コードギアス―抵抗のセイラン―   作:竜華零

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ナリタ攻防戦編、スタートします。
さぁ、詰め込みますよぉ~~~~……!
では、どうぞ。


STAGE9:「終焉 の 序曲」

 

 6月に入り、コーネリアは反体制派組織の摘発の手をやや緩めて、一連の軍制改革を断行した。

 各軍管区の将軍に分裂していた権限――統帥権、人事権など――を縮小し、総督たるコーネリアの手に全ての権限を集中させる改革。

 クロヴィス時代に収賄や縁故で出世した人間達を更迭した直後に行われたこの改革により、エリア11統治軍の指揮権はたった1人の女性の手に帰したのだった。

 

 

「とは言え、まだ最初の第一歩を踏み出したに過ぎぬ」

 

 

 コーネリアはボリュームのある自分の髪の端を指先で絡めながら、総督の執務室で側近のダールトンにそう言った。

 副官であり腹心であるダールトンはコーネリアよりも年配だが、皇族であるコーネリアに絶対の忠誠心を持っている。

 そしてその忠誠を、コーネリアは疑ったことなど無かった。

 

 

「制度が変わったからと言って、翌日から軍が強くなるわけでは無いですからな」

「その通りだ。その点、我が異母弟はあまり熱心では無かったようだ」

 

 

 トウブ軍管区を除く他の地方統治軍では旧型のグラスゴーを使用している部隊も多く、末端の兵は軍規を守らず略奪行為に走っている。

 これではイレヴンがいつまで経ってもブリタニアの統治を認めない、エリア11が政治的に安定しない。

 コーネリアの役目は、軍規を引き締め秩序をもたらし、イレヴンから畏敬の念を勝ち取ることだ。

 

 

 とは言え、ただ軍内を引き締めてイレヴンに飴を与えるだけ、とは行かない。

 ブリタニアの統治の正当性を強化すると同時に、反ブリタニアを主張する人々の希望を砕く必要もある。

 具体的には、反ブリタニアの象徴的存在を瓦解させること。

 

 

「ゼロの黒の騎士団か……ナリタの日本解放戦線」

「質としては前者、規模としては後者、と言った所ですかな」

 

 

 ダールトンの評価にコーネリアは頷く、質と規模の異なるエリア11の反体制派組織。

 まず規模、日本解放戦線。

 旧日本軍を母体とするだけあって規模・装備はまさにエリア11最大だ、だが一方で目立った実績の無い組織でもある。

 勢力圏を持つもののそれだけ、最近ではサイタマで小さな勝ちを拾った程度だ。

 

 

 一方であのゼロが立ち上げた黒の騎士団、こちらはこの数週間で立て続けに実績を重ねている。

 第一に総督殺害の実績――コーネリアからすれば犯罪――を皮切りに、イレヴンからも不人気だった大日本蒼天党を潰し――掃討に向かったコーネリアの目の前で――それ以降は、イレヴン向けの麻薬製造工場の破壊やブリタニア人官僚の汚職摘発、イレヴンに強制労働をさせていた企業経営者の襲撃など、警察然としたことを繰り返している。

 

 

(人気取り、だが……人気取り故に、面倒だ)

 

 

 実際、イレヴン内での黒の騎士団の受けは良い。

 純軍事的にはまだ大したことは無いが、まがりなりにも総督殺害をやってのけた相手に油断するつもりは無かった。

 だからコーネリアとしては、現在エリア11で一定程度の名声を得ているこの2つの組織への対応策を早急に定めなければならなかった。

 

 

「――――まずは日本解放戦線、だな」

「各地の租界の防備は整いつつありますが……」

「公安部によれば、最近、日本解放戦線はエリア11の反体制派組織を糾合しての一斉蜂起を画策しているようだからな。サイタマでの勝ちで、奴らはやはり調子に乗ったらしい」

 

 

 旧世界の遺物、コーネリアは日本解放戦線をそう見ている。

 黒の騎士団とゼロの所在は、まだ公安部や諜報部隊によって発見されていない。

 普通、何らかの痕跡があるはずだが……保身に長けているのか、ゼロはそうした証拠を一切残さずに行動している様子だった。

 

 

 しかし日本解放戦線は違う、前々からナリタに本拠地があることはわかっていた。

 戦力分析もほぼ終了しているし、幹部連の構成なども捕虜を拷問して吐かせてある。

 それに最近では、純血派の一部が名誉挽回のつもりなのか、ナリタ周辺の偵察を進めているらしい。

 あのジェレミアのせいでコーネリアの中で純血派の評価は最低だったのだが、キューエルとか言う純血派の騎士が上げてきた報告書の出来は彼女も認めざるを得なかった。

 

 

「さて、何と言ったかな……そう」

 

 

