万由里ちゃん」
「凜祢、あんたも私と同じ………」
凜祢と万由里は共に悲しそうな表情で見つめ合う。その様子を不思議そうに見つめる十六夜達。
凜緒が凜祢のメイド服の裾を引っ張る事でその空気は消えた。
「ママ?どうしてそんなかなしそうなかおをするの?」
「え?―――ううん、なんでもない。大丈夫だよ凜緒ちゃん」
「………なんでもないの?まゆりも?」
「うん、平気。心配しなくても私も凜祢も大丈夫だから」
「………うん、わかった。でもつらかったらりおにはなしてね?」
「凜緒ちゃん………うん、わかった。心配してくれてありがとね」
「ん、わかった。凜緒はいい子だね」
凜緒の頭を撫でる万由里。凜緒は嬉しそうに笑ってすり寄ってきた。それを凜祢は優しげな表情で見つめる。
飛鳥達はなんのことだかさっぱりな為、精霊達の会話に入っていけずにいたが、凜祢と凜緒のギフトカードを見て疑問を口にした。
「………そう言えば、凜祢さんと凜緒さんのギフトカードが全く一緒なのはどういうことかしら?」
「お?それは俺も気になるな。所々違うならまだしも、全部同じってのはどうなってんだ?」
「うん、私も気になる。なんで?」
飛鳥、十六夜、耀が質問すると、凜祢と凜緒は顔を見合わせたあと、悪戯っぽい笑みを浮かべて答えたのだった。
「それは―――内緒だよ♪」
「それは―――ないしょだよ♪」
★★★★★★★★★★★★
「今日は遊んでくれてありがとう。また遊んでくれると嬉しいな」
「あら、駄目よ春日部さん。次は対等の条件に挑むのだもの」
「ああ。次は渾身の大舞台で挑ませてもらうぜ白夜叉」
「ふふ、よいだろう。楽しみにしておけ。………まあ、それはともかく―――今さらではあるが、おんしらは自分達のコミュニティがどうなっておるか把握しているか?」
「ああ、名前とか旗の話なら聞いたぜ」
「ならばそれを取り戻すために、〝魔王〟という強大な敵に立ち向かわねばならんこともか?」
「ええ、聞いてるわよ」
「………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入する、ということでよいのだな?」
白夜叉のその言葉に、ドキリとした黒ウサギは視線を逸らす。同時に、コミュニティのことを話さなかったら、自分はかけがえのない友人を失っていたかもしれない………と思った。
飛鳥はフフンと上機嫌に言った。
「そうよ。だってね、『打倒魔王』なんてカッコいいでしょう?」
「〝カッコいい〟ときたか………それで済む話ではないのだがの。全く、若いがゆえなのか。無謀というか、勇敢というべきか。まあ、魔王の恐ろしさならばコミュニティに帰れば否応なしに知ることになるだろう。それでも魔王に挑むと言うのなら止めはせんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」
「「―――――ッ」」
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑み力をつけておけ。小僧や精霊達はともかく、おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残るのは無理だ。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれ死にゆく様はいつ見ても悲しいものだからな」
「………ご忠告感謝するわ。だけど次は貴女の本気のゲームに挑むから覚悟なさい」
「ふふ、いいだろう。私は三三四五外門に本拠を構えておるからいつでも来なさい。………ただし、黒ウサギと精霊達をチップにかけてもらうがのう?」
「嫌です!」
「変態のものになる気はないわ」
黒ウサギと万由里は即答する。しかも万由里に至っては冷たい眼差しつきだ。苦笑する凜祢。白夜叉は拗ねたように唇を尖らせて言った。
「そんなつれないことをいうなよぅ………。私のコミュニティに来れば生涯遊んで暮らせるぞ?黒ウサギには三食首輪つきの個室も用意するし」
「三食首輪つきってソレ、ペット扱いじゃないですか!」
「何を今さら。黒ウサギはじきに私の愛くるしいペットに」
「な・り・ま・せ・ん!黙らっしゃいお馬鹿様!!!」
スパァアン!と黒ウサギのハリセンは白夜叉の頭をひっぱたく。
白夜叉はケラケラと笑って万由里に視線を向けて言う。
「そして精霊達には無論のこと、私の専属メイドとして雇おう。時給は弾むし何より―――万由里にもメイド服をだな」
「絶対に嫌。あんたの専属メイドとか考えただけでも気分が悪くなるわよ」
「けちぃ………」
万由里の冷たすぎる視線に白夜叉はまた唇を尖らせて拗ねたような表情をした。
一方、十六夜は凜祢と凜緒の服装が変わっていることに文句を言った。
「ところでなんで園神親娘はメイド服じゃなくなってんだよ。どういう了見だ白夜叉」
「ん?それは凜祢も凜緒も私のメイドではなくなったからの。そやつらがメイド服を着る必要はなくなったのだよ」
チッ、と舌打ちする十六夜。凜祢は苦笑いを浮かべて頬を掻いた。
そう。凜祢と凜緒の服装はメイド服ではなくなっていたのだ。
凜祢は黒のブレザーに青のスカート。そして左胸にRのエンブレムがある、向こうの世界の来禅高校という学校の制服に着替えていた。
凜緒は赤と白をベースにしたローブのようなものを着ている。お姫様風の霊装を纏っていた。
飛鳥と耀も十六夜の言葉に賛同して異議を唱える。
「そうね。なんでメイド服をやめちゃったのかしら?あっちの方がよかったのに」
「うん。私も飛鳥も十六夜も、凜祢と凜緒の服装をメイド服に戻すべきと提唱する」
