コードギアス―抵抗のセイラン―   作:竜華零

13 / 65
 今週はまだ週3で更新ペースを保てます。
 ただ4月からはどうなるかわかりませんので、何とか前半は終わりたいですね。
 では、どうぞ。


STAGE11:「兄 と 妹」

 日本解放戦線の地下司令部には、重苦しい雰囲気が漂っていた。

 テーブル型の戦略パネルと目前のモニターには、日本解放戦線の戦力が時間が経過するごとに磨り減っていく様子が映し出されていた。

 圧倒的な物量の前に、友軍が押し潰されようとしている様。

 

 

『こちら第117歩兵中隊、これより最後の突撃を――――』

『司令部、司令部! こちら第6区画指揮所、敵ナイトメア2個大隊が突破を――――』

『第7機構中隊、壊滅! 敵空挺部隊が第11固定砲台後方200の位置に降下中――――』

 

 

 そして何より哀しいのは、どの部隊からも救援の要請が来ないことだった。

 普通、壊滅寸前の状態なら司令部には援軍の要請が殺到するはずなのに、だ。

 ここから読み取れるのは、2つ。

 まず第一に、現場部隊が可能な限りの現有戦力で持ち堪えようと最大限努力してくれていること。

 そして第二に、司令部に回せる戦力がほぼ無いと皆が知っていると言うこと。

 

 

 さらに司令官たる片瀬が哀しく思うのは、自身にこの状況を打破する策が無いことだ。

 一応、表の兵達が時間を稼いでいる間に進めている作戦が2つある。

 一つは包囲を突破して民間人を逃がす作戦、そしてもう一つは……。

 兵達の士気の高さに応えられないという思いが、片瀬を苦しめていた。

 

 

「藤堂は、藤堂はまだか……!」

「もう到着しても良い頃ですが、周辺はおそらくブリタニア軍が封鎖を……」

「……藤堂さえ、藤堂さえいてくれれば……!」

 

 

 厳島の奇跡、7年前の戦争で唯一日本軍が勝利を得た局地戦。

 藤堂がいればこの状況も打破してくれる、ここに来て片瀬の胸に去来したのはそんな考えだ。

 それは逆に言えば自分の無策と無能を嘆く声であり、どこか信仰に近かったかもしれない。

 

 

 そして、それは片瀬のみの信仰ではなかった。

 日本解放戦線のメンバーは大なり小なり、藤堂の「奇跡」に期待して参加している所があったからである。

 だが今、この場には信仰の対象である藤堂がいない……。

 

 

 

『哀れだな、日本解放戦線』

 

 

 

 その時、マイクを通したような不思議な声が地下司令室に響いた。

 驚き、片瀬達が振り向く。

 するとそこには、深緑の軍服を……着ていない、漆黒の貴族趣味な衣装が目に入った。

 そして、顔を覆う黒い仮面。

 

 

『エリア11最大の軍事力を保持していながら、この体たらく。7年間かけてブリタニアを倒せないわけだ、まぁ、おかげで私の出番もあると言うものだが』

「ゼ……」

「「「ゼロ!?」」」

『騒ぐな、話をしにきただけだ』

 

 

 そこにいたのは前総督クロヴィスを殺害した人物、「ゼロ」だった。

 一瞬、片瀬達は目を疑った。

 ここは日本解放戦線の地下司令室だ、最も強固なセキュリティと警備を敷いている。

 いや、それを言えばクロヴィス殺害の時はこれ以上だったかもしれないが。

 とにかくあり得ない、そう思った時。

 

 

『お前達は、今から私が言う作戦を実行してくれれば良い』

 

 

 軽い音を立てて、仮面の一部がスライドして中を露出した。

 そこにあるのは左眼、赤く輝く左の瞳。

 そしてそこから飛び出した赤い輝きが飛翔する鳥の如く片瀬達の目に飛び込み、彼らの中で何かが噛み合うような音を響かせる。

 数秒後、驚愕と警戒の表情を浮かべていた片瀬達が、ふと穏やかな顔になり。

 

 

「……わかった、お前の作戦を実行しよう」

『感謝するよ、日本解放戦線」

 

 

 仮面を外しながらそう言う、片瀬達はゼロの正体に驚くこともしない。

 ただどこかぼんやりとした顔で、目を赤く輝かせながら彼の指示を待っていた。

 ゼロがそんな片瀬達に二、三の指示を与えると、彼らはすぐにそのように動いた。

 機器を操作し、コーネリア軍と正面から戦っている主力部隊にある命令を伝達する。

 

 

「さて、まずは通信を……」

 

 

 そんな彼らを気にも留めずに、ゼロ……ルルーシュ=ゼロは司令室の通信機器を操作してあるチャネルに合わせた。

 同時に別の端末を操作して、ブリタニア軍の位置などを確認していく。

 特に主力の位置を探っているようだ、それと作戦実行に必要なコマンドを少し。

 

 