 先日、彼女はゼロとの戦いを日本解放戦線の横槍で乱された経験がある。

 ゼロとの戦いに集中するためにも、二度と横槍を入れられないようにする必要があった。

 だから彼女は、エリア11総督としてエリア11最大の反体制派組織「日本解放戦線」を。

 

 

「確か、クルルギ・セイラン……だったか? 奴らの希望の旗印とやらは」

 

 

 日本の象徴となる存在を、叩き潰す。

 そんなコーネリアの手元には、ある書類があった。

 それは、ある名誉ブリタニア人の少年と反体制派に身を置いているらしい日本人(イレヴン)の少女との関係を示す資料で……。

 

 

「名誉ブリタニア人の忠誠とやらを見る、良い機会ではあるな」

 

 

 紫色のルージュの引かれた唇を歪めて、コーネリアは笑った。

 見る者の心胆を寒からしめるだろうその笑みは、為政者としての顔だった。

 その視線の先には、近い将来に起こるだろう光景が見えているのかもしれない。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 日本解放戦線が一斉蜂起に向けた準備を進め、そしてコーネリア率いるエリア11統治軍が日本解放戦線への対応策を固めていた頃。

 同時に、エリア11の裏側で蠢いている勢力も何らかの反応を返す必要に迫られていた。

 それは例えば、キョウトと呼ばれる人々においても。

 

 

「……ブリタニア軍の行動計画は、まだ入らないのか」

「政庁内の人間を動かしてはいるが、意思決定に決定的な影響力が……」

「クロヴィスが総督であった頃ならともかく、コーネリアがこうも独裁的とはな……」

 

 

 キョウトの家の中で最も高い皇家の当主、神楽耶は、ここ連日のそうした会議にいい加減飽いていた。

 自身が議論に参加できるのであればともかく、御簾の中でただ座って聞いているだけ。

 表面上にこやかな笑顔と言う名の仮面をかぶってはいるが、正直、結論や打開策の出てこない話し合いなど聞いているだけ暇である。

 

 

 しかしだからこそ、神楽耶はエリア11の情勢について最も客観的な情報と視点を得ていると言える。

 新総督コーネリアの下、急速に軍事力を強めるブリタニア軍。

 そしてそれに対抗しつつも、どこか急ぎすぎている感のある日本解放戦線。

 突如現れ、日本解放戦線を支持しない恭順派・中間派の支持を集める黒の騎士団。

 

 

「しかし桐原公、紅蓮弐式を新参の組織に供与するとは。随分と思い切ったことをしましたな」

「左様、アレについては片瀬からも早く回すようにと……」

「カカカ、何、アレは保険のようなものよ」

 

 

 キョウトは日本解放戦線以外にも様々な組織に資金や装備を流している。

 表向きはNACと言う親ブリタニアの自治組織だが、その実、ブリタニア政庁の人間を買収して情報や兵器の横流しを仲介しているのだ。

 まぁ、この場合は裏の顔が真の顔と言うべきだろうが。

 

 

(黒の騎士団、ゼロ……)

 

 

 最近、エリア11で急速に名前を売っている反ブリタニア組織だ。

 だからと言って反体制派の味方と言うわけでもないので扱いは難しいが、桐原は……そして神楽耶は、あの組織に直感的なものを感じていた。

 あの組織は、これから伸びると。

 

 

 問題はこれまで支援してきた最大勢力、日本解放戦線だ。

 何しろあそこには青鸞が、キョウトの一員である枢木家の当主がいる。

 それにこれまで流した資金や兵器の数も尋常ではない、投資と言う観点で言えば、あっさり見捨てるにはあまりにも惜しかった。

 だから、最大限キョウトとしても保全に動く。

 

 

(……保険)

 

 

 だからこそ、桐原は保険をかけたのだろう。

 これから伸びるだろう黒の騎士団に最新鋭の機体を――加えて言えば、解放戦線のメンバーでは青鸞を含めて操りきれない性能の――与えて、キョウトのために動くよう「貸し」を作っておくために。

 それは将来、有形無形にキョウトの利益を生み出すはずだった。

 

 

 桐原には常に余裕がある、と、神楽耶は思う。

 次を考える余裕だ、どの組織が潰されようとも再起できると言う「次」の余裕。

 仮に日本解放戦線が敗れても、青鸞さえ無事ならばそれで良い。

 旗印ある限り、いくらでも叛乱の芽は残せるのだから。

 そして万が一、青鸞が倒れても……やはり、「次」が。

 

 

(……だけど私「達」キョウトの女の戦いに、「次」など不要)

 

 

 不要、不純、不毛、不潔、不当――――不快。

 神楽耶の小さな胸の奥には、表には見せない想いと炎がある。

 それが外に溢れ出すのは、そう遠くは無いのかもしれない。

 

 

「そういえば、藤堂達が無頼改を取りに来るのじゃったな。その時にいくつか言い含めておくかの……ああ、そう言えば」

 

 

 桐原が、ふと何かを思い出したように言った。

 

 