「黙らっしゃい!!凜祢さんと凜緒さん。こんなお馬鹿様方の言う通りにしなくてもいいのですよ!万由里さんもそう思いますよね―――って、え?」
問題児達の言葉を一蹴した黒ウサギは、万由里にも同意を求めようとしたが、彼女はなにやら真剣な表情で凜祢の制服を見つめていた。
「………これが士道の通っている学校の制服」
「万由里ちゃん?もしかしてこの制服を着たいのかな?」
「うん、着たい」
ジーっと凜祢が着る制服を見つめながら答える万由里。困った表情を見せる凜祢。
それを見ていた白夜叉はいいことを思いついたのか一瞬店の中へ消え―――すぐに戻ってくると来禅高校の制服とメイド服の二着を持って万由里に迫る。
「ふっふっふ。万由里よ、この制服が欲しいと言うのなら、このメイド服を」
「メイド服は却下。………う、でも士道の通っている制服は着たい」
来禅高校の制服が着たい自分と、メイド服を着たくない自分を天秤にかける万由里。
白夜叉に加えてニヤニヤと万由里を見つめる問題児達。深い溜め息を吐く黒ウサギ。
首を左右に捻る万由里は悩んだ末―――白夜叉に手を差し出した。
「―――ちょうだい」
「ん?それはこの制服が欲しいということかの?」
「ん。メイド服………着てあげるから、ちょうだい」
「うむ。その言葉を待っておったぞ!よしよし、では凜祢。ひとまずこの制服はおんしに預けさせてもらおうかの」
白夜叉は万由里の横を通りすぎて制服を凜祢に手渡す。
「わかった、預かればいいんだね?」
「ああ。それでは万由里―――こちらへ」
「………変なことしたら<
「それは勘弁して欲しいかの。―――そういうおんしも『やっぱ着ない』と言ったらタダじゃおかんぞ?」
「ん、わかった」
万由里は素直に頷いてメイド服を持った白夜叉のあとをついていき、店の中へ入っていった。
そして数分後。白夜叉の後ろについていった万由里が姿を現した。
メイド服は純白と青をベースにしたもので、純白のカチューシャにフリルがたくさんついた服、純白のニーハイソックスといったところだ。
それを見た問題児達は親指を掲げて、
「「「超グッジョブ!」」」
「うむ!」
白夜叉も親指を掲げて返す。万由里と黒ウサギはハァと盛大に溜め息を吐く。凜祢は苦笑しながらも「可愛い」と呟き、凜緒もキラキラした瞳で「かわいい」と呟いていた。
その後、万由里は元の純白の制服に着替え終わると、一同は白夜叉に別れを告げて〝ノーネーム〟を目指した。
★★★★★★★★★★★★
「この中が我々のコミュニティでございます。本拠まではまだ歩かなくてはなりませんのでご容赦ください。この近辺は戦いの名残がございますので」
「ふうん。噂の魔王との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。魔王が残したという傷跡、見せてもらおうかしら」
先ほど白夜叉に虫のような扱いをされて不機嫌な飛鳥が言う。
黒ウサギは躊躇いながら門を開ける。すると乾いた風が吹き抜けた。
砂塵から顔を庇うようにした六人の視界には―――一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは………!?」
街並みに刻まれた傷跡を見た万由里達は息を呑み、十六夜だけはスッと目を細める。
十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸を手に取り握ると、木材は乾いた音を立てて呆気なく崩れ去った。
「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは―――今から
「いいえ、僅か三年前でございます」
「ハッ、この
そう。彼ら〝ノーネーム〟のコミュニティは―――まるで何百年という気が遠くなるほど長い時間をかけて滅んだように崩れ去っていたのだ。
「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はありえねえ。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間だけが消えたみたいじゃない」
「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに、獣が一匹も寄ってこないなんて」
「………酷い。砂漠でもないのに乾いた風が吹くとか、腐敗した建物とか見ているとまるで生きた心地がしないわね………」
「ママ、ここのしあわせはどこへいっちゃったの?こんなところ、しあわせがひとつもなくってりおはとてもかなしいんだよ」
「そうだね………。でも大丈夫だよ凜緒ちゃん。これから皆で力を合わせてこの土地にも幸せを分けてあげるから、ね?」
十六夜達が述べる感想に、黒ウサギは悲しげな表情で廃墟から目を逸らし、先へと進む。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知な戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進む。万由里達も複雑な表情で続く。
十六夜だけはこの光景に対し、瞳を爛々と輝かせると、不敵に笑って呟いていた。
「魔王、か。―――ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
〝審判者〟は<システムケルブ>の役目が箱庭仕様に変わったものです。対象は魔王などの悪しき者を強制的にギフトゲームに引き摺り込み裁きを下すというもの。