「扇、聞こえるか? 日本解放戦線とは話がついた。事前に話した通り、私の指示に従って皆を行動させろ」

『本当か? 凄いな、本当に解放戦線の協力を取り付けるなんて……でも、こんな状況でうちに出来ることなんて』

「出来なければ我々もコーネリアに殲滅されて終わりだ、だからお前達にも私の指示に従って貰わなければ困る。玉城あたりが逃げ出していたりしないだろうな」

『逃げてねーよ! ったく、馬鹿にしやがってよ……』

 

 

 ゼロ、そして黒の騎士団。

 彼らはブリタニア軍でも日本解放戦線でも無いダークホース、第3勢力としてここにいた。

 そして今、ルルーシュ=ゼロの特異な能力でもって条件は全てクリアされた。

 

 

「良し……では、作戦を開始する! 先陣は紅蓮弐式だ――――カレン!」

『はい!』

 

 

 その時、ふとルルーシュ=ゼロは司令室に複数あるモニターの一つを視界に入れた。

 そこには外の戦場の様子が映し出されいる、戦況を知るためのカメラが設置されているのだろう。

 映っているのは、青い無頼と白のナイトメアの戦いだ。

 青い無頼は知っている、サイタマ・ゲットーで見た。

 白いナイトメアも知っている、シンジュク・ゲットーで煮え湯を飲まされた相手だ。

 

 

 実はシンジュク事変において、ルルーシュ=ゼロは扇達に無線機の「声」だけで指示を出してブリアニア軍を敗走間際まで追い込んだ実績がある。

 最後の最後、異常な機体性能でルルーシュ=ゼロの作戦を潰したのがあの白のナイトメアだ。

 それが今、あの青い無頼と……彼女と戦い、そして見た限りでは一方的にいなしている。 

 そして白のナイトメアが、青の無頼に対して一方的な攻勢に転じたその瞬間。

 

 

「黒の騎士団、総員――――行動を開始せよ!」

 

 

 ルルーシュ=ゼロの声と共に、戦場の全てが変化した。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――僅かに時間を遡る。

 日本解放戦線の本陣に程近い、岩壁と森林に囲まれた場所。

 頭上の開けたその空間に、2機のナイトメアが向かい合っていた。

 

 

 白いナイトメアと、青いナイトメア。

 ブリタニアの次世代型ナイトメア『ランスロット』と、旧世代改良機『無頼・青鸞専用機』。

 そして。

 スザクと、青鸞(セイラン)

 7年前に別たれた2つの兄妹の片割れが、ここに正面からの再会を果たした瞬間だった。

 

 

『確認する、その機体に乗っているのは……青鸞、キミなのか?』

 

 

 無頼が拾う敵ナイトメアパイロットの声に、青鸞は身を震わせた。

 操縦桿から手を離すのに、これほど苦労したことは無い。

 弛緩したように動かない指先を、一本一本ゆっくりと離す。

 指を離した後は、左手で右の手を擦りながらメインディスプレイを睨んだ。

 そこには、白い甲冑を思わせるナイトメアが映っている。

 

 

 響いているだろう声は、正直、彼女が知っている物より若干だが低い。

 当然だ、互いに成長しているだろうから。

 そして不意にオープンチャネルで通信が来た、そこに映っていたのは当然。

 色素の薄い茶髪、少し前にニュースを騒がせた風貌そのまま。

 

 

「スザク兄様……!」

『……青鸞』

 

 

 通信越しの声が、回線を通じて互いの耳に届く。

 そして、視線も。

 黒と琥珀の瞳が、7年ぶりに絡まる。

 7年前のあの日、父ゲンブが永遠に失われた時から、初めてのことだった。

 片や逞しく、片や美しく成長した姿で。

 

 

『――――……青鸞』

 

 

 オープンチャネルとは言え、電波妨害のある――ブリタニア軍のアンチ兵器によってほとんど無効化されているが――場所だ、音声と映像には波がある。

 それでも十分、わかる。

 互いに、今話しているのが誰かくらい。

 

 

『本当に、キミなのか……』

「……兄様」

 

 

 7年ぶりにかける言葉を探していると、先に向こうが声をかけきてきた。

 そのせいかはわからない、だが、無性に皮肉という感情が青鸞の胸に湧き上がってきた。

 戦場とは関係の無い部分で、胸の奥が焼けていく。

 

 

「良く……良く、ボクの前に顔を出せたね……!」

 

 

 唇が妙な形に歪むのを自覚する、おそらくは嫌な形にだ。

 そしてその顔は、通信画面を通じて相手にも見えているだろう。

 だが、言葉は本心だ。

 

 

 トーキョー租界で追いかけはしたものの、いざ目の前にすると負の感情がやはり先行する。

 負の感情、一言で言ってもそこには多くの種類がある。

 あの日から7年が経過して、その間に凝縮されて本人にも理解できない何かになったそれ。

 それの方向性を、自分で設定できていない。

 それが、今の青鸞と言う存在だった。

 

 

(父様の、仇……!)