「『月下(げっか)』の開発はどうなっておる?」

「ああ、それはあの例のインドの女が……」

 

 

 神楽耶が密かに目を細める中、不毛な会話が延々と続く。

 彼女は静かにそれを聞きながら、ひたすらに自身のすべきことを考えていた。

 その瞳には、桐原の小さな背中が映っている。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 一方、日本解放戦線の本拠地があるナリタも俄かに騒がしさを増していた。

 とは言えもちろん、外見では何らの変化も無い。

 外の山々は美しい風景を静かに広げるばかりだ、しかし地下は違う。

 

 

「慎重に降ろせよ、慎重にな! そこ、ソフトのプログラム間違えるなよ!」

「ナイトメアの整備が最優先だ。エナジーフィラーの要領拡張試験、急げ!」

「第22輜重隊の持ってきた物資、どこに運び入れた!? 俺は報告受けてないぞ!」

 

 

 拠点各所の格納庫では、ナイトメアや戦車、装甲車の整備に汗を散らせている兵士達が駆け回っている姿を見ることが出来る。

 外の訓練場に視線を転じれば歩兵や砲兵が冗談では無く血を流しながら厳しさを増した訓練に歯を食い縛っているし、施設内においてもナイトメアのシミュレーター機はパイロット達によって占拠されている。

 

 

 末端の兵だけでなく、上層部たる幹部連の会合もいよいよ現実味を帯びてきた。

 日本解放戦線の主力部隊のトーキョー租界への進撃ルートや各ゲットーのレジスタンス組織との連動計画、そして他の軍管区の武装勢力にブリタニア軍の空軍基地を叩かせる順序など、戦略全体の具体策についての議論が着々と進められている。

 議論の中心にいるのは皮肉にも草壁達強硬派であって、今一番元気なのは彼らだった。

 

 

「それでは、我々は一時キョウトへ向かうが……」

「はい、留守は任せてください。……とは言っても、ボクに出来ることはそんなに無いですけど」

 

 

 一方、作戦の基本案の作成を見届けた藤堂は、新たなナイトメアの受領のためにキョウトへ向かうことになっていた。

 2台のトレーラーを伴って出る彼を、青鸞は見送りに来ていた。

 ちなみに出るのは藤堂だけではなく、彼の側近である四聖剣も一緒であった。

 

 

「青ちゃん、お土産期待しててね」

「お土産ってナイトメアだよね、省悟さん……」

 

 

 少年のような風貌の朝比奈の言葉に苦笑を返せば、彼はおどけたように肩を竦める。

 どこかお調子者のような所があるのだ、彼は。

 藤堂に出会っていなければ、意外と冒険家として世界を旅していたのかもしれない。

 

 

「俺達がいない数日、道場を頼む」

「ただし、食事は作るなよ」

「巧雪さんはともかく……凪沙さん、酷いよ」

 

 

 卜部の言葉には純粋に頷くことが出来た青鸞だが、千葉の言葉には傷ついたような表情を浮かべる。

 そこで笑い声が起こることも不本意ではあるのだが、まぁ、仕方が無い。

 5年間の付き合いの結果なのであるから、今さらどうしようも無い。

 そんな青鸞の頭の上に、皺の寄った手がポンポンと置かれた。

 仙波である、彼は笑いを残した真面目な顔で。

 

 

「まぁ、いよいよだ。お前も準備に余念が無いようにな」

「……はい、仙波さん」

 

 

 頭を揺らされるままに、青鸞は頷きを返す。

 何しろ、藤堂達が新たな機体を受け取って戻る頃には青鸞自身の状況も変わっている。

 正式には7月1日だが、6月の末には各地の反体制派に顔を見せることになるからだ。

 

 

 藤堂達としては、複雑な心境ではある。

 しかし5年前から決まっていたことでもある、本人の意思でもあって、彼らが何かを言うべき問題ではないのだった。

 ひとしきりの別れを済ませた後、藤堂達はそれぞれトレーラーに乗り込んだ。

 

 

「それじゃあ行って来るね、青ちゃん」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 

 

 着物の袖を振って見送ると、窓から顔を見せていた朝比奈は後ろから頭を掴まれて窓の向こうへと消えた。

 おそらく千葉あたりに引きずり込まれたのだろう、青鸞は思わず笑ってしまった。

 それは、普段とは何も変わりが無い光景だった。

 だが、一つだけ。

 

 

 むしろ青鸞には直接は関係は無い、だが藤堂達のトレーラーが地下道から外へと出る際にそれは起こっていた。

 藤堂達の責任というのも酷で、どちらかと言えば外の監視員達の責任だろう。

 その2台のトレーラーを見る他の目があったことに、気付かなかったのだから。

 

 

「……ついに見つけたぞ、イレヴン共の穴倉の入り口を……」

 

 

 深い森の中、無精髭で顔を半分覆った金髪の男が唇を歪めた。

 しかし、その昏い笑みを見る者はいない……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 藤堂達の見送りを終えた後、青鸞は慌ただしく通路を駆けていた。

