役目終了と思いきや異世界へ引きずり込まれたそうですよ? 作:問題児愛
「あ、皆さん!水路と貯水池の準備は調っています!………黒ウサギ、そちらのお二方は?」
「ご苦労様ですジン坊っちゃん♪あ、こちらのお二人は〝サウザンドアイズ〟で知り合った新たな同士でございます!紹介は子供達が集まってからしますので」
「わかったよ」
ジンは凜祢と凜緒を見回して黒ウサギに問うと、彼女は後で紹介すると言ってジンは頷いた。
そこへワイワイと騒ぐ子供達が集まり群がってきた。
「黒ウサのねーちゃんお帰り!」
「眠たいけどお掃除手伝ったよー」
「ねえねえ、新しい人達って誰!?」
「強いの!?カッコいい!?」
「はいな!とても強くてそして可愛い方々でございますよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいな」
『はーい!』
黒ウサギの号令に元気よく返事した総勢二十人前後の子供達が一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。
そんな子供達を見回して十六夜達は内心で感想を述べる。
「(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)」
「(じ、実際に目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)」
「(………私、子供嫌いなのに大丈夫かなあ)」
「(これで多いなんて感じたら………一二〇人の子供の相手なんて到底できないわね)」
「(子供が多いなぁ………凜緒ちゃんと仲良くしてくれると嬉しいかな)」
「(こどもがいっぱい!みんなとなかよくなってしあわせをいっぱいいーっぱいあげたいな♪)」
六人はそれぞれの感想を内心で呟き、これから子供達とどう接していこうか考える。
黒ウサギはコホンと咳き込み六人を紹介した。
「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、万由里さん、園神凜祢さん、園神凜緒さんです。彼らは力がありこれからコミュニティを支えて下さるギフトプレイヤーの方達です。皆はそんな彼らの為に身を粉にして尽くさねばならない時がございます」
「あら、別にそんなのはいらないわよ?もっとフランクにしてくれても構わないわ」
「いいえ、駄目です。それでは組織は成り立ちません。なにより、子供のうちに甘やかしてしまえばこの子達の将来の為になりませんから」
「………そう、わかったわ」
口を挟んだ飛鳥を黒ウサギはそれでは駄目だと断じて黙らせる。
黒ウサギは今度は子供達を紹介した。
「ここにいるのは子供達の年長組です。何か用事を言いつける際はこの子達を使ってくださいな」
「ん、わかった」
「みんなも、それでいいですね?」
『よろしくお願いします!』
二十人前後の子供達が一斉に、耳鳴りがするほどの大声で叫ぶ。
「ヤハハ、元気がいいじゃねえか」
「そ、そうね」
「(………本当にやっていけるかな、私)」
「ちょっと元気がよすぎるかな」
「ふふ、よろしくお願いします」
「げんきいっぱいだね!りおもまけてられないかも」
ヤハハと笑う十六夜。複雑な表情を浮かべる飛鳥と耀。苦笑する万由里。微笑み挨拶を返す凜祢と対抗心のようなものを燃やす凜緒。
その後、水樹を植えて水路を復活させたのは良かったのだが、勢いがよすぎた為に十六夜は濡れそうになったり、その近くにいた万由里も巻き添えを食らいそうになったりしたそうな。
★★★★★★★★★★★★
「遠目から見てもかなり大きいけど………近づくと一層大きいんだね。何処に泊まればいい?」
「昔は序列が与えられて上位から最上階にという決まりがございましたが………今は好きなところを使って問題ありませんよ。移動も不便でしょうし」
「そう。ならあそこの別館にしてもいいのかしら?」
「ふふ、飛鳥さんが一二〇人の子供と一緒がよろしければ黒ウサギは止めませんヨ?」
「遠慮するわ」
黒ウサギがからかうように聞くと飛鳥は即答した。苦手ではなくとも人数が多すぎるのだ。流石に一二〇人の子供を相手にするのはご免なのだろう。
すると凜祢は黒ウサギの肩を叩いて言った。
「それじゃあ―――私達は別館にお邪魔しちゃおっかな♪」
「へ?一二〇人の子供がいるのですよ凜祢さん!?本当に大丈夫ですか!?」
「うん、平気だよ。むしろあの子達と仲良くなれるチャンスだからね。凜緒ちゃんも異論はないよね?」
「うん!ママとおんなじでりおもみんなとなかよくなりたいから、べっかんでいいんだよ」