 

 

 唯一、そこだけが確定的な感情。

 兄が父の仇、戦国時代かと思うような時代錯誤な状況だ。

 なまじ嫌ってはいなかっただけに、特に。

 

 

「それに……」

 

 

 目を細めて、通信画面に映る「父の仇」兄を見る。

 白のパイロットスーツ、誠実さを象徴するようなその色。

 しかし、それは違うと本能が判断する。

 

 

「……しばらく見ない間に、随分と出世したようで」

 

 

 事実だった、スザクはつい先日まで大逆の犯罪者扱いをされていたはずだ。

 だというのに今、こうしてナイトメアのパイロットというブリタニア人のみの特権階級の椅子に座っている。

 皮肉の一つも言いたくなるものだったが、スザクはそれを受けても眉を僅かに震わせただけだった。

 

 

「多くの日本人が塗炭の苦しみを味わっている中で、よくも自分だけ……!」

『青鸞』

 

 

 そこに、7年ぶりに再会した妹への情は見えない。

 そういった類のものはまるで無く、ただそこにあるのは硬質の意思だけだった。

 

 

『投降してほしい、今すぐに――――キミだけじゃなく、解放戦線の皆も』

 

 

 青鸞が息を呑むのも、無理は無かった。

 だがスザクは、畳み掛けるように言葉を続けた。

 今度はどこか切実な色を帯びていると感じるのは、願望が混ざっているだろうか。

 しかしそこまでであれば、形式上のこととして聞き流せたかもしれない。

 

 

『これ以上戦いを続けていても、犠牲が増えるばかりだ。だからもしキミが日本解放戦線の行動に影響を及ぼせる立場にいるのなら、皆を説得してほしい』

 

 

 だが、その言葉は。

 

 

『これ以上は……無意味だ、青鸞。これ以上の犠牲をなくすためにも、戦いをやめてほしい』

 

 

 その言葉は、青鸞を頭と心を瞬時に沸騰させた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

『――――無意味!?』

 

 

 通信越しに響いた声量に、スザクは反射的に片目を閉じた。

 そこには先程までの何かを抑えたような声は無く、感情の奔流があった。

 それ以降の通信が乱れたのは互換性の問題か、それとも別の要因なのかはわからないが……。

 

 

『――――めろ!? 戦いを仕掛けてきているのは、ブリタニア軍じゃないか!!』

 

 

 だが復帰した通信から響く声に、スザクは表情を引き締めた。

 こうしている間にもブリタニア軍のナリタ連山制圧は続いているのだ、日本解放戦線側はもちろんブリタニア軍側の被害も増え続けている。

 一刻も早く止めなければ、無駄な死が増える。

 

 

「軍は日本解放戦線の違法活動を問題視している、だからそちらの上層部の人間が戦闘の停止を表明してくれれば戦闘は止まる」

『……違法活動?』

 

 

 映像越しにも、青鸞が表情を引き攣らせたのが確認できた。

 声も、「何を言っているのかわからない」と言う色をありありと窺わせる声音だった。

 スザクの言う「違法活動」とは、つまりはブリタニアの法的視点から見た場合だ。

 

 

 まず日本軍解体の命令に従わず、テロリスト組織「日本解放戦線」を組織したこと。

 そして7年間、保有が禁止されている兵器を所持し、ナリタ連山を含むいくつかの地域を不法占拠したこと。

 他地域の住民を保護名目で「拉致」したこと、多数のブリタニア関係者を軍民問わず死傷せしめたこと

それに伴いブリタニア人所有の財産に対し損害を与えたこと……全て、違法活動である。

 

 

『ああ、そう……』

 

 

 だがそれはあくまで、ブリタニア側から見た一方的な解釈だった。

 ブリタニア軍に所属するスザクとしてはそう言うのが当然で、しかし青鸞たち日本解放戦線側からすれば笑い話以下の論法だった。

 最も青鸞の声に剣呑な色が浮かんだのは、複雑な感情を経てのことではあったが。

 

 

『日本の抵抗と独立のための活動を、違法の一言で済ませちゃうんだね』

「日本の独立を求めるなら、正しいルールに基づいてやるべきだ。間違った方法で得た結果に、意味は無いよ」

『じゃあ、7年前にブリタニアが日本を侵略したのは「正しいルール」に基づいた行動だったの?』

 

 

 沸々と、と言う表現が、正しいだろうか。

 声に含まれた熱に、スザクは初めて表情を歪めた。

 それは、相手の言葉の正しさを一面において認めた瞬間でもあった。

 

 

『日本人がイレヴンって呼ばれるのも、水も食べ物も薬も何も無いゲットーに押し込められるのも、ブリタニア人に奴隷みたいに働かされるのも、狩猟気分で殺されるのも……』

 

 

 青鸞は何度も見てきた、日本人を面白半分に撃ち殺していたブリタニア兵を。

 シンジュクやサイタマの例を出すまでも無く、この7年間ブリタニアが日本に何をしたのか。

 財産を奪われ、資源を奪われ、名前を奪われ、家族や友達を奪われる毎日。

 そしてそれは、スザクも見て、経験していたことだった。

 ――――だからこそ、スザクは軍に入った。

 