 着物の裾が邪魔で走りにくいことこの上無いが、それでも驚異的な速度で走った。

 途中、資材を抱えた兵士や解放戦線のメンバーと擦れ違い奇異の目を向けられるが、構うことなく走り続けた。

 

 

 向かう先は民間人の保護区画だ、と言って藤堂道場が目的地では無い。

 彼女が向かったのは保護した民間人が住む長屋の部屋の一つであって、そこに辿り着いた青鸞はやや意外そうな顔で立ち止まった。

 何故ならそこに深緑色の軍服を着た軍人がいて、しかもそれが自分の護衛小隊のメンバーだったからだ。

 

 

「茅野さん、こんな所で珍しい……」

「あ、青鸞さま。おはようございます」

「愛沢さん?」

 

 

 そこにいたのは茅野と愛沢だった、愛沢の右手には今日はベージュ色の義手があった。

 黒髪のツリ目の女性兵と茶髪のタレ目の女性、20代後半の女性同士の知り合いとしてはなかなか対照的だった。

 彼女らは青鸞を見つけると軽く会釈をしてきて、青鸞もそんな彼女らに軽く頭を下げる。

 2人の関係性については良くわからないが、友人なのだろうと思う。

 

 

「……7月には、しばらく会えなくなるから気をつけて……」

「さおりちゃんこそ、無事に帰ってきてね……」

「……ん」

 

 

 そんな会話を聞きつつも、青鸞は2人の傍を通って長屋の中へと入った。

 さほど広くも無い、そして若干薄暗い畳張りの部屋に中には何人かの人間がいた。

 その内の2人は、愛沢が面倒を見ている2人の子供だ。

 

 

「あ、せいらんさまだ」

「せいらんさま、おはよー!」

「うん、2人ともおはよう」

 

 

 飛び込んで来た小さな女の子を抱きとめて顔を上げると、同じくらいの年の男の子が傍についている女性の姿を見た。

 その女性は解放戦線が他の地域で保護してきた女性で、薄い衣服越しにお腹がふっくらしているのが見えた。

 男の子の前でお腹を撫でていたその女性は、青鸞を見ると笑みを見せた。

 

 

「渡辺さん、お加減いかがですか?」

「ええ、おかげさまで……」

 

 

 渡辺と言う名前らしい女性の身体には、薄いが小綺麗な上着が何枚も重ねられていた。

 食糧と同じように衣類も貴重なナリタだが、保護区の人間は彼女が身体を冷やさないようにと余分に渡してあげているらしい。

 衣類だけでなく、ここでは滅多に手に入らないミカンやリンゴなどの果物類が小さな籠に入れられて側に置かれている。

 

 

 内に新たな命を抱え、数日前に臨月を迎えた女性に対するせめても心配りだった。

 出産を手伝った経験があると言う老婆も、部屋の隅でうつらうつらと船を漕いでいるのが見える。

 そして保護区の子供達が回りを固めていて、何だか微笑ましい。

 殺伐とした外の光景とは隔絶された、温かな光景がそこにはあった。

 

 

「青鸞さまや皆さんのおかげで、無事に産めそうで……あ、動きましたね」

「う、大原さん起こす?」

「いえ、たぶんまだだと思います」

 

 

 わかるんだ……と感心しつつ、青鸞は女性の傍に座る。

 30代前半くらいだろう女性は柔和に微笑むと、ぽんぽんと自分の大きなお腹を軽く叩いて、そっと手をどける。

 青鸞は窺うように女性と目を合わせると、可能な限りゆっくりとそのお腹に触れた。

 

 

 触れた瞬間、衣服や肌の向こうの小さな命の感触を感じて溜息を吐く。

 妊娠がわかって――1年半前にここに保護され、つまりナリタで出来た子供――から、1ヶ月に1度くらいのペースで様子を見に来ている青鸞。

 だからこそ、最初の頃とはまるで違う様子に溜息を吐くのだ。

 そんな彼女の両側に、男の子と女の子が身を寄せるように座る。

 

 

(……無事に、生まれてきてね)

 

 

 心の底からそう願う、ナリタで生まれる子供だ。

 そしてこの子が大きくなる頃には、ブリタニアとの戦争も終わっていると良いな、と。

 この時、青鸞は本当にそう願っていた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ルルーシュはゼロである、つまり彼は前総督クロヴィスを殺害した稀代のテロリストだ。

 ブリタニアの皇子として生まれた彼が、何故ブリタニアに反旗を翻したのか。

 それは本人と、あとは例外の1人を除いては誰も知らない。

 

 

 しかし現実に彼はテロリストであり、同時にブリタニアの学生でもある。

 正体を隠している以上学校にも通う必要があり、まして何も知らない妹ナナリーに余計な心配をかけるわけにも行かず……いわば二重生活を送っていることになる。

 それが危険と隣り合わせであることは、誰よりもルルーシュ自身が知っている。

 だが、彼は――――。

 

