かよちんハッピーバースデー!

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小泉花陽生誕祭 2016

「はい、今日はありがとうございました。見本ができたら、学校宛に送りますね」

目の前に座る三人の女子高生は、揃って頭を下げた後、

「……あの、小泉さんって、あの伝説のスクールアイドル、μ'sのメンバーだったんですよね?」

想定通りの質問が飛んできた。

「は、はい。伝説かどうかは、分からないですけど……」

私が肯定すると、嬉しそうにキャアキャア声を上げる。

「あの、もしよければ、当時のお話とか聞かせてもらえませんか?」

これまた予想通りの質問。なので私も、いつも通りやんわりと断る。

「えっと、それはまたの機会に……」

「そうですか……」

シュン、と落ち込まれてしまった。

うう、こういう顔、苦手なのになぁ……。

「じゃあ、少しだけ……ですよ?」

「! ありがとうございます!」

……ここまでが、いつもの流れなんです。

 

 

 

 

結局予定より一時間遅くなって、私は取材先の高校を出た。

「__あ、編集長。すみません今終わりました。また質問されてしまって……」

『あらら。まあいつも通りだし、気にしないわ。あなたが頼むと相手方もOKしてくれやすいし、いい事よ。来週までに形にしてくれればいいから』

「分かりました。失礼します」

私は電話を切ると、宵闇に覆われつつある青空を見上げた。

最近寒くなってきた。コートを少し厚くしよう。そんな事を考えながら、白く流れる吐息を眺めていた。

 

 

私、小泉花陽は現在二十五歳。ジャーナリストをしている。

幼い頃からの憧れであり夢だったアイドル。それは、凛ちゃんが、穂乃果ちゃんが、μ'sのみんなが叶えてくれた。信じられないくらいキラキラ輝いた毎日を過ごした。

……でも、私の中のアイドルは、そこまでだった。

流石と言うのか、今もソロアイドルとして多くの人を笑顔にしているにこちゃん。意外にも、『にっこにっこにー』は健在で欠かせないらしい。「意外にもって何よ!」って怒られたけど。

凛ちゃんも、アイドルではないけどダンサーとして人気が高い。この前、テレビに出てた。

私は二人みたいに、強い意志がある訳でも才能がある訳でも無かった。それでも何かアイドルに関わりたいという願いで、この仕事に就いた。幸いにも、週刊誌の連載コラムでスクールアイドルの記事を書かせてもらっている。

元μ'sのメンバーという事もあってか、取材のアポもすんなり決まりやすい。面接官だった今の編集長も、そんな狙いがあって採用したと噂されている。……本人は何も言ってないですけどね。

でもこうして各地のスクールアイドルの取材ができるのだ。感謝しないと。……といっても、私が訊くよりも多くの事を訊かれちゃうんですけどね。

 

 

 

 

秋葉原の駅に降り立つと、すでに辺りは真っ暗。クリスマスもお正月も終わって、街も少し落ち着きを取り戻すこの時期が、実は大好き。

直帰になったおかげで、結果的に早く帰れそうだ。私は少し寄り道する事にした。

 

 

μ'sのみんなとは、実は最近あまり会えていない。にこちゃんは現役アイドルであの性格だから、プライベートにもかなり気を遣っている。凛ちゃんはダンサーとして、日本各地でパフォーマンスをしているらしい。真姫ちゃんは病院の研修医として、おそらく誰よりも多忙な日々を送っている。他のみんなも、それぞれの道を精一杯生きている。

「__それは花陽ちゃんも同じだよ?」

例外として頻繁に会うのが、

「穂乃果だけ、昔と変わってないね……」

穂むらで和菓子職人として修業中の、穂乃果ちゃんだ。

「でも穂乃果ちゃんは、ご実家を継ぐんでしょう? 立派だと思うけどなぁ……」

「そうかな? そうだといいけど」

お茶をすする穂乃果ちゃんを見ながら、ほむまんをいただく。相変わらず美味しい。けど、やっぱり毎日だと飽きるのかな?

「でも花陽ちゃんだって、スクールアイドルの記事書いてるんでしょ? 凄いよね〜」

「私はただ、運良くこの仕事に就けただけで……」

「今もアイドルを追いかける花陽ちゃんがいるっていうのは、間違いなの? キラキラ輝こうとするスクールアイドルを」

「それは……。今日も、断りきれずに質問攻めにあったし……」

「優しい花陽ちゃんらしいと思うけどなぁ。穂乃果は好きだよ?」

穂乃果ちゃんは、凄く大人っぽくなった。破天荒だったあの頃と違い、何でも相談に乗ってくれる、お姉さんのような人に。

「花陽ちゃんなら大丈夫! 頑張れ!」

「あはは……。うん」

この辺は、変わってない。何年経っても、やっぱり穂乃果ちゃんは穂乃果ちゃんだ。

 

 

「今日は話聞いてくれてありがとう」

穂むらの裏口で、私は手を振った。

「またいつでも来てね」

穂乃果ちゃんも、振り返す。

「__あ」

と、不意に穂乃果ちゃんの手が止まった。

「花陽ちゃん、もうすぐ誕生日だよね」

「え? うん、来週だけど……」

「お祝いしたいから、その日遊びにおいでよ」

そう言って穂乃果ちゃんは、ニコッと笑った。

 

 

 

 

一月十七日。今年は日曜日だ。世間ではセンター試験二日目で、あまり歓迎されない日だ。凛ちゃんの受験勉強も、大変だったなぁ。私が教えてると、寝ちゃいそうになっちゃって、そしたら真姫ちゃんが怒って起こして……ふふっ、やっぱり、楽しい思い出しか出てきません。