 

『……全部、「正しいルール」だって言うの?』

「そうじゃない、僕もそれはおかしいと思う! でもだからって、こんな……」

『侵略されて植民地化されたら、その国のルールに従わなくちゃならない。そんなルールが……いつから、ブリタニアのルールが絶対正義の法になった!?』

「だけど、こんな!」

 

 

 再び上がった声量に首を振り、スザクは言う。

 青鸞は聞いた、スザクの言葉を。

 

 

「こんな、テロ……力に力で対抗しても、何かを手に入れられるはずが無い。無関係な人間まで巻き込むような手段を使っても、誰にも認めてもらえない!」

『無関係? 日本のことだよ、ブリタニアのことじゃないか! 日本人とブリタニア人以上に関係のある人間が、どこにいるって言うの!?』

「それを望まない人にまで押し付けるのは、間違ってる!」

 

 

 だから。

 

 

「日本の独立を言うなら、正しい手順を踏むべきだ。誰もに認められるように、テロや暴動以外の方法を取るべきだよ。日本は負けた、まずはそこを認めないと何も出来ない……」

 

 

 いくら日本は負けていないと叫んだ所で、それを認める者は誰もいない。

 日本は負けて、ブリタニアの属領になった。

 もちろん簡単に独立が認められるとは思わない、だが、テロなどの非生産的な行動を繰り返してもそれは同じだ。

 ならばまずはブリタニアの中で、属領出身者の立場を向上させる努力をするべきだ。

 

 

 それが、スザクの考えだった。

 ブリタニアの政策全てを認めることは出来ない、けれど反発して力で訴えても何も変わらない。

 テロや暴動、紛争……そんな間違った手段では、何も得られないのだから。

 

 

『……今日ね』

 

 

 不意に青鸞の声のトーンが変わり、それに違和を感じたスザクも顔を上げた。

 映像の中に見える青鸞は、それとわかる程に俯いていた。

 戦場独特の焦げた匂いと、吹き抜ける風。

 機体の中にいながらもそれを感じ、その中で続いていたスザクと青鸞の数分間の会話が終わろうとしていた。

 

 

『今日、ナリタで子供が産まれたんだ。赤ちゃん、可愛かったよ』

「……そう、か」

 

 

 力を抜いて、スザクは返事を返した。

 実際、そのこと事態は祝福されるべきことだと思った。

 新しい命が産まれるというのは、誰にも否定されるべきでは無いと思ったから。

 

 

「なら、その子のためにも」

『……何て、言えば良いの?』

「え……」

 

 

 青鸞が顔を上げる、睨まれている、声は涙声のように揺れていた。

 

 

『その子に、ボクは何て言えば良いの? 今はキミもお母さんも差別されて辛いし、友達がたまに気まぐれで殺されたりするかもしれないけど、でもいつかブリタニアの方々が認めてくれるはずだから頑張って我慢して生きて行こうねって、そう言えば満足?』

「ち……違う! そんな卑屈なことじゃなくて」

『じゃあ何? 認められるように頑張る? 認めてくれないじゃないか、ナンバーズの言うことなんて聞いてくれもしない、そんな連中に認められるまで涙ぐましく奴隷扱いに耐えろって!?』

「それは、キミ達がテロなんて手段を取らなければ、もっと早く!」

 

 

 それは、言ってはならない言葉だった。

 何があっても、それだけは言ってはならなかった。

 お前達の活動のせいで日本の独立が遅れているなど、およそテロリストと呼ばれる人間に言ってはならない言葉だ。

 それを言われてしまえば、もう。

 

 

『……許さない……』

 

 

 言いたいことがあった、聞きたい言葉があった。

 だけど互いにそれはまったく噛み合うことなく、哀しいほどに擦れ違っていて。

 もう、この場ではどうしようも無かった。

 

 

『ゆるさない……!』

 

 

 怨嗟さえ込められたその声を、スザクはかつて聞いたことがあった。

 あの日、あの夜……あの時、聞いた言葉。

 スザクの精神が一瞬だけ過去へ飛び、僅かに彼は自失した。

 

 

 自失から意識を戻した時には、すでに青鸞の無頼は動いている。

 明らかにいつもより精細を欠いた動きで操縦桿を握ると、彼は対処を始めた。

 説得のために考えていた言葉は、掌から零れて消えてしまっていた……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――憎い。

 ただひたすらに、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い、憎い!