 

「ゼロ!」

 

 

 その時、ルルーシュ=ゼロを呼ぶ声が彼の意識を思考の海から掬い上げた。

 仮面越しに聞こえる声は高い、まるで年頃の少女の物のようだった。

 いや、実際に年頃の少女が彼の傍へと駆け寄って来ている。

 朱色の髪を赤と藍で染め抜かれたバンダナで上げた、青の瞳に快活さを覗かせる少女だ。

 

 

 その顔立ちは、どこかアッシュフォード学園のルルーシュのクラスメートに似ていた。

 そう、彼女もまたルルーシュと同じ二重生活を送る者。

 カレン・シュタットフェルト、改め、紅月(こうづき)カレン。

 彼女は、日本人の母とブリタニア貴族の男の間に産まれた子なのである。

 どういう事情で日本人としてレジスタンスに参加しているのかは、ルルーシュも詳細は知らないが。

 

 

『どうした、カレン』

「いえ、あの、本当に1人で……? せめて、私だけでも」

『いや、キミには紅蓮弐式で山頂まで皆を先導して貰わなければならない。私は皆の侵入ルートを確保しつつ進む、その際は単独行動の方が都合が良い』

「でも……」

 

 

 ルルーシュ=ゼロの返答に、カレンはやや納得しかねる表情を浮かべた。

 クラスメートであり生徒会メンバーでもある彼女、だが仮面で素顔を隠しているルルーシュ=ゼロを生徒会の仲間だとは思っていないだろう。

 

 

「ゼロ、カレン、ちょっと良いか。山への侵入ルートなんだが……本当に、このマップの通りのルートで良いのか? どう考えても日本解放戦線の偵察網に引っかかると思うんだが……」

『問題ない、私を信じろ』

 

 

 カレン、そしてもう1人の男に対してルルーシュ=ゼロは断言する。

 彼が振り向いたそこには、カレンの他に無数の人間がいた。

 漆黒の制服を着た彼らは「黒の騎士団」、ルルーシュ=ゼロの「軍隊」である。

 そして今は夜の時間、彼らの頭上には月の無い新月の夜空が広がっている。

 

 

『私を信じたその先に、お前達の未来があるのだから』

 

 

 ルルーシュ=ゼロが見る先には、高い山々が見える。

 標高2000メートルを超える山々が連なるその場所こそ、彼らの次の戦場だ。

 その山の名は――――……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 その山の名は、ナリタ連山と言う。

 コーネリアが日本解放戦線への攻撃を決断した翌週の朝、スザクは朝の深い霧に覆われた山々を遠目に見つめていた。

 まだ行政区画としてのナリタ連山には入っていないが、ブリタニア軍による交通規制が始まった高速道路の上からでもそれは見える。

 

 

「いやぁ~良かったねぇ、まさかコーネリア殿下から僕らに派遣要請があるだなんて!」

 

 

 ガードレールの前に立ち、遠くに見えるナリタの山々を見つめていたスザクの隣に白衣の男がやってきた。

 男の目が眠たげに緩められているのは、別に今が早朝の時間帯だからでは無い。

 スザクの上司である彼は、早朝だろうといつだろうと同じように緩いのである。

 

 

 ロイドが喜んでいるのは、彼らの後ろに停車しているヘッドトレーラーの存在のせいだろう。

 交通規制の中を通過していくブリタニア軍の他の軍用車両に比べて異彩を放っているそれは、スザクが所属する特派の物だ。

 中にはスザクをデヴァイサーとするナイトメアが1機積み込まれていて、これからナリタへ向かうブリタニア軍の一部として行動することになっていた。

 

 

「ロイドさん!」

「ん? どうしたんだいセシルくん、ようやく実戦で『ランスロット』を動かせるんだよ? 大日本蒼天党の時は、いろいろあったせいで動かせなかったしねぇ」

「それはそうですけど……でも、その」

 

 

 これまで、名誉ブリタニア人であるスザクを擁する特別派遣嚮導技術部にコーネリアが何らかの命令を下すことは無かった。

 それはこの部署の人事権が本国の方にありコーネリアの手には無いと言う事情以上に、スザクと言うブリタニア軍唯一の「他国人ナイトメアパイロット」の存在が大きい。

 

 

 ブリタニア人とナンバーズを区別するのはブリタニアの国是、コーネリアはそれを体現する総督。

 故に、これまでは従軍しつつも端の方で戦況を見ているだけと言う事が続いていた。

 しかし今回の作戦に限っては、コーネリア自らが特派に一つの命令を与えていたのである。

 その命令ゆえに、出撃できることをロイドは喜び、逆にセシルは気遣わしげな視線をスザクへと向けるのだった。

 

 