驚く黒ウサギに平然と答える凜祢と凜緒。これには十六夜達も驚きと感心といったところだ。
凜祢は万由里に向いて笑いかける。
「良かったら万由里ちゃんも別館に来ない?」
「………ごめん。私も遠慮するわ」
万由里が誘いを断ると、凜祢は少し残念そうな顔をした。
凜祢は凜緒の手を引いて別館に行こうとしたところを飛鳥が止めた。
「待って凜祢さん、凜緒さん。別館に行く前に私達とお風呂に入りましょう?」
「あ、それ私も賛成。水路復活したから入れるはず」
「お?それもそうだな。今日は理不尽な招集に加えてヘビと戦ってずぶ濡れとさんざんだったからな。風呂は絶対に入りたいぜ」
「そうでございますね―――って十六夜さんは男の人ですから黒ウサギ達と入っては駄目なのですよ!?」
「なんだ?一緒に入っていいのか?」
「だ、駄目に決まってるのですよこのお馬鹿様!!!」
スパァアン!とわりと本気のハリセンを十六夜の頭に奔らせる黒ウサギ。顔とウサ耳を真っ赤にさせながら。
ケラケラと笑う十六夜。飛鳥と耀は数歩後ずさると小声で「あそこに変態がいるわ」「うん、変態がいる」と呟く。
万由里は黒ウサギ達を庇うように前に出ると、十六夜を冷たい視線で睨みつける。
「大丈夫よ、あんたたち。もしこの変態が覗きに来ようものなら―――私が裁きを下すから」
「へえ?そいつは面白えな。お前が俺に喧嘩で勝てるのか?」
「………ッ、」
十六夜は冗談半分で殺気を放つと、万由里は僅かに怯む。それを見た凜祢と凜緒は止めに入った。
「喧嘩は駄目だよ十六夜、万由里ちゃん」
「みんななかよく、だよ?」
「え?あ、うん………そうだね。喧嘩はよくないよね………ごめん」
「………そうだな。喧嘩のつもりじゃなかったが………悪かった」
仲直りの握手をしようと手を差し出す十六夜。万由里はなんの躊躇いもなくその手を掴んだ。―――瞬間、強くて引っ張られるとそのまま引き寄せられて抱きしめられた。
「―――なんてな」
「………え?」
「ヤハハ、俺に喧嘩売った罰だ。しばらくこうさせてもらうぜ」
「―――ッ!?」
自分の置かれた状況を把握した万由里は身を捩って抜け出そうとするが、やはりというかビクともしない。
必死になる万由里を、十六夜はニヤニヤと見つめながら頭を撫でる。
鋭い視線で睨んできたが、十六夜の手は万由里の頭を撫で続けた。
黒ウサギ達は呆然とその光景を見ていたが、黒ウサギはハッとして十六夜を止めた。
「十六夜さん!なに万由里さんにセクハラしちゃってんですか!」
「別にいいじゃねえか。万由里はまんざらでもなさそうだぜ?その証拠に大人しく受け入れてる」
「あんたの力が強すぎて身動きが取れないだけよ!いい加減に離してくれない!?」
「断る」
万由里は願いを拒否され十六夜を睨みつける。だが黒ウサギがハリセンを取り出して十六夜の頭に奔らせようとしたことで万由里は解放された。
黒ウサギのハリセンを避けた十六夜。代わりに―――スパァアン!
「いたっ」
「………あっ、」
―――万由里の頭に直撃した。黒ウサギがやってしまったという顔で声を発した。
万由里は振り返って文句を言う。
「ちょっとなんで私が叩かれなきゃいけないの?変態はあっちなんだけど」
「す、すみません!あのお馬鹿様を狙ったつもりだったのですが………」
「………でも変態の魔の手から逃れられたからありがと、黒ウサギ」
「え?あ、はい!どういたしまして」
万由里が黒ウサギのウサ耳と頭を撫でると、黒ウサギは嬉しそうにはにかんだ。
それを見た十六夜はニヤニヤと笑うが、回避する時に万由里を抱きかかえて避ければよかったなと少し後悔した。
飛鳥と耀が十六夜を見たあと、黒ウサギに告げた。
「黒ウサギ、万由里さん。十六夜君なんか放っておいて早くお風呂に入りましょう?」
「そうだよ。十六夜なんか構ってないで行こ」
「………そうだね。変態なんか置き去りにして風呂に入りたいかな」
「はいな。では凜祢さんと凜緒さんも黒ウサギについてきてください!」
黒ウサギ達は十六夜を放ったらかしにして湯殿へと向かう。
凜祢は苦笑して十六夜の方を見て頭を下げた。
「ごめんね十六夜。先にお風呂に入らせてもらうね」
「ああ、別に気にしなくてもいいぜ。俺は二番風呂が好きな男だからな」
ヤハハと笑って行くように促す十六夜。凜祢は再度頭を下げると凜緒の手を引いて黒ウサギ達の下へ走っていった。
その背を見送った十六夜は、黒ウサギと万由里の背を見回してニヤリと笑う。
「しかし黒ウサギといい、万由里といい、からかい甲斐のある奴ばっかで飽きないな。箱庭に来てよかったぜ」
十六夜はケラケラと笑いながら呟くと、不意に視線を感じて軽薄に笑った。
