――――皇暦2017年。
エリア11・日本の独立を懸けて行われたセキガハラ決戦は、奇妙な形で終わりを告げた。
それは誰の目から見ても奇妙な物で、説明の難しいことだった。
流れを説明するのであれば、こうなるだろうか。
まず戦闘を優位に進めていたブリタニア軍が、突如、兵を大きく後退させたのである。
一部に同士討ちがあったとは言え優位が続いていた時期に、突如旗艦アヴァロンから後退の指示が出た。
そして部隊の再編を進める黒の騎士団に対して、帝国宰相シュナイゼルの名で布告が出された。
『当方、停戦の用意あり。願わくば、平和のため、貴軍上層部との直接会談を求めたい』
停戦交渉、日本の独立を懸けた戦いでブリタニア側からそのような提案がされたのである。
これは見方によっては日本の独立が認められたとも取れるもので、それだけでも異常なことであった。
戦況は有利だったのに突然どうしてと、ブリタニア軍の中からも疑問の声が聞こえた。
しかしこの提案に対して、黒の騎士団側も特別な対応を取った。
撤退である。
彼らはシュナイゼルの名で出された停戦交渉提案に正式な回答もせず、ブリタニア軍の後退に合わせて一気に部隊をまとめ、オオサカ方面に撤退してしまった。
これは日本の独立を諦めたと取られても仕方の無い行動で、事実、周囲の反対や疑問の声を全て無視して撤退を強硬したゼロへの非難の声も上がった程だった。
しかし現実として、黒の騎士団は撤退してした。
そして、戦いは終わってしまった。
あれ程に高まった機運も何もかも、まるで無かったかのように。
黒の騎士団は撤退し、ブリタニア軍もそれを追わず。
誰もが事態の異常さに困惑する中で、全てがあっさりと終わってしまったのだ。
何もかもが、嘘だったかのように。
嘘、だったかのように――――……。
◆ ◆ ◆
声。
声が、聞こえていた。
声だけが、聞こえていた。
真っ暗なその世界で、音だけが全てだった。
それ以外にある物と言えば、何があるだろう。
口元を覆う厚い皮の猿轡? 申し訳程度に身を覆う拘束着? 手足の枷から伸びる鎖?
それぞれ、苦しげな吐息の音、身をよじる様子を伝える衣擦れの音、固い床を擦れる鎖の音としてしか認識は出来ない。
「――――ゴメンね、シャルル。まさかルルーシュを逃がすとは思わなくてさ、逆流してC.C.のコードにまで干渉するし、予定外のことが起きてね」
「十分ですよ、兄さん。この娘のことは枢木の手柄として、コーネリアについては……」
「ああ、そっちは僕が何とかするよ。でもユーフェミアはちょっと、どうかな」
聞こえる声に、少女が微かに顎先を上げる。
そう思うのは、少女の首元から鈴の音が聞こえたからだ。
まるで猫にそうするように、首輪についた鈴が。
「それで、兄さん。この娘のコードは確かに目覚めたのですね?」
「うん、確かだよ。先祖返りかな、とても強いコード適応資質を持ってる。でもルルーシュを逃がすためにいきなり全開で使ったから、傷がついちゃってね……今はまた止まっちゃった。だから今は普通の人と同じ、撃てば死ぬしギアスにもかかる。数百年ぶりの発現だから、コードも不完全なのかな……何かきっかけがあれば出てくるとは思うんだけど」
「……なるほど、ではこう言うのはどうでしょう」
何だ、何を話している。
知っている名前、とても大切な名前が聞こえた気がする。
そして唯一拘束されていない少女の両目は、暗闇の中で不気味に浮かぶ赤い輝きを見つけた。
赤い赤い、鳥が羽ばたくようなマークを。
耳に届くのは、老人と少年の嗤い声。
老人に「兄さん」と呼ばれた少年の嗤い声が、特に耳に響いた。
頭蓋の内側で響くような、そんな声。
「ああ、良いね。シャルルのギアスの強さなら、もしかしたら反応するかもしれない。もしダメでも、それはそれで……」
少女には、何の話だかわからない。
わからないが、闇の中で浮かぶ赤い輝きはどんどん輝きを増していった。
輝きを増して、そして飛翔する。
飛翔する、赤い輝き。
そして、少女に印が刻まれる。
刻まれてしまう、皇帝の印を刻まれてしまう。
止める力などなく、身動き一つ出来ずに印を刻まれてしまった。
――――少女は、大切なモノを奪われた。
奪われてしまいました。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
第1部エピローグでした、やはり皇帝兄弟は強かったぜ。
と言うか、ルルーシュくん奪われました。
はたして、彼は何もかもを取り戻すことが出来るのでしょうか。
と言うかナナリーは、コーネリアは、そしてユーフェミアは。
うん、もうどんなR2になるかわかったもんじゃありません。
と言うか、中華連邦編とかあるのかな……。
それでは皆様、次はR2編のプロローグでお会いしましょう。
プロローグなので、今回も次回予告は無しです。
それでは、失礼致します。