 この時点で、青鸞の精神は完全に7年前のあの日に戻っていた。

 そこに理性など存在しない、ただただ噴き出すマグマのような感情がそこにあった。

 

 

『青鸞!』

「五月蝿い、気安く呼ぶな!!」

 

 

 無頼のコックピットの中に絶叫するような声が響く、事実、今は名を彼に呼ばれるだけで身体中に虫唾が走るようだった。

 肌の上を虫が這うような不快さを振り切るように、右の操縦桿を強く前に倒す。

 超信地旋回、機体をターンさせながらスザクのナイトメアに斬りかかる。

 

 

 当初は後退で回避しようとしたランスロットだが、方針を転換したらしい。

 腰部から一本の剣を抜き、刃を赤く膨張させるそれで無頼の刀を受け止めた。

 受け止められた側は刀を引き、そのまま逆に回転しつつ払うように横に振るった。

 ランドスピナーの回転音が響き、同時に金属が打ち合う甲高い音が鳴り響く。

 

 

『青鸞、キミじゃ僕には勝てない』

「何を……!!」

 

 

 幼い頃、一度だって道場でスザクに勝てたことはない。

 だがそれは子供の頃の話だ、あれから7年経った今、言ってしまえばほぼ初戦だ。

 いや、だがそれ以前に。

 

 

『それに日本解放戦線も、この戦力差じゃ勝てない! 勝ち目のない戦いをして、犠牲を増やすような真似はやめるべきだ!』

「――――勝ち目がなければ、戦っちゃいけないの!?」

 

 

 生命を巡る議論には、大きく2つの潮流があると言う。

 

 

「負けるからって、諦めて……従わなくちゃいけないの!? 正義が無い相手に、悪意ある相手に跪かなくちゃいけないのか!!」

『そうじゃない! 僕はただ、誰にも死んでほしく無いだけだ!』

「どうして、そんな気持ちの悪い考え方が出来るの!?」

 

 

 命よりも価値のあるものは無いとする議論、これはスザクの思想に近い。

 逆に命よりも優先すべきものがあるとする議論、これは青鸞の思想に近い。

 そして青鸞が最も気に入らない、不気味ささえ感じてしまうのは。

 

 

「どうしてブリタニアの非道には目を瞑るくせに、日本の違法行為は非難出来るんだよ……!」

 

 

 日本が絶対的に正義ではない、良いだろう、そう言う議論もあると認めよう。

 だが、ならば何故それがブリタニアには適用されない?

 それはブリタニアが強くてどうしようも無いから、弱い日本の方を攻撃しているだけではないのか。

 そうではないと、何を持って証明すると言うのか。

 ブリタニアの軍人が。

 

 

兄様(アナタ)はもう、日本人じゃない……心の底から、ブリタニア人の価値観に染まってる!!」

『それは、違う!』

「何が!?」

『僕は、日本の人達に死んでほしくなくて……』

 

 

 聞きたくない、青鸞は心の底からそう思った。

 剣と刀、機体のパワーで負ける中でもペダルを踏み込んで留まるのはただの意地だ。

 右のランドスピナーが回転数に耐え切れずに火花を発し、コックピットの中に警告音が響いた。

 だがそれに構うこともせず、ただ叫ぶ。

 

 

「哀れみなんて――――慈悲なんて、いらない!!」

 

 

 哀れみも、慈悲も、憐憫も、そんなものはいらなかった。

 欲しいのは国、自由、権利、名前、そして矜持と正義。

 支配者に与えられる物など何もいらない、ただ日本人として取り戻す。

 全てを。

 だから、青鸞は。

 

 

「これ以上、兄様(アナタ)に……日本を」

 

 

 7年前のように。

 

 

「殺させて、たまるかぁっっ!!」

『……ッ』

 

 

 通信の向こうで息を詰めるような音がした、刹那、ランスロットが一歩を下がった。

 それをチャンスと見て前に出る青鸞、だがそれが間違いだった。

 斬りから突きへと転じた刀を、ランスロットは並みのナイトメアでは不可能な機動でかわした。

 フィギアスケートの選手のように片足でその場で回転し、そのままの勢いで青鸞の無頼の腰部に蹴りを入れたのだ。

 

 

(何だ、あのナイトメア!)

 

 

 冷静な部分が、スザクのナイトメアの機動に脅威を覚える。

 まるで人間のような滑らかな動き、機械独特の「溜め」が全く無い。

 グラスゴーのコピー品である無頼とは、動きの質が違う。

 

 

 何しろディスプレイから姿が消えるのだ、戦う以前に目で追うことも出来ない。

 異常だ、普通ではない。

 いったいどんな技術を使えば、あんな非機械的な動きが出来ると言うのか。

 

 

『青鸞! 投降さえしてくれれば、キミの身については僕が責任を持つ。何とかする、だから』

 

 

 再度の通告、もしかしたら、それは純粋な善意から来ているのかもしれない。

 万が一の可能性を考慮すれば、兄妹の情も混じっていたかもしれない。

 だが。

 

 

「捕虜の扱いに責任を持てる程に、兄様(アナタ)はブリタニア軍の上層部に影響力があるの?」

『それは……』

「……出来もしないことを」

 

 

 投降すれば出来るだけのことをする、信じられない。

 もしかしたら本音かもしれない、だがスザクは名誉ブリタニア人。

 イレヴンがイレヴンを庇って、何が出来ると言うのだろう。

 そもそも、ブリタニアが解放戦線の兵士を国際法に則った戦時捕虜として扱うか?