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます、セシルさん」

「でも、スザク君……コーネリア殿下もどうしてこんな」

「軍務ですから、自分は大丈夫です」

 

 

 大丈夫でなくとも心配だが、大丈夫であっても心配。

 そんな表情で自分を見つめるセシルの視線を感じつつ、スザクはナリタの山々を見つめた。

 あそこには、日本解放戦線の本拠地があるのだと言う。

 その中にはおそらく、彼の知っている人間も少なからずいることだろう。

 

 

 しかしどんな個人的な事情があれ、命令に従うのは軍人である以上は当然。

 それがルールだ、ならば守らなければならない。

 ルールから外れた行動は許されないし、意味が無いとスザクは思う。

 だからこそ、彼はナリタの山々にいるだろう人々のことを想うのだ。

 

 

(そこにいるんですか、藤堂さん……それに)

 

 

 ぐっ、と拳を握り、琥珀色に輝く瞳を厳しく細めて。

 

 

青鸞(セイラン)――――……)

 

 

 この時、コーネリアの率いるエリア11統治軍中枢からスザクに与えられた命令はただ一つ。

 名誉ブリタニア人として軍令に従い、命令を遂行せよ。

 目標は、日本解放戦線に身を置いていると思われる故枢木首相の遺児。

 貴公の妹、クルルギ・セイランを捕縛、また捕縛が極めて困難な時には。

 

 

 ――――目標を、殺害せよ――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ある朝、ナリタ連山地下の保護住民の居住区の一部は騒がしかった。

 そこは藤堂道場、しかしその日は居住区の17歳以下の少年少女の裂帛の声は響いていない。

 袴姿の少年達は今は道場の外でそわそわとしており、気遣わしげな視線を道場に向けるばかりだ。

 

 

「おい、まだかよ……」

「お、俺に聞くなよ」

「誰か様子見てこいよ」

「つっても、女子連中が絶対入るなって凄い剣幕だったし……」

 

 

 囁き声を拾っただけでも、彼らが中の事情について詳しくないことがわかる。

 実際、外に締め出されて以降の中の様子はわからないのだ。

 例外として、たまに道場の中から出入りする袴姿の少女達の姿が見えるだけだ。

 後はごく稀に道場の奥からくぐもった叫び声のような声が聞こえるのだが、それが聞こえれば少年達は身を竦ませるばかりだ。

 

 

 朝の時間が深まるにつれて、周りには少年達以外にも人が増えてくる。

 そして対照的ではあるが、女性陣が中に入れるのに対して、男性陣は門前払いを喰らうのだった。

 それでも察しの良い中年以上の男性ならば、大体の事情を理解して見守る体勢を取っていた。

 

 

「ああ、渡辺さんかい……いよいよだねぇ」

「大丈夫かな、ここには大した医療機器も無いけど」

「何、うちの婆さんがついとる。大丈夫じゃあ」

「……いや、あの人最近寝てばっかな気がするんだけど……」

 

 

 期待と不安、そんな感情が居住区を包み込んできた。

 老若男女問わず、あるいは一部には軍人でさえも含めて、ふと立ち止まって見守り続ける。

 それは、そんな時間だった。

 人々は一時、自分達の境遇すら忘れて道場を見守っていた。

 

 

 しかし、どこか神聖なその時間もやがて終わりの時が来る。

 その終わりを知らせるのは、これまでよりも遥かに大きな声だ。

 それは耳を(つんざ)くような甲高い声でありながら、聞く者をほっとさせる力を持つ不思議な声だった。

 

 

 

 ――――ふぇええええっ、ふえええええええぇぇぇんっ――――

 

 

 

 泣き声。

 それは泣き声だった、自分の存在を高らかに歌い上げる、人間が一番最初に奏でる音だった。

 聞く人々の間でどよめきのような歓声が上がる、それは生命の讃歌だ。

 存在の自己主張、人々の顔に笑顔が灯る。

 

 

 今日この日、ナリタに新しい命が産まれた。

 人々の心の中に祝意が満ちて、道場の中から出てくるだろう誰かが母親の健康と新たな命の性別を告げるのを楽しみに待った。

 しかし、それが訪れる前に……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 生命を産み落とすと言うことは、人間の中でも女のみの特権である。

 そのことを知る者は多いが、実感できる人間は意外と少ない。

 そして青鸞は、このナリタにおける最初の例に立ち会うことが出来た。

 

 

「さぁさ、可愛らしい女の子ですよ」

 

 

 青鸞の目の前で、先日妊婦の部屋でうつらうつらしていた老婆が目も覚めるようなキビキビした動きで産まれたばかりの命を綺麗なお湯で洗っている。

 周囲に積み上げられたタオルや布は流れた血で真っ赤に染まっており、数時間かけた奮闘の跡を窺うことができる。

 

 