私は完成した記事を編集長に送ると、家を出た。お祝いしてもらう前に、どうしても終わらせておきたかった。間に合ってよかった。

穂むらに到着すると、少し迷ってから裏口に向かった。今日は穂むらのお客じゃなくて、高坂家のお客として招かれたんだから。

私がインターホンを押そうとすると、

「__お、花陽ちゃん待ってたよ! よかった〜、今迎えに行こうかと思ってたんだ〜」

急に中から穂乃果ちゃんが出てきた。

迎えにって、私、時間通りに来たはずなんだけど……。

「だから言ったじゃないですか! 花陽はあなたと違って時間に真面目だと!」

あれ? 今の声って……。

「ああ花陽! お誕生日おめでとうございます」

海未ちゃんだ。何だか凛々しさが増した気がするなぁ。

「__ほっ!」

「ぴゃああああああっ⁉︎」

いきなり背後から胸を鷲掴みにされた。だ、誰⁉︎ って……

「花陽ちゃん、また一段と育ったんとちゃう〜?」

希ちゃんしかいないよね……。変わらなすぎだよぉ……。

「こら希。久しぶりの挨拶がそれはないでしょう? ごめんなさい花陽。代わりに謝るわ」

絵里ちゃん! 今は希ちゃんと二人で暮らしているらしく、やり取りが本物の夫婦みたいだ。

「花陽ちゃん、ちょっと衣装のモデルやってくれないかな〜? 花陽ちゃんにピッタリな服を、作ってきたんだ〜」

素晴らしいほどに綺麗な微笑みを浮かべて、既にフリフリの服を両手に持つことりちゃんが、にじり寄ってきた。だ、ダレカタスケテー……。

「まったく……何してるのよ。久しぶりなのは分かるけど、準備しなさいよね」

大きなお皿を持ったにこちゃんが、呆れたようにこっちを見た。

「ってにこちゃん⁉︎」

「何よその驚きようは……。私がここにいるのがおかしいわけ?」

「いや、だってプライベートでも全然会えないのに……。アイドルは大変だ、って……」

「μ'sの仲間の誕生日よ? これより優先する事がある?」

「にこちゃん……」

「今のスーパーアイドルにこにーがいるのは、花陽、あなたの熱意あってこそなのよ。胸を張って、祝われなさい」

「……うん! ありがとう」

ドヤッ、と胸を張ったにこちゃんの後ろから、

「何がスーパーアイドルよ。どうにかワンマンライブができるようになったくらいで」

「真姫ちゃん!」

「おめでと、花陽。今日のために、頑張って非番貰ってきたわ。__べ、別に花陽のためじゃないケド!」

じゃあ誰のためなんだろ……。相変わらずだなぁ。

「……で? 真姫ちゃ〜ん? このにこにーに、何か言いたい事があるわけ〜?」

「ああそのくだり、面倒だからいいわ」

「ぐぬぬ……久しぶりに会ったと思ったら、変なあしらい方覚えちゃって……! あの時のチョロ真姫はどこ行ったのよ」

「誰かチョロ真姫よ!」

にこちゃんと真姫ちゃんは、久しぶりなのに息ピッタリ。羨ましいなぁ。

「__か〜よちん!」

最後に、正面から抱き付いてきた、

「凛ちゃん!」

……ああ、懐かしい匂いがする。

凛ちゃんはそのままギューっと抱きしめてくれ……て……

「…………!」

「は、花陽ちゃんがタップしてる⁉︎ 凛ちゃん、〆ちゃってる! 花陽ちゃんの顔が!」

「にゃにゃ⁉︎ ご、ごめんかよちん!」

「だ、大丈夫……」

解放された私は、弱々しく笑う。

ダンサーは、スクールアイドル以上に体力と筋力が必要らしい。凛ちゃんも鍛えてあるんだろうなぁ……。正直、死ぬかと思った。

「でも凛ちゃん、もうすぐ定期公演だよね……? よかったの?」

「かよちんの誕生日だもん! 公演よりずっと大事だよ!」

「凛ちゃん……ありがとう」

「どういたしまして、にゃ!」

幸せだなぁ、私。

「__さあ花陽ちゃん、改めてお誕生日おめでとう!」

穂乃果ちゃんが、両手を広げて笑顔を作る。

「今日は花陽ちゃんのために、みんなで和菓子作って待ってたよ! ほむまんに、お餅もおはぎもあるよ!」

お、お米……⁉︎

「あ、でも私今運動してないから、たくさん食べると……」

そう言って、決して細くないお腹を押さえる。

「何言ってんのよ。食べた分の脂肪は、燃やせばいいでしょ。アンタ、高校時代にやってた事は?」

にこちゃんが、おはぎの乗ったお皿を差し出してきた。こ、これは間違いなく美味しいはずです……!

「意外と、体が覚えてるモンよ。__さあ、存分に食べて肥えなさい!」

ひぃ!

「にこっち〜、私情入ってへん?」

「うっさい入ってないわよ!」

お皿を受け取った私は、目を閉じた。

 

 

ありがとうって あふれ出してくる 夢が少しずつ近づいて

 

 

「お?」

「あら」

「へえ」

「にゃ」

 

 

ありがとうって あふれ出してくる ありがとう

 

 

私は、歌った。今の気持ちをそのまま、全てを込めた歌を。

 

 

嬉しくて嬉しくて幸せすぎると 泣けちゃうの ごめんね

 

 

『お誕生日おめでとう』

心に響くその言葉に、滲む視界を必死に広げ、私は笑った。

 

 

今日は、世界で一番、嬉しい日。

私は、世界一の幸せ者。


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