 答えは、おそらく否だ。

 

 

「言うなっ!!」

 

 

 無頼が刀を振るう、横薙ぎに払ったそれを跳躍してかわす。

 着地したのは無頼の後ろ、着地の際に赤い剣で無頼の右肩の装甲が切り飛んだ。

 青鸞の無頼は、まるで敵の反応に追いつけていなかった。

 

 

「……ッ、兄様(スザク)!」

『青鸞、キミがこちらの勧告に従わないなら……』

 

 

 体勢を立て直す、だがその時にはすでにランスロットは別の場所にいた。

 速い、機体の反応速度が違いすぎる。

 それでも機体だけは回して、スラッシュハーケンを放つ。

 

 

「――――ボクを殺すの?」

 

 

 ランスロットが素手でスラッシュハーケンを掴んで止めた、次の瞬間にはアンカー部分を砕かれて捨てられる。

 そうして振りかぶられる赤い剣を、青鸞は見つめた。

 次の瞬間には振り下ろされるだろうそれは、おそらくよけられない。

 それまでの激高が嘘のように、静かな声と瞳で彼女は言った。

 

 

「……父様みたいに」

『――――ッ、それ、は』

 

 

 青鸞の言葉に、ほんの数秒だけランスロットの動きが乱れた。

 それは本当に数秒で、無頼の回避運動には間に合わない、その程度のものだったが。

 その数秒が、2人の距離を開く結果になった。

 

 

『ずぉおおおおおおりゃあああああっ!!』

 

 

 次の瞬間、首の無い無頼がランスロットに突撃した。

 山本機である、側面ディスプレイを頼りにショルダータックルの要領で衝突した。

 スザクがランスロットの中で目を見開いて驚く、が、ランスロットを倒せる程のことでは無い。

 腰部スラッシュハーケンを至近で放ち、山本機の腰部を破壊する。

 その時点まで時間が進んで、青鸞はようやく再起動した。

 

 

「――――山本さん!」

『心配いらねぇ、こいつが俺らの仕事だぁからよ! ヒナぁ!』

 

 

 コックピットブロック射出、機体を残して山本が脱出した。

 しかしそれで終わらない、上原機がアサルトライフルを射撃して山本機を撃ち、爆発させた。

 

 

「何……!」

 

 

 衝撃に揺れるコックピットの中でスザクが歯噛みした、まさか自爆同然の手段で足止めに来るとは。

 だが彼も並みではない、即座に体勢を整え黒煙を振り払って視界を確保した。

 

 

「……ッ、いない。どこに!」

 

 

 しかし、改めて確保した視界に残り3機の無頼は存在しなかった。

 青鸞の無頼も含めて、忽然と姿を消してしまっている。

 一種の煙幕、それでもどこに行ったのかを追うことは可能だ。

 地面に残された車輪の跡を追えば、まだ……。

 

 

「……何だ、地震……?」

 

 

 追おうとしたその時、スザクは地面の揺れを感じた。

 地震、日本人のスザクも幼い頃に何度か経験したことがある天災だった。

 だが、それは地震ではない。

 

 

 まして自然のものではなく、むしろ人工の地震。

 そして、地震だけでもない、それはすぐに判明した。

 スザクがいる地点のすぐ横、そこを大量の土砂が崩れ落ちていくことで。

 次の瞬間、通信回線に満ちた悲鳴に……彼は、何が起こったのかを知ることが出来た。

 そして彼は、一方の方向へと操縦桿を倒した。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 地滑りと呼ばれる現象は、ここエリア11と言う土地ではそれ程珍しい現象では無い。

 特定の条件が整えば、不幸ではあるが良くある天災の一つとして片付けられただろう。

 しかしこの場合、タイミングが最悪だった。

 

 

「な、何……っ!?」

「姫様ぁ――――っ!!」

 

 

 ブリタニア軍にとっては、コーネリア率いる主力部隊が日本解放戦線の本拠に手が届こうとしていた瞬間だった。

 地下への入り口になっているはずの山荘、それを含んだ斜面の土砂が一気に動いたのだ。

 その上にいた100機近くのナイトメア部隊を中心に、戦車隊や歩兵部隊が巻き込まれた。

 後の調査で5000人以上とされた犠牲が、ここで生まれたことになる。

 

 

 いかにナイトメアとは言え、陸上兵器の一つに過ぎない。

 大規模自然災害の猛威の前には無策に等しい、特に敵軍の後退を追撃していた時点のことだ。

 ……そう、日本解放戦線はコーネリア軍の攻勢に対して後退したのである。

 直前の後退と後退直後の地滑り、これは無関係だろうか?

 

 

(馬鹿な、この規模の地滑りを予測していた……あり得ぬ!)