 しかしそれを前にしても、青鸞は放心したようにその場にへたり込んでいた。

 周囲には藤堂道場の少女達が袴姿で同じように座り込んでおり、やはり疲れ切っている様子だった。

 どうやら衝撃が強かったらしい、その中でも出産に最初から立ち会った青鸞の疲労度は妊婦本人を除けば一番だったかもしれない。

 

 

「は……はぁ~~……」

 

 

 深々と息を吐く青鸞の様子は、見るからにほっとしているようだった。

 早朝、月一の様子見を週一に変えた途端、長屋の中から変事が無いことを気にして中に入れば苦しげに唸り声を上げる妊婦の女性がいた。

 足の付け根から大量の水が噴き出しているのを見て、青鸞が半狂乱の状態に陥ったことは想像に固くないだろう。

 

 

 それからは青鸞の悲鳴に人が集まってきて、あれよあれよと言う間に藤堂道場へと運び込まれた。

 出るタイミングを逸したためか、青鸞もそのまま出産を立ち会うことになってしまった。

 それからの2時間、嵐のような時間だった。

 居住区中から出産経験のある女性達が集まってきて妊婦について、青鸞のような若い女子達はひたすらお湯を沸かしたり綺麗なタオルや布を掻き集めてきたり……。

 

 

(つ、疲れた……)

 

 

 衝撃的な映像も多く見た、例えば出産直後にも胎盤を出すために大変だったり。

 それ以前に悲鳴を上げながら命懸けで出産を行う母親の姿であるとか、出産時に出てくる血や体液であるとか、もういろいろ受け止めきれないのは周囲の道場門下生の少女達も同じようだった。

 ナリタでの子供の出産は極めて珍しい、良い経験だったとは思うが。

 

 

「青鸞さま、お疲れのところ申し訳ありませんが……」

 

 

 その時、へたり込む青鸞の肩を小さな手が叩いた。

 振り向けばそこに割烹着姿の少女がいて、同じように疲れた表情をしていながらも。

 

 

「そろそろお時間が……」

「あ、うん」

 

 

 雅の言葉に頷く青鸞、実は彼女は今日の正午に日本の反体制派に向けて流す決起を促す演説を撮影することになっているのだ。

 非常に興ざめではあるが、いくつか撮って編集を加え、いろいろと確認しなければならない。

 つまり非常に忙しいわけで、その意味ではキツい出だしだった。

 

 

「青鸞さま」

 

 

 一方で、しゃがれた声が青鸞を呼ぶのも聞こえた。

 今度は正面であって、青鸞が顔を上げると助産婦の役目を果たした老婆がそこにいた。

 しかもその手には小綺麗な布にくるまれた小さな命……赤ちゃんが抱かれていて、どうやらそれを青鸞に対して差し出しているようだった。

 

 

 産まれたばかりの赤ちゃんは、想像していたよりもずっと小さい。

 目などまだ開いていないし、髪の毛も生え揃っていない。

 肌も赤くて、どことなく人間には見えないくらいだ。

 だが、新しい命がそこにある。

 

 

「さぁ、抱いてやってくだされ。青鸞さまのおかげで、母子共に健康ですじゃ」

「ぇ……」

 

 

 僅かに逡巡して顔を上げれば、出産直後の疲労感に横たわる妊婦……元妊婦の母親がいる。

 居住区の中年女性に囲まれた彼女は、青鸞を見ると疲れた笑みを浮かべて、静かに頷いた。

 周囲を見渡せば、まず雅が笑顔で頷いていて、道場門下生の少女達も興味深げに赤ちゃんを見ているのがわかる。

 それから再び赤ちゃんを見て、青鸞は躊躇いがちにそっと手を伸ばした。

 

 

「そうそう、首を支えて……はいはい、お上手ですよ、はいはい」

「わ、わ……わあぁ……」

 

 

 他に声の出しようが無い、と言うような雰囲気で赤ちゃんを抱っこする。

 普段の凛々しさはそこには無く、年相応の少女のような振る舞いがそこにあった。

 その両腕にかかるのは、3250グラムの命の重みだ。

 ふみふみと声を上げる赤ちゃんを、しっかりと両腕で抱き込む。

 

 

「お、重い……それに、あったかい……」

 

 

 布越しでもわかるポカポカした体温に、つい言葉も幼くなる。

 と言うより、こういう場合に言う言葉は限られているだろう。

 

 

「青鸞さま、もしよろしければその子に名前をつけてあげてください」

「え? えええええぇぇぇ、ボクが!?」

 

 

 もはや素である、しかしそれを気にしているどころではなかった。

 大声にグズり出した赤ちゃんにうろたえつつ、青鸞は驚きの声を上げた。

 母親は人を呼んでくれたお礼に、是非とも名前をつけてほしいと言うのだ。

 

 

 青鸞は困った、それはそれはかなり困った。

 子供はおろかペットにすら名前をつけたことが無い、出来れば1週間くらい時間がほしかった。

 しかし周囲の空気が期待に満ちているのもわかるので、まさかそんなことは言えない。

 腕の中で微かにグズる赤ちゃんを見ながら、うーんと悩む青鸞。

 