「―――さて、あいつらが風呂入ってる間に………
★★★★★★★★★★★★
黒ウサギ達は大浴場で体を洗い流し、湯に浸かって寛いでいた。
黒ウサギは両腕を上げて背伸びした。
「本当に長い一日でした。まさか新しい同士を呼ぶのがこんなに大変とは、想像もしておりませんでしたから」
「………皆して十六夜を除け者にしちゃったけど………大丈夫かな」
「万由里さん、十六夜君のことなんか気にすることないわ。彼は変態だもの、自業自得よ」
「うん、飛鳥の言う通りだよ。それよりも十六夜に変なことされてない?」
「え?あ、うん。抱きしめられたり頭を撫でられたりされたくらいだから平気」
「「抱きしめられたことは結構重大なことだと思うのだけれど」」
飛鳥と耀は口を揃えてツッコミを入れた。万由里は首を傾げて「そうなの?」と返した。
黒ウサギの発言は見事にスルーされてガクリと肩を落とす黒ウサギ。
凜祢が苦笑いを浮かべると、凜緒が小首を傾げて聞いてきた。
「まゆりはいざよいにだきしめられてしあわせ?」
「「へ?」」
「「「は?」」」
凜緒のとんでもない質問に素っ頓狂な声を発した万由里達。その質問が余りにもド直球すぎたからだ。
凜緒は好奇心のつもりで聞いたのだろう。だが黒ウサギ達は顔を真っ赤にして声を上げた。
「り、りりり凜緒さん!?子供の貴女が質問することではないのですよ!?」
「そ、そそそそうよ!凜緒さんが知る必要はないわ!」
「………凜緒って大胆」
「り、凜緒ちゃん!?子供なんだからそういうのはまだ早いと思うよ!?」
黒ウサギ達が止めると凜緒はまた小首を傾げて聞いた。
「なんで?りおはね、ママにだきしめられたときね、すっごくしあわせなきもちになれたんだよ?だからね、まゆりもいざよいにだきしめられてしあわせなのかな、っておもったからきになってきいたんだよ?」
「「あ、そういうこと?」」
「何を納得してるんですかこの人達!?どのみち凜緒さんが聞いていい内容ではないのですよ!?」
凜緒の言葉に納得する問題児二人。それでもなお阻止しようとする黒ウサギ。
凜祢があははと笑うと隣にいる万由里に控えめに尋ねた。
「………万由里ちゃんが話してもいいなら、教えて欲しいかな」
「え?凜祢さんまで!?凜緒さんがいるのですから自重してくだ」
「ん、わかった。別に聞かれても恥ずかしいような内容じゃないからいいよ」
「万由里さん!?………はぁ、もう勝手にしてください」
当の本人からの承諾が出てしまったので、黒ウサギは好きにしてくださいと投げやりに言った。
とか言いつつも、しっかりと聞く耳ならぬ聞くウサ耳を立てて待つ黒ウサギだが。
万由里に全員の視線が集まると、万由里は頷いて話し始めた。
「二回とも強引に抱きしめられたから少し怒りが込み上げてきたけど―――嫌いじゃないかな。十六夜の胸は………なんだか頼りがいのありそうな感じがしたから」
「「「え?それって、」」」
「え?―――ち、違うわよ!十六夜の事が嫌いじゃないのは別に深い意味はないわ!友達としてなら問題ないってだけ」
ほんのり頬を赤く染めながら黒ウサギ達の誤解を解く万由里。そんな万由里をニヤニヤと見つめる飛鳥と耀。安堵する黒ウサギ。
凜祢が納得したように頷くと、隣で凜緒が爆弾発言をした。
「そうなんだ。まゆりもパパのことがだいすきだからいざよいとはともだちどまりなんだね」
「ん。―――ん?パパ!?」
「「「え?パパ!?」」」
万由里の驚いた声と意味深な言葉に黒ウサギ達も驚きの声を上げる。
万由里はすぐさま凜緒を問い詰める。
「ちょっと待って凜緒!士道があんたのパパで凜祢がママってことは―――本当に士道と凜祢の子なの!?」
「うん!ママとパパのこだよ!」
「「「「なっ!?」」」」
凜緒の嘘偽りのない瞳と声音に、万由里達は驚愕を通り越して愕然とした。
すると凜祢が顔を真っ赤にして両手を振りながら慌てて弁解した。
「ち、違うよ!確かに私は士道のコトが好きだけど―――そういう関係じゃないから………ッ!」
「違わないよ?りおはね、ママとパパからうまれたんだよ!」
「り、凜緒ちゃん!?」
弁解の余地なしの一撃を投下する凜緒。凜祢は慌てふためき、万由里達はヒソヒソと話し合っていた。
凜祢と士道の関係についての誤解が解けた時間は、結構かかったそうな。
風呂を終えた後、飛鳥の新たな服を決めたり、万由里も凜祢が預かっていた来禅高校の制服を着れて喜んだりしたのはまた別の話である。
次回は吸血姫に精霊(狂三ではありません)の登場回です。
ふと思った。万由里の〝審判者〟のギフトでルイルイは裁けないような………原作通りの展開になりそうな予感。