 

 

 メインディスプレイが横へとズレていく、その瞬間にはコーネリアは動いている。

 グロースターのスラッシュハーケンを射出、可能な限り遠くの地点に突き刺して機体の支えとした。

 見れば彼女の傍でギルフォード機も同じようにしている、だが他の者は反応できなかったようだ。

 

 

「西側の斜面に向けてコックピットブロックを射出せよ! 機体を捨てて、地滑りの範囲外まで……!」

 

 

 地滑りが本格化し、コーネリアのグロースターが土砂や樹木や岩石に揉まれて波打つ。

 気分はサーフィンだ、ただしこの波は数十年に一度のビックウェーブだった。

 それも、水の波より遥かに凶悪な波だ。

 

 

 コーネリアの悲鳴のような命令に複数のナイトメアが応じる、西側の地滑りしていない地点に向けてコックピットブロックを射出、機体を捨てて地滑りからは逃れられた。

 他のナイトメアや戦車や歩兵は無理だった、土砂に飲み込まれて悲鳴と共に消えていく。

 コーネリアは歯噛みした、通信回線に彼女の部下達の悲鳴が充満していたからだ。

 助けを求める声には、コーネリアへの信頼の深さが見て取れた。

 

 

「く……!」

 

 

 助けを求める部下に何もしてやれない無力感に、コーネリアは唇を噛んだ。

 唇の端から血が流れる程の力で唇を噛んでも、コーネリアには何もしてやれない。

 彼女自身、周囲を土砂に囲まれている。

 自分を守ることで精一杯で、他を気にしている余裕は無かった。

 

 

 不意に、機体がガクンと揺れた。

 メインディスプレイの上部、スラッシュハーケンを刺していた位置の地面も崩れたのが見えた。

 流石のコーネリアも息を呑む、支えを失ったグロースターはそのまま土砂に飲まれて……。

 

 

『姫様!!』

 

 

 コーネリアのグロースターの腕を、ギルフォードのグロースターが掴む。

 馬鹿が、とコーネリアは思った。

 ギルフォードにも余裕は無いだろうに、自分を助けるなどと。

 実際、コーネリア機の重みでギルフォード機の負担は単純に2倍になった。

 彼の機体のスラッシュハーケンが、コーネリア機を掴んだ瞬間に片方弾き飛んだ。

 

 

「ギルフォード、私を離せ。さもないと貴公が……!」

『なりません! 姫様を守るのが我が役目、私は……!』

 

 

 気持ちは嬉しい、だが彼の機体も今にも流されそうだ。

 明敏なコーネリアにも、流石にこの状況を脱する良策を思いつけない。

 このままでは、最悪の事態もあり得る。

 最悪の事態、それは自分が……。

 

 

(ユフィ……!)

 

 

 最後に脳裏に浮かぶのは、やはり彼女のこと。

 同じ母親から生まれた、コーネリアが己の命よりも大切に想うたった1人の。

 

 

「……っ!!」

 

 

 その時、さらに大きな衝撃が機体を襲った。

 ギルフォード機のスラッシュハーケンが完全に抜けたのだ、ギルフォードの悲嘆の叫びが響く。

 コーネリアは覚悟を決めた、帝国皇女たるもの最期の時まで毅然とあるべきと思っているからだ。

 

 

 ……だが、いくら待ってもその時は来なかった。

 僅かな位置の変動はあったが、コーネリア機もギルフォード機もそのままの位置に留まっていた。

 スラッシュハーケンは抜けている、だが機体は土砂に流されない、何故か。

 その答えは、土砂の波に揺れるメインディスプレイに映っていた。

 

 

『自分が引き上げます、掴まってください!』

「アレは……」

 

 

 そこにいたのは、白いナイトメアだった。

 コーネリアはその機体のことを知っていた、自身で命令を与えた相手なのだから当然だ。

 特派のナイトメア、『ランスロット』――――操縦者の名は。

 

 

「枢木、スザクか……!」

 

 

 苦々しい思いを抱くと同時、認めざるを得ない。

 ランスロットが掴んでいるグロースターのスラッシュハーケン、スザクがそれを離せば自分とギルフォードがおそらく死ぬと言う、その事実を。

 コーネリアは名誉ブリタニア人を認めないが、しかしこの場ではその事実を認識せざるを得なかった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

『いやー……マジでヤバかったわー……』

『隊長は本当、無茶ばかりして……』

 

 

 無頼の通信パネルから響くのは、山本と上原の声である。

 彼は今、小隊の殿を務める上原機の腕に抱えられてコックピットごと移動している状態だった。

 頭部を失った無頼では碌な働きは出来ない、なので思い切って捨てると言う作戦だったらしい。

 

 

 おかげで、命拾いしたと青鸞は思う。

 あの時のスザクの精神状態は知る由も無いが、普通に考えればやられていた。

 機体を失い、その後どうなったのかなど考えたくも無かった。

 

 

「……く、ふ……っ!」

 

 

 こちらの声が通信に乗らないようにして、無頼の中で青鸞は意識の切り替えを行う。

 先程の体たらくは何だ、と、草壁あたりなら言っただろう。

 だが意識の中で自分や他人の力を借りても、どうしようも無いこともある。

 切り替えようとして、簡単に切り替えられるものでは無かった。

 

 