 

「えっと……えーっと」

 

 

 頭を必死で回転させる、皆の視線を浴びる中で必死に考える。

 この女の子に、何と名前をつけるか。

 ナリタで産まれた日本人の女の子、やはり日本人らしい名前が良い、それも日本を感じさせるような古式ゆかしい名前が。

 

 

「………………じゃあ」

 

 

 しばらく考え込んで、青鸞は一つの名前を脳に描いた。

 その名前を紡ごうとする唇に、全員の視線が注目する。

 小さな桜色の唇が名前を紡ぐ、その刹那。

 

 

 

 ――――ナリタの山々が、鳴動した。

 

 

 

 そう思えるくらいの振動が、道場の床を振動させた。

 地震では無い、何故ならその揺れは断続的に響き続けているからだ。

 女性達の小さな悲鳴が重なる中、青鸞は腕の中に小さな命を抱いたまま上を向いた。

 パラパラと小さな粉を降らせる天井を見上げ、それまでの温かな気持ちを冷やして。

 

 

「まさか――――……!」

 

 

 断続的に響くその揺れに、青鸞は覚えがあった。

 それは……それは。

 それは、砲撃が着弾する音――――!

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「何事か!?」

「こ、攻撃です! ブリタニア軍が来襲した模様――――大軍です!!」

「何ぃ……ッ!?」

 

 

 地下の中央司令室に駆け込んだ日本解放戦線のリーダー、片瀬は、駆け込んだ瞬間に信じられないものを見た。

 戦略パネルになっているモニター、ナリタ連山を示す円の周囲に無数の熱源の光点があった。

 その光点は数秒ごとに更新され、今なお増加し続けているのである。

 

 

「――――斥候は? 見張りは何をしていたか!?」

「だ、第一波の砲撃で外延部の見張り小屋が叩かれた模様!」

「敵ナイトメア部隊が有効射程圏に侵入! 第1から第7までの斜面を駆け上っている模様、よもや、こちらの偽装口の位置が!?」

 

 

 一瞬の自失から戻った片瀬を迎えたのは、敵の奇襲を許したと言う絶望的な報告だった。

 刀を持つ彼の手が震えているのは、武者震いと信じて良いものかどうか。

 そして状況は、彼にとって悪い方へ悪い方へと流れていく。

 藤堂と言う懐刀がいない今、片瀬は自身の才幹と責任でもってこの状況を脱しなければならなかった。

 

 

「さて、どう出てくるか……」

 

 

 自らナイトメア部隊を率い、愛機の中で笑みすら浮かべてコーネリアが笑い。

 

 

『問題ない、これで全ての条件はクリアされた……後は、私達が奇跡を起こせば良いだけだ』

 

 

 ルルーシュ=ゼロが、コーネリア軍の襲来に怯える部下をそう言って宥め。

 

 

「スザクくん……いえ、枢木准尉。作戦、開始されました。ランスロットの準備を」

「…………はい!」

 

 

 戦車と砲兵による砲撃を受けて鳴動し、所々から煙を上げるナリタ連山を見つめていたスザクが決意に満ちた表情でナイトメアに乗り込み。

 

 

「ふふ、ふふふふふ。さぁ、出て来い青いブライ……!」

 

 

 後方に下げられた純血派のナイトメア部隊の中、ナリタの地理構造の肉眼データを司令部に提供した功績で新たなサザーランドを得た純血の青年が血走った目で戦場を見つめ。

 

 

「……せるか……やらせるか……!」

 

 

 自分の愛機があるナイトメア格納庫へ向けてと駆ける、1人の少女。

 腕に抱いた温もりを道場門下生の後輩達に任せ、ひたすらに前を見て駆ける。

 その胸に宿るのは使命感、そして純粋な守護への欲求。

 

 

「ぜったい――――守ってみせるッッ!!」

 

 

 青鸞の誓いの叫びが、警告音と軍靴の音で満ちる通路に響き渡る。

 そして、戦争が始まる。

 誰もが望まぬ絶望の宴が始まり、そして。

 何もかもが、終わろうとしていた。

 





 最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
 次話から本格的な戦争パートに入りますので、今話はそれを盛り上げるための要素をいろいろと放り込んでみました。
 回収しきれるかわかったものではありませんが、可能な限り盛り上げたいと思います。

 おそらく、このナリタ攻防戦が青鸞にとって重要なターニングポイントになります。
 どう重要かは、次回から明らかになるかと。
 ではその一片、次回予告です。


『守るべき人達が後ろにいる、倒すべき敵が前にいる。

 ならば戦う、それだけで良い。

 だけど戦場は、戦争はボクの予想を超えて拡大していく。

 その中で、ボクは再会する。

 ……父様を殺した、あの人に』


 ――――STAGE10:「ナリタ の 戦い」

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