 思想と、結果、どうしようも無い苛立ち。

 敵わなかった、届かなかった、ただ……言い合って終わった、負けた。

 何も変わらなくて、むしろ悪化して、ただ。

 ただ……。

 

 

「……ぅ、く……っ」

 

 

 出来るなら、戻りたかった。

 戻って、もう一度。

 もう一度、あの兄に言ってやりたかった。

 

 

『――――……青鸞さま』

 

 

 通信で先頭を行く大和機に呼びかけられて、青鸞は初めて目元を拭った。

 今、彼女らは戦場を移動している。

 戦闘はまだ終わっていない、突如司令部が伝えてきたルートに従って転進しているだけだ。

 あの土砂崩れについては、青鸞達も知らなかった。

 あんな仕掛けがあるとは、聞いていないが。

 

 

 いずれにしても、個人的な感情に捉われている暇が無いのも事実だった。

 彼ら護衛小隊は青鸞を守るために存在している、つまり青鸞の行動次第でその運命が決まるのだ。

 それもまた、草壁の教えではあったが。

 とにかく、沈黙することは許されない。

 

 

「…………そう、ですね」

 

 

 左手で拭ったので、手首に巻いていた白のハンカチで拭うような結果になる。

 そのハンカチの持ち主の顔を思い浮かべて、青鸞は目を悔しげに細めた。

 あの人が、今のスザクを見たら……何を思うだろうか。

 あの人の妹は、何を想うのだろう……。

 怒るのか、許すのか、認めるのか排するのか、わからなかった。

 

 

「……わかっています、まだ戦闘は終わって――――ッ!?」

 

 

 通信を開いて、このままの位置取りで進むことを伝えようとした。

 その瞬間、新たな警告音が鳴り響いた。

 後ろからスザクが追ってきたのではない、左上、岩壁の上からの反応だった。

 

 

 何だ、と反応するよりも先に攻撃が来た。

 攻撃、つまり敵だ。

 2本のスラッシュハーケンが放たれてきて、それは狂いなく青鸞の無頼を狙っていた。

 回避しようと操縦桿を倒した所で、最悪のアクシデントが起こる。

 先程の戦いで傷めた右のランドスピナーの回転数が上がらず、機体のバランスが崩れたのだ。

 

 

『――――青鸞さま!』

 

 

 叫び声、山本機のコックピットブロックを抱えた上原機が青鸞機を後ろから押し出した。

 青鸞が名前を悲鳴のように呼んだ刹那、2本のスラッシュハーケンが上原機の頭部と左脚を潰した。

 機体にアンカーをめり込ませた上原機が、崩れ落ちるようにして後ろに倒れる。

 重く鈍い音を響かせて倒れたその機体の前に、青鸞は自分の無頼を回した。

 そして刀を手に、奇襲をかけてきた敵を探す。

 

 

『――――……見つけたぞ』

 

 

 そしてその相手は、あっさりと見つかった。

 むしろ隠れる意図が無かったのだろう、堂々と高所に立ってこちらを見下ろしている。

 沈みかけた太陽を背に立っていたのは、ブリタニア軍のサザーランドだった。

 数は3、だが中央の1機は何故か青鸞機にそのセンサーアイを向けていた。

 

 

『見つけた、ついに……ジェレミアとヴィレッタとは別行動をとって正解だったな』

 

 

 その声は、どこかで聞いたことがあるような気もする。

 普段の会話ではない、ただ、どこか……もっと殺伐とした場所で。

 だが青鸞は、それがどこだったかを思い出すことが出来なかった。

 しかし相手のサザーランドは違うらしい、ランスをこちらに向けて、明らかに青鸞機を指している。

 

 

『見つけたぞ、青いブライ……! あの時の屈辱、このキューエル・ソレイシィの名に懸けて……!!』

 

 

 力を溜めるように腰だめにランスを構え、サザーランドが跳ぶ。

 高く跳躍したそれは、まさに一心に青鸞機を目掛けてランスを振り下ろしながら。

 

 

『晴らさせて貰うぅあああああああああああああああああああああっっ!!』

 

 

 高らかに、雄叫びを上げたのだった。

 戦場はさらに混乱し、もはや誰の制御も受け付けない。

 その中で最後に笑い、泣くのは誰なのか。

 まだ、誰にもわからなかった。




 最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
 気のせいでなければ、キューエル卿がやたら出張ってます。
 もしかして、一番原作と変化してるの彼なのではないでしょうか。

 それはともかく、ナリタ戦も終盤です。
 おそらく次回で終戦になるかな、と思いますが、個人的にはもっとルルーシュを動かしたいですね。
 スザクは、今はこれで良いです。
 むしろ次に会う時が本番、本作では主人公の変化にも挑戦したいですね。


『負けない。

 負けてたまるか、あんな奴らに。

 それなのに、ボクの手は届かないんだ、いつだって。

 いつだって、そう。

 でも、だからこそボクは願うんだ、言うんだ。

 ……いかないで……』


 ――――STAGE12:「落日 の 日」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。